320life

PR

プロフィール

ノマ@320life

ノマ@320life

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

2023.09.07
XML
テーマ: 読書(8290)

書名



白ゆき紅ばら [ 寺地はるな ]

感想



シスターフッドな物語。
どうしてもこういう「かわいそうな子」の話って型にはまりがちで、どこかで同じようなものを読んだな、それも何回も、と思ってしまう。
けれどこれはこれで、面白かったです。
「かわいそうな境遇の子」がその状況に負けずに自ら道を切り開いていく。
それこそテンプレートではあるのだけれど。

琥珀の夏 [ 辻村深月 ]
光のとこにいてね [ 一穂ミチ ]



かわいそうな子どもを救う家。
私設の母子シェルター「のばらのいえ」で、祐希は育った。
おばにあたる実奈子さんと、お金持ちの次男坊で「パートナー」の志道さん。
大学時代にボランティアサークルで出会ったというふたりが運営する、いびつな家。
獣のような少年・保と、その妹で愛らしい少女・紘果。
そして入れ代わり立ち代わり施設にやってきては去っていく母子たち。
幼い頃からその世話に自分を捧げ、将来もそれを期待されていた祐希は、高校卒業と同時に「のばらのいえ」を飛び出し、行方をくらませる。
しかし住んでいたアパートが火事にあい焼け出され、そこへ志道さんが迎えに来て−−−。
今度こそ、紘果を連れて逃げるのだ。
二度と戻らないと決めていた「のばらのいえ」に、祐希は足を踏み入れる。
そして気付く。ずっと感じていた違和感の正体。


まっすぐな祐希と、おどおどした紘果。
グリム童話の『しらゆきべにばら』に擬えられたふたり。
無愛想で早熟な子どもだった祐希の子ども時代の回想が痛々しい。
「落ちない泥」をずっとずっと、塗り込められたような日々。
自分はまともに育っていないという羞恥。

ずっと耳を澄ましてきた、と祐希は言う。
そうして学んで学んで、「ふつう」のふりができるように。
「ふつう」に生きていけるように。

「のばらのいえ」から逃れられず、一生どこへも行けないと絶望していた祐希は、高校生の時に英語の春日先生が呟いた「座右の銘」を忘れられない。

Good girls go to heaven, bad girls go everywhere.


英語のテストに、正しい答えを見えるように消して、誤答を書く祐希。
それに気づいた春日先生は、祐希を呼び出す。
先生は、祐希を逃がす算段を立ててくれる。
どうしてここまでしてくれるのか、と祐希は春日先生に問う。
先生は答える。


あなたはわたしにはなにも返さなくていい、と春日先生は運転しながら、前を向いたまま話し続けた。
「あなたはこのまま逃げ延びて、いつか余裕ができた時に誰かに手を貸す。その誰かがまた誰かに手を貸す。そしてもし将来わたしの娘がなにか困った時、どこかで誰かが彼女を助けてくれるはず。わたしはそういう世界を信じる。理想論ですか?」
「そうですね。理想論だと思います」(略)
「でもわたしは、自分がその世界の一端を担う人間になれると信じたいんですよ」


この春日先生の言葉、「ペイ・フォワード」という映画を思い出した。
先生は、やる気のない教師なのに、熱いものがある。
そうして自分の信念に基づく行動をとる。
私もそういう世界の一端を担う人間になりたいなあ。そうであると、信じたい。
それがどんどん難しくなる世の中であっても、だ。

祐希に救われていた「のばらのいえ」の兄妹、保と紘果。
彼らは、自分たちの身を呈してでも、祐希の未来を守ろうとした。
汚い手で、わたしたちのきれいな祐希にさわるな、と。

ここ、悲しかったなあ。
守ろうとして離した手。
自らが汚れることを選んだ。

でも、祐希はその手を取る。
自己犠牲なんてもううんざりだ。
一緒に行こう。逃げよう。

天国に行けなくてもいい。
わたしたち二人は、どこにだって行ける。
地獄にだって一緒に行けるよ。

希望のあるラストで、特に保のことは哀しいんだけど同時に良かったとも思った。
こういう雛形を物語に要求しているのだとわかっていても、やっぱりこの終わり方が、好きだ。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村
ランキングに参加しています。
「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2023.09.14 06:46:21
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: