2004年04月28日
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上山六郎左衛門の行為により、自分が今存在する。

当家祖の高橋六郎左衛門の六郎左衛門はきっとこの
上山六郎左衛門に敬意を表して名づけたのだろう。
六郎衛門尉

士は己を知る者のために死す
を心に刻み付けたい。

上山 殿 合掌




柳田 俊一さん[肩がこらないページ・現代語訳太平記]分室 より

楠軍に攻めかかってはみたものの、高軍側はさんざんである。たちどころに切って落される者50余人、腕を打ち落されて朱に染まる者200余人。楠軍に追い立て追い立て攻められて、「これはとてもかなわん」と、7000余の高軍の武士たちは左右に開き靡き、一斉に退きはじめた。退(ひ)き足は留まる所を知らず、淀(よど)や八幡(やわた)をも走り過ぎ、そのまま京都まで逃げ帰ってしまった者も大勢いた。

高師直(こうのもろなお)の配下に所属する大勢の武士の中、いったいなぜ上山六郎左衛門(うえやまろくろうざえもん)ただ一人だけが師直の身代わりとなって自らの命を捨てたのか? それは、 「ただ一言(いちごん)の中に武士の情けを感じ、それに応(こた)えんがため一命を捨て」という事 のようである。



上山>さぁてと・・・ちょっくら師直殿のとこへでも行ってこようかな。ゆっくり世間話でもしてこようっと。

高師直の本陣に足を踏み入れるやいなや、陣中にわかに騒がしくなってきた。

高師直軍メンバーA>敵襲だ! 敵襲だ!

高師直軍メンバーB>なに! 楠軍がこんな近くまで?!

高師直軍メンバー一同>タイヘンだー! 敵襲だ、敵襲だ!

上山六郎左衛門>(内心)おぉ、こりゃいかん! ウーン、おれもウカツだなあ、鎧も兜も置いて出てきちゃったじゃないか、ウーン・・・。取りに帰っているヒマなんかないぞ!

陣中を見回す上山の視野に同色の二個の鎧が飛び込んできた。

上山六郎左衛門>(内心)しめた! あそこに鎧が! あれはいったい誰のだ? おそらく師直殿のものだ・・・ええい、かまうもんか、緊急事態だもんな、ちょっと拝借!(鎧のもとに走り寄る)

鎧唐櫃(よろいからひつ)の緒を引き切り、中の鎧を取り出して肩にかけた。見とがめた高師直の部下が鎧の袖をひかえていわく、

高師直の部下D>何をする! これは執事(しつじ)殿の鎧ですぞ! 一言の断りも無しに、無礼な!

鎧を奪い返そうとする部下と上山とで引っ張り合いになった。これを見た高師直は馬から飛び降りて部下をハタと睨みつけ、



高師直の部下D>・・・。

高師直>テメエ、いってぇナニ考えてやがんでい! その人はなぁ、おれの身代わりになって戦かうって言ってくれてんじゃねえかよぉ! そういう奇特な人にゃあ、千個だろうと万個だろうと、鎧なんかヒトッツモ惜しかねえや、どんどん進呈するぜぃ!

高師直の部下D>・・・。

高師直>(上山を見て)イヨッ! そこのイイ男、水もしたたるアデ姿! 「こんな男に着てもらって、あたしゃあトッテモ嬉しいわ」ってね、鎧もヒイヒイ喜んでますよ!

自分の行為を一切責めたりせずに、かえって褒めたたえてくれる高師直の態度に、上山は感じいってしまった

上山六郎左衛門>(嬉しそうな顔持ちで)・・・。



これによく似た逸話が古代中国にもある。

戦国時代、秦のボク公はライバルの六国と戦いを交えたがあえなく敗退し、他国へ落ちた。急追する敵軍から逃れる途上に乗馬を乗りつぶしてしまい、やむなく後からやってくる乗り換え用の馬を待っていた。

ところが、馬の口取りは馬を引いては来なかった。そのかわりに、後ろ手に縛られた疲れた兵士20余人を連行してきたのである。

軍門の前に引き据えられた兵士たちを見てボク公は、

ボク公>いったいこれはなんじゃ? 何事が起ったのじゃ? 馬はどうした?

馬の口取り>申しあげます! お召し替え用の馬を引いてまいりましたところ、これなる戦いに疲れ飢えた兵ども20余人、事もあろうに殿のお馬を殺し、残らず食べてしまいよりましてござりまする。よって、死罪に処せんがため、こやつらを生け捕り、連行してまいりました!

ボク公はさして怒る気色もなく、

ボク公>死せる馬を再び生き返らせる事は不可能じゃ。よしたとえそれが可能であったとしても、卑しき獣を食べたというだけの罪でもって尊い人命を失うは非道の振舞い、そのような事は絶対にあってはならぬ。

馬の口取り>・・・。

ボク公>飢えて馬を食らいし人間は、その後必ず病気になるという・・・。早く手当てをせねばの。この者らの縛めを解け。酒を飲ませ、薬を与えて、適切な医療を施すがよいぞ。

馬を食った兵士たち>・・・殿ぉ・・・殿ぉ・・・うううう・・・(涙)

ボク公は彼らに何の処罰も加えようとはしなかった。

その後、ボク公が再び戦に負け、まさに大敵の手中に落ちて討たれようかという時に、馬を殺して食べたこの20余人の兵士らは、自らの命をボク公の命に代えて奮戦した。その結果、大敵はすべて退散し、ボク公は死を遁れることができたのである。

このように、 古(いにしえ)においても現代においても、人の上に将たらんとする者は全て、罰を軽く行い宥(なだ)め、賞を厚く与えしむるのである。もし古のボク公が馬を惜しんだならば、大敵の囲みを脱出できたであろうか? 現代の高師直が鎧を与えなかったならば、上山は彼の身代わりになっていたであろうか? 

「情けは人の為ならず(注1)」 とはまさにこの事を言っているのである。

(柳田注1) 「人に情けを施しておくと、そのうちそれが自分の益となって返ってくる」 の意。



この時、総大将・高師直までもが一歩でも退く気配を見せたならば、たちどころに高軍は総くずれ、全軍ひたすら退却するばかり、それを追撃する楠軍は京都のドまん中まで進撃できたに違いない。

しかし、高師直はいささかもひるむ様子を見せず、大音声をもって、全軍を叱咤(しった)する

高師直>こらこらこらこら! そこのバッキャモンめら! テネエらキタネエゾ! 逃げるんじゃねぇ! 返せ、返せ、戦え、戦え、戦えってんだよぉー!

高師直軍一同>・・・。

高師直>テメエラ、いってぇナニ考えてやがんでぃ! 敵はたったあれっぽっちの人数じゃぁねえか! 
おれは逃げねえぞ、おれはここを動かねえからな!

高師直軍一同>・・・。

高師直>この戦場を捨てて京都へ逃げて帰って、それでいってぇどうするってんだよぉ! テメエラ、いってぇどのツラ下げて、尊氏(たかうじ)さまの前に出るってんだ、あぁ?!

高師直軍一同>・・・。

高師直> 人間の運命なんか、天が決めてんだ、生きるも死ぬるも、天のご意向次第ってもんでぇ! いまさらジタバタしたって、ハジマラねえんだよぉ!

高師直>見ろい、敵はたったあれぽっちじゃねえか! あんな小勢相手に逃げ出すなんて、テメエらそれでも武士のハシクレか! 恥ずかしくねえのかよぉ! 
家の名前が泣くぞ! テメエラのご先祖さま、草葉の陰で泣いてござるぞ!

目を怒らせ歯噛みして、四方に下知を下す高師直の勢いに励まされ、恥じを知る武士たちはそこに踏み留まって高師直の前後を固めた。

その目の前を土岐周斉房の軍が通り過ぎていく。大半は打ち散らされてしまい、自身も膝を切られ血に染まっている。すげなく退いて行く土岐周斉房を高師直はキッと見つめ、

高師直>ヤイヤイ、そこの敵前逃亡ヤロウ!

土岐周斉房>・・・。

高師直>いつも大口ばっかタタいてやがる土岐周斉房、いざとなったらブザマなもんだなあ、えぇ!

土岐周斉房>ナァニィ! そこまであんたに言われちゃあ、わしも黙っとれんが! じゃあ、これから討死にするだで、よお見といてちょう! みんな、行くでぇ!

彼は馬を返して楠軍のど真ん中へ駆け入り、ついに討死にしてしまった。これを見て、雑賀次郎(さいがじろう)も楠軍の中に駆け入って討死にした。

楠軍は高師直にじわじわと肉薄し、両者の間の距離はついに半町ほどに縮まった。楠正行の長年の宿望もついにここに成就するかと思われた。ところがそこに、上山六郎左衛門(うえやまろくろうざえもん)が駆けつけてきて高師直の前を塞ぎ、大音声をあげていわく、


上山六郎左衛門
八幡太郎義家殿よりこのかた、
源氏累代の執権役をおおせつかり、
その武功天下に顕れたる高武蔵守師直
とは、このおれ様のことよ!
首が欲しけりゃ、かかってこーい!


このように高師直になりすまして名乗りをあげ、殺到してくる楠軍を相手に戦い、上山六郎左衛門は死んでいった。その間に高師直は楠軍の遥か彼方に遠のいてしまい、楠正行はついにその本意を遂げることができなかったのである。

上山六郎左衛門の首を、楠正行(くすのきまさつら)はじっと見つめた。

楠正行>(内心)肉のついた顔や・・・なかなかの美男子、いかにも大将っちゅうカンジの顔や。

楠正行>(内心)鎧はどうや? おお、輪違いの透(す)かし彫(ぼり)の金物つきやんけ。これは高家の紋やぞ! 間違いない、間違いないぞ!

楠正行>やったで、ついにやったでぇ! みんな、これ見てみい! 高師直をついに討ち取ったでぇ! おれの長年の望み、ついに達成や! やった、やったぁ! ウーイー!

彼は上山の首を空中高く投げ上げては受け取り、受け取っては投げ上げし、ボールのようにもてあそびながら喜んでいる。

楠正時は兄の側に走り寄り、

楠正時>お兄ちゃん、あかんて、あかんて・・・そんな事してたら首が痛んでしまうやんか。旗のてっぺんに付けて、敵と味方に見せつけたろうな。はよ、その首貸し。

楠正行>(首を正時に渡しながら)やった、やった、ついにやったぁ!

楠正時は太刀の先に上山の首を指し貫いて高々と掲げた。

楠軍メンバーK>それ、高師直とちゃうで!

楠正時>えっ!

楠軍メンバーK>そいつはな、上山六郎左衛門っちゅうヤツや。師直になりすましやがったんや。

正時は激怒して上山の首を地面に投げ捨てた。

楠正時> おのれぇ、上山六郎左衛門とやら! おのれは・・・おのれは・・・おのれは日本一のツワモノじゃぁ! わしらの陛下にとっては、二人とない朝敵じゃぁ! ああ、くそぉ!

楠正時>・・・そやけどな、高師直の身代わりになって死ぬとは、ワレもほんまに殊勝な男やのぉ。よし、ワレの武士ダマシイに免じてな、他の首とは別の所(とこ)に置いといたるわい。





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最終更新日  2004年04月30日 23時45分50秒
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