2004年04月30日
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シンクロニシティ:意味ある偶然の一致

柳田 俊一さん[肩がこらないページ・現代語訳太平記]分室 より

足利高氏>(内心)うん、あのかすかな音は?・・・鈴の音かな・・・。あそこの神官が鈴を振っているんだろうか・・・。実に神々しいな。

足利高氏>(内心)あの神社はいったい、どちらの神様をお祭りしているんだろうか・・・。これから戦場に赴く門出でもあることだしな、どんな神様でもいいや、とにかく戦勝祈願を捧げて行くとしよう。

彼は馬を降りて兜(かぶと)を脱ぎ、祠(ほこら:注2)の前にひざまづいて祈りを込めた。

(柳田注2)このページ後方にその「祠の写真」の掲載あり。

足利高氏>(内心)願わくば、この神社にお祭りされている神様、今日の合戦が我らの勝利に終わり、朝敵・北条氏を退治できますように・・・なにとぞ、なにとぞ、我らに、ご擁護(ようご)のお力をお加え下さいますように。

高氏はこのように祈り込めながら社前に座しつつ、そこに来合わせた神官に問うた。

足利高氏>こちらのお社にお祭りされている神さまは、いったいどちらの神さまでしょうか?

神官>あぁ、こちらにお祭りしとります神様はなぁ、八幡様(はちまんさま)でございますよ。その昔、八幡(やわた:京都府八幡市)の本宮からこちらのお社に勧請(かんじょう)たてまつりまして、ほいでもって、ここにお祭り申しあげとるんですわ。以来、「篠村の新八幡(しのむらのしんはちまん)」て呼ばれてますねん。

なんと!・・・八幡さまと言えば、我が源家が先祖代々崇めたてまつってきた、いと霊妙なる氏神様ではないか! このような時にまさにこの場で八幡さまの社に出くわすとはなぁ・・・うーん・・・。

足利高氏>私のような凡夫(ぼんぷ)の志でも神さまにちゃんと通じている、という験(しるし)以外のナニモノでもないですね! これはまたとないよい機会、よし、願文(がんもん)を一通こちらのお社に奉献(ほうけん)させていただくといたしましょう。 おい、妙玄!

疋壇妙玄(ひきだみょうげん)>ははっ!

高氏の命を受けて、疋壇妙玄(ひきだみょうげん)はさっそく鎧の中から携帯硯(けいたいすずり)を取り出し、筆を構えてすらすらと願文をしたためた。そして、声高らかに社前にて読み上げた。



祈願の事、ここにつつしんで申し上げます。

思えば、八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)さまはわが祖先の霊廟(れいびょう)、さらには、源家中興(ちゅうこう)の守護神であらせられます。

八幡さまの本地(ほんじ:注3)のみ心は、極楽浄土(ごくらくじょうど)の天上(てんじょう)に輝きわたる月光のごとく、その垂迹(すいじゃく:注4)のお姿は、七千余の神々の座の中に光りを放っておられます。仏縁(ぶつえん)をもってして世の人々を教化(きょうげ)せしむるも、非礼(ひれい)の祭りごとをよしとされず、哀れみをもって衆生(しゅじょう)を利し、正直に生きて行こうとする者をご守護下さいます。ああ、大いなるかなそのおん徳、人々がこぞって我が誠(まこと)を、八幡大菩薩さまにお捧げしていくのも当然のことと申せましょう。

(柳田注3)本体。

(柳田注4)分身。

さてさて、承久(しょうきゅう)年間の頃よりこの方、我が源家の家臣、あの平氏末裔(まつえい)のカタワレにすぎぬ北条氏の輩(やから)どもめ、ほしいままに天下を牛耳(ぎゅうじ)り、九代にもわたってその邪(よこしま)なる猛威をふるっております。あまつさえ、日本国の帝王たる後醍醐先帝(ごだいごせんてい)陛下は彼らによって西海(さいかい)の波の彼方に追いやられ、天台座主(てんだいざす)・護良親王(もりよししんのう)殿下も又、南方の山の雲中に苦しんでおられます。

北条氏のその悪逆のはなはだしきこと、まことにもって前代未聞であります。きゃつらこそは、朝敵の最たる者。臣下としての道を踏み外し、神々に敵対する彼らに対して、天は必ずや誅罰(ちゅうばつ)を下される事でありましょう!

いやしくもこの高氏、彼らのそのような積悪(せきあく)を見て、魚の薄い肉をもってまな板の上で鋭利(えいり)な刃物に当てるを決意、自らの貧弱な力をも顧(かえ)りみず、大敵北条氏に対して今ここに決起いたしました! その動機、自らの遺恨(いこん)を晴らさんがため、といったような、矮小(わいしょう)なものでは決してありません。

いまや、義に生きるすべての勢力は力を合わせて打倒北条に立ち上がり、首都の西南に結集いたしました。かの総大将(注5)殿は八幡に、そしてこの私はここ篠村に。双方共に八幡さまの神域の中、ご擁護の懐(ふところ)にいだかれながら、決起いたしたのであります。なんたる不思議な一致を見た事でありましょうや! かくなる上は、朝敵討伐の成就(じょうじゅ)できぬはずがありません。

(柳田注5)千草忠顕が大将と仰いでいる後醍醐先帝の皇子の事を指しているのであろう。

我らが頼りとするは、「我、百代の帝王を鎮護(ちんご)せん」との天皇家グランドマザー・天照大神(あまてらすおおみかみ)さまの固いご誓約(せいやく)であります。我ら一同、この社前の狛犬(こまいぬ)を見て勇気を煮えたぎらせております! わが源家の先祖代々の帰依(きえ)の心に応(こた)え、必ずや、大偉神力(だいいじんりき)を現わし頂けることと信じております。

南無八幡大菩薩(なむはちまんだいぼさつ)、かの中国唐の時代、敵陣中に金色の鼠(ねずみ)が現れて敵を撃破(げきは)いたしたごとくに、なにとぞ、なにとぞ、この「義の戦」に霊威(れいい)を輝かせたまえ。徳の風を草に加えて、敵を千里の外になびかせ、神の光をわが剣に得せしめて、ただ一戦の中に勝利をおさめることができますように。

わが誠の心、かくのごとし、なにとぞ、ご照覧(しょうらん)下さいませ!

うやまって申す。

元弘(げんこう)3年5月7日  源朝臣高氏(みなもとのあそんかたうじ)敬白(けいはく)

==========


文章は玉を綴(つづ)るがごとく、詞(ことば)は明らかにして理(り)は濃(こ)まやか、八幡さまもきっとこの願文をお聞き届け下さったことであろうと、社前に集う人々はことごとく、八幡さまへの信を固め願をかけた。

足利高氏は自ら筆をとってその願文にサインし、鏑矢(かぶらや)を一本それに添えて社殿にお備えした。足利直義(ただよし)をはじめ、吉良(きら)、石塔(いしどう)、仁木(にっき)、細川(ほそかわ)、今川(いまがわ)、荒川(あらかわ)、高(こう)、上杉(うえすぎ)以下、高氏に従う面々もみな、我も我もと矢を一本づつ献上した。かくして、社殿に矢はうずたかく塚のように積み上がったのであった。(注6)





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最終更新日  2004年04月30日 23時44分29秒
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