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大分前(5~6年前?)に書いた文章があって、
それを少し生徒に話したら面白がっていたので、
改めてここでも書いてみようと思う。
前の文章が残っていないので、文章自体は新作であるのだが。
僕は大学3~4年時、都内・東長崎に住んでいた。
大学を卒業した後は、愛夢舎に来るまで、ひばりヶ丘で暮らしていた。
塾の仕事を辞めた後、銀座一丁目の会社まで通勤していた。
現在は、武蔵藤沢で暮らしている。
つまり、大分長いこと、 西武池袋線 のお世話になっている。
特に、銀座に通勤していた頃、一時間ほどの通勤電車の中で
面白いことに気がついた。
もう数年前のことなので、現在も同様の現象が見られるか定かでないが、
当時僕は、この現象を
「西武線 五段活用」
と名づけていた。
駅での構内アナウンスに関する現象である。
西武線は、駅員の対応、アナウンスが大変よい私鉄であると聞いたことがあった。
それは、昔、駅員の態度に腹を立てた客とトラブルが起こって、
それ以来、教訓として、丁寧な対応をしているらしい。
(社員の方に聞いたわけではないが、そんなウワサがある)
近年、西武池袋線は、練馬駅から地下鉄に乗り入れ、
営団地下鉄(現・東京メトロ)有楽町線直通の電車が開通した。
銀座に通っていた僕にとっては、
乗り換え不要のこの電車は大変ありがたかったわけだが、
長距離を走るこの電車に乗ると、地域性とか人の心境とか、
さまざまなことが分かる。
これを 「西武線 五段活用」
と言う。
【第一段 承諾要請形】
今暮らしている武蔵藤沢や、ひばりヶ丘など、
西武池袋線でも西の方の駅では、
電車のドアを閉めるときの駅のアナウンスは、大変丁寧だ。
「ドア、閉めさせていただきます。」
と言う。
「お忙しいところ、停車時間の間、お待たせいたしました。
いよいよ電車を出発させますから、どうか今少々お待ちください。
怒ることなくお待ちいただいて、本当にありがとうございました。
あ、でも、これからドアを閉めるボタンを押すのですが、
ドアの戸袋に手を引き込まれないように、ご注意くださいね。
私も、ご迷惑がかからないよう、静かにボタンを押しますけれども、
それでもドアの油圧装置ほか、
どうしても『プシュー』という音はしてしまうんです。
ああ、どうか、怒らないでくださいね。
それでは、よろしいですか?ご準備くださいね。
押しますよ、いいですか?押しますよ・・・」
そんな駅員さんの細やかな心遣いが伝わってくるようなセリフである。
何しろ、主導権は「客」の方にある。
偉そうに座席にふんぞり返っている乗客に、
ドアを閉めることの「許可」を仰いでいるのだ。
聞いているこちらが、「そんなに低姿勢でなくとも・・・」と恐れ多くなる。
【第二段 自発形】
電車が練馬付近に来ると、アナウンスの様子は若干変わる。
「ドア、閉まります。」
と言う。
このセリフに、駅員や客の意志は介在しない。
ドアが 「勝手に」
閉まるのである。
勝手に閉まるのであるから、客に許可を仰ぐ必要はない。
「臭いものにフタ」ではないが、閉まるドアに、
「どうして閉めるんだ!」
と憤慨する客がいたとしても、
駅員の側からすれば、自分のせいではない。
ドアが勝手に閉まったのであるから、
悪いのは、ドアだ。
隣の家の人のことなんか知らんもんね~、
道端でからまれている人がいても、ワタシは関係ないもんね~。
都内にやってきて、そんな「冷たさ」がアナウンスにも表れたのであろうか。
【第三段 一方通行形】
練馬から地下鉄につながって、電車は小竹向原→要町へとすすみ、
地下鉄の池袋駅に到着する。
池袋のアナウンスは、非常に機械的であると同時に、
客を寄せ付けない、事務的な冷たさがある。
「ドア、閉めます。」
と言う。
再び駅員の「意志」が言葉に表れた。
しかし今度は、客のことなど考えていない。
「オレが閉めると言ったら、閉めるんだ。
閉めるなと言っても、関係ない。
オレはドアを閉めるんだ」。
強い意志
だ。
駆け込み乗車をしてドアに挟まれても関係ない。
オレはドアを閉めると言ったのだ。
言った以上、ドアを閉めるのだ。
そう、閉めるのだ。
客は、そんな実存主義的、カモメのジョナサン的、
孤高な駅員の進む背中を追いかけねばならないだろう。
【第四段 完了形】
特に朝の通勤時間帯、できるだけ乗客の多い時間帯にみられる、
特殊な活用形が完了形である。
毎回この現象に出会えるわけでないから、
その場に遭遇できたものは、貴重な体験をしたと思ってよい。
飯田橋、市ヶ谷などの、ターミナル駅。
通勤ラッシュで人が電車に飛び乗り、
ドア付近でおしくらまんじゅうが起こっているさなか、
その活用形は表れる。
「ドア、閉まってます。」
これはすごい。
もうドアは閉まっている
のだ。
もう乗れるはずはないのだ。
見た目では、ドアは開いているように見えるが、
だまされてはいけない。
もう、閉まっているのだ。
だから、乗れないのだ。
通勤ラッシュのことだから、駅員の声も緊迫したものがある。
はっきり言って、 絶叫
だ。
「押さないでください、押さないでください」
と絶叫する駅員さん、あんたが一番押している。
「押すな」、「駆け込むな」、「中につめろ」と、
ひたすら駅構内に駅員の絶叫がこだまする。
乗客は誰も騒いでいないのに、駅員ひとりが絶叫する。
「ドア、閉まってまぁ~~す!!」
微妙に通勤ラッシュをはずれた9時くらいでも、
なぜか駅員は連呼する。
「ドア、閉まってます。」
この場合、電車内もぎゅうぎゅうづめではないので、
はっきりと、ドアが開いているように見える。
しかし、だまされてはいけない。
閉まっていると駅員さんが言うのだから、
これは開いているように見えて、閉まっているのだ。
「閉まってます。」
そのアナウンスが流れた後、何十秒も電車は動かないし、
その間ずっと、ドアが開いているように見えるが、
やはり、だまされてはいけない。
目に見えるものが全てではないのだ。
ドアは閉まっているのだ。
・・・というのが、西武線でみられる、
ドア開閉時のセリフ活用である。
普段聞き流している駅のアナウンスも、注意して聞くと、
色々と面白いところがある。
・・・四つしかない?
そう、現象として確認できるのは、実は四つである。
ただ、僕は思った。
古文での動詞の活用が、最大四段までであったのに、
現代語では五段まで増えている。
今後、活用形がさらに増えることは、想像に難くない。
だとすれば、先々現れる【五段活用】とはどのような形態であるのか。
ご安心ください、ちゃんと予測しています。
第一段から四段までをちゃんと分析すれば、
次の形は簡単に想像できるのです。
【第五段(未確認) 未然形】
「ドア、開きませぇ~~ん!!」
Kama
注:この文章は、実際の現象をもとに、冗談で書いたものです。
お分かりだと思いますが、あくまで冗談ですから、
決して特定の電車を茶化しているわけではありません。
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