日々の足跡

日々の足跡

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2023.09.04
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カテゴリ: 日々の生活
{再会}
娘の香は中学入試でF市内の私立中を受験して合格し、自宅から一時間か
けて高校を卒業するまで通学していた。
その香の入学式の時、偶然に思いもかけない人に会ったのだった。
式が終わり香を待っている時、花壇のバラがあまりにも綺麗に咲いていた
ので見
て回っていた時であった。
誰かの視線を感じるなと思いなにげなく前を見たら一
人の男が聡子の方へ
近づいてきていた。
聡子がその男を確かめるのに時間はかからなかった。
「あっ、康弘さん」
その昔幾度となく口に出した名前が滑らかに出てきた。
「聡子、久しぶり」
高田康弘は聡子が19歳の時に初めて交際した男だったのだ
まだ19歳だった聡子は世間をよく知らず自分の前に現れた3歳上の康弘に夢中
になってしまった
それから22歳までの3年間聡子は康弘と付き合いを続けていた。
その間には喧嘩して途中3ヶ月はお互いに連絡もせずという事もあった。だが、
いつ
のまにかまた戻りずるずると3年が経っていた。
もちろんその間には結婚の話も出たし聡子自身康弘と結婚するものと思っていた。
だが聡子の両親に猛反対され聡子はそれ以上両親を説得する術もなく聡子の方
から別れを告げたのであった。
あれからもう15年が経っている事になる。
聡子は娘の香が出てきやしないかと気にしながら康弘との久しぶりの、まして意
外な場所での再会に驚いていた。
「お嬢さんがこちらの学校へ・・奥様とご一緒なんでしょ?」
「うん・・今教室の方で娘といるんじゃないかな・・・そちらはご主人は?」
「主人は仕事人間なので娘の入学なんかには出てこないわ」
聡子は数日前、昇と軽い口喧嘩したのを思いだしていた
ほんとは康弘夫婦みたいに両親そろって出席してやりたかったのだ。何度となく
昇に
言ってみたが昇には全然その気がなくて結局聡子一人で付き添ってきたのだった。
「今幸せなんだろう?」
聡子の口調が少しきつかったのか康弘はそんな聞き方をした
「ええ・・・まあ」
歯切れの悪い言い方をした聡子が気になったのか康弘は手帳を取り出しながら
「携帯を書いておくから今度電話してよ。一度ゆっくり話したいな」
そう言って手帳に番号を書いたのを聡子に渡し「じゃあ」と言いながらその場を離れて 行った。
聡子は挨拶も出来ずに康弘を見送っていた。校舎の方から香が出てきており聡子に
軽く手を振ってる姿が見えると聡子はメモを慌ててバックの中に忍ばせた。
15年ぶりに見る康弘は頭も少し白髪が出ておりあんなにスリムだったのが横に貫禄
が出てきている。メガネは昔からかけており優しい目元はあの時のままだった。
それから2週間ほどたった午後、聡子は何する気もなく椅子に座りボンヤリしていたそ の時、電話のベルが鳴っているのに気がつき慌てて受話器を取った。
「もしもし内田ですけど・・」
「・・・・・」
受話器の向こうは無言でシンとしている。
この手の無言電話は半年ほど前から月に2,3回あっている。昇にも話はしていたが
昇は「悪戯電話だろう」くらいに言って相手にもしていないようだった。
だがこの日の電話は無言の中に何か得体のしれないものがあるように聡子は感じら
れ相手が切らないので、聡子も意地になったように受話器を握りしめていた。
無言の中からかすかに犬の鳴き声が聞こえているようだ
しばらくそのままにしていたが聡子はなんだか馬鹿らしくなり聡子の方から電話を切
った。なんだか後味の悪い電話だった。
これが昇に関係している電話とはその時の聡子は思ってもいなかった。
そんなある日
香が朝6時に起き一時間かけて通学するようになって2ヶ月もたった頃聡子はバック
の中に入れていた康弘のメモを取り出した。
今まで忘れていた訳ではなく、もちろん気になってはいたが電話するタイミングもなく そのままになっていた。
季節は梅雨に入り、毎日ジトジトした日が続いていた。
聡子は時計を見て今の時間会社は昼休みに入ってるのを確認し思い切って携帯の番
号を押した。
「高田です」
受話器から懐かしい声が返ってきた
「あっ、聡子ですけど・・・」
「ああ~聡子さん、電話かかってくるのをずっと待ってたんだよ
 よかったら今日の夕方出てこれる?昔よく行ってた喫茶店まだあるかな?・・
そこで
7時に待ってるよ。」
康弘はそれだけ言ったら聡子の返事も聞かずにさっさと電話を切ってしまった
聡子は受話器を眺めながらこの強引さは昔と全然変わってないないなと一人呟き苦
笑するのだった。
その日の7時、約束の喫茶店に聡子は出かけた。この喫茶店は昔康弘と待ち合わせ
に使っていたところだった。15年の歳月が過ぎその喫茶店は外装を替え新しくはなっ ていたが、中は昔のままだった。
康弘はもう来ており手前の分かりやすい場所に座っていた
今日の康弘は会社の帰りという事もあり紺系の背広を着ている、ネクタイはベ-ジュ系 で赤のストライブがよく効いている。
お洒落は昔からで今もそれは変わってないようだ。
聡子の方は外が雨という事もありプレ-ンなグレ-のワンピ-スを着ていた。色は地味 だがデザインが洒落ておりセンスのあるものを着ていた。
首周りは少し広めにあいており、そこに同系の絹のスカ-フが巻かれており聡子の顔を 柔らかくしていた。
聡子はその日をさかいに月に1,2度の割で康弘と会うようになった。
ただプラトニック
なもので聡子にとって結婚してから始めて外からの刺激を受けたかのように新鮮で弾 むような気持ちで康弘と時々会い、色々な世間話をしているだけで満足しているので あった。
康弘は必ずもそうではないようだが聡子の気持ちとしては一度関係を持ってしまえば昔 にまた戻ってしまうのではないかという不安があった。
また、これは聡子なりに唯一昇を裏切っていないという強みを持っていたかったのもある かもしれない。
運よくというか香と康弘の娘とはクラスが違い康弘の妻と顔を合わせるという事は殆どな かった。
これも聡子にとって康弘と会うのに好都合だったようである。
丁度聡子が昇の目を盗んで康弘と会っていたのと同時期康弘の身辺にも聡子には言え
ない内緒事を持っていた
無言電話はその後も度々かかってきていたが聡子は気にする風もなくやり過ごしていた。
昇との関係も特別問題はないと聡子は思っていたのだが。


次回へ続く







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Last updated  2023.09.04 10:37:01


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やすじ2004 @ Re:500円のやすらぎ(02/23) こんにちは!! 今日は日中15度で少しポ…
kazu495 @ Re:卒園・卒業式に・・(02/14) お返事遅くなりました。 ここ数日忙しくPC…
やすじ2004 @ Re:卒園・卒業式に・・(02/14) 今日も一日お疲れ様でした 寒い日が続い…
kazu495 @ Re[1]:防犯に(02/02) やすじ2004さんへ コメントありがとうござ…
やすじ2004 @ Re:防犯に(02/02) 今日もお疲れ様でした 今週は気温の変化…

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