ユーカリの木陰で里の行

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2012.07.13
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カテゴリ: 海外生活

夕方、戻ってきたら、
玄関先に見知らぬ女性が坐っていた!

見たこともないおばあさんが、
玄関先の椅子になぜか坐っているのだ。
白髪のヨーロッパ系女性で、カーディガンを羽織り、
どっしりとうちの椅子に腰をおろしている。
足元には、買い物の帰りなのか白いビニル袋。

誰、この人!?


私の背後から息子がおばあさんに駆け寄ってゆくのと同時に、
後から娘が日本語で怒鳴った。
「近寄っちゃダメ!
 知らない人はダメだって、言われてるでしょ!」

途端にビクッと後ずさりした息子。
いやぁ、娘は臆病なだけあって、危機管理能力に長けている。
指示も日本語で出してるし…。

娘の怯えももっともだと、
とりあえず子どもたちをガレージから家の中に入らせてから、
おばあさんに「ハロー」と笑いかけてみた。

おばあさんの方も、「ハロー」と返してくれたけど、

こちらを見ようともせず、うちの椅子に坐り込んだまま
なにやらブツブツと独り言を言っている。

とりあえず害はなさそうだったけど、
何、このシチュエーションって……。
はたして彼女はどうしてここに坐っているんだろうか???


相変わらず、ブツブツ…。

どうしよう???
正直、どうしていいか、わからない……

ともかく愛想笑いを浮かべたまま、
自分もいったんガレージに避難した。
だけど自分ちの玄関先に人がいるのに
シャッターを下ろしてしまうのも失礼かもしれない…などと
あたふたしてるうち、子どもから話を聞いたダディンが出てきた。

「とにかく自分が話してくるから、
 君は子どもたちと中にいるように」と、ダディン。
夫が頼もしく思えた、近年稀な瞬間であった。

あのおばあさんは認知症なのかもしれないな、と思う。
足元のビニル袋や、寒いのにカーディガン姿という軽装、
道に迷って徘徊してしまったのではなかろうか?

ここら辺は老人ホームが多いし。
もしかすると、おばあさんはホームから外出し、
方向感覚を失くしてしまったのかもしれない。
認知症の老人が、頭の中の地図を頼りに歩くうち迷って、
徘徊してしまうという話は珍しくないから。

そんなことを思ったら、ふと7年前、年の初めに見た夢を思い出した。
(年数まで覚えているのがすごいけど、息子の生まれる前の年だったもので)。

夢の中で、私は日本の実家の辺りを歩いていたのだが、
そのうち道に迷ってしまった。
どこをどう歩いても、なぜか家に戻れないのだ。
さ迷いながら、ふと思った。
はたして自分は実家の辺りを歩いていたのだろうか?
もしや、ここはメルボルンなのではなかったか?
いや、自分は東京にいたのかもしれない…、と。

頭の中では、実家とメルボルンと東京の、
以前自分が住んでいた辺りの地図が重なって、ぐるぐる廻っていた。
ここはどこ? いったい自分は?
わけがわからず、自分の記憶の信憑性と認識力の混乱にパニックをおこし、
目が覚めた。

恐ろしいうえに、哀しい夢だった。
目覚めて、年明けから、なんて淋しい、
ものの憐れを感じさせる初夢を見てしまったのだろうと思った。
あのとき感じた不安や混乱、苛立ち、恐怖は今も心に残っている。
認知症を患ってらっしゃる方の気持ちが、少しだけわかったような気がした。

祖母も晩年、認知症だった。
最後の8年間はベッドに寝たきりになってしまったので、
徘徊こそできなかったけれど、
自分の名前すら忘れてしまうほどだった。

祖母は穏やかなひとで、怒った顔など一度も見せたことなどなかったのに、
あのころはよく怒っていた。
けれど認知症を患っていたのだ。
どんなにか不安だったろう。
ときに幻覚さえ見ているようだったし。

「本人の現実」と「周囲の現実」が全然一致しない、という状態。
それは絶えず自分を周囲から否定されてしまうような状態なんだろう。
苛立ち、怯え、案じ、怒り出しても無理はない。

せめてお茶でもと、マグカップを手に外に出かけたとき、
ダディンが戻ってきた。

なんでも、おばあさんは、ミッキーという人から、
ここにくるように、と言われて来たのだそうで。

ダディンが、でもここは自分たちの家で、
ミッキーという人は知らないが、と説明しかけたところ、
突然おばあさんは怒り出しだしたのだそうだ。
そうして、あらぬ方向を見つめ
「ミッキー、ミッキー、助けて!」と叫び出した。

あたかもそこに人が居るかのように助けを求めていたから、
たぶん幻覚を見ているのじゃないか、と言っていた。
そこへ私が茶など持って、のこのこ話しかけに行ったら、
ますます興奮させ、本人を混乱させてしまうだけだから、
ここはそっとしておいた方がいい、と。

そう言われ、耳を澄ませば、
玄関のドアを通して、なにやらブツブツとつぶやく声が聞こえてくる。
何を言っているのかはわからなかったが、
時々怒ったように声音が上がるから、やはり興奮しているのだろう。

辺りはもうすっかり暗くなっていた。
せめても外灯をつけたものの、このまま放っておくわけにはいかない。

結局ダディンが近所の警察署に電話して、警察の方に来てもらった。
いかにもコップ然としたマッチョな警官が来たら嫌だなと思っていたが、
半時間ほどで現れたのは、優しそうな婦人警官お二人だった。
おばあさんに、どうしてそこにいるのかを尋ね、
やんわりと身分証を提示するようにと促していた。

けれどおばあさんは興奮して、
ここは彼女の家で、私たちの方が犯罪者なんだ、と訴えている。
あの人たちが自分の家に不法に上がり込んでいるのだ、と。

結局おばあさんは身分証を持っていなかったので、身元がわからず、
婦人警官の方がお家を探してくださることになった。
この先に認知症の老人方もスティするホームがあるから、
まずはそこを当たってみるという。
お二人の話では、この辺は老人ホームの数が多いからか、
日々こういう通報が絶えないのだそうだ。

家まで送って行くと言われ、
おばあさんは相変わらずブツブツ言いながらも、
すんなりと車に乗りこんでいた。

それにしても、
どうしておばあさんは、ここを自分の家だと思ったんだろうか?
この辺に昔、住んでいらしたのかな?
このままスムーズに、今住んでらっしゃる家に帰れるといいな、と願う。

家―
でも老人ホームや認知症の施設を、
「自分の家」だと思える方がいったいどれくらいいるんだろうか。
そう考えると、やはり、とてつもなく物悲しかった。

それにしても、あのおばあさんは
徘徊しつつも、ちゃんと英語で受け答えをしていたナ。
自分の場合、英語もすっかり忘れてしまいそうで、
より恐いゾ。。。

いやぁ、だけど玄関先に見知らぬ人が坐っていたのには、
ビックリしました。
ダディンは翌日、件の椅子を裏庭に引きあげていたけれど、
今後のことを考えると、賢い処置だったと思う。


さて、写真は、先月末、スクール・キャンプ中に
具合が悪くなってしまった娘を迎えに行ったときの写真です。
娘たちはビクトリア州の乗馬もできるという、
ちょっとレトロな農場にスティしていたのですが、
夕日があまりに美しかったので、思わずシャッター切りました。
6月末、冬のビクトリア州、田舎の夕焼け。








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Last updated  2012.08.05 07:22:37 コメント(2) | コメントを書く
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