近代日本文学史メジャーのマイナー

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2026.07.25
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『蹴りたい背中』綿矢りさ(河出文庫)

 えー、実はちょっとだけですが、わたくしの中で作家綿矢りさがマイブームになっています。
 とはいえ、若かりし頃のように、本屋で探して片っ端から読んでいくというような強い欲求ではなく、(かつてはネットショップもなくブックオフは黎明期でしたが、また私自身図書館派でもなかったので、けっこうたくさん新刊書を買っていました。)チラッチラッと数冊読んだ程度ですが、それでも、とにかく続けて綿矢作品を読みました。

 しかし今回は、2003年芥川賞受賞作、文学史上事件と言われた作品であります。
 実は読んでいなかったんですね。私はひねくれ者で、ベストセラーがなんとなく苦手なんですね。
 その2年前の文芸賞を受賞した『インストール』は読んでいました。それなりに評判になっていましたが、ベストセラーとまではいっていなかった(いっていたのかな?)からですかね。

 それともう一つ、『インストール』という作品が、わかるようでわからない、わからないこともないが何をわかったらいいのかやはりちょっと戸惑う、という感じのする作品だったから、(もはや四半世紀近くも前の話でほぼ憶えていないのですが)というのも続いて『蹴りたい背中』を読まなかった理由にあったかなと思います。

 で、ちょっと前に綿矢りさがマイブームになって、まー、やっぱりちょっとは読んでおかねばならないだろうという思いと、実は先日書棚からごそごそとこんな本を出してきました。

『大人にはわからない日本文学史』高橋源一郎(岩波現代文庫)

 これは以前読んだ本であります。で、確かこの中に、初期の綿矢りさのことが書いてあったなと思い出したんですね。で、その部分を再読してみました。

 まずこんなことが書いてありました。

「この短編で日本の近代文学は息の根を止められたね」

 ……うーん、いかがでしょうかね。
 これはかなり「盛った」表現、なんでしょうか。どんな文脈での言葉だったのかさほど詳しく書かれていなかったのでわかりませんが、「盛った」のでないなら、信じられないくらい強烈な一文ではありませんか。仮にも言葉を商売道具に仕事をなさっている方々ですからねぇ。

 で、以下、その説明が書かれてはいるんですが、私が読んでいて一番わかりやすく読めた部分を中心に引用などしてみますね。
 高橋氏は、『You can keep it.』からの引用としてこんな個所を取り上げています。

 その時綾香の耳の上にがんと高速のボールがぶつかってきて、さらさらの髪が一瞬くらげのように上へ浮かび上がり、開いた口から歯のかみ合わせがずれたのが見えた。

 なるほどねぇ。
 ちょっと、なんとなく、感覚的にわかってきますよねぇ。

 以下、高橋氏の説明部分を、わたくしのバイアスと無知に偏った形ではありますが、ざっくりまとめてみます。まず高橋氏はこう述べています。

「異常に敏感な感覚」

 そして、近代小説的比喩はリアリズムに則り、本来視覚的リアリズム=「目に見えるように書く」ことであるが、本作の比喩は通常の比喩を越えており、比喩としての機能を失っているとして、「わたしたちは、これらの比喩を読み、過剰であると同時に絶妙であるとも考える。ここには、日本語の文章がたどり着いた、比喩の極点が位置しているように私には思える。」と。

 まー、一言で言いますと、新人離れした独創的・驚異的な文章感覚と技術、という所でしょうか。いえ、新人だからこその部分もあるのかもしれません。
 (高橋氏は『蹴りたい背中』の次に書かれた長編小説『夢を与える』について、「技術的にも、言語的にも、後退した風俗小説」と述べています。)

 というあたりの作品です。確かになるほどと納得できる表現が本書にもたくさんあります。それを、鑑賞すればいいのかなという気もします。
 ただ、わたくし的には、どうもその「鑑賞」そのものが上手くできない感じがするんですね。このへんは確かにすごい表現だなとはわかりつつ、何のために凄いのか、そのすごさの説明が、しっくりいかない感じでした。

 そこでやむを得ず、ネット上の、芥川賞選考時の選考委員の、本書への批評がまとめてあるホームページ(このホームページは実に労作であります)を見ました。すると山田詠美氏がこのように書いていらっしゃるんですね。

 もどかしい気持、というのを言葉にするのは難しい。その難しいことに作品全体を使ってトライしているような健気さに心惹かれた。

 なるほど、これが何のためにすごいのかの「何の」の説明か、これが「蹴りたい背中」のことなのか。
 私はこれを読んで、わたくし的な本作理解はこれに尽きると思いました。
 さすが、芥川賞選考委員であります。すとんと、納得ができました。
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Last updated  2026.07.25 17:42:59
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Comments

analog純文@ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  シマクマさん、コメントありがとうござ…
シマクマ君 @ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  昔、この作品が出たころ読んで面白かっ…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…

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