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ロンドンに住む名探偵オーウェン・バーンズの周囲で起きた不可解な事件の数々。不慮の馬車の事故で亡くなった神父。不審な医師の訪問後服毒死した職人。そして5年前の降霊術に嵌っていた資産家婦人が密室で殺害された事件。それらはクレヴァレイ村の吸血鬼騒動と関連があるのだろうか。村を跋扈するマントの怪人は、ロシア人伯爵ドリアン・ラドウィックだと噂されていた。伯爵の妻二人までが変死し、二番目の妻マージョリーの遺体は死後も腐敗せず、その胸には杭が打ち込まれていた。しかし三番目の妻エレナの友人アンは、エレナにもラドウィックにも激しく魅かれていく。そして伯爵の正体を突き止めようとして、元大学教授ヒルの館に乗り込んだ自称吸血鬼ハンター三人組もまた、密室殺人事件に遭遇してしまう。村人たちが吸血鬼への恐怖からパニックに陥る中、ついにエレナまでが亡くなり........絡み合う謎を解くべく、バーンズは相棒アキレスともにクレヴァレイに向かう。-------------------昭和レトロな時期の怪奇小説を思わせる扉絵の装丁。看板に偽りなしで、内容は「ドラキュラ」や「カーミラ」のゴシックホラーとホームズとディクスン・カーへのオマージュが綯交ぜ。おまけに吸血鬼ハンターまで登場するドタバタ喜劇風の一幕は、ポランスキーの「吸血鬼」のパロディなのだろうか。パスティーシュの一形態として読む分にはエンタメ性を楽しめるが、本格ミステリや、ゴシックロマンとして読むには出来が良いとは言えない。密室トリックはカーの某作のパクリかと予想したが、もっと奇想天外というか無理筋というか、悪い意味でカーを凌ぐ荒唐無稽っぷりには予想を裏切られた。解決編の謎解きも不十分で消化不良。アルテはゴシックホラーの雰囲気芝居を演出したかっただけなのかと訝しく思った。
2024.06.27
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機械仕掛けの昆虫を使って八百長を仕掛けた闘蟋(とうしつ)の場に居合わせた牛山藩の侍江川仁左衛門は、馴染みの遊女羽鳥を見受けするため一計を案じ、稀代の名工釘宮久蔵を訪ねた。久蔵のもとには、伊武(イヴ)と名付けられた人型機巧人形がいた。仁左衛門は羽鳥に似せた自動人形(オートマタ)の作製を久蔵に依頼する..........(第一話)一方、伊武は相撲取の天徳鯨衛門にひそかに思いを寄せている素振りを見せていたが機巧に魂が宿ることなどありえないと久蔵は考える..........(第二話)江戸と思われる架空の御世 天府 を舞台に繰り広げられる伝説の太夫「伊武(イヴ)」の名を持つ自動人形を巡る人々の数奇な運命。-------------------------------人形愛と機械に魂は宿るのかという永遠のテーマと、女系の継承の皇族が存在する世界観などなど、私の嗜好に嵌りすぎた奇譚集。第一話はミステリとしての、叙述の妙とどんでん返しの結構の優れていることに驚かされたが、全編を通しては幻想小説として楽しんだ。かつて、リラダンの「未来のイヴ」やホフマンの「砂男」を読んだ時のような感覚がよみがえる。時代劇の取ってつけたような情緒性を排した、硬質で簡明、それでいて格調の高さも備えた文体のおかげもあって心地よく読み終えた。と、思いきやこれってリドル・ストーリーで続きのシリーズがあるの?現代から未来へと時が移ろい未来のイヴの物語が紡がれるらしい。そっちのお話を読むかどうか。オートマタの主題を歴史小説として仕掛けたことに斬新さがあるのだし、イマドキが背景ではよくあるAIものSFになってしまうのではないか?だったら、せっかくの感興が削がれうのがイヤだなあ。どけど本作中で解かれていない謎もあることだし、怖いものみたさで読みたくもあり。
2024.06.23
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スウェーデンの南部ポーラリードの、広大な領地を持つ大地主フレドネルが殺害された。殺害現場はウナギ漁のための小部屋のような仕掛け罠で、入口が施錠され鍵は、撲殺された被害者のポケットの中にあった。フッレドネルは近々、エイヴォルという娘と年の差婚をする予定だったが、領内の小学校教師シャネットとも付きあっていた.......多くの人から恨まれていそうな地主を殺した犯人は誰か。そして犯人は如何なるトリックを用いてウナギの罠を密室に仕立て上げたのか。ドゥレル警部は若手のバルデル警部補ととも捜査を続けるうちに、領内の農場で起きた謎の放火事件に遭遇する。放火事件の被害者たちが一同に解する中へ登場したドゥレルは言う。「事件の捜査はもう完了しました」さらに「わたしが計画殺人に関する講義を行いましょう」とも。その殺人講義とは?ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー今どきの特殊設定ものではなく、叙述トリックでもなく、密室トリック直球勝負の往年の北欧本格ミステリー。しかもその密室の設定が余りにもユニーク。ユニークすぎてトリックの謎が解ける読者がどれだけいることか。フーダニットの犯人の意外性というより、ホワイダニット、密室を作製した動機と、第二の犯罪まで行った犯行動機の意外性が光っている。終幕の謎解きに至るまでの、捜査の過程が人物相関図の説明やアリバイ検証が延々続くのにはやや退屈して、集中力が途切れ、考察がおざなりになったところで放火事件の意外な展開が描かれたのには、目が覚める思い。これにはしてやられた。かくてストーリーの急展開からのお約束の「名探偵皆をあつめてさてといい」の解決編と余韻を残す幕引き。最後から5ページ目で犯人名が明かされる場面はエラリー・クイーンの某作を思わせた。この作者の、他作も翻訳されることを望む。
2024.06.19
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大学生の宇月理久と篠倉真舟はいとこ同士で、ひとつのペンネーム「楠谷佑」を持つミステリー作家。真船がプロットを、理久が執筆を担当する二人は、取材のため秩父の宵待村を訪れ、学友の旅路の実家である旅館に宿泊する。いたるところに案山子の立つ一見のどかなその村で、案山子に毒矢が射込まれる悪戯があったのち造り酒屋の一人息子純平がクロスボウで殺害され、雪の積もった犯行現場には足跡がなかった。その翌日には、旅館に宿泊中のミュージシャン明星までが刺殺される。村内には連続殺人鬼が潜んでいるのか?では誰が、何故、如何にして、このような殺人を行ったのか。「読者への挑戦状」でフェアプレイな謎解きを提供する本格ミステリー。ーーーーーーーーーーーー往年の本格ミステリーへのリスペクト、特に二人一役の作家の設定から判るようにクイーンへのオマージュが随所に見える。クイーン大好き、本格ミステリオタの私には、ストーリーの進行中にクリスティその多の本格ミステリー談義がはさまれるのが嬉しかった。だけど、村社会とそこに暮らす人々の描写に注力しすぎた部分が冗長に流れる嫌いがあったのは残念。ロジカルな謎ときにはすっきり洗練された文脈がふさわしかろうと、蘊蓄も楽しみたい一方でちょっとわがままな願望を感じた。タイトルに揚がっている案山子のガジェットとしての扱い方も弱く、ものたりない。さらに言えばフェアプレイの精神で、犯人とトリックは推理できようが、動機までは判るとは思えない、無理筋なこじつけ感があった。文句をつけながらも、両人のコンビのバランスの良さとこの作者の作風には好感が持てるので、シリーズ二作目に期待したい。
2024.06.16
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(Ⅰ)突如警察署に現れた、何者かの返り血を浴びた記憶喪失の青年。彼が口にした言葉「ラザロ」は何を意味するのか。美波紗和刑事は元精神科医の警部久賀瑛人に協力して、この謎の人物の正体を突き止めようとするうちに廃屋での殺人事件に巻き込まれる。一方紗和の同寮白井はキャバ嬢ナミに請われて、ナミの行方不明のルームメイト、ミオの捜索を行っていた。ミオ実は玲というその人物こそ、廃屋殺人の犠牲者らしい.........(Ⅱ)ミステリー作家月島理生は友人長門学と一緒に、湖畔のペンションで行わるゲームイベントに参加した。彼ら以外の参加者は6人。その中には玲と名乗る女性が含まれており、月島は彼女に心惹かれた。しかし壁にカラヴァッジョの「ラザロの復活」が飾られたその館で、ゲームならぬ現実の殺人がおきてしまう。参加者はひとり、またひとりと殺されていき、ついに玲までが..........-------------------休日なのでちょっと休憩。休憩中、ネタバレなしでチラ裏は書けない自分に気づいたので晒してしまおう。ちなみに犯人名まではバラしていませんので、誰が見ていようと見ていまいとかまうものかの精神で。:::記憶喪失の青年は誰なのか、失踪したミオとは誰なのか、廃屋で殺されたのは誰でその犯人は誰かそして、何よりもゲームイベントの連続殺人の犯人は誰なのかフーダニットの釣瓶打ちのような展開に目がはなせなずに一気読みしたものの.......うーーーんん、この作者は多重人格障害のテーマがお家芸なの?まさか柳の下に泥鰌はいないものと、その可能性は排除して読んだら肩透かし。やっぱりそっちか。一◯◯役、自◯自◯を匂わせる記述は文中にあるので、アンフェアとは言えない。視点漏れする此方が間抜け。だけど、ⅠのパートとⅡのパートに二段構えに仕掛けられた◯◯〇〇トリックには中々気付けないだろうから、その凝った伏線を仕込む発想はお見事だと思う。少なくとも私は騙された.。このテーマで描けば、どんな荒唐無稽なプロットや犯行動機も力技で有りにしてしまうの批判も、もっともだとは思けれど私としてはゲーム感覚で当たらない謎解きを楽しんだので良しとしよう。
2024.06.09
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生態学者のネル・ワード博士は、フィールドワークの最中、マナー・ハウス・ファームの女主人撲殺された殺人現場に居合わせたばかりに事件の第一容疑者にされてしまう。事件を担当するジェームズ刑事はなぜか、ネルに恋愛感情を抱く。ただしネルの意中の人は同僚の博士アダム。彼とともに真相を究明し、自らの潔白を証明しようとするネルだが......ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー捜査側の人物が容疑者に恋愛感情を抱くというストーリーは、私の知る限り「赤毛のレドメイン家」なみの名作でもない限り、成功した試しがない。本作もご多分に漏れず、だらだらとコイバナのエピソードが続き、肝心の事件の輪郭や謎がみえてこない展開に辟易した。多すぎるレッドヘリングに、ちょっと困惑したが、被害者を殺して得するのは誰かという単純な考察だけで真犯人にヒットすることはさして難しくはなかった。事件の発端は面白そうだったのに、ミステリーとしての捻りがないストーリーの果に、ありきたりな真相に着地し、せっかくの生物学の知識も蘊蓄をひけらかしているだけと感じてしまう。人物の描写にも共感するところがなく、ジェームズとアダムに両者に魅力を感じず、女性警部ヴァルに至っては、取り調べの遣り口のエグさに嫌悪感すら覚えるがこの警部にはヒール役を割り振ったつもりなのだろうか。肝心のヒロイン、ネルにしても博士の学位があっても地頭の良い女性とは思えなず、彼女の正体が高貴な御身分と明かされても、夢物語のようで痛々しいばかりだった。「貴族探偵」はもういらないが本音。と、またしても描き方が好きではない作品にあたってしまっって、このところ読書運に見放されているのかな。
2024.06.05
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古代エジプト。トゥトアンクアテンの御世。王墓の崩落事故で命を落としたとされた神官書記セティは心臓が欠けているという理由で冥府から現世へ追い返されてしまう。誰が自分を殺して心臓を奪ったのか突き止めるための猶予は3日間。謎を追ううちにセティは新たな事件に遭遇する。先王の葬送の儀の最中、亡き王のミイラが消失したのだ。神官団による王への反逆と見做され、神官たちへの迫害がはじまり、セティも掃討に巻き込まれる。セティは真相を究明し、黄泉の国での魂の安寧を得ることができるのだろうか。--------------------第22回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー古代エジプトを舞台にした歴史小説にして特殊設定ミステリー。アルニムの「エジプトのイサベラ」とかゴーティエの「ミイラ物語」とかを思わせる、幻想小説のムードを期待したが、大外れ。はい、期待というよりそんな妄念を抱いた私がヴァカでした。文章が好きでないためか、面白く読むことができなかった。わかりやすく読みやすい分、説明的な文体で登場人物の造型はステロタイプ。黄泉がえり、太陽神崇拝、ミイラ、新官職、王家の墓とガジェットは魅力的だし、犯行動機と遺体消失トリックは古代エジプトの文化的背景がならではの奇想にみちたものなのに、読んでいてさっぱり興が乗らない。建築工事現場の 進まない橇 の物理トリックは無理筋ではあるが、特殊な世界観のもとでの出来事ゆえ大目に見るとして、最後に明かされる○○錯誤いたっては、また叙述トリックもどきかと後出しジャンケンンをされた白々しさだった。往々にして「このミス」受賞作の作風というか、賞の選考基準そのものが私には合わない。多分今作もそんなところだろう。以上あくまで個人の主観による感想と、決まり文句を述べておしまい。
2024.06.02
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大物ミステリー作家にして覆面作家の御津島の建てた豪邸。あたかも館ものミステリーの舞台になるような洋館に、招かれたのは作家、評論家、編集者、と多士済々。招待客一同を前にして御津島はあるベストセラー作品が盗作であることを暴露する とうそぶく。しかしこの宣言に戦戦兢兢とする客たちを残して、御津島は奇怪な叫び声とともに館から姿を消してしまう。招待客の一人、名探偵?天童寺流が謎解きに挑戦するも、館の人々はひとり、また一人と殺されていき..........そして次の犠牲者になるのは誰か?ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー覆面作家とくれば人物○〇とあのトリック、さらに巧妙に仕込まれた叙述トリック多重推理と虚実綯交ぜの作中作からのラストのどんでん返し。と、私の嗜好にぴったりのガジェットてんこ盛りと、典型的なお館クローズドサークルミステリと見せかけて実は......こうくるか、と巧く作者の術中にはまった。二度読みして、お化け屋敷にどんな仕掛けが施されていたのか解読してみたいと思わせる読後感。面白うございました♪
2024.05.28
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ノアの方舟の調査隊にカメラマンとして同行し、アララト山へ登攀した森園アリスは不可解な連続死に遭遇する。「完全なる記憶力」を持つ天才学者、一石豊は、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の思想が一連の事件の根底にあると推察し謎解きに挑む。しかし調査隊メンバーはひとり、またひとりと消えてゆきそして、アリスと一石ともう一人が残った.......--------------------一石の宗教談義と無神論の主張で相当のページ数が割かれている構成。無神論者が滔々と宗教の蘊蓄を披歴するって、ベルイマンの映画だか脚本ですか?って滑稽さを感じつつも、興味深く拝聴したいうことにしておくが、宗教学に興味のない人には本作を面白く読ませることは難しいだろう。嵐の山荘の変奏バージョンで、お決まりの「そして誰もいなくなった」の本歌取りに進取を盛り込もうとしたのだとしたら、ミステリとして余り成功しているとは思えない。登場人物が少なく、レッドへリングが次々と死んでいき生き残ったのが探偵役とその他二人ではネタは割れている。間違いの推理からの意外な推理による真相も型通りで、やっぱりこいつが犯人!!だという、醒めた感想があるばかり。犯行動機は意外というより、これまた宗教に関する特殊な知識がないと考察が及ばないというのもなんだかな。ミステリーの文脈で宗教の本質と神の存在を論ずるのが作者の意図だったのかもしれないが、意余って、言葉も余り過ぎ、意欲ばかりが上滑りしているようで空疎な読後感だった。
2024.05.02
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資産家の後妻で未亡人のコーネリア・ラックランドの主治医トム・フェイスフルのもとへ匿名の脅迫状が届く。「あなたがミセス・ラックランドをゆっくりと毒殺しようとしていることは御見通しです」果たしてコーネリア夫人は致死量のモルヒネによって毒殺されてしまう。ロンドン警視庁のバートウ警部は相棒のソルト巡査部長とともに捜査にあたる。事件の裏にはラックランド氏の遺言状を巡る親族の確執があるらしい。相続人の孫娘、その交際相手、屋敷の召使たち。誰がどうやって夫人を殺したのか。--------------------古き良き時代の本格ミステリ。お館での毒殺事件。お約束の奇妙な遺言状の存在。遺言状を巡る血縁者のドロドロは「犬神家の一族」その他、日本のかつてのミステリでもあったな。と、これも古き良き時代への郷愁。レッドへリングはたくさん泳いでいるが、フェアプレイな伏線のはりかたというか、典型的な犯人の隠し方なので、物語の序盤から「あっこれ(この人物)怪しい」と気づく読者も多いはず。定番の安心感でさくさく読めるが、謎や物語への斬新な発想とか感じられず、印象に残るものが少ない作品だった。「セイヤーズの後継者」と称賛された作家だそうで、私がセイヤーズは好きではないのでそう感じるのかもしれない。
2024.04.29
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医師である父のクリニックで腎臓透析を受けている高校生和泉宏哉は校内で窃盗を犯した者をかばったため、学校中の生徒からの無視されることになった。その最中、宏哉とともに透析を受けていた水瀬杏里がアンリが行方不明になり、血液を抜かれた遺体となって発見された。重要参考人として逮捕されたのは宏哉の母静香。元弁護士であり今は教師となっている佐瀬は弁護を引き受けるが........--------------------ローカル地域の新旧世代の確執、特異な環境の学校でのスクールカーストといじめ、に法的アプローチする硬派な作風と思いきやなんとタイトル通り中世の魔女の存在と犯罪者の血筋のモチーフに拘った特殊設定なお話だった。それにしても黒ミサめいた流血の儀式まで、ストーリーに登場するのは、いささか芝居がっていて無理筋を感じる。少ない登場人物で、取り集めたガジェットはそれほど目新しさはないが、うまく配置して主述の整合性がありつつも堅苦しさのない文章もテンポよく読ませるうまさだと感じる。少なすぎる登場人物で、フーダニットはどう落としどころをつけるのかとかと思ったらホワイダニットが推理の要で犯人はまんま、間違いなくその人物だったとは。そのホワイダニットが血に拘ったこととはベタすぎて悪い意味で意外性はあったけれど。いや、意外というより荒唐無稽か。ついでに言えば血を抜かれた死体のハウダニットは医学的に説明できて理には落ちるが、腑に落ちない。フィクションなのでリアリティを求めるのは無しとしても、1章と2章の繋げ方に違和感があり、視点人物が宏哉と佐瀬の二人なのも、エピソードを切り張りしたようで物語の流れにに統一感がない。そんな視点の揺らぎをを目くらましに使って真相を隠そうとしたのかもしれないが。終章が一方的な宏哉の一人語りで終わっているのはいかがなものか。佐瀬から見た事件の顛末も締めくくってほしかった。意欲作だが、意が余り過ぎて足りないところが目につき不全感が残った。
2024.04.25
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1977年、ニューヨークの高層ビル、ウォールホールセンター50階のデシマルバレエシアター。バレエ「スカボローの祭り」に主演中の世界的プリマ、フランチェスカ・クレスパンが、何者かに殴打され致命傷を負いながら舞台を勤め上げた後、死亡する事件が起きた。その遺体からは何故かローズマリーの香りが漂っていた。警備員のルッジが状況証拠から犯人として逮捕されたが、生命を失ったはずの身体で踊り続けた舞姫の謎は様々な揣摩臆測を呼んだ。そして捜査にあたった刑事ダニエルは公演の指揮者で、ユダヤ人のコーエンを事情聴取した際、ビルの設立者とフランチェスカも共にユダヤ人であったことから、ユダヤ人と日本人の不思議な共通性について聞かされたのだった。その二十年後、スェーデンのジャーナリスト、ハインリヒとともにニューヨークを訪れた御手洗潔は、事件の謎解きに挑むのだった。-------------------------ナチ人体実験への言及、日本人とユダヤ人論、そのうえユダヤ人による世界経済支配までいくと、なんだか陰謀論めいてくる。そんな興味深かったり、呆れたりもする?ガジェットが盛られていたためか、六〇〇ページ余りの長大なストーリーも飽きずに読めた。間奏曲の白鳥幻想譚のなんか、白鳥と鏡と異世界なんてコクトーのオルフェを彷彿させる世界観が妙にfraureinneinの嗜好をくすぐるし、スカボローフェアなんてタイトルの新作バレエあったらみたいわ是非なんて、妄想も楽しめた。妄想はさておき、ミステリーとしての出来はどうよと言えば、結末もトリックの解明も真犯人もがっかり。重厚長大、意味深長にさんざん思わせぶりをして引っ張った挙げ句これが正解って。ユダヤ教の十戒に引っ掛けてか、「ノックスの十戒」を意図的に破ってやしないか?犯人が後出しなこと双子のトリック秘密の通路だとかだとか。此方は違反するな、なんて野暮をいうような石頭ではない。規則は破られるためにあるんだから。むしろ破戒?することで意表をついた斬新なミステリーが創造されることを期待してんだけど。いや、御大が島田御大が読者をかかる気分にさせる作品を書く日が来るとはある種の想定外の「意外性」だったかもしれない。
2024.04.19
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第一部高校時代、不良チームの暴行によって人生を滅茶滅茶にされた先輩木田の復讐を誓った 樋藤清嗣は、報復のターゲットである6人とともに島原湾に浮かぶ孤島徒島へと赴く。しかし何者かに先を越され、到着早々彼らのうち一人が殺され、続いて殺人の第一発見者が次々と殺され.......殺人犯は何者なのか。何故犯人は被害者の舌を切り取るのか。そして何故第一発見者ばかりが殺されていくのだろう。第二部孤島事件から三年後。やはり殺人の第一発見者が連続して殺される事件が三件起きる。警察官新田如子と相棒瀬名環は三番目の第一発見者、清掃センター職員の横島真莉愛の警護にあたり、犯人捜査に乗り出す。第一部でクローズドサークル本格ミステリー、第二部で警察小説。それぞれの面白さで一冊で二度おいしいといいたいところだがうーーんんん、一部はトリックとホワイダイニットは盲点をついていて多重推理と多重解決を横糸に巧妙に構築されているが、フーダニットは最初から怪しい奴がやっぱり.....では孤島もののサスペンスが半減で残念。これは第二部のフーダニットに意外性を持たせるための布石として、わかりやすい犯人にしたのかもしれないが。二部の終盤にきて一部の謎の怒涛の伏線回収となり一部の推理、ホワイダニットも覆される。そうきたか、と膝をうちたいところだが「意外な犯人」と、種明かしされたある登場人物の正体は後出し感が否めない。そのうえ真犯人の人物像にしても、猟奇的連続殺人を犯行動機としては納得がいかないこじつけを感じる。トリックの着想、ストーリーの構成力に非凡な才を見せる若手だけれど、今作は書かずもがなの要素、人間描写と社会問題を取り込み過ぎて長大な文脈となって、本格ミステリの魅力的要素を水増ししているごとくで、力作なのはわかるが物足りなさを覚えた。。
2024.04.15
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フィンランド国家捜査局で特殊部隊を指揮するカリ・ヴァーラ警部は、術後の後遺症にもめげず超法規的に麻薬を取締まる日々を送っていた。ある日、移民擁護派の政治家が殺害され、頭部が移民組織に届く事件が起こる。それを契機に報復殺人が続発。不穏な空気が急速にフィンランドを襲う。というのが、帯の文のカリ・ヴァーラ警部シリーズ。代一作「極夜」がとても良かったので、二作目を飛ばして三作目を読んだ。ところが本作で前作とは作風が一変、カリが法でさばけぬ悪を仕置きするヒッサツナントカ人みたいになっちゃっていたのには、驚くというよりあきれた。麻薬密売の黒幕の財産を盗んだり、ヤクの売人に暴力で制裁を加えたりなんて、共感が出来ない。てか、カリの敵であれ味方であれ共感できないエグイキャラばかり。ま、誰が敵か味方かわからないでストーリーを引っ張っていくのだが。作者意識してこういう人物像を描いているのだろうか。此方の勝手な感じ方であろうけど、それも一つの疑問ではあった。それに誰が黒幕で、誰が事件の実行役かは警察小説のお約束通りの設定で、本作に限らずここのところどうにかならないか。と、いろいろ難癖をつけてみたがある程度物語の裏が見えても、ハラハラドキドキ感は十分で、最後までページをめくる手は止まらない。フィンランド社会が抱える特異な政治事情、歴史的背景も私にとってはトリビアで興味津々。移民問題と人種差別問題を据えたフィンランドを舞台にしなければ描けない物語をアメリカ人が描いたことには関心。ただ、描き切る前に死んだのが残念。いや、描き切ったかどうかは最終作(遺作)を読まないとわからない。
2024.04.11
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とある仮想世界のとある国。そこでは魔女を弾劾するための火刑法廷が開かれ、陪審員によって魔女と裁定された者は即時火刑に処せられる。魔女にあらずと判定されれば無罪放免となる。被告は魔女か否かをめぐって、審問官オペラ・ガストールと「毒羊」と名乗る奇妙な被告人弁護人は丁々発止の論告を繰り広げる。魔女として起訴されたのはアクトン・ベル・カラーダレカ・ド・バルザックアンデルセン・スタニスワフ彼女たちには如何なる審判が下るのか。--------------------ディクスン・カーとバークリーへのオマージュと思わせるタイトルに惹かれて読まずにいられなかった。特殊設定の世界観で展開する多重解決、不可能犯罪、探偵役の不在と嘘を真実とすり替える詭弁でによるロジックの構築、と本格ミステリへのアンチテーゼともとれる逆説的なアプローチが面白い。魔女裁判という重いテーマを取り上げているのに、かつて瀬田貞二か神宮輝夫の翻訳した魔法世界ファンタジーを読んでいるような心地で、抵抗なく物語に入っていけた。作者はロジックを読みやすく伝えることに巧みな文才の持ち主と見た。面白いことづくめでもなくて、最重要な法廷シーンがほとんど会話体で進行するのには掛け合い漫才もどきだが、読んでいて飽きてくる。怪しい者であることが判り切っている男装の麗人の弁護人「毒羊」のフーダニットにしても推測しやすく身バレされてもしらけた。ロジックの詰めに関しては、魔女であると判断する前提となる条件に曖昧さがあり、それを論理破綻を回避するための作者の巧みな誤魔化しの技と取るか、基本設定の浅薄さと見るか私には何方とも言い切れない。何やら終盤にいくほどモヤモヤが募った。と、瑕疵を並べ立てたが、トリック、ロジック、レトリックの三拍子揃い組でに注目すべていっさくであるとは思う。作者の才能に期待して、次作も斬新かつ楽しめるミステリーが書かれんことを。
2024.04.05
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江戸川乱歩がまだデビュー前、平井太郎であった頃。弟の通、敏男とともに、平井三兄弟で古本屋「三人書房」を構えていた乱歩は、同時代を生きた縁ある芸術家たちの抱える謎の解明を試みる。松井須磨子の遺書にしるされた謎の文字は宮沢賢治の手紙に記された浮世絵贋作事件とは帝都を騒がす謎の怪盗「娘師」とは何者なのか葛飾北斎の娘お栄が行方不明となったのは、円泉寺秘仏が絡んでいるのか高村光太郎の裸婦群像創作秘話とは第18回ミステリーズ新人賞受賞作。ーーーーーーーーーーーーーーーーーー乱歩が古書店の店番を勤めながら、リアルに起きた殺人事件を推理する安楽椅子探偵ミステリーーーーーーとか、妄想と期待を込めて手にしたのに見事に外れ。勝手な妄想が当て外れは当然ではあるが。にしても何の意図あって、作者が本編をミステリとして描いたのか此方には不明。往時の文壇に関する知識の羅列に見えて、残念ながら作者の独創の斬新さが読み取れなかった。殺人が起きないにしては、日常の謎を描いているわけでもない。歴史上の人物をフィクションとして虚実綯い交ぜに描くにしては、人物像や人物を巡る事件の描き方がインパクトが欠け、印象が希薄。視点人物それぞれの立ち位置が曖昧で、連作としての統一感が乏しい。そんなわけで、語り手にも登場人物にあまり魅力を感じなかった。着想は良いのだが、描き方に面白味なくアイディアを生かし切れていない。高級食材を使ったのに料理の仕上がりはありきたりで印象に残らない味わいのような。ありきたりな食材でも料理人の腕次第で珍味となりえるのに惜しい。そんな作品が時代物(歴史物?)ジャンルのミステリに散見してるわというのが昨今の残念な所感。
2024.03.30
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オーストラリアの架空の町リバーセント。牧師バイロンが住民5人を銃で射殺し、自らは若き警察官ロビーの銃弾に倒れるという衝撃的な事件が起きる。事件の一年後、ガザ地区での取材でテロに合い、心に傷を負った新聞記者マーティンがこの地を訪れ住民へのインタビューを開始する。マーティンは被害者家族までが、バイロンを擁護する言葉を口にすることに奇異の念を覚える。そして、バイロンが最後に残した「ハリー・スナウチがすべてを知っている」という謎の言葉が意味するところな何か。そのハリー・スナウチに言わせれば、住民の言うことは信用ならないとのこと。地元でカフェを経営するシングルマザーマンダレーと親密になり、調査を続けるマーティンは危険運転による死亡事故、山火事と次々に事件に遭遇する。火事の焼け跡からは、二人の外国人バックパッカーの他殺体が発見された。二人を殺したのもバイロンなのか。一体彼は何者で、いかなる動機で殺人を犯したのか。-------------------はじめて読むオーストラリア発ミステリー。冒頭のショッキングな事件からの魅力的な謎の提示、新たに起きる事件や事故のスリリングな描写と、500ページを超える大作を飽きさせず読ませようとする技巧は、さすが作者は本職ジャーナリストと思わせた。大作なだけでなく、ジャーナリズムは真実を伝えるのか、事件の真相を事件関係者は語っているのかという疑義が、テーマに見え隠れする問題作とも感じた。登場人物の誰もが 本当のことを言っていないだろうという推測は読み手には容易につく。しかし、嘘つきの中の誰が犯罪者なのかの絞り込みは困難で、ましてや犯罪の動機はかなり想定外のものだった。感心してばかりでもなく、謎の解決編の描き方にはやや不満が。説明的な ればたら文脈 での謎解きが延々続き、終盤にきて一気にミステリとしての興趣が削がれ、物語のスリリングな展開も失速した。脇役諸氏が魅力的なのに、主要人物のマンダレーの女性像に好感が持てず、マーティンの人物像にも共感もいまひとつな点も。マーティンとマンダレーのW主役でシリーズ化されているそうだが、読みたいとは今は言えない。
2024.03.22
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資産家河内家の三兄弟、秀夫、信義、俊作は、働かずとも、父の遺産で悠々自適の暮らしをしている高等遊民。洋館河内邸には秀夫の妻鮎子、信義の妻正子、俊作の妻洋子、それに刑事野上丈助とその妻で探偵作家の貞子が共に暮らしていた。貞子、洋子、正子もまた三姉妹であり、彼ら男女八人の相関図は秀夫は正子を愛し、信義は洋子を愛し、俊作は貞子を愛しているという、不穏にしてややこしいものであった。ある日酔った勢いで正子の身体を奪った秀夫が、自室でナイフで刺された遺体となって発見されたのを皮切りに、正子が、信義が、洋子が殺され、あるいは自殺する事件が相次ぐ。何者かが河内一族鏖殺を目論んでいるのか?果たして連続殺人の謎を解くのは貞子か、それとも所轄の警部かあるいは元刑事の丈助か.....ーーーーーーーーーーーーーーーーー発表後75年、未だに正体不明の覆面作家によるスキャンダラスな内容の本格ミステリーとの前評判に興味津々で手に取った。発表当時の所謂カストリ雑誌向けの作風とのことで、小説としての評価は高くないようだ。確かに文脈の説明的で稚拙なところが同人誌レベル。登場人物や物語の舞台設定もご都合主義で素人臭いが、なかなかどうして謎のアイディアは悪くなかった。本格ミステリーの必要条件はちゃんと抑えており、それが多重解決の趣向と結構のどんでん返しの大仕掛けに生かされていると思った。作風の拙さに、謎解きを舐めてかかって、深慮できなかった私には根底にある作中作のトリックはは見抜けなかった。してやられた。無念。ついでに言わせてもらえば男女の組んず解れつの官能小説的要素を期待して読んだ御方は、そちらのほうもさっぱりであっあろうと。直截的な描写で男女関係の描写が繰り広げられる場面はむしろあっけらかんとしていて、淫靡な雰囲気は感じられない。そんなドロドロベタベタがないからこそ、fraureinneinはどうにか不快感なくめでたく読了できましたとさ。
2024.03.13
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大正十三(1924)年七月、鳥取県鳥取市。劇場「鳥取座」で活動写真「兇賊ジゴマ」の上映中、火事が起きる。娘千鳥と一緒に映画を鑑賞していた女流作家田中古代子は、火災のさなか起きた殺人事件を目撃してしまう。突如現れたジゴマらしき風体の人物が観衆の一人を刺殺して逃亡したのだ。後日、被害者柊木は過激なアナキストのひとりだと判明し、古代子も何者かに襲撃される。そして千鳥の通う尋常小学校の教師加村までが殺害された。社会主義者涌島義博を内縁の夫に持ち、女性解放を訴える作品を書き継いできた、古代子であったが偶然巻き込まれた事件をきっかけに、名探偵ポーリーンさながら、千鳥ともども謎を解こうとする。凶賊ジゴマは現実に存在し、配下の「Z組」を操ってかかる事件を起こしているのだろうか。果たしてジゴマの正体は......実在の作家田中古代子をヒロインに、尾崎翠も登場する虚実綯交ぜの江戸川乱歩賞受賞作。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー大正時代の活動写真、暗躍するアナキストとか好きな作家の尾崎翠が特別出演、嗜好をくすぐるガジェットに、さては大正浪漫と探偵奇譚のコラボを楽しめるのかと勝手に期待したが大外れ。作者は脚本家なので、文体もプロット作りも手慣れたもの、大衆小説としては体裁は整っおり完成度が高いが、ミステリー要素が描けていない。せっかくプロローグでスリリングな事件が発端したのに、ストーリー半ばの進行で退屈させられ感興を削がれた。エピローグ手前で、古代子が活弁士に扮し、犯人逮捕に協力するシーンで盛り返したのに、中盤のありきたりな描写が惜しい。エピローグにしてもどんでん返し呼ぶには想定内でありきたりな幕の引き方。何の創作意図あって本作は江戸川乱歩賞応募作品となったのだろうか。作者は奇想に満ちたミステリを創作してミステリオタを驚かせたかったのではなく、真っ当な女性解放の思想に生きた女性像を描き、読者の感銘や共感を呼びたかったのか。だったっら読み手がミステリとしての不足を論っても的外れなのかもしれない。というより、単に私が好きな作風ではなく楽しめなかっただけか。選者貫井徳郎氏の選評に「『蒼天の鳥たち』を僕はまったく楽しめませんでした。(中略)僕はこの作品に選ばれなかったようです。ぼくのような読者が他にひとりもいないことを、強く願います」とある。ここにもうひとり選ばれなかった読者がいますよ。追記田中古代子の一人娘、7歳で夭折した天才少女詩人千鳥の作品は是非読んでみたい。これは本作とはまったく別の話。
2024.03.05
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札幌市の自動車修理工場で5年、未解決誘拐事件の被害者の少女の遺体が発見された。身代金目的の容疑者は死亡し、迷宮入りとなったこの事件に、共犯者あるいは真犯人がいるのか。ならば、犯人は何故少女を5年間生かしておいたあげく、今になって手をかけたのか博士号を取得しながら学究の道を断念し、北海道警察になった沢村依理子は本件を捜査するうちに自身が捜査情報を漏洩したとのあらぬ疑いをかけられてしまう。退職を迫られながらも、追求の手を緩めことなく真相に辿り着いた沢村の決断は.........--------------------「老虎残夢」と同時受賞の乱歩賞受賞作。作者の初めての作品とあってか物語の流れ(時制の描法)や文体に、序盤で読みにくさを感じた。が、提示された事件の謎は魅力的であり、登場人物はそれぞれキャラが立ってよく描き分けられているためか、興味を繋いで終章まで読み進めることが出来た。ただしその終盤が盛り上がるどころか、多彩な人物を配置しすぎ、多様な問題性を一作の中に盛り込みすぎて、全てを収束させるのは無理だったのか失速したのにはがっかり。せっかくの謎が謎を呼ぶ意外な事件には、意外な謎解きからの意外な解決があって然るべきではないのか。問題意識を盛りすぎ(女性差別や家庭問題)、エピソードの詰め込みすぎ(本件と関わりのない複数の事件への言及)で、ミステリの最重要課題が焦点ボケしたは惜しいし、誘拐事件と被害者の〇〇入れ替えトリックの組み合わせは余りにもありきたりに過ぎ、(ミステリ好きなら大抵は予想がつく)犯人の動機や犯人像の設定も凡手で感心できない。主題の発想とプロットの構築への着想の良いのだから、もっと内容を整理し削ぎ落とせばより面白いミステリを創作する能力のある作者だと思う。次作に期待し、沢村のキャラは好感が持てるので、シリーズ2作目を時間がゆるせば読んでみたい。雛祭りなので桜餅でもと思ったけど、美味しそうなのがみつからなかった。
2024.03.03
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女子大生ゾーイ・ノーランが失踪した事件を追う作家、イヴリン・ミッチェルのノンフィクション第2版が出版された。編集者はイヴリンの知人の作家、ジョゼフ・ノックス。本編にはゾーイの両親、双子の姉キンバリー、ゾーイの恋人その他の人々へのインタビューによる証言、SNSやメールのやり取りの情報、果ては事件関係者と思われる人物の写真までが公開されていた。登場する面々の誰が真実を語っているのか、あるいは虚偽を騙っているのか。何よりもゾーイは生きているのか。ならば彼女は何処にどうしているのか。その失踪の理由は..........網羅された情報から、事件の真相を、読者は如何にして読み取ればいいのだろう。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーネタバレありってか、御親切にも帯が作品の解題になっている造本で、ここで思い切りネタバレている。帯を見るまでもなく、この手の作風は、記述者(口述者?)から、全ての資料(情報)を信じてはならないのが今やお約束。と、心して読んだがさっぱりですわ。記述がウソだらけのとの疑念をもって読んだところで、真相がみえてくるはずもなく、それこそ作者の騙しのテクニックなのだから、うかうかと乗せられてはダメでしょう。700ページ近い重厚長大かつ重層的な内容を、ラノベ風とも取れる文体で読ませてるのも曲者。読みやすさにつられて流し読みして、伏線を見落としたりしがち。かと思えば、余りの長さに読んでいて飽きてくるころに、事態が予想外の方向へ転んで興味が繋がるように仕掛けられているのは巧みだ。転んだ先には、さらさらに意外な真相がまちうけているのだが。真相への考察に関しては双子の設定とくれば、〇〇入れ替えが常套手段という推測はほぼ当たった。これまたもう一人のノックスの十戒なんて無視する、今どきのミステリあるある。それにしても、容疑者死亡でさらにリドルストーリーへ導かれて、幕を閉じる結構とは。事件は結局藪の中、真相不明のまま、苦労して読んだ挙句カタルシスのない不全感が残った。読み手としては作者の大掛かりな欺瞞のテクニックに翻弄されて終わった。作者が描きたかったのは、意外な犯人や動機やトリックではなく、物語の構造の意外性なのではないかというのが極私的な感想だ。
2024.02.29
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私19歳の浪人生大室里英は、亡くなった伯父が所有していた孤島枝内島に父と共に向かう。同行したのは不動産関係者と伯父の知人7名。到着早々、伯父の屋敷の地下室で爆弾らしきものが発見され、不穏な空気が漂う中、不動産社員小山内が、何者かに断崖から突き落とされて殺害される。犯人は島の中にいる?そして姿なき犯人から島に残った者たちに示された警告状。「この島にいる間、誰が殺人犯か知ろうとしてはならない」犯人を突き止めようとすれば、全員が爆殺されることになる。さらに伯父の知人矢野口小山内の同僚藤川が殺され、連続殺人の様相を呈してきた渦中にあって観光会社の女子社員の綾川は言う。「犯人が判りました。」彼女は禁を破ってしまうのか・・・・・・--------------------孤島クローズドサークル、信用ならない語り手(視点人物)、犯人は○○役と最近のミステリのお約束のパターン。これもお約束の「名探偵皆を集めてさてといい」からの 解決編で披瀝される意外な推理で、一件落着と思いきや、さらにその裏に隠された驚愕の真相。怪しい人物(誰が犯人か)はなんとなく判っていながら、どんな迷?推理が披露されるのかが予想がつかないスリルを味わいながら、ページをめくる手が加速する。オチがついて、大筋で此方の予想通りになったの点は(露骨にネタバレ出来ないので伏字) ↓やっぱり○○人物は嘘をついているやっぱり犯人は○○役やっぱり○○ガイの推理この作品の推理の主題は、フーダニットの意外性よりホワイダニッㇳの意外性、ハウダニットを解明することの困難さだと感じた。それにしても、ハウダニットについてはもっと、見取り図や解説図で分かりやすくしてくれないと、読み手が謎を解くのは無理ゲー。もっと言わせてもらえば、登場人物一覧表が無いのは犯人を隠すためだとしたらアンフェアではないか。ところで、気になったことをひっそりと独りごちてみると犯人の犯行動機(ハウダニット)が前作「方舟」と酷似していること。自分は何としても助かりたい٩(๑òωó๑)۶!!!.....そりゃ誰でもそうでしょ というなかれ。これってもしかして犯人の正体は・・・・・フーダニットの裏にもさらに意外な真相がかくされていたりして(*_*)エ?これ推理というより推測、いや妄想に近い個人の直感ですけど。今日は気温がぎりぎり10℃。鍼治療に出かけたら寒かったけど、帰路は猫街から井戸の底までウーォーキング(いつもどおり)明日は雪になるのかな。気温6℃、雨のち雪の予報。だけど、お籠りせず図書館で調べ物がしたい。手元のもう一冊のミステリもそろそろ読み終えることだし。
2024.02.24
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「われわれの契約はこれで終わりだ」探偵ダニエル・ホーソーンと袂を分かつ決意をした作家アンソニー・ホロヴィッツ。劇場では満を持して彼の戯曲「マインドゲーム」が上演された。しかしその舞台を酷評し、散々こき下ろした評論家ハリエットが、何者かに刺殺される。凶器のナイフにはホロヴィッツの指紋が。容疑者として、天敵(?)カーラ警部に逮捕されてしまったホロヴィッツを救えるのは、ホーソーンだけなのだが・・・・・--------------------謎の発想、ストーリーの構築、読みやすい文体は好きなのに、ホーソーンとホロヴイッツの凸凹相棒が好きになれない。だけどシリーズ4作目も読了。今作は演劇と劇場が事件の背景とあって、観劇好きの私には興味津々。実在する劇場やシェイクスピアその他著名な戯曲への言及などの虚実綯い交ぜ、メタフィクション的な演出も楽しめた。物語中盤の章で、容疑者を7人に絞り込んだとのホロヴィッツ視点の記述を読んだときレッドヘリングが7匹ってことかと認識し、誤導されずに7人意外の人物に疑惑の目を向けなければならないと考える。それは浅知恵だった。ここらへんの嘘と見せかけて、一周回ってから真相であると判る過程の一筋縄ではいかない描き方、流石に巧妙だ。フーダニットは当て推量で判るかもしれないが、動機を推理するのは難しい。現在の事件と過去の事件の入れ子構造を見抜いて、ロジカルな推理に結びつけるなんて至難の業。それが出来なくて騙された。なんだか、ホロヴィッツミステリって推理する楽しみよりも、騙される楽しみを味わうために読むようなになってきてる。次作はどうなることやら。本筋とは関係ないけど気になったこと(気がついたこと)ハリエットと言い、カーラ警部と言い、心底イヤーな女に描かれている。ここまで情け容赦なくいやらしく描かれるといっそ清々しい気がしてくるから不思議だ(褒めている)* 今日は季節違いの暖かさのあと、夜になって雨が降った。奇妙に生暖かい大気や、狂ったような暑い日差しは妄念をかきたてる。雨は止んだけれど「ナイフをひねれば」を読み終えて今、孤島の連続殺人のミステリを繙いた。
2024.02.20
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上海郊外の湖畔の館で起きた密室殺人事件。当主の陸仁が豪雨で水没した半地下で窒息死しており、奇妙にも現場の床は乾いており、さらに不気味にも嬰児の臍の緒が棄てられていた。捜査に当たった刑事梁と見習い警官冷は推理の天才であっる漫画家安に協力を請う。しかし連続密室殺人はとどまることなく、仁の甥ふたり、オタクの哲南とSM趣味の寒氷が犠牲になる。犯人は陸一族鏖殺を企てているのか。やがて明るみに出る、忌まわしい呪いの伝承と、陸家のおぞましい過去の因習・・・・・捜査の途上、何者かに襲撃され負傷し車椅子の上の人となった安だったが、陸一族を客間に集めさせる。「陸家連続事件の真相を明らかにしましょう。」-------------------華文ミステリの「密室の王」と呼ばれる作者の長編。では、その作風はディクスン・カーの悪いとこどり?と、期待とともに一抹の懸念を抱きつつ手にしたのだが、さにあらず。ラノベ風の訳文(褒めている)ゆえか、わかりやすくさらっと読め、かつ本格もの要素を充分に楽しめた。旧家を舞台にしたお館もの、嬰児の祟りの伝承にまつわる見立て殺人、と横溝ミステリを思わせるプロットに現代性のアレンジを施してエンタメ性も横溢。多重推理と見せかけて、意外な犯人にたどり着くのはやはり意外な推理によってだった。解決の手がかりはあちこちに仕込まれているのに、伏線回収して解答を導くのは至難の技だろう。トリックは意外性の斜め上を行く、奇想天外な発想を力技でロジックに落とし込んでいると思わせた。まあ、このトリックのディクスン・カーの顰に倣って不可能趣味と捉えれば、許容の範囲内としよう。不満を言えば、せっかくの犯人の意外性への描き込みが不足している点。脇役はじめ皆キャラが立っているのに影薄く感じられる。それとも存在感を希薄にして読者の注意をそらそうと、作者が故意に筆を控えたのか?過去の未解決の謎への言及と続刊があるらしい予告で本篇が終わっているが、将来、過去のいずれの事件についても書かれた作品が刊行されることを望む。
2024.02.09
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連続殺人鬼の犯行はとどまるところを知らず、違法行為をしていたらしき公認会計士リリエグレンが犠牲者となる。リリエグレンの遺体もまた、頭皮を剥がれたうえ、頭部ごとオーヴンに突っ込まれていた。次なるシリアルキラーの標的はリリエグレンと手を組んでいた人物ローゴートと目星をつけた、ヴァランダーたちは、ローゴードの所在を突き止めようとする。こうした事件のさなか、芝居の稽古中のヴァランダーの娘リンダをフーヴァーと名乗る不審な若者が訪ねてくる。フーヴァーこそは......----------------------下巻に至って、やはり怪しい奴がやっぱりーーーーーーーーーで、犯人はわかってしまった。が、フーダニットより捜査側のハウダニット、如何にして犯人に辿り着くかを巧みに描いているので犯人が判ってもなお、先の読めない展開に登場人物と共に翻弄されるスリルと面白さは失われていない。警察小説のお約束、カタストロフの活劇シーンのサービスあり、想定外の結末ありと、エンタメ性も十分。不満がないわけではない。あくまで私見だけれどある人物Aが犯人Bのために記した手稿をもとに、Bが殺害を企て実行したってプロットは、「Yの悲劇」のモチーフを思わせた。なれば、その手稿の存在とか、犯人の犯行動機についてもっと深堀して欲しかった。ヴァランダーが人情刑事過ぎることも好きになれない要素の一つか。けれどフールグンドやホルゲンセンその他の女性陣の描き方にとても好感が持てる。下巻の読みどころは本編以上に杉江松恋氏の詳細な解説にある。登場人物紹介にページを割いてくれているのは、シリーズ途中から読み始めた私のような読者にには非常にありがたく多謝です♪何よりも、マクガフィン (英: MacGuffin, McGuffin)効果への言及はミステリー読み方への示唆に富んでいた。そうか、私はこれに 目くらまし されたかと、納得。菜の花畑がキーワードというのは私の勝手な思い込みで、空振りだったのか。びっくり箱だと思って蓋を開けたら中は空っぽだったみたいに( ゚д゚)ポカーン
2024.02.07
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イースタ署の刑事ヴァランダーは、菜の花畑に不審者がいるという通報を受け、現地へ急行する。そこで彼は満開の菜の花の中で焼身自殺を図る少女に遭遇する。さらなる悪夢のような事件がイースタ署に報じられる。元法務大臣ヴェッテルテッドが惨殺されたのだ。その遺体は背中を斧で断たれ、頭皮が剥ぎ取られていた。次に富裕な画商が殺害される。やはり遺体は斧で打たれ頭皮を剥がれ、害現場の庭園近くには菜の花畑があった。連続殺人鬼の目的は、次のターゲットは?そして第三の被害者は盗品の売人だった。何故か被害者の両眼は薬品で焼かれていた。捜査に難航するヴァランダーに、焼死した少女の身元が判明したという連絡が入る。一連の猟奇的な事件と少女の焼身自殺には何らかの接点があるのだろうか。【CWAゴールドダガー賞受賞】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー1990年代が舞台の作品なのに、少しも古さを感じさせない。ミッシングリンクをを結びつける伏線の張り方がさすがに上手い。かつ判りやすく、読みやすい文章。翻訳が良いのかな?少女買春をする変態政治家、詐欺師の画商に盗品売買人と被害者は殺されても仕方がないような連中ばかり。犯人の功名な殺し技に、さては晴らせぬ恨みを晴らす必殺ナントカの仕業か......といつものように思ってしまったが、そうではない様子。殺人者視点の記述があったのち、第三の事件が起こり、そこから容疑者らしき人物が浮上する。作者は犯人を隠す気がないのか。犯人に意外性がなくても、意外な犯行動機や事件と捜査の展開の面白さに期待して下巻を読み進めることにしよう。蛇足ながら北欧の事情に疎い私にとって、菜の花畑が出てきたり、この時代に女性牧師や女性署長が存在したりという設定がトリビア。本筋とは別の話だけど、こういう小さなことに拘って読む楽しさもある。
2024.02.02
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1966年8月16日クー・クラックス・クラン(KKK)誕生の地、プラスキ。当。当時5歳だったボー・ヘインズはクラン団に父を殺害され、その後母親は消息を絶った。事件の真相解明を誓い、自身が弁護士となったボーだったが、45年後の2011年、かつてクラン団の指導者だった実業家ウォルトンへの復讐殺人の犯人として逮捕されてしまう。ロースクールの教え子の無罪を証明すべく、元教授のマクマートリー弁護士は、パートナーのリック、旧友の離婚弁護士ピッカルーとともに法廷に立ち、凄腕女性検事ヘレンと対峙する。------------------クラン団といえば「風と共に去りぬ」、人種問題と裁判といえば「アラバマ物語」その程度の予備知識しかなく、落語家林家正蔵氏の解説に興味を惹かれ手に取った。アメリカの地方都市が過去も現在も抱える問題を盛り込みつつ、エンタメ性充分の面白いストーリーだった。なんとなく曰く有りげな登場人物が多すぎて、人物相関図がやや煩雑、整理に手間取る嫌いがあったが、筋の展開はスピーディー、必殺ナントカみたいな殺し屋まで登場とは読者サービスなの?この殺し屋を雇ったやつが、真犯人なのだが、意外な黒幕と意外な動機は怒涛の法廷シーンが終わったあとで、明かされるどんでん返しが待ち受けていた。そうか、タイトルにそういう意味が込められていたのか、と納得。それにしても、真犯人像がイマドキよくあるサイコパス設定以上にエグすぎる。ボーがマクマートリーとともに活躍するシリーズ第一作を読むべきかどうか。
2024.01.28
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愛する家族を守るため殺人を犯してきた精神科医の象山。彼はドラッグディーラーエデンから手に入れた奇妙な薬「シスマ」の作用で摩訶不思議な事件に巻き込まれていく。タイムリープと多元的宇宙と複数に分岐した自己(?)4人の象山それぞれの時間軸で、象山の妻季々、娘の舞冬、彩夏が不審死を遂げる事件が発生する。象山たちは、それぞれ推理を披露しどの象山が誰を殺したか、殺害犯を指摘しようとする。が、真相を喝破したのは意外な人物、象山の患者浦島だった.......奇天烈な世界線で起きた謎に解決は有るのだろうか。-------------------ネタバレ禁止の御触書があってもネタバレ。この手のテーマはミステリー界のトレンドなんだろうか。「イヴリン嬢は7回殺される」や「アノマリー」あたり。あるいは、語り手が犯人であると同時に探偵でも有る「シンデレラの罠」を思い起こしたり。いや、象山こそ狂人であり、すべての記述が妄想だとしたらミステリに見せかけた妄想小説だったりしてとか。「ドグラ・マグラ」みたいに?なんて感想こそ此方の妄想で意外な探偵役が現れ、意外な推理によって謎の伏線回収はロジカルになされた。けれどいつ何処で誰が、が解りにくい文脈を読み取り、複雑な謎解きを試みるのは困難至極。読み応えがあると同時に、読んでる途中思考が及ばなくなる自分にもどかしさを感じて疲れた。カオスがロジックに収束する回収には納得し、お見事と思いはするが、この謎に回答出せる人の頭の構造ってどんなだろう。それこそエレファントヘッドの持ち主か。さらに、その上を行くのがこの問題を作成した作者の頭脳に他ならないではないのか。
2024.01.27
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埼玉県で起きた連続惨殺事件。犯行現場に残されていた稚拙な犯行声明文から名付けられた犯人の通称は「カエル男」「きょう、かえるをつかまえたよはこのなかにいれていろいろあそんだけど........」事件は精神を病んだ者の仕業かもしれない。捜査にあたった渡瀬警部と古手川刑事は、元医務官の精神科医御前崎と面談し、協力を依頼するが断られる。博士もまた、統合失調症の少年に家族を殺害された過去があった。その後の捜査の途上、古手川はかつて医療少年院にいた当麻勝男の保護司を勤めるピアニスト有働さゆりと知り合う。しかしカエル男の第三の犠牲者となったのはさゆりの息子真人だった。なぜか荒尾、指宿、有働と、あいうえお順で殺害されていく犠牲者たち。あの古典的名作ミステリーを模倣しての犯行なのだろうか。カエル男の犯行はやまず、弁護士衛藤が絞殺され車椅子ごと燃やされる第4の事件が起きてしまう。ネット上に飛び交うカエル男の情報に恐怖心を煽られた市民は暴徒と化し、当麻勝男を犯人視して、彼の引き渡しを迫って警察署に殺到した。署を抜け出して勝男の勤務先の歯科医院へ駆けつけた古手川は、カルテを調べてある真相に気づく。それから事件の様相は二転三転、翻弄されながらも古手川は犯人を追い詰め死闘の末に確保に成功する。こうして県内を震撼させた猟奇殺人事件は終結したかに見えたが、此処に至って渡瀬が重い口開いた。「では、素人の空想じみた推論をお聞きいただくというのは如何ですか?」渡瀬が語った、驚嘆すべき 妄想と言う名の推理 とは。ーーーーーーーーーー異常者の犯罪、刑法39条のテーマ、人物の設定でラスボス的犯人は分かりそうなものなのに、三段構えのどんでん返しとあって、変則技の目くらましが見抜けなかった。それだけストーリー展開に目を奪われ、推理を忘れていたということ。意外な謎に対する意外な推理を、独創的に描いた佳作と思う。続編「連続殺人鬼カエル男ふたたび」があって、そちらはどんな謎をどう描くのだろうか。何より私はそれを読むかどうか。2年前のチラ裏の下書きを引っ張り出してきて編集しようとしたら、公開できないらしい楽ブロ。あらためて、コピーやら細工して公開した。楽ブロ仕様(使用?)ってメンドイ
2024.01.20
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茶トラ猫ネロが看板猫を勤めるミステリ専門古書店オールド・デヴィルズ・ブックストア。店主のマルコムを、FBI特別捜査官のグウェンが訪れた。かつてマルコムがブログで「8つの完璧な殺人」として紹介したミステリミルンの「赤い館の秘密」、アントニイ・バークリーの「殺意」、クリスティの「ABC殺人事件」、ケインの「殺人保険」、ハイスミスの「見知らぬ乗客」、マクドナルドの「溺殺者」、アイラ・レヴィンの「死の罠」、ドナ・タートの「シークレット・ヒストリー」これらを模倣したごとき殺人が連続して起こっているというのだ。書店の顧客エレイン・ジョンソンも被害者の一人だった。実はマルコムには秘密があった。マルコムは、自動車事故で亡くなった妻クレアの浮気相手エリック・アトウェルの交換殺人を闇サイトで募り、自らもノーマンという見ず知らずの男を殺害していたのだ。仮に「チャーリー」と名付けた交換殺人者は、今も殺人を続けているのだろうか。マルコムはチャーリー探しを始めるが.........--------------------上記作品をネタバレしているので、未読の方にはお勧めできない。トリックやフーダニットをにおわせ程度にするとかネタバレせずにストーリーを進める方法はなかったのかと訝しく思う部分もあり。そこらへんを匙加減して描くのが作者の技量のうちではないのか。ま、犯人が判ってなおかつ面白いミステリーこそ名作と私は思っているので、あまり目くじらは立てないでおこう。語り手が交換殺人犯の片割れときたては、信用ならないのは見え透いている。だけど、古本屋の主人のみならず、従業員にしても正体不明の怪しさ。ついでにFBI捜査官もニセモノだったりして。てか、この本篇自体がホントの話なの?まさか全編妄想同人噺とか?(いつも断ってるようにそっちのどうじんではないですので)というのは私のトンデモ推理で、一周回って怪しい奴はやっぱり、とネタバレしたところで交換殺人の相手の正体が判って、拍子抜けした。しかし散々振り回された挙句、真相を突き付けられたても、意外性のインパクトが薄い。それに結末のつけ方の、詰めの甘さに腑に落ちないものがあって消化不良。これだけの連続殺人を犯した動機も曖昧。何やら犯人はわかっても伏線回収のないサスペンスドラマの如し。これら、曖昧模糊な筆致で読者を不安に陥れる効果を作者は倣ったのかもしれない。それなりに先の見えないスリリングな展開を楽しんだし、何よりもネロ(=^・^=)が可愛いので良しとしよう。やはり古本屋には猫が良く似合う。と、これはまた別の話。(ΦωΦ)お前ニャー、何かって言うと薄い本疑惑かよそれこそ妄想だ ヤメレ!!と書肆灰猫堂主人が申しております。
2024.01.10
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捜査線上に浮かび上がった「ルイース」なる謎の女。彼女は一体何者なのか。そしてスヴェードベリとの関係は?しかし「ルイース」を追跡する途上、第四の殺人が起きる。新婚の夫婦と、彼らを撮影していたカメラマンが犠牲になった。前回の事件同様、被害者は額を撃ち抜かれて殺されている。一撃必殺の射撃の腕前を持ち、8人もの人間を殺した殺人鬼の次なる標的は誰か。何よりも殺害動機は何なのか。謎が謎を呼び、翻弄されながらもヴァランダーが行き着いた人物は、不審な郵便配達人だった。ルイースとその郵便配達人と、被害者たち、そしてスヴェードベリの秘密を結ぶ驚愕の真相とは。-----------------------------高度福祉国家スウェーデンが抱えると暗部と、猟奇犯罪者の心理の闇は、国家を超えてどこの社会でも変わらないことを再認識。空間も時間も超えて、人間の心の闇は拡がる。スヴェードベリの秘密に関連して設定された人物錯誤トリックが、あまりにもベタなことに呆れもし、これを20年以上前の作品でやらかしたことに感心もした。スヴェードベリの秘密が重大な謎のひとつなのだから、もう少し彼に絡む人物、スンデリウスとビュルクルンドの描き込みが欲しかったかな。そうすれば推理のポイントがより鮮明になり、フーダニットやホワイダニットの考察を深くできたと思う。ヴァランダーの取り調べや捜査の言動にムカつく場面が多々あったが、それを補うかのように、フーグルンドやホルゲソンら女性陣の描き方が良い。おヴァカやぶりっ子ドジの女刑事や女探偵のわざとらしさにうんざりしている私には、彼女たちのメンタルの勁さ、聡明さが心地良い。ともあれ、謎とストーリーの進行が面白く、事件と犯行動機も含めて犯人像の造型がユニークで大部の長編であっても中弛みや飽きることなく読み終えることができた。次はさらなる傑作の呼び声高い「目くらましの道」を続けて読みたい。はい、またしてもシリーズの順番無視で美味しいとこどりするつもりです。
2024.01.03
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刑事ヴァランダーシリーズ夏至前夜、行方不明になった若い男女3人アストリッド、マーティン、ボイエ。その行方を秘かに追っていたらしいヴァランダーの同僚、スヴェードベリ刑事が殺害された。やがて行方不明の3人は惨死体となって発見される。糖尿病を抱えながらヴァランダーはイースタ署の面々とともに事件捜査に奔走する。しかし3人の友人のイーサまでが、自殺未遂を図ったすえに、孤島の別荘で何者かよって射殺された。一連の殺人は同一犯によるものなのか。そしてスエードベリノの秘密とは......謎は深まるばかり。ーーーーーーーーーー今から20年前の小説なのに、なぜか古さを感じない。クールでもハードでもない、だけど刑事のカンにすぐれたヴァランダーの不器用な捜査の様のリアリティにイラッとさせられたり、妙に共感もさせられたり。謎の構築、人物の描き方、物語の展開すべてがバランスよく巧みに配されているリーダビリティに優れたミステリーだ。事件の謎だけでなく、死んだ刑事の私生活や行動の謎もあれこれ推理するも、上巻読み終えたところで伏線らしきものはそこかしこにあるのに、真相が見えてこない。なので謎解きは下巻を読んでのお楽しみ。下巻で
2023.12.22
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廃校になった学校のプールで死亡した旧友の謎を追う高校生たちのお話。人物錯誤トリックはそれなりに捻りが利いてはいるのだが、○○と八夕の漢字の違いには気付く人もいるだろうし単純なことを判りにくく描いて、読み手の目をくらます手立てはいかがなものかと。言わんとする事は伝わりにくいのに犯人は透けやすいときては読んでも仕方がないミステリのお手本に手を出して、時間を無駄にした。あくまでの個人の偏見なので、これくらいにとどめておく。
2023.12.20
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作家の周旋は女優の田園から奇妙な木箱を託された。「この匣を幽霊客桟へ届けて」病死した田園の願いを入れて幽霊客桟(ホテル)を訪れ、創作の想を練るため宿泊した周。周の幼馴染で警察官の葉肅のもとへ、周が認めた幽霊ホテルからの12通の手紙が届く。そこには、幽霊ホテルで周が襲われた怪現象の数々が記されていた。この手紙に書かれていることは真実なのか?それとも........--------------------ミステリーというより、ホラーよりの作品。物語の展開や描写には幻想小説風味もあり。いや、妄想小説というべきか。不思議なホテルといわくありげな泊り客たち、怪しげな美女の出現し死んだはずの人物が生き返る、過去に起きた凄惨な殺人事件の挿話そんな、ありきたりなホラーのギミックをつぎはぎ細工した感があって、読んでいる途中で退屈なときもあった。どこまでが妄想で、何が真相なのか訝しく思いつつ読んだが、結構はこういった仕掛けではないかと推測した通りだった。ミステリーの○○トリックとしての驚きも、ホラーとしての恐ろしさも得られず読み終えた。
2023.12.19
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過去記事「オメガ城の惨劇」 へのチラ裏の間違いを修正 |д゚)チラッ★
2023.12.15
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第44回横溝正史ミステリー&ホラー大賞受賞作。念の籠った古い日記の記述が現実を変えてしまう、怪現象に振り回される人々のお話。タイムリープものとか、多元的宇宙論の世界観とか、そんな作風だろうか。ホラーにしては淡々とした文体で、ストーリーがすらすら進んでくれるのでおどろおどろしさがない分、私には読みやすかった。ミステリ要素としては「誰が仕掛けたのか?」になるのだろうか。オチがあいまいな描き方で拍子抜けすると同時に、謎が解決していないことへのぼんやりとした不安を掻き立てられる。腑に落ちない幕切れだがホラーは不条理な恐怖心に訴えるジャンルだからこれで良しとする。
2023.12.15
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「毒入りチョコレート」事件へのオマージュ、と勝手に予想し相応の期待を抱いて詠んだががっかり。類型的なクローズドサークルの状況設定でかったるい物語の進行、思わせぶりで明晰を欠く推論と伏線回収。判りづらい描き方で読み手を手玉に取ったつまりかもしれないが読んでいる途中で飽き飽きしてしまった。多重推理に値すると思えない、ありきたりな人物錯誤と色覚異常トリックで、こうこられても巧く騙されたという快感はない。「このミス大賞」って信用ならないな。などと、毒入りでないコーヒーを飲みながら。
2023.12.05
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11月1日のチラ裏がカテゴリ違いだった。★
2023.11.25
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1795年イギリス、靴職人ネビルは友人ジョージとともに海軍の強制徴募にあい戦艦ハルバート号に無理強いに乗船させられる。そしてある新月の夜、上級水兵ホーランドが撲殺される事件が起きた。続いてもう一人、水兵のホイスルが刺殺される。ホイスル殺害犯として名乗り出たポジャックという水兵はフランス海軍との戦闘で死亡してしまう。その後も姿なき殺人者による犯行は続く.....真犯人究明を託された海尉ヴァーノンと部下のマイヤーは真相にたどり着けるのか。そしてネビルは、無事故郷に帰還できるのか。----------------------三年ぶりの鮎川哲也賞受賞作にかなり期待した。けれど18世紀の英仏海軍の戦闘、当時の海軍水兵の過酷な生活を描いた場面は歴史小説や快癒冒険小説の趣であるげ、それらにあまり興味がもてない私にはやや退屈した。100ページ過ぎて殺人事件が起きてからは、ヴァーノンとマイヤーの相棒っぷりがいい感じでマイヤーのトンデモ推理をヴァーノンがたしなめたりと、面白くなった。もっとこの二人を中心にして物語を展開しても良かったのでは。謎の描き方は、死んだはずの人物が実は生きていたり、イヤなヤツがやっぱり犯人だったりお約束どおりでさしたる意外性はなかった。せっかく、帆船でなければ出来ない物理トリックを考案しているのは立派だが、トリックの謎解きが簡明を欠き、判りづらい説明なのが難点。ストーリーは巧く作っているのに、伏線回収が拙くてはミステリーとしての魅力が半減するだろう。作者は受賞最終候補常連のとのことで、筆力や物語を構築する才能、本格ミステリの知識のある人のようなので、別のテーマで描かれた作品が出たら読んでみたい。謎解きのあとは英国式ティータイムを。
2023.11.25
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下巻の249ページを占める作中作「愚行の代償」ホテル「ヨルガオ館」を経営する女優サマンサが絞殺遺体で発見された。名探偵アテュカス・ピュントとヘア主任警部が本件の捜査に当たるも、サマンサの10歳年下の夫フランシスまでが短剣で刺殺される。は、そんなお話。「愚行の代償」を読み終えたスーザンの考察は紆余曲折の考察のすえに8年前のフランク・パリス殺害事件の真犯人と、セシリー失踪事件の真相に辿り着く。謎解きの鍵は最初のページに示されていた?事件関係者七名を前にスーザンの謎解きがはじまる。お約束の「名探偵皆を集めてさてといい」そして事件の顛末は.........--------------------「愚行の代償」は往年の本格ミステリの王道。事件の時代背景を1950年代に設定したのもむべなるかな。ヒッチコック映画への言及とかのメタミステリ要素も楽しめて、読みごたえのある中編に仕上がっている。犯人の意外性も十分で、私にはこの二段構えの事件の構造が見抜けず、真犯人が判らずじまい。本編「ヨルガオ殺人事件」はスーザンの捜査というより調査小説のてい。ややサスペンスには欠けて、その一人称の語り口に飽きる部分もあり、人物像の設定に無理が感じら謎の提示が巧妙なので良しとする。私の謎解きは、一部は当たったが事件の全容は推理できなくかった。っていうより、あれこれちりばめられた謎の各要素をきっちり回収して、ロジカルな正解に結び付けられる読者っているのかな。何のかんの言いつつも、ホロヴィッツは本作でも本格ミステリの楽しさを提供してくれたが、複雑な謎を読みやすくしているのは翻訳者の技量に負うところが多いと思う。今作もスーザンパートと作中作パートの文体の描き分けが良かった。翻訳氏に多謝。このチラ裏を書いてるあいだに入ったニュース。 ↓クローゼットの中の死体。読んだことの有るような話がリアルに起きた (・_・)え?
2023.11.22
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元編集者、今はクレタ島でホテル経営をしているスーザンのもとを英国人のトレハーン夫妻が訪れる。夫妻の娘セシリーは、8年前の殺人事件の真相が、スーザンがかつって担当した推理小説に描かれていると言い残して失踪したのである。その小説こそアラン・コンウェイ作アティカス・ピュントシリーズの一冊「愚行の代償」だった。夫妻からのセシリー捜索依頼を受けて、英国に帰還したスーザン。セシリーとアランを巡る人々への聞き込み調査を行い、謎解きのため「愚行の代償」の再読に着手するのだが........--------------------「カササギ殺人事件」から2年後の物語。そのストーリーの中に作中作が描かれている、一読で二度美味しい構造。二重構造の謎解きとその先に意外な真相があるだろうと希望的観測のもと読んでいる。「写本室の迷宮」では作中作の不出来さに肩透かしを食らったが、今回はそんなことはあるまい?全体の謎への考察としては視点人物スーザンに怪しさはないだろうとただしトレハーン夫妻が本当のことを言っているとは限らない登場人物は全員わけあり、隠し事ありかもセシリーはすでに死んでいる(殺されている)か彼女こそ8年前の事件の重要参考人とか一番疑わしいセシリーの夫はレッドヘリング.....と見せかけて一周回ってやっぱり、かどうか????????なんちゃって、今のところありきたりな当て推量をしている。
2023.11.18
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「ポアロのクリスマス」再読。ゴーストン館の当主であるシメオン・リーが鍵のかかった部屋で血まみれになって惨死していた。部屋は散乱しており、シメオンが保管していたダイヤモンドの原石が紛失しており物取りのしわざかとも思われた。しかし当時館にはリー家一族がクリスマスイベントのために集められており、遺産を巡る犯罪とも考えられるが........クリスマス・イヴに起きたこの事件を、ポアロは地元警察のサグデン警視らと共に解明しようとする。--------------------再読したら、初読みのときとかなり違った印象。「ポアロのクリスマス」一足お先にクリスマスストーリーをというほどの聖夜の情景描写はなく、ポアロによる事件関係者への聴取の描写が延々続くのには、途中で飽きてきた。怪しいやつ、つまり殺害動機ありげなやつは実はシロであると考えれば、犯人の絞り込みは案外容易。密室殺人の物理トリックもこんなドタバタ細工が成功するの?といった仕掛け。謎解きのヒントが状況証拠ばかりでロジカルに推理するのは難しい。最後は犯人の自白で逮捕というのも何だか消化不良。これは読み直しても同じ感想しかない。二度読み必至の佳作というほどではないかも。ドラマ版は原作と人物設定その他もろもろかなり違っていて視た当初は原作との違いに不満たがあったけど、映像ならではの見どころがあって、退屈しなかったような。ドラマのほうも視直してみようかな。それにしても今年くらいは良いクリスマスストーリーのミステリーに巡り合いたい。それこそ何よりのクリスマスプレゼントだから。
2023.11.16
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異端カタリ派研究者の大学教授で、ミステリ新人賞選考委員を兼ねる富井は、チューリッヒで奇妙な手記を入手する。手記の作者は戦時中渡欧していた高名な画家星野泰夫。この星野の手稿は、彼が遭遇したある殺人事件の謎解きを読み手問う「読者のへの挑戦状」でもあった。そして何が奇妙と言って、手記の中にさらにミステリらしき「イギリス靴の謎」なる作中作が仕組まれていることだ。手記の舞台は第二次世界大戦後のドイツ。壮厳な図書室を持つ館で催されたミステリーゲーム。ゲームの課題は「イギリス靴の謎」の謎解き。やがて起こる当主殺し。ゲーム参加者たちが披瀝する多重推理。誰が二重、三重に企まれた謎を解き、真相にたどり着くのか。富井?それともこのミステリーの読者こそ........ 第12回鮎川哲也賞受賞作。作者の博識がちりばめられて、物語がゴシックロマン風に仕立てられて、イながら本格の常道を踏み外さず、きちんと意外性も用意されている鮎川哲也氏自身の選評よりーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリスト教異端派研究、「薔薇の名前」やエラリー・クイーン作品へのオマージュといったガジェット、衒学趣味と本格ミステリへの愛と、私の好きなガジェット一杯。なのに、お腹いっぱいになるほどボリューム過多の長編にはならず、専門知識への蘊蓄も過剰にならずで、バランス良い構造のストーリー。やや生硬さがあるものの、冗漫に堕すことない文体で心地よく物語の迷宮で遊んだ楽しさがあった。しかしストーリーの面白さに比べて、肝心の謎はそれほどでも。特にどんな複雑深遠な真相が隠されているのかと構えて「イギリス靴の謎」を読むと、期待はずれでがっかりするかもしれない。手記で描かれた殺人事件の犯人やトリックの意外性も今ひとつ。迷宮に光を当てたら、よくある建造物だったような?肩透かしを食らわせるこれが作者の狙いではまさかあるまいけど。ともあれデビュー作ゆえ、ミステリー要素の構築に甘さがあったのかもしれないが、私の好きな作風であることは確か。作中ラストで予告されているように、続編があるらしいので読んでみたい。
2023.11.11
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民間企業による宇宙旅行ツアーの宇宙旅客機スペースポートに、添乗員として乗り込んだ土師穂稀。一行が宇宙ホテル「星くず」に到着早々、機長の伊藤が不審死する。無重力状態ではありえない首吊り死体となって。そして地球との交信手段が途絶えた中、ツアー客は何者かに襲われ、あるいは命を絶たれ.....土師は無事ホテルを脱出し、地球への帰還を果たせるのか。-------------------SFとしたらよくあるお話。遥か地球を離れて宇宙旅行の最中に、事故だか事件やら多発。ミステリとしたら、「そし誰」的な、孤島のクローズドサークルの舞台が宇宙ホテルが変わったまで。死んだと思っていた人物が実は、〇〇なフーダニットもこの手のミステリの常套手段。だけど本作は、SFには詳しくない素人として充分面白く楽しめた。だからフーダニットは判りやすいが、空想科学小説のギミックにトリックをうまく落とし込んでいる作者の巧さを感じた。ハウダニットを解明するには物理や化学の知識が必要。無重力とは何か?とか。別に相対性理論を理解出来るまでの高度な知識は要しないにせよ、読んでいて御手上げしてしまう人、それなりにいそうだ。あーー私も重力理論苦手だった。だけど本作は、SFには詳しくなく、科学知識が何ほどでもない私でも充分面白く楽しめた。そして如何にもSF的壮大さの犯罪計画、これは想像がつかない。てゆーか、この犯行動機こそ犯人の妄念、妄信、妄執から来たものだから。妄想噺といえば、地球平面説を信じている、政木のキャラが笑える。ラストのオチでさらに笑えた。と、今回は緑の手帳に書いておこう。はい、こちらも黒猫よ🐾
2023.11.08
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第一回警察小説新人賞 受賞作行方不明となった育ての親で目明しの利吉を探すおまきは、目の見えない要と、絵のうまい亀吉とともに見廻り同心飯倉の弟子となって、江戸を騒がせている火付けの下手人を追う。-------------------------新人らしからぬ良く練れた文体、目明し、同心の登場、江戸市中の火付けといった時代劇ドラマでお馴染みの判りやすい物語設定。時代小説としては及第点の受賞作なのだろうが、警察小説としてはいかがなものかと。警察ものの題材を、時代ものの定型に体裁よくはめ込んで仕上げただけの作品ではないのか。お江戸人情噺的なエピソードが延々続き、肝要な事件と捜査の描き方は浅く物足りなさを覚えた。事件の謎と謎解きは、事情の説明ではなく、あくまで検証と解明でなければならない。これにも本作は意を尽くしているように思えない。人物設定も御都合主義で、ステロタイプな善男善女が多数、視覚障害の少年を持ってくるに至っては、読者の受け狙いのわざとらしさを感じるばかりで、キャラに感情移入できなかった。作者の才が時代物大衆小説にあるのか、警察小説ミステリーにあるのか、賞の選者は如何ほど見極めて評価したのだろうか。選ばれた作品のあらさがしをする以前に、そちらのほうが気なった。
2023.11.06
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今日の午後、愛読してやまないミステリー作家のトークイベントがあるので出席することにした。生配信もあるのだけれど、会場が歩いていける距離なのでね。どんな話が聞けるのか、ちょっとワクワクドキドキ。そして、行きて帰りし物語はーーーーー90分程度、インタビューの質疑応答が終わって、早々に会場を退散。だって、建物の通路も外の歩道もすごーい混雑。どこぞの国の事故とか思い起こす密集・・・・・ミステリの密室殺人事件より、リアルな密集人身事故のほうがこわいわ。とても歩いて帰れる状況ではないので、地下鉄で帰還しましたよ。帰路、少しだけ雨が降ったのは、ミステリー日和だったってことか。雨降りだから、雨降りだから?トークの内容は別に井戸の底に記さなくってもね。後日You Tubeのアーカイブ配信があるそうだから。それに 誰も 此処を 見てない!!の精神でいますので。
2023.11.05
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私雨邸の当主天目石昭吉が鍵のかかった部屋で刺殺された。犯行現場にはダイイングメッセージと思しき「T」の文字。土砂崩れでクローズドサークルと化した邸宅に集まったのは雨目石サクラ 雨目石梗介雨石杏花トレキング中道に迷った 水野自殺に失敗した 田中執事料理人そして物語の視点人物の三人大学ミステリサークル所属の大学生 二ノ宮昭吉の孫 雨目石京介雑誌編集者 牧けれど神の視点をもつ X は語る。「私雨邸には現在10人いる。 このうちの1人が、今回の事件の犯人である。」やがて第二の殺人がおこり、屋敷の料理人恋田が腹部を刺されて亡くなり、やはりダイイングメッセージらしき血文字 「K」 二つの密室殺人について、各人が推理を披瀝し始めるが、トンデモ推理に終わり、残る人々の混迷は深まるばかり......--------------------鍵はかかっていなかった鍵はすりかえられていたうーーん物理トリックでもなんでもない、日常でよくあることを非日常的な殺人トリックに利用したのか。これ、盲点をついたうまいやり方かも。フーダニットは有名先行作品の〇〇人物が容疑者。だから早々に、疑惑の目を向けて犯人を絞り込める読者は多いかも。私も気づいて、解決編でああやっぱりと思った部類。フーダニットに斬新さがないが、ホワイダニットには想像もつかない動機が用意されてもいる。だけど、なんかこじつけ感がある。それに、この物語構造なら、地の文で「X」を登場させる必然性があったのかどうか。第二の解決がラストで用意されていても、すっきり謎のクロスワードが嵌った気持ちよさが読後になく不満が残った。叙述トリックそのものが、意外性に関しては限界に来ているそんな疑念を抱かせる一作だった。
2023.11.04
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1936年、ロンドン。心理学者アンセルムリーム博士が密室状態の自宅書斎で殺害された。博士の患者は三人。音楽家 フロイド・ステンハウス女優 デラ・クックソン作家 クロード・ウィーバー彼らの中に犯人がいるのだろうか。難事件解決のためジョージ・フリント警部補は元奇術師の探偵ジョゼフ・スペクターに協力を要請する。しかしスペクターの捜査の甲斐なく、第二の殺人がおこる。ステンハウスの居住するデュフレンスコートで、謎の銃撃事件が発生し、レラベーターの中でエレベーター係の少年の絞殺遺体が発見される。やはり殺害現場は密室状態。カーの密室講義のいずれにも該当しない、2つの事件をスペクターは如何にして謎を解くのか。解決編は袋とじ。-------------------偶然の要素による人物入れ替え(錯誤)、かかってない鍵をかかっているように誤認させる、心理を利用した物理トリック、ホワイダニットは意表を突いたアイディアだと思う。ただしエレベーターの死のトリックは、1930年代のエレベーターシステムなら可能と言われても、ちょっと無理筋。懐古的な探偵小説黄金時代に、時代背景にしたのもこの手を使いたかったのだろうけど。ストーリーに多くの謎を鏤めすぎ、小細工を仕掛けすぎの感があり、解決編で装飾過多なエピソードやガジェットの整理がつかずすっきりせず、次々登場するレッドヘリングが入れ食い状態で大漁なのも、人物相関図を複雑ならぬ煩雑にするばかり、精緻なロジックと謎解きの展開とは思えなかった。もとい、この解決編袋とじにする必要があったのか。と、素朴な疑問が読み終えて残った。そういえば◯◯の重さを利用した物理トリックって「虚無への供物」にも出てきたじゃない。そちらはあくまで、ハズレの実現不可能トリックのトンデモ推理として披瀝されたのだけどと、余計なことを思い起こした。これは全く別の話。蛇に足を記してしまった。
2023.10.22
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記事への追記4話と5話に、これまでの推理が覆る真相らしき告白?があるのだがネタバレ禁止でその内容は非表示日記へ。
2023.10.17
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伯爵家の庶子露木迦可留良と、幼馴染で元京都府警の刑事鯉城武は探偵事務所の共同経営者。専ら、屈強な鯉城が身体をはって行った調査をもとに、病身だが頭脳明晰な露樹が事件を推理する。彼らが挑んだ五つの謎の真相とは1話「うわん」2話「火中の蓮華」3話「西陣の暗い夜」4話「いとしい人へ」5話「青空の行方」そして謎解きの裏に秘められた、二人の思いとは.......-------------------降っていた雨が晴れたので、ミステリーのチラ裏でも書こう。待っていた伊吹亜門氏の書き下ろし新作なのに、小粒な印象の連作短篇集という印象に終わったのがちょっと残念。レトロ大正の風俗や、京都の風物の風情が伝わってくる文体は楽しめるのだが、謎の想造には精緻さ欠けているとでも言おうか。なんだかデビュー当時の独創性ある筆力が、「京都陰陽寮謎解き妖滅帳」から本作にかけて失速していやしないか。1話 「うわん」ホームズ譚の某作を思い起こさせる意外なフーダニット。2話 「火中の蓮華」犯人は解っているので犯行動機(ホワイダニット)が推理の要。3話 「西陣の暗い夜」これまた、金田一耕助最初の事件に似たフーダニット。4話 「いとしい人へ」視点人物(語り手)が一転して鯉城から露木に変わって二人の過去が明かされる。と、読み進めていくと5話 「青空の行方」で、多重解決ミステリーの如きどんでん返しが待っている。だけど、連作短篇集によくある 最終話でこれまでの推理を覆す 展開でしかなくこれは想定通りで帯の文の 「驚愕必至」 ではない。ついでに文句をつければ、4話の露木の心理の独白が取ってつけたような感でなんだかなー。LGBT自体はむしろ好きな主題だけど、此処でそれを取り込む必然があるの?という個人的な疑問がわいた。その気不味さもあってか、リドルストーリー的な終わり方にも腑に落ちない不全感が残った。夜になってまた雨が降り始めた。今晩もミステリーを読んで過ごすのか。リアルな出来事。雨の中、買い物に出かけたら歩道に男性が仰向けに倒れていて、人が集まっていた。警官に通報したと周りの人談。看護師だと言う人が、かがみ込んで倒れた人の様子をうかがっている。警官が来てから、119番にも通報して一段落。事故なのか事件なのか私にはわからないまま現場を離れた。
2023.10.15
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