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◎序 私、藤原幸人は埼玉県で父の遺した料理店を引き継ぎ暮らしている。15年前。私の妻悦子は、娘の夕見がベランダの手すりに置いた植木鉢の落下で起きた事故で亡くなった。このことは絶対に夕見には秘密にしておかねばならない。なのにある日、謎の人物から娘のやったことを本人にバラすと脅迫電話を受ける。さらに遡ること31年前。私の故郷新潟県羽田上村で、母英は雪の降る日、川に落ちて不審死した。その一年後、事件は起きた。村の伝統行事神鳴講で出されたコケ汁に毒キノコが混入され、食べた村の有力者4人のうち2人荒垣猛と篠林一雄が死亡し、黒澤宗吾と長門幸輔の2名は一命を取り留めた。同日、私と姉亜沙実は落雷に会って意識を失っていたため、当時の記憶は曖昧でしかない。事件後、祭儀を行った神社の宮司太良部容子が自殺したため犯人と見做されたが、容子の娘希恵はそれを否定する。そして私は父藤原南人から容子が父にあてた手紙を渡された。そこには、容子は父がコケ汁に猛毒のシロタマゴテングタケを入れるところ目撃したと綴られていた。父も警察の取り調べを受けたが、姉がアリバイ証言をしたこともあって容疑者から除外され、事件は迷宮入りとなり、私たち一家は村を出た。◎破果たして父は毒殺犯なのか?私と夕実、亜紗実は、過去の事件の真相究明のためカメラマン一行になりすまし、上村に潜入する。その調査の途上、亡き有名女流写真家の息子、彩根に出会う。彼もまた毒殺事件に関心を寄せていた。私たちは事件を知る希恵はじめ村の人々に取材と称して調査を行ったが、その途上で私を脅迫していた男の意外な正体を知る。しかし脅迫者は遺体で発見され、警察が介入してくる。さらに黒澤宗吾までが殺害された。◎急彩音は私たちの正体を知っていた。私も手紙のトリックに気付いた。長門幸輔の家が放火にあい、放火犯とおぼしき人物は逃走したが..........31年前の毒殺事件の犯人、そして現在起きた殺人事件の犯人は誰だったのか。--------------------ネタバレあり。視点人物は信用ならない。読み始めたときから、この考え方を定石として頭の隅に置く。けれど、登場人物がことごとく、真実を話していないことを感じ取る。物語が進むほどにその疑念が強くなる。それぞれが何かしら隠しているらしい登場人物の中から、容疑者を見つけることはさほど難しくないかもしれない。犯人を絞り込む要素は隠し事がなさそうな人物からだろうか。それで何名かは除外された。次は探偵役が〇〇である可能性を吟味する。しかし探偵役って誰だ?と、フーダニットでしばし長考。結局探偵役はストレンジオブストレンジャーの彩根であり、かつ彼は〇〇ではないと予測する。当たらずとも遠からずであった。最終章になるまで犯人の名前は明かされず、推理で隠されていた真相を指摘するのは彩根の役回りだった。この最後のぎりぎりまで犯人名を明かさないというのは、クイーンの某作へのオマージュめいているが。手紙のトリックは、暗号解読のロジックが通用する類の趣向ではなく、よほど意外な推理を思いつかない限り見破るのは無理と思われた。(私にはさっぱりわからなかった)事件関係者、それぞれが隠し事をし、互いに庇い合う構図。そんな人間関係に張り巡らされた伏線に気付き、回収してロジックに整合させる 正しい推理も困難な技だろう。疑念が晴れない霧の中で手探りするような曖昧さのまま、読み手を最終まで連れていく作者の技量。意外な伏線(手がかり)と意外な展開を見せる物語を構築する想像力と発想力。さすが「ひまわりの咲かない家」の作者の筆致は衰えないと感心した。
2022.08.11
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「百合荘」あるいは「魔女の館」と呼ばれる洋館。祖母が不審な転落死を遂げた、その館で高校生水野理瀬は祖母の遺言によって叔母である美貌の姉妹、梨南子と梨耶子としばし暮らすことになる。やがて起きる凶事の数々。隣家の黒猫の毒殺と、理瀬の友人朋子に想いを寄せていた田丸賢一の疾走。「R」へと当て書きされた脅迫状まで届き、そこには Rよ ひとごろし。 ひとごろしのまじょ。 ここはまじょのすみか。と、認められていた。Rとは誰なのか。梨南子?梨耶子?それとも理瀬?祖母の死の真相と、百合荘の謎を探り始める理瀬であったが理瀬にも隠された祖母との間の秘密があった。その秘密の言葉 ジュピター の意味を知ろうとしていた梨耶子が、落下したトタン屋根の破片に首を刺され変死する・・・・・・百合の芳香に秘められた謎が明かされたとき、理瀬が見据える未来とは。--------------------「薔薇のなかの蛇」の前段。理瀬シリーズの全容を知らなくても読むのに差しさわりはないといった印象。個人的にはまったく面白くなかったとは思わないが、此方の読書浴を満たすだけの興趣が希薄だった。というのも、変死者が出る不気味な洋館、そこに住む怪しい姉妹、奇妙な隣人たちといった、ある種ゴシックロマンの類型的なお膳立てゆえ、新味に乏しかったせいもあろうか。この手のストーリーでは登場人物全員(ヒロインも含めて)信用ならないというのが定石なので、誰が、どうしてを深読みするのは徒労に終わる。そんな気持ちで終盤まですらすら読み進めた。予想通り終幕で、怪しい人物がその正体を見表す。こんな終わらせ方も他のゴシック・ホラーで読んだような既読感。そして訪れる結構は、全員が 信用ならない騙り手 としての役割を分担し、真の犯人は判然とせず、つまり伏線回収もされず謎は藪の中のまま終わる。作者は整合性のあるロジックで構築されたミステリーを書く意図はなかったのだろうが、それならこの小説が幻想小説とかゴシックロマンとか言われるものなのだろうか。だとしたら、この物語は幻想譚として優れた作品と言えるのだろうか。すべて仮定型の自問に私は自答しかねる。夕刻から夜にかけて、夕立と呼ぶには激し過ぎる雨が駆け足で通り過ぎた。だから勢いにまかせた妄言をこうして書き付けた。土砂降りだから、ミステリーとも、幻想小説ともつかぬ何かへのチラ裏を。その後の夜の空気は涼しいを通り越して、風が冷たく感じられるほどだ。
2022.08.04
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2017年秋、刑事五代務は後輩の若手刑事中町と共に、弁護士白石健介殺害事件の捜査に当たっていた。容疑者として逮捕された倉木達郎という男はあっさり犯行を自供する。そればかりか、倉木は1984年の金融業者殺害事件も自分の犯行だと告白する。その事件では容疑者とされた人物、福間淳二が冤罪を訴えたすえ、拘置所で首つり自殺を図り亡くなっていた。しかし倉木の供述内容に腑に落ちないものを感じた五代は、独自に捜査を続けるのだった。倉木の自供に納得がいかないのは五代ばかりではなかった。白石の「被害者家族」である妻綾子と娘美玲、そしてかつて加害者家族扱いされ、冤罪被害を受けた福部の妻洋子と娘の織恵、彼女たちの抱く警察と検察への不信感。一方、いまや「加害者家族」となった倉木の息子和真もまた、父の犯行を信じられずにいた。美玲と和真は、互いの立場を越えて協力し、過去と現在の犯罪を繋ぐ真相の究明に乗り出す。そして彼らが行き着いた事件の悲しい真実と、犯人の恐るべき犯行動機とは。*新たなる最高傑作、東野圭吾版『罪と罰』。「 今後の目標はこの作品を超えることです」 東野圭吾 作品サイトより--------------------ネタバレありというより、倉木が犯人ではないことは当初からわかりきっており、真犯人は誰かは、言い換えれば、倉木が犯人でないことを探偵役が検証していく過程がストーリーであり、推理の伏線となっている。被害者家族対加害者家族という重いテーマを、肩ひじ張らず、暑苦しい語りになることもなく淡々と事件と人物を描いて、500ページを読ませる。探偵役それぞれの人物造型も感情移入し過ぎず、それでいて十分に各人の個性が描き分けられているあたり、がさすがの描写力だ。ただし物語のゆくたては面白く興味津々、本格ものと刑事小説それにリーガルサスペンスの興趣に充ちているのだが、真相がわかったとたん、あっまたかという既視感既読間感に気落ちさせられる。この作者の先行と類似の動機や隠されていた真犯人の姿だから、いち早く真相を見抜く東野ファンがいるかもしれない。現実では警察がこんな捜査ありえんだろうとか、被害者と加害者が仲良くしないだろうとかのリアリティの無さはひとまず置くとしても。ミステリー作家も創作のネタが尽きてくると、自己模倣に陥らざる負えないのか。だから最高傑作との煽り文は誇大広告だろう。この作品程度を越えるミステリーが今後執筆されなくては困るのである。この作者の才能は、汲めどもつきぬ底なしの井戸であってほしいので。
2022.07.29
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その後、バラードは新たな事件に巻き込まれる。犯罪組織の元幹部エルヴィン・キッドを逮捕する際、キッドの妻シンシアが警察側に銃撃され死亡したのだ。エルヴィンがトンプソンの息子の殺害事件関与していたと睨むボッシュ。一方でボッシュはモンゴメリー判事謀殺の黒幕と思われるクレイトン・マンリー弁護士に近づいて、探りを入れようとしていた。モンゴメリーを襲撃したヒットマンをバラードと共に追うボッシュは、女優ローリー・ウェルズが個人情報を盗まれ、なりすまし被害にあった事件にたどり着く。「悪魔のねぐら」と呼ばれるストリップバーで個人情報を抜かれたと思われるローリーと、モンゴメリー事件の担当刑事オーランド・レイエスとの意外な繋がりも明るみに出る。どうやらヒットマンと放火殺人犯は同一人物であるらしい。しかし真相解明目前にして、マンリーは投身自殺を図る。--------------------未解決事件のミッシングリンクが次から次へと提示される展開は複雑というより煩雑な印象。その謎の輪からして無理あるつなげ方が入りくっってすっきり解答に導かれず、まるでスパゲッティプログラムだ。登場人物も多すぎで取っ散らかっており、もう少し整理してもいいのではないか。つまるところ、真相解明の推理の過程ではなく、刑事の捜査による事件解決を描く警察小説なので、後出しのように、終盤近くになって真犯人が現れたり、隠された事実が判明したり。こういうのをスリリングな伏線として楽しめる人は良いのだが、私はそうではない。整合性無きご都合主義を感じてなんだか苦手。被害者がゲイだったり、バラードがほぼセクハラに近いパワハラにあう設定とか、作者の意識高い系の時代性の取り上げ方より、流行りものを安易に扱っただけでかえって浅薄さを感じた。警察小説や刑事ものがイヤというのではなく、せいぜいクールにハードなスタイルであってほしい。ボッシュの家族の事情だのバラードの心情だのに上下巻にわたってはお付き合いはいたしかねる。なんていう、自分の趣味嗜好を再認識しただけで、ミステリーを読む楽しみの希薄な読書体験だった。訳文が上手いので残念だが、他のボッシュシリーズ、読む気がしない。
2022.07.25
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私、慧斗は11歳のとき、宗教団体コスモフィールドの信者である母親から虐待を受けている茜の救出を「脱会屋」の水橋という男に依頼した。私自らも、クラスメートの祐仁、朋美とともにコスモフィールドの集会に潜入したのだが..........という内容の書物は、新興宗教「大地の民」の二代目教祖権藤慧斗の自伝である。『祝祭』と題されたその本を入手したテレビ番組制作者矢口弘也。彼こそ子供時代「大地の民」に母を奪われ、人生を狂わされた男だった。矢口は番組制作のためと称して、教団の本拠地のある光明が丘ニュータウンに乗り込んでいく。教団の人々と地域の住人への取材と撮影を続けるうちに、矢口に協力していた久木田祐仁が不審な死を遂げる。教団主催の祐仁の葬儀ではさらなる驚愕の事件が起きる。---------------------前章部のエピローグが子供視点のカルト宗教語りときては、初手から怪しさ満載。果たして、それは作中作で、慧斗の手になる自伝であったと種明かしされた後、視点人物が矢口に代わる。これは叙述トリックに違いないから、誰が(慧斗か矢口いずれかが) 信用ならない語り手 なのかか考察しなければならない。そんな推測が読み進めるうちにひっくり返される展開となる。何しろ、怪しくない登場人物が一人として出てこないのだから。カルト宗教が題材の小説なのだから当たり前と言われては身も蓋もない。キャラたちの非常識な言動、犯行の意外過ぎる動機、トンデモトリック何でもありになってしまうではないか。トンデモトリックあるところにトンデモ推理ありならば、なおさら始末が悪い。読む側の疑義は取り留めもなく推論不能な妄想域へ流れていくばかりだ。トリックはよくある〇〇錯誤でぶっ飛んではいなかったが、起こる事件がトンデモ系である。もとい宗教に合理性や論理性は求められない以上ロジカルなミステリーは望むべくもないだろう。伏線回収も不十分な終章を、読み終えたところで、カルト宗教を題材にしたミステリーは好きになれない気がしてきた。サスペンスやホラーは面白いが、推理は楽しめないような。どうでもいいことだが、ラストシーンがマーガレット・ミラーの「まるで天使のような」を思い起こさせた。やはり宗教施設を舞台にした作品で、事件の顛末が不明なところとか似ていやしないか。(まったく個人の感想です)対象が対象だけに、妄言ばかりチラ裏に書き散らした。うっかり井戸の底を覗いた誰か、いたなら多謝。
2022.07.19
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イギリスソールズベリーのストーンヘンジを思わせる遺跡には首と手首のない胴体を切断された死体が遺棄されていた。* * *納屋を改造したスタジオのオーナー、ヨハンを訪れたある男は「祭壇殺人事件」と呼ばれるその猟奇犯罪について語るのだった。* * *そして祭壇殺人事件現場近くのブラックローズハウスで催されたレミントン家当主オズワルドの誕生パーティーに、館の令嬢アリスに招待されて日本人留学生リセ・ミズノは赴く。五辯の薔薇を模して造られたと言われる館に集うレミントン家の人々はアーサー:長兄デイブ:次男アリス:長女 エミリア:次女ロバート:オズワルドの弟(事業家)アレン:オズワルドの弟 (歴史学者)キース:従兄弟 (スタジオミュージシャン)パーティーではレミントン家に伝わる秘宝「聖杯」が披露されることになっていたが、席上でロバートが何者かによって毒を盛られる騒動が持ち上がった。ロバートは一命を取り留めたものの、屋敷の敷地内の森を探索したアーサーとデイヴ兄弟が発見したのはあろうことか、祭壇殺人事件そっくりの切断死体だった。オズワルドが「聖なる魚」を名乗る者からの脅迫状を受け取っていたいたこともあり、警察が乗り込んでくる。しかしオズワルドは失踪してしまい......リセはレミントン家の聖杯の謎と二つの猟奇殺人事件の真相に迫ろうとする。--------------------何よりも装丁、挿画が美しく、素晴らしくセンスの良い書影。奇妙な館に集う一族、聖杯伝説だの紋章学だの、聖なる魚 とか 陰桔梗 の固有名詞に嗜好を唆られて読んだものの、残念な読後感に終わった。いや、読んでいる途中で飽きて、はなはだ集中力を欠く散漫とした読書体験をしたと正直に告白しよう。ゴシック風幻想小説ともミステリーともつかぬ、何処かで読んだような、ガジェットの羅列と、思わせ振りなエピソードの重なりのすえ、伏線回収不完全なまま終章を迎える。謎の提示はあっても、整合性のある謎解きはないのは、不出来なサスペンスドラマの脚本のごとし。人物全員が怪しいとうより、怪しいのかどうかも判然としない怪しさ 視点人物のみならず 登場人物全員信用ならないというのもフーダニットである、と受け止められなくもない。怪しいのも、信用ならないのも道理で、誰と誰の正体は〇〇○(らしい)という答え合わせに至っては、ある意味意外な真相ではある。美辞麗句で耽美を気取るだけの雰囲気芝居では、幻想世界やミステリーのロジックを幾何学的に構成するエレガンスに欠けると感じた。作者の作風がそういうことを目指さない主義なら何も言えないのだが。それにしても、死体移動に〇〇〇〇〇〇ケースを使うというのは先行作品への無駄なオマージュというか、蛇足のなんちゃってトリックと感じた。蛇はこんなところにいたのである。こんな洒落にもならない言辞こそ蛇足かもしれないと、妄言を弄しているうちに尾を噛む蛇のループに陥ってしまったようだ。
2022.07.13
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元ロス市警刑事ハリー・ボッシュはかつてのパートナージョン・ジャック・トンプスン元刑事の葬儀に参列したさい、トンプソン未亡人からの殺人調書を託される。1990年、ハリウッドの路地で当時24歳の麻薬中毒の青年ジョン・ヒルトンが射殺された未解決事件。その再捜査の協力をボッシュは、夜勤専門の刑事レネイ・バラードに求めた。バラードは現在、ホームレスのエディスン・バンクス・ジュニアが焼死した案件を放火による焼殺事件と見立て、追跡している最中であった。また、ボッシュの異母弟にあたるミッキー・ハラー弁護士(リンカーン弁護士)はモンゴメリー上級裁判事刺殺事件の弁護にあたっていた。殺害現場に残されたDNA鑑定の結果、容疑者とされたジェフリー・ハーシュタットをリンカーン弁護士は無罪とすることが出来るのか。ボッシュとバラードもこの裁判の行方を見守ってゆくのだが.....ボッシュ、バラード、ハラー、それぞれが関わる三つの事件と三者三様の思惑と絡みあいながら、物語はいかなる展開を見せ、帰結するのだろう。--------------------ボッシュとリンカーン弁護士が異母兄弟だったとは本作を読むまで知らなんだ。相変わらずミッキー・ハラーのキャラは好きになれないし、バラードにも魅力を感じないのが困りもの。家族の事情だの、人間関係のどうだらこうだらの記述もこれ以上くどくしてほしくないギリギリの許容範囲のところだが。「わが心臓の痛み」のようなタイプの人物設定と文体、ハードで何処か冷めているようで、深部にじわじわ降りてくるあんな描写を臨むんだけど。イマドキ無理か?法定シーンは流石に面白い。それにバラードの愛犬ローラの存在が救いかな。それで上巻を読み終えて下巻へ。チラ裏は後のお苦しみにならないことを祈る。
2022.07.09
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新作オペラ「オルレアンの聖女」の主演に抜擢されたソプラノ歌手天羽七音美は、芸術監督ジャン・ロランに招かれカンヌへ赴く。彼の地で七音美は、オペラの原作者レジーヌ・ブラパンに紹介される。レジーヌを取り巻くのは、大女優カトリーヌ・ドヴィリエ、ドイツ人テノール歌手カールクロイツ、芸術監督ジャン・ロランそして、養女のイネスとアリアーヌの二人。皆とよしみを通じ、孤島でのヴァカンスを過ごすことになった七音美だったが、不気味な脅迫状がレジーヌのもとに届く。レジーヌたちを護衛するためパリ警視庁のジャン・ブノワ警視とエミール・クレール警部補が同行したにも関わらず、イネスが転落死し、その遺体には鋏が突き立てられていた。さらにアリアーヌまでが残虐な方法で焼き殺される。ブノワとクレールが追っていたパリの地下街で娼婦が毛髪を鋏で刈り取られ殺害された事件と、イネスたちの死は関連が有るのだろうか。--------------------ジャンヌ・ダルク伝説と猟奇殺人、オペラと孤島の犯罪、鉄仮面とか魔女狩りと私の嗜好をくすぐる題材やガジェットっが満を持してと、それなりに期待していたわりには.....全編読み終えて、前評判ばかり高く、宣伝文が独り歩きした舞台を観てがっかりしたときの印象に近いもだった。登場人物のモデルは誰それ、監督は多分あの人、レジーヌはLの女流作家の:をした::::::に違いない、などと蘊蓄や妄想は楽しめたけれど。ジャン・ギャバン似のブノワ警視と数学的に事件を推理しようとするクレール警部はキャラが立っていて結構なのだが、この相棒があまり活躍しないのでは役者の無駄遣いだろう。登場人物が少ないため、犯人はわかり易く、その代わりと言わぬばかり意外かつ、ある時代に特有の動機を設定してはいる。それもなんだかとってつけたように深刻な問題意識を狙ったようで、素直に感心できない。何よりも、更衣室から消えた花嫁の都市伝説のモチーフは、思わせ振りをした挙げ句、 都市伝説はやはりデタラメでした♪ で一件落着とは、呆れるばかりである。
2022.07.04
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ウィンダム&バネルシーシリーズ既訳本読了。100年前のインドへ時間旅行を一ヶ月で駆け抜けて、追いついた。暑苦しいほど、息をつく間もなく。ミステリ読みが早すぎる?けれど私も、梅雨を通り越した夏に追いつかれてしまった。縦糸と横糸が精妙に組み合わせて作られた織物を思わせる作品。歴史的事件、人物設定、本格ミステリーのロジック、刑事小説のサスペンスついでにスパイ小説のスリルとアクションのエンタメ性まで、全ての縦と横の糸が複雑に絡み合いながらも、過不足や破綻なく綺麗にバランスの取れた意匠を造型している。三作目の「阿片窟の殺人」に至って、英国ミステリのオーソドクシーとエキゾチシズムが撚り合わさつて織られたタペストリーを眺めるような完成度に達していると思う。今回はウィンダムは事件やら、政治やら、ご多忙のあまりアニーとのベタベタだらだらシーンが最小限だったのが個人的には胸がすく思いだった。それにしてもH機関とドーソン、これって旧日本軍の憲兵みたいなもん?(違ってたらゴメンナサイだけど)またしても顔出してきて嫌な奴だなー。邪魔です。そこをお退きなさい。ちっとも国益にもなってないから。この連中を凹ませてやれたらさらに溜飲がさがるんだけどーーーーーどころではなくて、ウィンダムがボコラれっぱなしでダメだったけどと、言いたくなるほど、上手くヒール役として描かれている。速くもシリーズ五作目まで出ているとのことで、続けて追いかけるつもり。だから名翻訳、はよ~♪どーでもいい追記。 干涸らびた蚯蚓がたくさん転がっていた というTweetを見つけた。キモいというよりコワいわ。 蚯蚓の死骸に遭遇してもミステリーにはならないけど。
2022.06.29
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1921年12月 カルカッタへ赴任して2年目のウィンダム。例によって阿片窟に入り浸ってラリッているところへ、あろうことかガサ入れ。逃げる途中、目をくりぬかれ、胸にナイフを突き立てられた中国人と思しき男が死ぬところに出くわした......。と思ったのは、阿片による厳格だったのか。そんな遺体は発見されず、ガサを指揮した警察の同僚に確認しても情報は得られなかった。けれど似たような状態の死体が発見される事件が次々と起こるのは何故か。これは同一犯による連続殺人だろうか。陸軍病院の看護婦と職員、著名な科学者の殺害を結ぶ糸を捜して、今や同居人となったバネルシーとともに捜査に乗り出したウィンダムは、戦時下イギリス軍が行っていたマスタードガス製造実験の秘密にたどり着く。しかしまたしてもH機関とドーソンが大佐が彼らの行く手を阻み、折からのエドワード皇太子インド訪問やガンジー派の抵抗運動まで絡んで事件は混迷の相を呈する。ウィンダムとバネルシーは犯人を逮捕し、毒ガステロを阻止しなければならないのだが......今日はこれ以上は無理、節電もチラ裏も。現在のインドの気温を調べたら33℃って、日本よりましじゃない。何故この国こんなに沸き立って煮詰まってるのだか。ついでの井戸の底のアクセス数も沸騰してる。これまた不思議というより不気味。
2022.06.28
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少女時代、車の水没事故で両親を失いながら九死に一生を得た丹野三咲は、今は”体験した人が死ぬ怪談”を探す怪談師として生きている。三咲の同居人、通称カナちゃんは”呪いか祟りで死にたい”少女だ。三咲は元カレ西賀昇るとともに、「その魚を釣り上げた者が死ぬ魚」の怪談を求めて旅するうちに、奇妙な出来事に遭遇し、カナちゃんの秘められた過去をも知ることになる。果たして怪魚は実在するのだろうか。虚実が絡み合う、世にも奇妙な物語が迎えた顛末は......----------------------横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作。ミステリの謎解きとして、先ずは視点人物三咲が信用ならない語り手である可能性を疑った。けれど、伏線らしきものが見当たらない淡々とした語り口の文体。ホラーにしては、おどろおどろしさが余り感じられぬままさらさらと流れていくストーリーで、スプラッターな要素が希薄であるせいか、嫌悪感なく読めるのは良いことなのか物足りないことなのか。もともとゴシック小説は好きだがホラージャンルはさほど趣味ではない私には評価しかねる。そんな読み始めから中盤までの印象が覆り、見事に作者に図られたことを知るのは終盤になってから。ミステリーとしての殺人、ホラーとしてのある人物の死、そしてある真相の暴露が怒涛のように押し寄せ、一気に結末へ向かって潮が引くように収束する。あくまで事態の収束であって、事件の解決や真相解明はない。 はたして幽霊の正体は枯れ尾花だったのか。それとも?語り手は嘘をついてはいなかった(らしく思える)点はフェアであり、怪談の真相は謎のままにリドルストーリーとしてミステリとホラーの要素を融合させた物語の旨さ。怪異現象が恐怖なのではない。怪談を語らずにいられない衝動、人間の妄念こそが恐怖なのだ。そんなことを淡々とした筆致で描いて見せながら、読み終えてなお「ぼんやりとした不安」を読む者に与えるのは怪談語りとしても高度な技術である。この作者の技量を持って、本格もので真っ向勝負したらどんなだろう。そんな興味が湧いた。
2022.06.26
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タイトルのミステリを読んで、プロットを書き上げてupしたと思ったら、画面がとんで何も入力されていないというトンデモ現象が キターーーーーーあっ……( º ㅂ º )。楽ブロ、写真館から画像をupしようとすれば、一回目はカラで二度upしないと反映しないとか最近すごくヘン。もとより携帯からはヘンすぎて使えないので、PCからしか更新してないんだけどついにPC用コンテンツまでもか。以前からこういう原因不明な都市伝説てか、楽ブロ伝説とでもいいたいような、検証不能、原因不明な珍現象があったなーーーー。吹っ飛んだのはこんな内容。::1919年4月、カルカッタ。かつてスコットランドヤードの敏腕警部補だったサミュエル・ウィンダム警部補は、第二次世界大戦に従軍し、生き延びたものの心に傷を負い、最愛の妻をスペイン風邪で失い、阿片に溺れる落魄の身でインド帝国警察に赴任する。そこでインド人の若手刑事部長サランドラナート・バネルジーとバディを組んだ最初の事件。ベンガル州財務局長のアレグサンダー・マコーリーが片手を切り裂かれ、片眼を抉られ、口にメモを詰め込まれた死体となって発見される。口中の紙片にはベンガル語で「 これは最後通告だ。通りにはイギリス人の血があふれるだろう。インドから出て行け!」と書かれており、ウィンダムの部下ディグビーはテロリストの仕業だと主張した。ウィンダムは現場近くの売春宿で、オーナーのボース夫人と売春婦のデーヴィーに聴取を行ったが、二人とも何かを隠しているようだった。さらにマコーリーの私生活を探るべく、マコーリーの秘書アニー・グラントに近付いたウィンダムは、このインドイギリスの混血の美女に惹かれる物を覚える。反英主義の政治犯絡みらしいというわけで、軍情報部H機関のドーソン大佐が介入してきた矢先、次なる奇妙な列車襲撃事件が起こる。インド人保安院が殺されるも、強奪された物は何もなく、これもテロ行為と見做され、革命組織ジュガントルのリーダーベノイ・センが逮捕された。センは犯人ではないという心証を得たウィンダムは、バネルシーとともに独自に捜査を続ける。しかし、カースト最高位のバラモンの名家に生まれ、ケンブリッジを卒業したエリートでありながら正義感から帝国警察官となったバネルジーは、親族からの反感と自らのアイデンティティに悩み、警察を辞職するかどうかで迷っていた。そして第三の殺人。事件の重要参考人と思われるデーヴィーが縊死し、自殺に見せかけた他殺と思われた。真犯人は誰か、影で暗躍するのは何者なのか。混迷の果に真実にたどり着いたウインダムの危機を救ったのは.....::がっくりきたので、ざっくり梗概でも井戸の底に投げ込んでおけと。駄文を恐れず、迷文でもお構いなしで。------------------例によって順不同でシリーズ2作目の「マハラジャの葬列」から手を付けた。一作目の此方は二作目より地味な作風。とはいえ、インドのイギリス人が次から次へ難事件に遭遇するスリリングなストーリーは、読み手の心を引き付けるのに充分な魅力ある謎の提示と予想もつかない物語りの展開担保してくれる。何よりも視点人物であるウィンダムの、晦渋で皮肉で、どこか投げやりでいながら、最後のところで知性を失わないところに踏みとどまろうとする語り口が良い。如何にもイギリス文学らしい文体からは警察小説としての、歴史小説としての興趣も伝わってくる。ミステリーとして読めば、犯人は警察小説によくある(反則とも取られかねない)設定だし、序盤からかなり大胆に謎解きの手掛かりを与えているので、読者には判りやすいかもしれない。犯行の動機というか裏事情には、この時代背景独特の問題を据えているホワイダニットとして巧みに生かされている。それもインド、イギリスの歴史に詳しい者なら推測出来る程度の安易なものではない。良いことづく目ではなく、不満を言えばアニーへのウィンダムの恋愛感情の描写なんて、余計でベタベタと鬱陶しいだけ。情緒的描写は異国情緒を描くだけで充分ですから。ミステリーとして、歴史小説として、警察小説として優れているついでに、恋愛小説としても.....なんて、うまいことにはならないと思う。恋愛要素は私の趣味でないというあくまで個人の嗜好による偏見だけど。記事が消えたショックの余り、チラ裏もこんな具合に落書き未満のなぐり書きになった感。
2022.06.19
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謀殺された幼馴染み続木菜穂子の復讐のため、龍泉佑樹はテレビ局のADとなった。標的はJテレビプロデューサー木京、コガプロ社長古賀、J制作ディレクター海野。番組制作のため、三人とともに佑樹は南海の孤島幽世島に向かう。幽世島は、45年前「幽世島の獣事件」と呼ばれる惨事で、島民が全滅したいわくつきの場所だった。島に到着した佑樹は、通信機器を破壊し外部との連絡を断ったうえで三人を殺す計画であった。ところが佑樹に先んじて何者かが海野を殺害してしまう。海野の胸部は錐状の凶器で刺されていた。海野を殺害したのは島にいる黒猫?!ありえないことだが、ロジカルに推論してもそう結論づけるほかになかった。そして明かされる島の奇怪な伝説。人間を喰らい、喰らったものに擬態する人外「マレヒト」の存在。今回の殺人もマレヒトの仕業に違いない。続けて古賀、木京と佑樹の敵をすべてマレヒトは屠り去ってゆく。マレヒトは誰に擬態しているのか。マレヒトの正体を暴かなければ島にいるものは全滅してしまう.....-------------------「時空旅行者の砂時計」に続く龍泉家シリーズ二作目。またしても特殊設定ミステリー。ただし前作を読まないと本作の世界観が理解できないということではない。というより、読んだところでトンデモ設定を受け入れられない読者には、理解しがたい作風といえるだろう。設定はトンデモだが、その特殊な世界で発生した謎を解くロジックは、ルールに則った整合性の認められるものだった。ルールを理解して、推理すればマレヒトが何者であるかを指摘することは可能。ただし仕組まれたあるトリックによって、完全正解に至ることはおそらく困難。かように、事件と謎のパーツをルールにはめ込んで、高度な謎を構築した優れたパズラーだと思う。特殊設定つまり 意外な世界観 あってこその 意外な推理 の楽しみがあった。かように特異な世界の出来事を描きながら、難しいことをわかり易く読み手に伝える文体である作者の筆力にも感心する。むしろ通常の世界のミステリーを描いたら、この作者はどのような技量を見せるだろうか。そんな興味を抱いた。
2022.06.15
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1920年代、イギリス統治下のインド。藩王国サンバルブールの王位第一継承者である王大子アディール・シン・サイが暗殺された。イギリス人警部ウインダムとインド人刑事部長バネルジーは犯人を確保するも、自殺されてしまう。王太子は、バネルシーのケンブリッジ留学時代の同窓生であった。マハラジャの依頼を受けて、暗殺を企てた影の人物をつきとめるため、陰謀渦巻く宮廷に乗り込んだウィンダムとバネルジー。しかしダイヤモンド鉱山に絡む利権、後宮の女たちの確執、宗教問題といった異文化の壁に阻まれて、捜査は難航する。その矢先、何事かをウィンダムに伝えようとしていたイギリス人が失踪する。ウィンダム自身も阿片吸引の誘惑と、謎めいた美女アニーへの思いに迷走しつつも、王位継承権のある第二王子プニートへの疑念を深める。しかしプニートもまた虎刈りの最中に命を狙われる。ウィンダムとバネルシーはサンバルプール王家を滅亡から救うことが出来るのか。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーエキゾティシズムとイギリス古典ミステリーの格調漂う作風を堪能できた。インドの風土と風俗をイギリス人ウインダムの視点で描く名翻訳には、かつて「アレクサンドリア四重奏」の名訳を読んだ時の感覚がよみがえった。ヒンドゥー教、インド後宮、宦官の存在、ダイヤモンド発掘、といった未知のガジェットが目くらましのように多彩に出現する物語の様相は、読む者を飽きさせない。重厚な歴史小説であると同時に、優れたエンターティメントでもある。怪しいやつが次々に現れるも、それがすべてレッドへリング。というのも探偵役が間違いの推理をしていたから。このミスリードの仕掛け方は、巧みかつオーソドックスな手法と思う。それでいて、真相解明の手掛かりは作中でフェアに提示されているのだが、その箇所に気付きロジカルにフーダニットに結び付けて考察するのはむずかしい。もっとも、事件を王族のお家騒動としてとらえれば、案外簡単に犯人像にたどり着けるかもしれない。犯人の意外性には若干乏しくとも、物語の展開の予測できない意外性はスリリングで冒険小説賞受賞もうなずける。ウインダムが何かといえば美女といちゃつこうとする描写が個人的には鼻につくし、虎狩りや像を使った処刑シーンは、読む人によっては残虐描写と映る向きがあるだろうか。と瑕疵を挙げればツッコミどころあれこれではあるが、私にとっては非常に魅力的で琴線に触れる作風なので、シリーズの他作も読むつもりだ。是非とも♪
2022.06.10
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雨は降らなかったけれど、日曜日はミステリーのチラ裏を。ネタバレあり、でも奥歯にものの挟まったような、隔靴掻痒の感があるような。:::それぞれに事情ありな事件関係者の誰もが、真実を語ってはいない。それぞれが隠している事実、重なり合う嘘の底には、人種差別と、異文化への偏見が潜んでいる。リーガルサスペンスのお約束で、探偵役を勤めるはずの弁護士も本編では、黒いものも白と言いくるめようとする 信用ならない語り(騙り)手 の一人に見えた。作中は探偵役不在で心理が進行するならば、読み手が探偵役になるのだろうか。とは言え、彼ら全員が〇〇であるとか、〇〇関係にあって被告をはめようとしているとか、先行作品に見られたようなトリックではない。レッドヘリングに目移りした挙げ句に、浮かび上がた犯人はある意味意外な人物ではあるが、その人物を犯人と言って良いのだろうか。推理の要は 誰が犯人か よりも、むしろ どうして犯行が成立したか つまりハウダニットにあるように思えた。意外なハウダニットがあっての意外なフーダニット。事件を構成する各要素は手掛かりとして、フェアに作中に提示されていても、それらピースに整合性を持たせて並べかえ、事件の全体像を看破する。その考察は複雑かつ、困難を窮める。それほど複雑な事件の様相と登場人物の人間模様をわかり易く読み手に伝えることに作者は成功している。作者自身が元弁護士であり、韓国人移民という来歴ゆえか、法廷描写にリアリティを、人物描写には切実さすら感じた。もっとも、法廷シーンの緊張感と臨場感に比べ、事件関係者視点の筆致はやや冗長に流れた嫌いがある。それでもデビュー作にしてこの完成度の高さ、次作が書かれることを期待する。書かずもがなの追記「評決の代償」、「ミラクル・クリーク」と海外法廷ミステリーを続けて読んで、「罪なき者のみこの女を打て」という聖書の言葉を犯人あるいは、犯人として告発された人物と、裁かれる側と対峙するその他の人々の去就から想起した。
2022.06.05
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2008年6月26日 バージニア州ミラクル・クリーク。韓国移民のパク・ユーの運営する高気圧酸素治療施設「ミラクルサブマリン」で火災による爆発事故が起きた。パクの娘メアリーを含む3名が重傷を負い、死亡したのは患者で自閉症の少年ヘンリー・ワードと、やはり自閉症の子供JTの母親キット.コズラウスキーの2名。検察側は事故ではなく事件と断定、ヘンリーの母エリザベスが放火犯として逮捕される。2009年8月17日一年後、裁判が開廷し、事件関係者はそれぞれは思惑を抱えて傍聴に臨む。エリザベスの弁護人シャノン・ハウは、公判を勝訴に持ち込むためには手段を選ばない姿勢を見せる。エリザベスが我が子の死を願って罪を犯したのか、それとも憎むべき真犯人は他にいて、法の裁きを逃れようとしているのだろうか。誰が、何の罪で、裁かれるべきなのか。そして虚偽と事実が重なり合い、事件の様相が二転三転した果てに驚愕の真相に直面する者は誰か。----------------------------「このミス」で推されていたので「評決の代償」に続いて、読了した法廷ミステリー。作者はアメリカに移住した韓国人にして弁護士経験者によるリアルで新人とは思えない熟達した筆致になる、これまた読んで外れ無しの佳作だった。エドガー賞ほか三冠受賞も伊達ではない。海外ではリーガルミステリが、昨今豊作なのだろうか。日本でもそうあってほしいけど、この国の司法制度を背景に描くとなると.....いや、やめておこう。だからチラ裏は本日これまで。:::午後夏日の暑さを覚悟して鍼灸治療に出かけ、4時過ぎに駅に降り立ったら思いがけない涼しい風が吹いていた。帰宅したのが8時過ぎ。過ごしやすい土曜の夜になった。明日は雨降りらしいので、この続きが書けるだろう。
2022.06.04
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2009年、ロスアンゼルスの大富豪の一人娘ジェシカ・シルバーが行方不明となり、死体なき誘拐殺人事件の容疑者として黒人教師のボビー・ノックスが起訴された。陪審員のうちマヤ・シールだけがボビーを無罪と見立て、ボビーの有罪を主張する他の11人を説得して無罪評決へ持ち込んだ。10年後の現在、弁護士となったマヤはかつての陪審員の1人リック・レナードから、ジェシカ事件再検証番組への参加を求められる。リックはボビーの有罪を立証する決定的な証拠を掴んだと言う。しかし番組出演者が集められたホテルでリックは殺害され、マヤは殺害の容疑をかけられてしまう。誰が、何故リックを殺したのか。10年前、自分の下した評決は間違いだったのか.......悩むマヤ。やはりジェシカ殺しの犯人はボビーだったのかという疑念が持ち上がった矢先、ボビーは謎めいた自殺を遂げる。果たしてマヤは無罪を立証し、リック殺害とボビー自殺の謎を解き明かすことが出来るのだろうか。--------------------名作「12人の怒れる男」へのオマージュというより、批判や皮肉を込めた視線も感じられるリーガルミステリーで法廷ミステリ好きの私には久しぶりに読みごたえがあった。以下ネタバレあり。:::かつて陪審員だった10人のそれぞれの現在の困惑と、過去の陪審員12人の視点から過去の裁判の様相が描かれる。現在と過去がフラッシュバックする事件と審判の進行はサスペンスフルで興味津々。アカデミー脚色賞を受賞した作者らしい筆致の巧さを感じる。だだしジェシカ事件のフーダニットは、一周回ってやっぱり犯人は、という法廷ものとしてありきたりな結論。そのうえ、現在起きたボビーの死の真相ときては、またそれか?という仕掛け。文字通り仕掛けてなんとやらだったとは。法で裁けぬ悪が存在し、被害者の無念を晴らすには.....とやらのこの手の展開、顛末には食傷を通り越して気分の悪さを感じるようになった。被害者感情は万国共通かもしれないけど、法廷劇が報復劇に変わるとは、安易なドラマチックさを狙っている如しで説得力に乏しい。事件の被害者側が共感を持てる人物像でないせいもあるだろうけれど。最後には全員が〇〇者というオチで、これはクリスティの某作へのアイロニーを感じた。
2022.05.29
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2022年5月、警察が民営化されたパラレル日本のつくば市。腐女子の女子大生高橋保奈美が刺殺され、第一発見者で友人の林葉ことみが被疑者とされた。IT会社役員箱崎がビルの階段から転落死、他殺と断定され、逮捕刺されたのは部下の松崎耕也だった。民間警察組織IISCの新米刑事薮内唯歩は、仲城流次警部補とともにこの二件の捜査に当たった後、高齢婦人の不審死事件を追って長野市のホテル「コルボ・アルジョンテ」へ向かう。ホテルではかつて三都連続殺人事件を解決に導き、警視庁のカリスマと称えられるキャリア烏丸真珠己警視が、部下の中川千尋と共に休暇を過ごしていた。しかし唯歩と真珠巳はホテルのオーナーとメイドが続けて殺害される事件に巻き込まれてしまう。そして真珠巳は唯歩に仲城の過去の秘密を伝えるのであった。この事件の犯人としてホテルの宿泊客のカップルを逮捕した唯歩だったが、後日誤認逮捕の責を問われ停職処分となった。それでも仲条と上司の協力を得て、事件の真相に迫ろうとする唯歩。そこには三都連続殺人事件とともに、宗教法人「シムルグの会」解散騒動の影が浮かび上がる。--------------------タイトルのネバーモアはポオの「大鴉」からだろうか。と、言っても怪奇幻想的要素はまったくなく、警察小説のストーリーと本格ミステリの謎解きを民営化警察の仮想世界で描いた作品だった。次から次へと事件が起こる展開は面白く、特殊設定とはいえ、トンデモなついて行かれなさもなく、唯歩の訥々とした捜査の過程にはリアリティもあって好感が持てる。警察側の登場人物の個性がよく描き分けられているのだが、人数が多すぎてもう少しすっきり人員整理してもよかったのではないか。もっとも「雑多な登場人物」の中にうまく人物○○トリックを潜ませることが作者の意図だったのかもしれないが。そのトリックは成功しているが、フーダニットとしては如何なものか。登場からして怪しい奴がやっぱり犯人.....と推理抜きで判ってしまった。そして真相解明の場面は謎解きのサスペンスの雰囲気重視で、ロジカルな整合性が疎かになった気がする。過去の事件像が曖昧にしか語られていないためか、犯人の正体の唐突で性急な暴露のためか、事件と謎解きの関係性が今一つ明確にならない点も、大いに不満が残る。少なくとも「ネバーモア」の引用のきっかけとなったらしきシムルグの会の事件について、もっと筆を尽くしても良かったのではないか。警察権力批判、ポオの詩句の引用と、多種多様の要素を盛り込み過ぎて、意余って筆が辷った観があり、ミステリとしての完成度は今一つだと思った。
2022.05.25
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1960年の「龍禅家殺人事件」を解決すべく、マイスターホラ(?)によって危篤状態の妻を残して、過去に飛ばされてしまったジャーナリスト加茂冬馬。果たして、龍禅家では一夜にして当主の孫究一と光奇が首を切断された遺体となって殺害される。究一の娘、文香の協力を得て謎を解こうとする加茂だが......------------------ぶっとんだ設定の極北。そろせいか何ともプロットの記述がし難い時間移動ときて、ドラえもんのどこでもドアの時間バージョンをイメージするが、そんなに便利なものでもなく不都合な制約がある。その思うに任せない状況の過去の中で推理する主人公。だけど、途中で未来人なことがバレても、龍禅家一族がそれをあっけらかんとして受け入れてしまうのはご都合主義にもほどがあり、かえって白けた。子供向けのSF漫画かアニメですか?かかるご都合主義を受け入れない限り、悪い意味で子供向けファンタジー風味のストーリーの展開にも付き合い切れず、本格ミステリとしてのロジックがどんなに巧妙に配されていても違和感があるばかりで、特殊設定が好きな私であるのに、面白さは感じられなかった。作者はどんな作品の完成を目指してこの発想で本作を執筆したのか、作者の意図が私には伝わらない。発想の物珍しさと、ロジックの整合性を木に竹を接ぐように繋いでも斬新な佳作ミステリが生まれるわけではない。本作を鮎川哲也賞に推した選者の意図は更に更に忖度しかねる。
2022.05.21
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父の最期の言葉から、母の死に疑問を持った大学生飛渡優哉は、故郷謂名村を訪れる。その村でかつて母が働いていた美濃焼工房で、陶芸家能代勲の夫人喜和子が首吊り自殺を遂げ、勲は失踪した。知己の名探偵海老原浩一とともに、一連の不審事の調査を行ううちに優哉だが、伯父の飛渡文雄が殺害され、その首を切断された遺体は神社に遺棄されていた。そして海老原の推理は事件の裏に隠された、優哉の親族の秘密を暴く.....--------------------密室殺人のトリックはよく考えられている。容疑者は絞られているので、犯人はわかりやすいかと思いきや、あるトリックで一捻りしてあったため、うまくごまかされた。事件捜査の過程がほぼ村の住人への聞き込みに終始し、会話ばかりが延々続くのには閉口した。伝聞からのればたらで、推理を構築されても事件のイメージが曖昧にしか掴めない。犯人造型と犯行動機の解明の描写も鮮明にならず、ご都合主義に見え、思わせぶりな話の終わり方も後味が悪い。密室の作成だけ堅牢でも、建物の基礎工事は手抜きなあぶなかしいお館を冒険したみたいな読書体験だった。
2022.05.17
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昔々、おとぎの国のシンデレラは魔法使いの力を借りて、カボチャと二十日鼠と蜥蜴で仕立てた馬車に乗り、美しいドレスで着飾って、王子様の誕生日の舞踏会にでかけました。けれど王子様は何者かによって殺されてしまい、シンデレラは王子様殺害の濡れ衣を着せられます。法廷で自らの無実を証明しようとするシンデレラですが、午前零時を回れば魔法が解けて元のみすぼらしい姿に戻るのです。果たしてシンデレラは魔法が解ける前に、名探偵さながら事件を解決することが出来るのでしょうか。--------------------〇〇入れ替え、〇〇錯誤の〇〇トリック、トンデモ物理トリックと、本格ミステリのネタてんこ盛りだが、おとぎの国の中で魔法を使えばナンデモありじゃないか?と、思いきや魔法を使わないトンデモトリックあるあるだったとは。法廷シーンが某番組の「昔話法廷」さながらで、シンデレラの詭弁ならぬ無理筋陳述には( ̄ー ̄)ニヤリとさせられた。ラノベは読みたくない私でも、このエンターティメントは楽しめた。推理そっちのけでニマニマして面白がっていたせいか推理がそっちのけになり、ラストの種明かしで騙されたことに気づく始末。とはいえ、おとぎ話だからめでたしめでたしでハッピーエンドは結構だが、最後のエピソードだの、タイトルの説明もいらないかな。子供に絵本の読み聞かせしてるわけではあるまいし。
2022.05.09
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函館で起きた三件の殺人事件。会社社長源太の妻、藍依が殺害され、額には十字の傷がつけられていた。被害者の喉を切り裂いた凶器はみつからない。白骨死体が発見された土地に近い教会で、フランス人神父が刺殺され、やはり遺体の額には十字のしるしが。神父は同性愛者であったらしい。そして源太の妹の夫までが、額に十字の傷のある遺体となって発見される。現在の殺人事件と、過去の事件の白骨死体には何らかの関連があるのだろうか。捜査に当たった舟見警部は、またしてもジャン・ピエール・プラットに協力を求めるのだが、彼は遠からずフランスへ帰国することになっていた.......--------------------ジャン・ピエール・プラット函館シリーズ三弾目。原田康子の「挽歌」だの、三浦綾子の「氷点」など(渡辺淳一もありか)北海道を舞台とした小説の浪漫的情景とは程遠い、はっきり言ってダサいローカル色いっぱいの地方都市で起きた連続殺人。警部たちが狭い地域社会の人間関係の裏取りで潰していく捜査の過程が描かれる。そのもっさりした進行状況を読むのはかなり退屈した。探偵役の謎のフランス人ジャン・ピエールは相変わらず、キャラが不透明。警部らの訥々たる捜査にお付き合いしているだけで、あまりにも探偵が遅過ぎる。そのせいか三人も殺された後で、ようやく推理のお披露目となる。過去の殺人の物理トリックは一生懸命に考えたのだろうが、解明の記述が冗長で退屈な物理のお講義のよう。これまたうんざりした。なんとなくあやしい人物それぞれが、全○が犯○というフーダニットには御都合主義を、犯行動機には納得いかなさと、ある種の配慮の無さへの嫌悪感を感じた。ある被害者は殺されても仕方がない人物として描かれているが、それでも殺した側の人物に共感は覚えなかった。犯人像と被害者像、両者の造型に安易な白々しさが伺われる。被害者の神父が同性愛者というのも、バタイユ作品からの思いつきめいており、取ってつけたような安直さに嫌気が差した。いくら此方の脳内が腐っていようとも、何でもかんでも そちら ではお腹いっぱいを通り越してげんなりする。作者は取り合えず、事件とトリックは着想出来ても、それらの要素で登場人物を動かして物語を面白く構成する才に乏しいのだろうか。まったくの個人の感想だけれど。一応「テーマ」はミステリはお好きにしてあるが、私にとって好きではないミステリーだった。この作品を「このミス」や 「ミステリ・ベストテン」で推した人たち、☆4つ以上付けた人たちはお好きなのだろうけれど。
2022.05.04
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この作者の長編を読んで、私の趣味ではないと思ったが、短編集は楽しめた。古典本格ミステリのネタとSFのロジックのコラボの「ノックス・マシン」や「バベルの塔」よりも、名探偵の相棒たちを弄ったパスティーシュ「引き立て役探偵倶楽部の陰謀」が特に面白かった。いっそのこと ノックスの十戒 の創案者、ノックス猊下御本尊をもっと作中に出演させていじってほしかった。同じ作者の短編集「赤い部屋異聞」も読んでみようかな。
2022.05.02
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半睡半醒の状態で夢を視た憶えだけがあり、夢の内容の記憶がない状態で正午すぎにようやくベッドから身を起こしたそんな日曜日。記憶にない夢は此処で記述するすべもないので、やはりミステリーのお題で。2001年6月ネパールの王宮で起きた王族殺傷事件。雑誌記者としてカトマンズへ赴いていた大刀洗万智は、取材のため軍部のラジェスワル准尉に面会を求める。しかし対面した准尉は、国家の一大事を他国のマスコミに伝えることは出来ないと拒絶するのだった。「私は王の死をサーカスにすることは出来ない」事件翌日取材の途中、市内で警官隊が民衆に発砲する騒動から逃れた万智は、空き地でラジェスワル准尉の遺体を発見する。その背中には「INFORMER」(密告者)という文字が刻まれていた。警察の取り調べから解放された彼女は、一人のジャーナリストとして事件の真相を追求しようとするが....----------------実際に起きたネパール王族殺傷事件に材を取った虚実皮膜のフィクション。前半はヒロイン視点のカトマンズ幻想紀行とでも言いたいような流れ、カトマンズの光景とそこに集まる人々を描く文体は淡々と移ろうかと見えたが、王宮事件が勃発してから一転、俄然緊迫感のある展開になる。と、ストーリーは導入、展開の巧みさに興味津々だったのに、犯人はすぐに判ってしまうのはミステリーとしての興趣には欠けると思った。おそらく作者が本作の主題としたのは謎は何か、如何に謎を解くか、ではなく真実(真相)とは何か、そして真実を伝えるとはどういうことか、を描くことだったのではないか。そして如何に報道するか、如何に真実を伝えるかというハウダニットへの問題提起も。この後ちょっとネタバレ、のどうでもいいような話。:::::「黒牢城」に続いて本作を読んでみて、全くの私見であるが、ある職業の犯人像の造型 への作者の拘りを感じた。だから犯人も判っちゃった?と、推理のロジックとは無縁のどうでもいいことが気になる質なので仕方がない。
2022.04.24
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中国の南宋時代(1127年~1279年)キエフ人の血を引く碧眼の武侠の達人梁泰隆(りょうたいりゅう)を、師父と仰ぎ修行に励む蒼紫苑(そうしおん)は、師の養女恋華(れんか)と許されざる恋仲にあった。ある日、師は奥義を伝授するとして三人の武侠を招く。招待客は 楽祥纏(がくしょうてん)蔡文和(さいぶんわ)為問(いもん)の三名。しかし、来客のあった翌朝、梁泰隆は湖上の楼閣で毒を盛られたうえ、刺殺された遺体で発見された。犯人は内部にいる。としたら犯人はどうやって湖を渡ったのか。紫苑は師父の仇を討つため、この謎を解こうとするのだが、内功の技を持って水上を渡ることのできる紫苑自身が疑惑の眼を向けられることになる。さらに恋華にまで嫌疑が及び.....第67回乱歩賞受賞作。--------------------武侠に関する知識のない私には、事件の背景そのものが斬新だった。内功の技という特殊なトリックの条件とクローズドサークルのガジェット、事件の展開も興味津々。このストーリーがどこへ行き着くのかと、期待したのだが、結末や犯人像は肩透かしだった。犯行動機の裏にある心理はこの時代ならではのもの、と言うのもこじつけがましい気がする。作者がミステリーを描きたかったのか、武侠をテーマにした歴小説を描きたかったのか、最後まで読んで判然としない気持ちになり、事件が落着してもカタルシスは味わえなかった。「女同士」の描き方も当世風のハッピーエンドに終止するのも何だか安易。今どきの興味本位、読者ウケ狙いな百合、薔薇の描き方には食傷してきた。ストーリーの構成力、描写力のある筆者なので、現代本格ミステリで直球勝負したらどんな作風になるのであろうか。そちらの方向性に期待したい気がする。
2022.04.18
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寒すぎる朝、余りにもヘンな夢から目覚めた。ルンバが作動せず難儀している夢。自分で修理しようかと思ったあたりから夢の記憶は曖昧になる。こうして記録するのが恥ずかしいほど妙な夢の話はこれまでにして、雨降りなのでミステリーを。--------------------1942年、ニュージーランドのフェザーストン捕虜収容所。日本兵矢神が密室と化した小屋の中で割腹して死亡していた。同じく捕虜となっていた矢神の友人コゴロウはそれがハラキリに見せかけた殺人であることを見抜いていた。そして1943年2月25日、収容所内で決起しようとした日本人捕虜が殺傷される事件が起きる。1984年、ニュージーランドのクライストチャーチの全寮制のラザフォード女学院。私、ジュリアは祖母の遺品の中から奇妙な手記と手紙を発見する。かつてラザフォードの学生であった祖母ケイトの手記には、学院で41年前に起きた密室殺人事件の顛末が、手紙には何者かによる復讐の言葉が記されていた。親友バーニィとともにラザフォードへ編入してきたジュリアは日本人留学生ベルト知り合う。そして「お籠り」と呼ばれる宗教的行事のため、七人の生徒が7日間教会堂で寝起きすることになった。選ばれた 教会堂の七人 のメンバーはジュリアバーニィキャサリンジェニファロティベルイライザその第一目の夜、イライザが手記と同じ方法で閉ざされた室内で腹を割かれて殺され、教会堂で暮らしているシスター・ナシュは失踪し、残る6人は堀の水が溢れたため教会堂に閉じ込められてしまう。続いてキャサリンが殺され、ジェニファは襲われながらも一命をとりとめたがロティは殺され、シスター・ナシュまでが犠牲となる。そして........「 それは見立て殺人だから。そう云いいたいのでしょう」ベルをはじめ生き残った少女たちの命がけの推理が始まる。第20回鮎川哲也賞受賞作(「ボディ・メッセージ」と同時受賞)------------------本作を手に取るとき思ったのは、同義反復というか厨二なタイトルだな、ということ。内容もタイトル相応で、謎の提示、事件の背景の設定は面白いのだが、物語を構成する力が不足しているのか、戦時中の史実と、近過去の事件を繋ぐ必然性が伝わってこない。謎を複雑に見せるための手法らしき過去の手記の挿入も、思わせぶりで読みづらいばかり。密室作成のトリックの素朴さは、むしろ意表をつくアイディアとして評価出来ると思う。リアルにはそんなに上手くいくのか、という疑義は別として。腹部を割いて死に至らしめるという殺害方法からして、リアリティを問えば疑問であるが、それもまた更に別の話だ。別の話ついでに、このトリックを部屋の内側でなく、外側から行えばどうかというトリック返しを妄想したりもして。いや、悪い冗談だけど(._.)閑話休題。フーダニットはクローズドサークル内での限られた登場人物の中から容易に絞り込めてしまうのはやむおえない。しかし絞り込んだすえにその人が何故かかる殺人を?というホワイダニットへの解答になると、犯人像の描き方、犯行動機の設定の安易なことには無神経さすら感じて、うんざりした。1942年の事件、1984年の事件とも、また「あれ」や「それ」か。それにしてもこの書き方とは........._| ̄|○謎の解明の一助として後出しで登場人物の隠された秘密が明かされるのも、出し方の手際や謎の中身そのものが、やはり雑で無思慮な仕掛けである。( たぶん賞の とある選者 も選評でこの点を指摘しているのでは? あくまで私見だけど )アマチュアが書きたい素材を思いつきで取り合わせて描いた印象がぬぐえない。盛り込み過ぎたガジェットが作者の手に余り、伏線回収にも意を尽くせず結構を迎えるためか、読む方もサスペンスドラマを何となく視ているが如く、成り行きを読み流しすことに終止した。終わり方にしても、最終章でさらにプロローグの続きを描くとは蛇足めいており、あれやこれやの作者の創作の意図を汲みかねる。「ボディ・メッセージ」は瑕疵はあれど、高水準な仕上がりの作品だったが、此方は同時受賞するほどの完成度には達していない。これまた二受賞を推した選者の意図をも、私には汲みかねる。
2022.04.14
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介護士の明治瑞希ことメイの働く高齢者介護施設・あずき荘で、利用者の男性が撲殺される事件が起きた。逃走する犯人を五人の施設利用者が目撃したものの、彼らの証言は食い違っていた。犯人の着衣の色は「赤」「緑」「白」「黒」「青」と五者五様、ばらばらの証言。誰が本当のことを言い、誰が嘘をついているのか。そして見つからない凶器の謎は。難航する捜査の途上、メイの同僚ハルは彼女が思いを寄せる青年、イツキに嫌疑がかけられたことを知る。ミステリ好きなメイはハルに頼み込まれて、ハルとともに事件調査に乗り出すのだった。しかし、イツキに近付き真相を探ろうとするうち、ハルが何者かに襲われ.....-------------------久しぶりに読んだまっとうな本格ミステリ。新人にしてはよく練れた文章だが、悪達者さを感じさせず、過度な表現により冗長になるでもなく、読みやすく親しみやすい作風となっている。探偵役メイが明るくノーマルな性格の女性に描かれているのも、トンデモ探偵に食傷気味の昨今では新鮮で好印象。これなら、ストレートな推理で勝負すれば、犯人指摘は容易と踏んだのは此方の甘い見込みだった。小細工を施さない典型的な〇〇錯誤と〇〇誤認によるトリックでストーリーを引っ張っりながらも、解決編では叙述トリックの要素も盛り込んだひねり技で決める。もっとも地の文で嘘はついていないが、隠していること(読者に知らせていない事)が多い点をアンフェアとする見方もあるかもしれないが、作者はオーソドックスな書き手と見せてなかなか曲者だと思う。「五色誤認」を改題して、「五色の殺人者」としたとのことであるが、どうしてどうしてこのタイトルも五色は「誤識」のダブルミーニングなのではないか。叙述トリックの可能性に気づかず、探偵は誤ちを犯さないという認識不足に陥ってしまった。これもはまさに探偵像への誤った認識「誤認」だろう。読者である私こそ誤認を犯していたのだ。
2022.04.12
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ロンドン郊外、ブラックダウンの森で発見された慈善事業団体経営者、レイチェルの遺体。その爪にはマニュキアで「偽善者」と描かれていた。取材に当たったBBC記者アナと、捜査を担当したジャック警部。彼女と彼はかつて夫婦だった。アナは育児休暇中の人気キャスターの代打を務めていたが、そのキャスターが復帰したため再び記者の職務に戻された多ばかりだった。レイチェルはアナの高校時代のクラスメートであり、ジャックはレイチェルと男女関係にあり、事件前日も逢引していた。元夫婦の二人の視点から語られる事件の様相には何故か食い違いがみられた。二人とも何かを隠している.....やがて第二の殺人が起きる。被害者はやはりアナのハイスクール時代のクラスメートで今は学校長のヘレン。そして連続殺人鬼はジャックの妹ゾーンまでも手にかける。次なる犠牲者はアナか。いや認知症を患っているにもアナの母にも危機は迫っていた。はたして読者は、彼と彼女の語る事件のミッシングリンクを見出し、驚愕の真相にたどり着けるだろうか。「視点はふたつ、真実はひとつ。あなたはどちらを信じるのか?」-----------------------彼も彼女も嘘をついている、最悪共犯関係で交換殺人とか企んでいる?つまりどちらも真実を語っていない。二人は事件を起こしている張本人ではないか。そんな疑念というより妄念を抱きつつ、騙されまいと構えて読んだが、かえって作者の罠にはまった。罠というか、陥穽の仕掛けどころに意外性があり、足をすくわれて此方の予想を覆されてしまう。そして一周回って、やはり嘘をついているのは二人のうち一人に着地するかに見せたところでどんでん返し。女が女を騙し、女が男を騙していたのだが、男は女を騙していなかったとは。原題の His は単数だが、Hers が復数ののが意味深。それって..........(>_
2022.04.06
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カリスマシェフとして名を馳せたジャレド・キートンは、実の娘を殺害した「死体なき殺人」の容疑者として、服役中であった。しかし事件から6年後、殺されたはずの娘エリザベス・キートンを名乗る女性が現れる。その女性はDNA鑑定の結果、エリザベス本人であると断定されたものの、行方をくらましてしまうだが、冤罪とされたキートンの釈放は時間の問題となった。しかしキートンを逮捕したワシントン・ポーには、彼がサイコパスであり、エリザベス殺害の真犯人に間違いないという確信があった。鑑定の際、採取されたエリザベスの血液に高級食材トリュフの成分が検出されたことに違和感を抱き、過去の事件の再調査を行うポー。分析官ティリーの協力を得て、DNA鑑定に仕組まれたトリックを追求し、失踪した娘の追跡をするうちに、あろうことかポー自身にエリザベス殺害容疑がかけられてしまう。--------------------今回、犯人は誰か は判りきっているので、エリザベスを名乗る女は何者か、のフーダニットと、死体なき殺人 の殺害と死体隠蔽の手段、DNA鑑定に用いられたトリックの追求が、ハウダニットとして描かれる。ストーリーの導入を魅力的な謎にするため「死体なき殺人」を持ってきたのかもしれないが、状況証拠だけでの逮捕、収監という設定には無理筋な観がある。そこからの主人公とサイコパスとの対決、天才捜査官との協力、複雑に絡んだ人間模様が二転三転しつつ、取り敢えず解決編へ向かうまではサスペンスがいっぱいに描かれる。ところが最重要なトリックが、作者のオリジナルな考案ではなく、リアルに1992年に起きた事件をモデルにしたものと知ったときには畏れ入った。この作品にではなくて、そんなトンデモな詭計を成功させた実在の人物にである。リアルこそミステリーより奇なり。なんて具合にネタが判ってしまうと、登場人物のポーやティリーの人物描写の個人的には共感しがたい空疎さ、伏線回収にご都合主義と整合性の乏しさが見えてきて、目先のドキドキハラハラにおどらされていた自分がヴァカらしく思えてきた。単純な真相を複雑な謎に見せかけるため、、サスペンス風味を欲張って盛り込みすぎではないか。犯人をサイコパスに仕立てればどんな奇態な行為も、異常な動機もなんでもありなので、ホワイダニットの雑な描き方に嘴を入れるつもりはない。だけど、他人の感情を全く忖度できない気質の捜査官ティリーも、変わり者の域を超えてサイコパスではないか。ティリーのキャラを好もしいとする評が相当数あるらしいが、私はその意見に雷同しない。作中、心惹かれた登場人物(?)は今回もポーの愛犬エドガーだけだった Uo・ェ・oUクーーン
2022.04.02
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例によって、伏線回収のないサスペンスドラマのお約束を守って終わってくれた。謎の解決がないミステリーじゃなくて、リドルストーリーだから~~~とでも言い訳せんばかりに。いや弁解の必要すらないのかも。ミステリと言うなかれ と、ずばりタイトルでお断りしてあるのだからミステリの定石なんかお構いなしのドラマづくりでいいんでしょう。だけど謎の提示がどんなに魅力的でも、美しい回答がなければエレガントな作風とは言えないな。それに謎を完全に解き明かさずに幕を閉じてしまえば、ロジックや脚本の破綻が目立たず済むってやりかたズルくはないか。最近のミステリでもそんな結構が多い気がする。その手のミステリなら、もう読む気も視る気もしなくて、もうケッコウです。では洒落にもならない。所詮娯楽にそんなこと求めるなと言われればそれまでで、身も蓋もないのだけれど。
2022.03.28
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昭和4年の帝都を舞台にアルセーヌ・ルパンと明智小五郎が対決する冒険活劇パスティーシュ。私のルパン事始めは、もちろん小学生の時に読んだ南洋一郎版怪盗ルパン全集。「奇巌城」や「虎の牙」や「8.1.3」の危険がいっぱいなスリリングなストーリーには胸をときめかせたが、ルパンのキャラや、ホームズの登場の設定には違和感を覚えて、今一つのめり込めなかった。乱歩作「黄金仮面」を読んだときも同様で、「何この無理筋?作者の意図不明?」と引っかかりを感じた記憶がある。なんでルパンが日本に出張って大鳥不二子なる女性といちゃついた挙げ句、あろうことか殺人まで犯して逃走したのか。で、結局不二子はどうなったの?などなど、あらぬ疑念を子供心に巡らせたりした。本作はそんな本家の矛盾点や、不明瞭な描き方にツッコミを入れるがごとく、放置されていた伏線をきっちり回収し、原典の謎を解き明かす、謂わば「謎解きルブランとルパン 謎解き乱歩と明智」の興趣が盛り沢山なエンターティメントであろうか。黄金仮面は実はルパンのニセモノ当然ながらエルロック・ショルメスとシャーロック・ホームズは別人。ルパンの息子が存在した大鳥不二子とルパンの関係の顛末怪人二十面相の正体などなど、読者への挑戦状ならぬ、読者の疑問への鮮やかな回答編が、ルパンと明智の活躍と共に繰り広げられる。さらに当時の張作霖爆殺事件という歴史の闇にも言及し、歴史ミステリーとして興味深く読ませることも抜かり無い。終盤では「吸血鬼」と「怪人二十面相シリーズ」予告編と思える人物が登場し、おまけに「ルパン三世」誕生への布石と思わせるエピソードまで。予告編だけでなく本編のパスティーシュも描いてくれないかしら。ルパンではなく、私は明智派。「吸血鬼」は好きな作品で、特に三谷青年のキャラに魅力を感じているので。書かれざる明智小五郎物語だとか。松岡氏の発想力、構成力、筆力なら描ける。きっと書ける。
2022.03.26
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電力供給逼迫警報が出た寒すぎる午後。揚水枯渇の刻限が早ければ午後8時。雨降りどころか、霙まじりだけれどミステリーでも。------------------天正六年、織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、信長の使者として登城した黒田官兵衛を地下牢に幽閉する。因果は巡る、という官兵衛の言葉通り、やがて城内では奇怪な事件が相次いで出来する。第一章 雪夜灯篭人質自捻が矢傷を負って雪の密室で死亡するが、凶器の矢は見当たらなかった。第二章 花影手柄夜襲で敵将の首を取ったのは、雑賀衆鈴木孫六か、キリシタン大名高山大慮か。第三章 遠雷念仏村重は有徳の僧侶無辺を使者に任じ、密書と茶器を託すが、僧は殺害され、茶器が紛失した。第四章 落日孤影そして落雷で絶命したかと見えた内通者は、鉄砲で狙撃された痕跡があった。武運が尽き、落城が迫る中、村重は官兵衛に諮り、これらの謎を解こうとする。しかし官兵衛の応えは.....-----------------------虚実綯い交ぜの歴史小説としての世界観を重厚な文体で、濃密にしかし適切な筆使いで描きつくす名編連作集。戦国時代ならではの犯人像や犯行動機の創出のみならず歴史のホワイダニット、何故村重は信長に叛いたかということが、作者独自の視点で考察されているのが興味深かった。とはいえ各章とも限られた登場人物なので、犯人を当てるのはさほど難しくはなく、物理トリックについてはリアルには実行性を疑うものもある。トンデモ推理は回避しても、ある程度のバカトリックは已む無しか。そしてラスボスの如く終盤で正体を表す、裏で糸を引いていた人物の描き方。これは事件の、いや歴史の影に○あり、といわぬばかりのお約束の展開で、またしてもと思わされた。個人的にはこの種明かしがありきたりに思えて、やや興趣が割り引かれた気がする。
2022.03.22
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寒の戻りのように冷たい雨が降っている午後はミステリーのチラ裏を。これはいつものこと。------------------北海道で発見された歴史的聖遺物。発見者であるミステリーヲタの富豪は推理ゲームの勝者に聖遺物を譲り渡すと宣言する。世界中のカトリック教会、正教会は「名探偵」を聖遺物争奪ゲームに送り込む。決戦の地に集結した名探偵というより異能探偵4名は........アメリカ AI探偵 オペレーターシャーロットとAI「ユダ」 無限の情報量と超高速の演算能力 ウクライナクロックアップ探偵 コルニエンコ 無限の思考時間と無制限の現場検証能力日本五感探偵 ハンドラー高崎満里愛と警察犬ハチロー 完全無欠の情報収集能力と犯行状況の再現能力 ブラジル霊視探偵 マテウス 嘘を100%見抜く魔眼と最初から犯人を特定できる能力しかしゲーム主催者側の顧問弁護士山川氏が殺害されるリアルな事件が起きて、ゲームどころではなくなる。雪密室での足跡のないその事件を巡って、推理を戦わせる探偵たち。犯人を当てるのは誰かそして聖遺物の行方は。--------------------異能探偵たちが推理合戦を繰り広げる350ページ超えの長編だが、三分の二を占める探偵4人の紹介部分が中編連作を思わせる仕様で、余り興味をそそられず、どうでも良いような気分のうちに読みすすめる。肝心の北海道上川郡筆尻村での決戦の章で、ようやく最重要な殺人事件が起こり、ここからの展開は興味津々で、マリアの連れている警察犬が柴犬だったり、ボクダンが編み物男子だったり、謎の中国人がシスターに化けているのがバレたりと面白い。しかしこの決戦の章で視点人物が変わって、一人称の語りになったことに違和感を覚えていたら、犯人は案の定.....またあれか.....な設定であった。読者への手がかりの提示と探偵の推理の過程はフェアでも、犯人の設定が何でもありなことには意外な推理の果に意外な真相が待ち受けていても、アンフェア感がある。特殊設定ミステリーだからナンデモアリかしらんが、犯人は〇〇〇〇者という真相が後出しっていうのは例の十戎に反してるでしょう。フェアな謎解きを楽しむためのものではなく、トンデモな世界観を愉しめばいい?それってFSや幻想小説や妄想小説なら、面白いけどミステリーとしたらどうなんだろう。読み手として今回犯人は当たったが、正解の爽快感は得られない残念な読後感に終わった。
2022.03.18
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マリア&漣シリーズ短編集。パラレル地球の1970年代前半から1983年を舞台に、ジェリーフィッシュ事件以前のマリア、漣、ジェリーフィッシュ事件後にジョンが遭遇した事件を描く。 「ボーンヤードは語らない」 ジョン 空軍基地変死事件 「赤鉛筆はいらない」 漣 雪密室の殺人 「レッドデビルは知らない」 マリア 友人墜落死の謎 「スケープシープは笑わない」 マリアと漣 最初の事件私はハイスクール時代のマリアが活躍する「レッドデビルは知らない」がお気に入りそれにしてもマリアってJKのときからすでに服装に無頓着な美少女だったのね。マリアの束の間の相棒を勤めたルームメイトのセリーヌもいいキャラなので、彼女が探偵役を勤めるスピンオフ作品とかあったらいいな。いや、それより何よりマリアと漣それにジョンの登場する長編まだー待ち兼ねている。マリア、カムバーーーク♪
2022.03.14
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明治39年 船場の老舗化粧品店、大鞠家の長男千太郎が失踪した。パノラマ館に遊びに行った彼は、館に入ったきり忽然と姿を消した。昭和20年 大鞠家の娘月子が寝室で刺され、命に別状はなかったものの、何故かその身体には血糊が振りかけられていた。同じ夜、当主で入り婿の茂造も縊死体で発見される。これまた奇妙にも茂造の寝床には蝋人形が寝かされていた。現状に駆け付けた波渕医師と女医西ナツ子は検死の結果、自殺ではなく他殺と断定。警察の取り調べのさい、女子衆頭のお才は、踊る赤鬼を見たという奇怪な証言をする。軍医として出征中の長男、多一郎に嫁いできた美禰子は探偵小説好きの義妹文子、友人のナツ子とともに事件の真相に迫ろうとする。そこへ自称名探偵の方丈小四郎が現れ、推理を試みるも真相解明には至らなかった。その後、先代夫人の多可が不審死し、茂造の夫人喜代江は酒に満たされた樽の中で溺死し、小四郎自身も命を落とす。小四郎殺害の嫌疑をかけられた月子は警察関係者に連れ去られ、文子は空襲に巻き込まれ消息を絶った。昭和21年 敗戦後、廃墟となった船場。生き残った大鞠家の人々は、大鞠家殺人事件の謎に再び挑むのだった。--------------------船場を舞台にした小説といえば「女の勲章」が思い起こされる。本作もレトロ船場に生きる女たちの姿が活写されており、本作の中盤までは大衆小説の佳編を読むような心地が味わえた。ミステリーとしても、横溝の作風を愛する人には格好のガジェットが揃っており、クラシックな物理トリックも、本格ミステリーの基本に立ち返ったようなオーソドクシーを感じて好印象を受けた。しかし結末に至ってこの私的印象は一変した。探偵役を美禰子でも、ナツ子でもなくデウス・エキス・マキーナにゆだねるが如く、唐突な新たな探偵役の登場は何を意図して演出だろう。その人物の、思わせぶりで迂遠な推理の手順には不手際を感じるばかりで、伏線回収がすっきり頭に入ってこなかった。更に最後に及んで後出しジャンケンのように、ある秘密が 意外な動機 であると知らされても推理の手がかりにしようもないではないか。終わりよければ全て良しとは言えない、結構。再読も、結構です。
2022.03.07
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地方再生のカリスマと讃えられた神楽零士が惨殺された。その遺体の胴体は燃やされ、切断された頭部はドローンによって運ばれた。誰が、なんのためにこのような事件を起こしたのか。神楽と敵対していた謎の動画投稿者「パトリシア」に疑惑の目が向けられる。この事件後、パトリシアは過疎地から都心へ移動しなければドローンによる無差別攻撃を行うと声明を出す。人は誰でも住みたい場所に住む権利があるという神楽の主張に共感して、過疎地奥霧里に移住した晴山陽菜子は、「週刊真実」の記者馬場園とともに事件の謎を解くべく、高校時代の同級生で今は内閣官房に勤める雨宮雫に調査を依頼する。パトリシアの攻撃予告の期日が迫るなか、リモートによる捜査を行った雨宮は指摘する。「犯人は○○。その確率、およそ95%」その人物がパトリシアなのか、あるいは事件の共犯者なのだろうか。どうやって雨宮は残り5%のピースを埋めてその犯行を証明したのか。--------------------物語前半で犯人名が知らされた段階で違和感を感じた。探偵の推理は正しいのか、残り5%に意外な真相が隠されていてどんでん返しが行われ可能性がありはしないか。フェイントかもしれないと勘ぐって、素直にその人物をマークする気になれず、ましてやアリバイ崩しによる犯行の証明を考えることも出来なかった。もとより人間ならぬドローンのアリバイ考察とあってはお手上げ。それよりも、殺されたのは神楽なのか?パトリシアの正体は?とハウダニットよりどうしてもフーダニット寄りの妄念が次々に頭に浮かび、ちょっとトンデモなあることに思い至った。種明かしでさらに判ったのは人物〇〇ならぬドローン〇〇トリックときたので、これはでは此方には手も足も出ない。因みに探偵役は嘘をついているのでも、間違いの推理をしているのでもなかった。これだけの難問奇問を出題した作者の頭脳と発想には感心するばかり。それでも、フーダニットについてはトンデモな当て推量の部分が半分程度はまぐれ当たりした。と、言い訳しておこう。一国の一大事という重いテーマと、複雑なトリックを、よく練れた文体で読みやすく描いていることに作者の技量を感じる。視点人物(語り手)の陽菜子がかなり怜悧な、かつ批判的精神を持った女性に造型されているせいか、ストーリ展開はバタつかず、むしろ粛々として進むのも好感が持てた。ここのところ、わざとらしいおバカ女キャラに辟易しているもので。探偵役のエキセントリックさも程々に抑えられているのが良い。そのせいか物語の着地点は案外地味に思えた。これを大山鳴動して鼠一匹と捉えるかどうかは読み手次第だろう。
2022.03.02
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昨日書きそこねた、ネタバレを少し。::::謎の解明については、ある部分で当たっていた。 ○犯の存在 連続〇〇というより多重〇〇 〇〇錯誤こうして真相の要素を取り出して眺めると、本格ミステリの典型というより類型的なものばかりだ。けれど、 間違いの推理のうえにさらに間違いの推理を重ねる あるトリックを別のトリックで隠すことで、謎を複雑化して解決を困難にしいる。「家族は嘘つき」という葛城の言葉はなるほど伏線であったか。嘘つきというより○○○なのだが。そして「探偵は嘘をつかない」、かもしれないが葛城はある事実を隠していた。この事実は、果たして読者にわかるように示されているかは疑問である。これ以上の詳細は非表示日記へ。
2022.02.24
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「密室は御手の中」の画像を間違って「硝子の塔の殺人」のものをupしていたので、遅ればせながら訂正。こちらが正解。「密室は御手の中」
2022.02.23
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「紅蓮館の殺人事件」を解決した名探偵葛城義輝は、祖父の葬儀のために帰省したきり、学校に来なくなった。僕、田所信哉は友人三谷を伴って、葛城一家の住む蒼海館を訪れる。上流階級の人々で構成された葛城家の一族。そこへ葛城の姉の元カレが強引に押しかけ、台風の接近で交通が断たれた田所らともども、館に泊まり込むことになる。その夜、葛城の兄正が自殺とも取れる不審死を遂げたのを皮切りに、次々と一族は殺害されてゆく。葛城が口にした「僕の家族は皆嘘つき」と言う言葉は、何を意味するのだろうか。それより何より、豪雨のため、水没の危機に瀕した蒼海館から田所は葛城とともに生還できるのか。-------------------ワトソン役の田所が、葛城輝義の亡くなった祖父惣太郎の四十九日の法事のために(傷心の輝義の慰問が主目的だが)「蒼海館」を訪れるたところが殺人事件に巻き込まれる。基本設定はクイーン「シャム双子の謎」からヒントを得たものだろうが、(前作の)炎と (本作の)水の対比、それに今回は水没の危機というのが作者ならではの趣向か。しかし、輝義の従弟の夏雄が発した「おじいちゃんって殺されたんでしょ?」という、此方はクリスティ「葬儀を終えて」を思わせる台詞を切っ掛けに、惣太郎は殺害されたのではという疑惑が持ち上がる。続いて、輝義の兄の警察官の正、輝義の姉のミチルの元彼で恐喝屋(?)の坂口が殺されたので、"放置しても水難事故で死ぬだろう人間を、何故犯人はわざわざ殺すのか" という点に注意を払って読みすすめた。館がお約束のクローズドサークル化したあたりで、そんな注意も雲散霧消してしまうのだが、残念ながら家族〇〇が犯人とか言うことはなかったので。気に掛かったのは祖母のノブ子が認知症であることや、田所の優秀だが冷酷な兄の梓月が葛城家の主治医というのが何ともステロタイプなこと。ステロタイプな家族の関係性を描かれてもミステリとして何ほど面白みがあるのか。(関係性のなかに、伏線が潜んでいるかといえばそうでもない)更に、田所が名探偵の存在意義論に拘泥して、延々名探偵論を述べたりするくだりのおかげで、物語の進行がもたつき、水没の危機感、サスペンス性が希薄になったのは興ざめだった。そして、輝義の最後の推理であかされるトリックの源泉がクイーン「エジプト十字架の謎」の如き顔のない死体とあっては、既視感が強くてガッカリ感を覚えた。読みおえて、全体像を眺めれば、"古典への仄めかしのアイディア"を繋げた感があることには落胆を禁じ得なかった。
2022.02.23
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喫茶店「北斎屋」友人なつこと共に経営しているわたし、あやめは、店の常連客らと瀬戸内海の孤島Sへ慰安旅行としゃれこむ。しかしS島は新興宗教「オアンネスの息子」の信徒の焼身自殺事件が起きたいわくつきの島だった。外部との通信手段はなく、交通手段はモーターボートだけのS島の八人となったのはあやめとなつこ(寺島ナツ子)なつこの彼氏、椋隆之矢島鳥呼と妻の奈奈子田中幸宏とその彼女、松島静香田中の友人守田充あやめは実は矢島との不倫関係に悩んでいた。島に着いて2日目の朝、奈奈子が施錠された硝子の扉の部屋で遺体となって発見される。遺体の心臓は抉られて持ち去られ、凶器は見つからなかったが、茶室にあった日本刀を改めると一振が血塗られていた。一同は犯人捜しに侃々諤々。唯一モーターボート操縦が出来る椋は、疑われた腹いせにボートの鍵を海に投げ棄ててしまう。そんな椋が次に殺され、椋の遺体とともに別荘に設置してある二体の彫像と日本刀が放火された。燃え尽きた彫像の中からは、二体の白骨が出てきた。生き残った者たちは山狩りで犯人をあぶりだそうとするが、あやめは何者かの襲撃を受け、田中は崖から転落死してしまう。顔の潰れた無残なその死体は本当に田中のものなのだろうか.....疑心暗鬼が深まる中、矢島も階段から突き落とされるものの、一命だけは取り留めた。回復した矢島はある人物に事件の真相解明を託す。その人物の犯人指摘で事件は解決したかに思えた。にもかかわらず、矢島は縊死を遂げてしまう。その死の後で、さらなる驚くべき真実の犯人像と、意外な犯行動機が暴かれ......--------------------ネタバレあり:::::鮎川賞受賞作だが、私にとって魅力あるミステリーではなかった。もともとミステリーにおける一人称語りは好きでないせいもあるが、幻想小説風味をだそうとしてか、読みづらさを感じる一人称視点の文体。ホームズやファイロ・ヴァンスのように視点人物に事件の記述者としての立場が明瞭に設定されている場合は良しとするが、それはまた別の話。それに「コォヒィ」とか「ボォト」といったカタカナ表記への拘りは何の意図あってのことか。簡明で読みやすい文体で中井英夫や泡坂妻夫は幻想的な作風のミステリーを著している。と、比べるのは烏滸がましいか。それともまたあの○○トリックか。ならば仕方がないと我慢してお付き合いする。案の定、某作家の古典的名作のいくつかを意識した設定。それでなくても第一の殺人の段階で、犯人はあれかかれかしかないじゃない、と推測できた。結局これが当たってしまう。密室トリックは、心理的盲点をついた着眼点が良いと、一応言っておこう。その可能性を私は考えられなかった。しかし最期のどんでん返しは伏線回収が不十分で、意外な動機の提示も無理筋で特進が行かない。〇〇人物 を ○人 にしてしまえば何でもありで、○○ならない○り〇 ならば 〇の〇 でも、嘘のつき放題だろう。それをアンフェアと批判されても、その可能性を推測できなかった読者の不覚であると押し返せる。そんな謎の構築になは甘さと、曖昧さ、狡さを感じるばかりで、騙されてもお見事と言えず、嘘を見破っても快感が得られない読後感。「確証のないことをおもわせぶりに言うなら、わたしたちだって負けないわよ」『虚無への供物』の女探偵の言葉が本作中で引用されているが、それはそっくり作者にお返ししたい。
2022.02.18
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探偵安威和音は、行方不明になった女子高生を捜す依頼を受け、新興宗教『こころの宇宙』の教団施設、心在院へ記者になりすまして潜入する。深山にある施設の瞑想室掌室堂には、百年前開祖である修験者が施錠された室内から消失したという伝説があった。そんな頻発する山奥の教団内で起こる密室殺人事件。10代の少女 是臼真理亜 と雑誌記者の 林 が身体を切断された遺体となって発見される。真理亜こそ和音が探していた女子高生であった。警察への通報も儘ならぬ、閉ざされた宗教世界にあって、教祖である14歳の少年、神室密は、自ら探偵役を勤め真相を解明すると和音に宣言する。密はある信者が二件の密室殺人の犯人だと指摘するが、その者は自ら毒を仰いで死ぬ。しかし和音はその死は自殺ではなく、他殺であることを見抜き、新たな推理を披露し、真犯人を暴き出すのだった。--------------------宗教施設内で探偵が人探しをするプロットとは、マーガレット・ミラーの「まるで天使のような 」のような?そこで起こる密室殺人のトリックなら、天城一の「高天原の犯罪 」みたいな?などということはなかった。先行作品を参考にして推理する手はこの際通用せず、新興宗教施設内での殺人ならでは、リアリティ無視の登場人物設定、バカトリック、何でも許されるという偏見を以って読んだ。大筋においてその通りだったかな。教団ぐるみで殺人を犯して、隠ぺいしようとしている、つまり全員が共犯者というせんも考えたが、それはなかった。探偵役密が〇〇という考えも一瞬頭をよぎったが、これはすぐ却下、で正解。ただしいつもの此方の思考パターンで犯人の正体より探偵の正体が気になったが、気になって当然の結末。ヘンな人の集まり信者の中にあって、随一まともらしく見えた和音が...そう来たか。もはや探偵のフーダニットの考察は新本格のお約束らしい。しかし人物の裏事情まで推理したり想像するのは、無理ってものだろう。宗教の命題の延長上にあるような、余りにも特殊な殺人の動機、これもわかり得ない。それを以て意外な動機と呼べるものかどうか。人間焼失や密室のトリックも実現は無理そうな現象だが、そこは奇跡的?に起こったとでも思えばいいのだろうか。蛇足ながら、子供が出てくるミステリーは嫌いなせいもあって、密のキャラが気に食わなかった。がこれも何でもありが前提のストーリとあって止む終えない。我慢して終章まで付き合った。読み終えて、ロジックがひどく破綻しているわけでもないのに、言い難い不全感、納得のいかなさが残る。宗教と信仰という得体のしれない論理的整合性なき情念を取り扱った作品の宿命なのだろうか。万が一にも和音と少年教祖様コンビがシリーズ化されても次は読む気がしない。
2022.02.11
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蜘蛛手の推理によって、百日荘の連続殺人事件は解決、これにて一件落着。と思いきや、後日犯人によって企まれていた「最後の殺人計画」が明らかになる。その果たされなかった殺人で犠牲になるはずだったのは........衝撃のラスト。----------------------ネタバレあり。:::密室殺人の物理トリック。これは建築の専門知識がなければ解けないとわかりきっているので、パスして思考停止。専門外の此方がどれほど考え込んでも下手の考え休むに似たりで時間の無駄だわ。まっ、素人はそれでいっか。果たして、専門知識があっても想定外のバカトリックだった。この奇想にはどんな妄想力も及ばないだろう。フーダニット。過去の転落死事件と大広間の殺人の犯人は蜘蛛手でなくてもわかりそうなもの。だってあの人物の他に誰もいないじゃない、と私にも判った。挑戦状の超難問は2015年の三者三様の密室殺人事件の下手人。容疑者〇〇が●●(A・クリスティーの某作)事件の被害者であると同時に〇〇○つまり●●(S・ジャブリソの「*****の○」)の趣向に論理的根拠もなく、相似性を感じて当て推量で犯人像を描こうとしてみた。ところが、真相の一端くらいをかすった程度に終わる。ロジカルな思考ではなく、読書経験値から直感で妄想してたらそんなもんでしょう。禁じ手の〇〇による人物入○、人物〇誤トリックを使っているのは西村京太郎の某作を思い起こさせた。しかもミステリの禁じ手を敢えて犯しつつも、ノックスの十戎の示すところ第10戒 〇〇や一人二役の人物を出す場合、存在をあらかじめ読者に伝えなければならない。 (ノックス)〇〇の存在を示す手がかりは地の文にすべて記述され、解決編までに読者に推理の手がかりはきっちり与えられているのが憎いではないか。読み返して自らの不明と不覚を恥じることになる。私こそノックスの十戒に反したやり方で犯人当てしようとしているのだから、当然そうなるけど。(._.)↓第6戎 探偵は偶然や勘で事件を解決してはならない。かつて本格ミステリでは斬新なトリックであったものが、新世紀のミステリ界では顧みられず廃れていくエンデンジャー(絶滅危惧種)になりつつある。それらのアイディアを敢えてあれもこれも採択し、新しい奇想へと変奏させた作品。本作は傑作とも名作とも言い難いが、奇作であることは間違いないというのが個人的な評価である。だから本作の謎を解けるのも、知識や推理力だけでなく、想像力も妄想力の斜め上を行く奇想の持ち主が奇策を用いてしか解けないだろう。奇想には奇想を。奇作に対峙するには奇策を持ってせよ。と、推理が及ず挑戦に惨敗したfrauleinneinの言い訳。
2022.02.07
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2009年、百白荘のゲストハウス、キューブハウスから施工業者鍋倉が転落して死亡した。雪の積もった現場に足跡はなく、事故死とされた。2010年、本館の大広間で設計者赤津が首吊死体となって発見される。川崎警部と刑事窪田が二つの事件の捜査にあたったが、謎は解明されず迷宮入りとなった。2015年、鍋倉の婚約者の依頼を受けた蜘蛛手と宮村のコンビはキューブハウスに乗り込み、調査を開始する。ハウスの客は医師の早田、歌手の水上ミキ、会社取締役の牛野。水上が浴室で刺殺され、その遺体は切り刻まれていた。牛野は首と両腕のない遺体となって浴槽で発見される。いずれも密室殺人事件。 牛野はミキ殺害事件を警察に通報したはずだが、駆けつけた警察は通報は受けていないと言う。調査の最中、蜘蛛手は何者かに襲われるが、その人物が犯人なのだろうか。「過去の事件の犯人はわかった..........大座敷のトリックの一部と現在の事件の犯人とその動機だけがわからない」と蜘蛛手は言う。そして早田も密室で殺害される。やはり浴槽に浮かぶその遺体は、上半身、下半身が切断され抉られた腹部は持ち去られていた。早田の殺害事件の翌日、百日荘の女主人である宇佐美晃子までが、溺死体となって発見される。百日荘の使用人浜崎に、宮村は疑惑の目を向けるが、彼にはアリバイがあった。*「新本格ミステリ愛読者への挑戦状」ここで使用されているトリックは、大胆不敵なものであるが古典と言われる本格推理小説から新本格へと続く、本格ミステリを愛する読者にとっては、既に市民権を得ているものと解釈する..........::..........三件の殺人事件の犯人の名前を指摘することはどんなに頭脳明晰な読者にも不可能であろう。: しかしそれでも犯人を特定することは十分可能である。では健闘を祈る。*お約束の「読者への挑戦状」があって川崎警部以下警察関係者が百日草に集う中、蜘蛛手は百日荘で起きたすべての事象の謎解きをはじめるのだった。--------------解決編、ならぬネタバレチラ裏へ続く。なんか疲れたので、あとは後日のお苦しみということで。
2022.02.03
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筆者巻頭贅言 ↓辺境の井戸の底を覗く奇特な方なんて誰もいない!!!とは思いますが以下「硝子の塔の殺人」の結末に触れておりますずばり真犯人の名指し、トリックの種明かしなどはいたしませんが極私的な妄言による記述ゆえネタバレ一切禁止、誤読はゆーるーさなーい(`●、∀・´)という向きはご注意下さい::::-------------------- 名探偵、皆を皆を集めてさてと言い「今回の事件では後期クイーン的問題は考える必要はありません」とダメ出しをした上で推理を披露する月夜は三つの密室殺人のトリックを解明し、犯人を指摘する。第二、第三の殺人事件の犯人とされたその人物は、毒入りカプセルを嚥んで自ら死を選び、遊馬はその者に神津島殺しの罪をも着せることに成功したかに見えた。しかし事態は一転、神津島殺しだけは、遊馬の仕業であることを月夜は見抜いていた。俺は、何処で間違ったんだろうな.....塔の最上階展望室に閉じ込められ、警察への引き渡しを待つあいだ、思考を巡らす遊馬はついに硝子の塔で起きた一連の惨劇の裏に隠されたある真相にたどり着く。そして遊馬からも「読者への挑戦状」 「私は読者に挑戦する。あらたな情報が開示されたことでこの「硝子館」で起きた惨劇の真相を導くことは更に容易になっている。この硝子館で何が起きていたのか。それをぜひ解き明かして欲し い。 これは読者への挑戦状である。諸君の良き推理と幸運を祈る。」--------------------考えるなと言われると返って考えてしまう後期クイーン的問題。というわけで、犯人は早晩に判ったし、先行作の薀蓄百出がヒントになって、張られた伏線も大筋で推測ができた。お化けが出るとわかり切っているお化け屋敷で冒険するようなもので、意外な犯人や想像もつかない結末がなかったのは残念。物理トリックは流石に思いがけないもので、これはお手上げで思考放棄。(ただし前述したようにリアルにありえない建物の中で仕掛けるトリックなので、破綻と思われる箇所もある)もとより、作者は意外な犯人や、かつて無い奇矯な発想や予測もつかない展開の物語を創作しようとしたわけではないのではないか。既視感のあるプロットや、ステロタイプに思われるキャラ設定は本格ミステリの類型を意識してなぞってみせ、それで読者に手がかりを与えたのかもしれない。島田荘司の後書きが言うところの『すべては「新本格」作法の完璧な具現』しかし完璧な作法で描かれた作品が必ずしも傑作であるとは限らない。本作は問題作ではあるだろうが、傑作、名作を読んでの新たな視界がひらけるような感覚を得るには、この本は既読感があり過ぎる。それも、作者が先行の新本格作品へのオマージュを詰め込んだゆえ致し方ないとはいえ。
2022.01.29
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遊馬は延々と続く月夜のミステリ談義を聞かされる。ようやく本題の事件の推理に入ったと思いきや、第三の事件が起きた。サブキッチンでぼやが発生て火災報知器が作動し、メイドの円が密室で刺殺されていた。その遺体はには拷問の痕跡があり、何故かウェディングドレスが着せられていた。そして遺体が身につけていたコルセットに血文字で描かれた「中村青司を殺せ」綾辻行人の「館シリーズ」に登場する架空の建築家の名前。月夜はそのメッセージを解読し、邸内の隠し扉を見つける。扉の向こうにあったのは秘密の地下室への階段と、地下室に眠る白骨遺体だった。月夜は白骨が「蝶ヶ岳神隠し」の犠牲者であると指摘し、その謎を解明してみせる。その後、硝子の塔の螺旋階段を調べていた遊馬が、何者かによって階段から突き落とされた。やはり殺人鬼が館に潜んでいて、皆殺しを企んでいるのか。そいつは、さらに神津島の遺体に踊る人形の暗号文を書いた紙を、ナイフで突き刺すという細工を施していた。「この美しくも哀しい事件を解決するための手がかりは、もうすべて手に入れている」と宣言する月夜。そして 読者への挑戦状 。「私は読者に挑戦する。…必要な情報はすべて開示された。…ぜひそれを解き明かして欲しい。…諸君の良き推理と、幸運を祈る」--------------------「硝子の塔の殺人」について私が推理した二、三のことがら作中作の存在が何を意味するか(メタミステリーなので)真の「探偵役」は誰か殺された人物の中に犯人が隠れている可能性(某先行作のように)その他諸々あるのだが、考えすぎてもカオスに陥るのでこれくらいにしておく。何よりも、開示された情報はすべて正しいのかどうか。遊馬の視点と、月夜の推理がすべての真実を伝えているとは限らない。と、後期クイーン問題を意識した疑いをもって、最終日へ向かうとしよう。
2022.01.27
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翌朝、鍵のかかったダイニングで火事が発生する。扉を破って中に入った一同が目にしたのは執事老田の刺殺体だった。ダイニングテーブルのクロスの上には「蝶ヶ岳神隠し」の血文字。それはかつて加々見が追っていた、13年前の迷宮入り連続殺人事件の呼称だ。老田殺しの犯人と、蝶ヶ岳神隠しの犯人は同一人物なのか。加々見が警察に通報しようとするも、電話線とネット回線は切断され、Wifiも繋がらず、雪崩で交通手段までが断たれ、硝子館はクローズドサークルと化してしまう。まさに本格ミステリーの世界。もうひとりの殺人者がこの館に潜んでいる・・・・遊馬はその人物を見つけ出し、自分の罪をなすりつけるべく決意を固めた。そのために敢えて月夜に擦り寄って、自らワトソン役を買って出る。月夜は相棒となった遊馬に、明日になったら事件の推理をすると約束する。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー第二の犠牲者が出る。執事の老田。これでヴァン・ダインの20則に反した設定で、「犯人は執事」はなくなったわけだ。これは想定内。それではメイドも犯人候補から一旦除外しようと考えた。遊馬以外の者の犯行らしくみせかけているが、これはトリックかもしれない。過去の事件と現在の事件を繋ぐミッシングリンクが出現したので、加々見というキャラも俄に注目を集めるようになった。この男本当に刑事なの?と怪しみだすと、霊能者だって編集者だって本物かどうか確たる証拠は地の文で明示されていない。霊能者なんて胡散臭さの極み。ミステリー作家にしても、作中では実在の作家になっているが本人を騙った真っ赤なニセモノだったらどうしよう。と、フーダニット疑獄に陥りそう。まさか生存者全員が。。。。。のアレ?まさかそこまでベタな本歌取りはないだろう。ところで、建物の構造を利用した物理トリックについては余り真剣に考えないことにした。硝子の塔の発想そのものがリアルありえないので、そこで仕組むトリックも実行不可能そうなので。と、面倒な考察は避けるために思考停止。「硝子の塔 図解」
2022.01.26
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遺伝子治療学の泰斗にして、稀代のミステリマニア神津島太郎の硝子の塔の形をした奇妙な館カ、硝子館。 館では神津島曰く、ミステリーの歴史を覆す未発表原稿のお披露目のため、多士済々の人々が招かれていた。刑事 加々見、自称名探偵 碧月夜、霊能 夢読、ミステリー作家 九流間、編集者 左京。その重大発表直前、神津島の主治医一条遊馬はフグ毒入のカプセルで彼を毒殺し、病死にみせかけようとする が、瀕死の神津島が内線電話で執事に助けを求めたため、殺害現場を密室と見せかけて、自らへの疑いの目を逸らすべく画策する。しかし月夜は神津島の死が殺人であることを喝破し、加々見が制するのも無視して密室殺人として、調査を開始するのだった。推理小説への薀蓄、本格ミステリー講義に脱線しつつも、事件を推理する月夜は、さっそく神津島が残したダイイングメッセージ「Y」の謎を鮮やかに解き明かす。遊馬はこの名探偵の鋭い追及を躱すことができるのだろうか。--------------------お館もの、クローズド・サークル、毒殺と密室、連続殺人、名探偵、読者への挑戦状、といった本格ミステリへの萌のすべてが詰め込まれた作品。ということで本書を繙き、メタミステリの世界をしばし彷徨うことにした。医師が第一の殺人を犯す、プロローグの描写こそ倒叙ものでないのに、それらしく見せかける叙述とりっくであろう。騙されないぞと心に刻む。それにしても、○カの男役のような男装の麗人探偵のキャラの、エキセントリックなわざとらしさは鼻につく。でもこれは作者が故意に、ラノベ風キャラへのアイロニーとして造型してみせたんじゃないか。だったら、我慢して最終章まで付き合わねば。いや、自称名探偵の月夜こそ正体不明の怪しさではないか。まさか探偵が犯人の掟破り?その可能性も視野に入れつつ、二日目へ時空旅行するとしよう。
2022.01.23
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死体のそばにトランプのカードを残す、ジョーカー連続殺人事件。その犯人として逮捕された私、田宮亮太は自白を強要され、幼女誘拐殺人の罪で起訴される。私は裁判で冤罪を主張し、真犯人を見つけ出す決意を固めた。国選弁護人の助けを借りて情報を集め、無実の私を嵌めた者は誰か推理を巡らせる。被害者家族の中に犯人が隠れているとしたら?教育評論家浅野初子の息子が誘拐された。警察に届けることも出来ず、元夫の協力も得られぬ初子は、身代金引き渡しに一人奔走するも、犯人に翻弄されるばかりで、息子の安否確認は取れない。あの子は無事なのか。すでに殺されているのではないか。何よりも息子を誘拐したのは誰?--------------------交互に描かれる法廷劇と誘拐劇のハラハラ・ドキドキの緊迫感よく描けており、面白く読ませるが、叙述トリックであることは序盤からネタが割れているうえ、結末に登場したラスボスの告白で種明かしときて、がっくりきた。登場人物全員が共謀して一人をはめようとしているとか、一周回ってやっぱり容疑者が真犯人だの、よくあるプロットの二番煎じのではあるまい、柳の下に泥鰌はいまいと思っていたのに、まんまそれとは。非凡を期待していたら凡庸な着想だったという意味で意外性を狙ったにしても、もうその手は効かない。既読感のありすぎるトリックや、文字通り仮想法定とはいえ、まったくリアルにはありえない設定で無理筋な終わらせ方には興ざめである。小手先の技巧に終わらず、もっと斬新な発想のミステリーが作れる作家だと思っていたのに、なんだかなー。
2022.01.22
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謎の組織「斑目機関」が関わった二つの事件に遭遇した後、学生生活に戻った葉村譲は、またしても剣崎比留子とともに奇怪極まりない事件に巻き込まれる。成島IMS社長成島の依頼を受けて斑目機関の研究資料を捜すため、成島と秘書の裏井、そして多国籍の傭兵6人とともに、テーマパーク「馬越うまごえドリームシティ」の中にある運営会社会長不木の私邸「兇人邸」に侵入した葉村と比留子。同行したテーマパーク従業員グエンによれば、邸宅に招じられた者は謎の失踪を遂げているという。一同は邸内で、取材のため忍び込んだフリーライター、剛力京と遭遇する。しかし兇人邸は人間の首を切断して殺害する隻腕の「巨人」が跋扈する化け物屋敷であった。傭兵コーチマン、チャーリー、アリが、従業員グエンが、屋敷の当主不木が、使用人雑賀が、血祭りにあげられ首無し死体となり、ついに成島までが殺害され比留子も皆とはぐれてしまう。生き残った者たちも脱出の可能性を断たれた中、孤立しながらも比留子は意外な推理を披露して、不木殺しの犯人と対峙するのだった。犯人は不木殺害は認めたものの、首の切断はしていないと主張する。これは何を意味するのか。第二、第三の殺人者がいるのだろうか。比留子と葉村は真相を解明し、兇人邸からの帰還を果たすことが出来るのか。---------------------葉村と剛力の二人の視点での語りで事件が進行し、そこへ過去の追憶が挿入される。話の辷り出しは退屈で学生同士で日常の謎の推理ごっこ。特殊設定ミステリなことはわかりきっているのだから、さっさと非日常の異界へ行ってくれ。との希望通り、リアリティ無視な設定で化け物屋敷で暗闇にドッキリな展開が程なくはじまった。視点人物、葉村譲と剛力京の記述で各章が構築されているので、叙述トリック、よくある あれだろうと型通りに疑う。当たらずとも遠からず、中盤で殺人者が割れるあっけなさ。ただしあらたにハウダニットの提起がここであり、犯人は殺したが首を切っていない、誰がどうやって首を切ったかが問題だ。もうひとつ突っ込めば、何故首をきらなければならないのか、首のない死体(胴体部分)は誰なのかも考えねばならない。これも難問か。あれこれ思いを巡らすも、結論の出ない考察は回収されない伏線に等しい。一部しか推理は当たらなかった。ある人物が犯行を行ったことは成島が殺された段階で判った。しかし殺害を行った者の正体が意外なのだが、これはロジカルに推理できるものではなかった。殺人の中に隠された殺人、結局ロジカルに犯人当ての対象になるのは雑賀殺害の件のみか。ナントカの考え休むに似たりで、徒に思考と時間の無駄遣いをした。かようにクローズド・サークル、首なし死体、のモチーフの定石どおりの推理をしても正解にたどり着けないように仕組むところが作者の謎づくりの巧妙さだろう。それは認めるが、結局ロジカルな検証が尽くされぬ部分を残したまま、次回の予告を思わせるある人物の登場で幕となった。なんか思わせぶり。そろそろゾンビだの巨人だのが跳梁する世界に付き合うのが鼻についてきた。まして個人的にまったく魅力を感じない探偵役とワトソン役とのお付き合いにおいておや。次作あたりでこの世界の全体像をクリアにして、伏線回収がきっちりなされることを望む。
2022.01.16
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男女が交わって生じた「結合人間」から、稀に嘘が全くつけない「オネストマン」が生まれる世界。その世界の孤島で殺人事件が起こる。しかし島にいるのは7人のオネストマンばかり。彼ら全員が犯行を否定する、という不条理は何を意味するのか。異常な世界で起きた更に異常な事件に解決はあるのか。--------------------スマリヤンの論理パズル「嘘つきのと正直者の島」のようなもの?論理パズルを解くようにしてパズラーのミステリも解けばいいのか??などと、勝手な先入観で、誰がオネストマンなのかを思考したところで謎は解けっこない。推論の命題は誰がオネストマンかではなく、なく誰が結合人間なのかだったのだから。作者は結合人間という両性具有とも性別不明ともいえる設定を、人物錯誤(人名錯誤)トリックに巧妙に生かしている。「結合人間は一般人とは違う四つの目、各四本の手足」って、カフカの「家長の心配」に出てくるオドラデグなる無生物とか、倉橋由美子の「宇宙人」に出てくる宇宙生命体とかをイメージするくらい想像力というか妄想力がいる。凡庸な想念の斜め上を行く空想界の犯罪は凄まじい。異界設定を思いつくこと自体は難しいことではないかもしれない。しかし、そのぶっ飛んだ発想をクロスワードパズルのようにきっちりロジックに嵌め込み、本格ミステリの世界観として構築するのは難事だろう。それをやってのけるのは並大抵の才覚ではない。騙された悔しさはあっても、作者の瞠目すべき才覚には脱帽せざるおえない。何よりも、序盤から中盤の男女(?)の結合描写をグロはイヤ!!と、読み飛ばしたりすると、謎解きが出来ない伏線が仕掛けられているとは憎いではないか。こちらはエロはともかく、過度のグロやスプラッターはげんなりする質なので、スルーせず読むのに結構な忍耐がいったが。で、忍耐のかいなくオネストマンにばかり気を取られ、結合人間への考察をおろそかにしての惨敗。以上多言駄弁を弄してきたがミステリーとして優れていても、異世界もの苦手、何よりもグロがイヤ(エロも)!スプラッターキモい!!特殊ジェンダーの設定なんて許せない!!!という御方には無論おすすめ出来るものではない。地雷を踏みたくない方は注意。と、警告して終わるとしよう。
2022.01.11
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