突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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2009.08.02
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 シリウスはあわててマリスの巣穴に向かって駆け出した。

 変だぞ。 “めくらまし”にかかっちゃったのは俺のほうなのか? 何かやり方を間違えたのかな?
 シリウスは立ち止まり、混乱しそうになってどきどきし始めた胸をさすりながら考えた。
 待て待て、だまされるなよ、落ち着いてよく考えるんだ。 もし“めくらまし”にかかっちゃったのなら、今マリスの巣穴の見えているのは、本当は後ろなんだ。 だから、マリスの巣穴に近づきたければ、逆に、離れようとすればいいわけだ。
 そこでシリウスはくるりとUターンして向こうに見えるムクの木目指して走り出し、適当なところで足を止めた。 だいたいこのあたりがマリスの巣穴のはずだ。 ここでくるりと振り返ればたぶんマリスの巣穴は目の前・・・
 くるりと振り返ってみて、シリウスは目を丸くした。 
 マリスの巣穴は、さっきと同じところにあった。 まるで、さっきから一歩も動いていないみたいに。
 変だな。 ずいぶん走ったと思ったんだけど、実は大して走ってなかったのかな。

 少し走るとおかしなことに気がついた。 正面に見えているムクの木がぜんぜん動いていないのだ。 今あのムクの木に向かって走っているシリウスの目には、どんどん逃げていくように見えなければならないはずなのに。
 不安になってきて、走りながらちらちら後ろを振り向いてみると、マリスの巣穴も、やっぱりぜんぜん動いていない。 横の景色だけは普通に、前から後ろへと動いていて、シリウスはたしかにムクの木に向かって走っているのに。 いや違う、ムクの木に向かって走っているんだから本当はムクの木から離れているはずなのだ。
 背中を伝って、冷たい汗が流れ始めた。 息を切らして走りながら考えているうちに、シリウスはだんだん頭がこんがらかってきて、もう、どっちがマリスの巣穴でどっちがシリウスのムクの木なのか、前が後ろなのか後ろが前なのか前が前なのか後ろが後ろなのか、何がなんだかわからなくなってしまった。 シリウスは足を止め、はあはあと息を切らしながら前後の景色を見比べた。 こんなに走ったのに、前後の景色はさっきとぜんぜん変わっていない。 それに気がついたら、顔からざあっと血の気が引いていくのが自分でもわかった。 
 マリスの巣穴の中で、なにか金色のものが動いたような気がした。
 シリウスはわらにもすがる思いでマリスを呼んだ。
 「マリス! そこにいるんだろ? 俺の声、聞こえてるんだろ? 返事をしてくれよ! ねえ、そっちは俺の前なの? 後ろなの? マリス! 頼むよ! 意地悪しないで、教えてよ!」
 でも巣穴の中はしんとしたまま、マリスが顔を見せる様子はなかった。 さっきマリスの金色の頭が見えたと思ったのも、気のせいだったのかもしれない。 マリスはもう巣穴の奥深くにもぐりこんで、丸くなって眠ってしまったのだろうか。 そういえばもう、お日さまもだいぶ西に傾いている。
 早く帰らなきゃ、と、気が焦ってきた。
 お日さまが沈んだあとは、もうリシャーナの子どもは森の中を歩き回っていてはいけない掟なのだ。 昼間は無害な鳥や獣や虫たちも、お日さまの光の見えない夜になると、不気味な意地の悪い魔物に変わって、人に悪さをするから、なのだとか。 もちろん、そんな作り話を真に受けるほど、シリウスはもう小さな子どもではないけれど、夜の森はやっぱり気味が悪い。 それに、掟破りを村の誰かに見つかったら、たちまちみんなの間に『夜中にこっそり森で遊んでた、悪い子、悪魔の子』とうわさが広まって、明日から誰にも相手にされなくなってしまうかもしれない。
 シリウスはびっしょりかいた汗をぬぐって、重たい足を引きずりながらとぼとぼムクの木に向かって歩き出した。 もう前後が逆に見えていることなんてすっかり忘れていた。 ただ、このいやな魔法が早くとければいいのに、と、そればかりを願って、一向に動かないムクの木を見ながら歩き続けていた。
 風が出てきて、あたりがひんやり寒くなってきた。 もうすぐ夜が来るのだ。 街のほうへ遊びに行っていたカラスたちが、上空を、柔らかい声で鳴き交わしながら、モミの木の森のほうへと急いでいる。 一日中走りまわっていた足はもう棒のようだし、おなかもすいてきた。 のどもからからだ。 早くねぐらに帰って温かいベッドにもぐりこみたい。

 いつまでも同じところに立っているムクの木が、だんだん涙でかすんできた。
 シリウスはとうとう足を止め、地面に座り込むと、声を上げて泣き出した。
 すっかり冷たくなった夜風に身を震わせながら、シリウスは、小さな子どもみたいにただ泣きじゃくることだけしかできなかった。





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最終更新日  2009.08.02 17:01:39
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