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千菊丸2151さんコメント新着

その刹那、ミケの脳裏には、剣の光芒にも似た鮮烈な幻影が走り抜けていた。
――― 見知らぬ人間が、巨大な牙を(それは人間たちが『ナイフ』と呼ぶ、無敵の恐ろしい牙だった)ふりかざして自分に襲い掛かってくる、身の毛もよだつ光景だ。
残忍な、喜悦の表情を浮かべた人間の顔。
腹に、背骨に、顔に、めった刺しにつきたてられる牙。
その凍りつくような恐怖。
耐え難い痛み。
その幻影はまるで自分自身が体験した出来事のようになまなましく、身震いするような現実感を伴っていた。
――― ちがう! これは現実ではない。 悪霊と化したこの猫が、死の直前に目にした恐怖と苦痛の記憶 。 おそらく変質的な人間に捕まって惨殺されたと思われる、憎しみの記憶なのだ。
そのことにはすぐに気づいたが、頭で理解していても、その圧倒的な恐怖と苦痛を、精神の力で押さえ込むことは困難だった。
すさまじい恐怖に、体が硬直する。