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闇に包まれた部屋の中では、いつものように、青緑色の大きな目玉が二つ、ぽっかりと宙に浮かんで、たまこを待っていた。
「おお、しばらくだったね、たまこ。 おなかがすいてるだろう? さあ、美味しいキャットフードを、おなかいっぱい食べなさい。 これを食べないと、おばかさんになっちゃうよ」
たまこが何か言おうとする前に、また、あの、なんともいえない良い匂いが漂ってきて、たまこの足もとに、すっ、と、赤いキャットフードを山盛りにしたお皿が差し出された。
それを目にしたとたん、どうしたことだろう、たまこは、頭がくらくらするほどの耐え難い空腹感に襲われて、何もかも忘れ、つい、ふらふらと、キャットフードに向かって足を踏み出してしまった。
そのときだ。
たまこの後ろで、聞き覚えのある鋭い怒声が響き渡った。
「だまされてはなりません、珠子お嬢さま!」
はっとわれに返って振り返ると、そこに立っていたのは、金色の瞳をらんらんと光らせ、きびしい表情でたまこを見下ろす、ミケだった。
「ミケ! 無事だったのね!」
深い安堵の思い ――― おかげで赤いキャットフードのことなんかころりと忘れて、駆け寄るたまこに、ミケが母猫のように優しく寄り添って、青緑色の目玉を睨み上げた。
「お嬢さま、だまされてはなりませんよ。 その魔物は、命あるものに夢まぼろしを見せてあやしの世界へと誘い込む大嘘つき。 しっかりと目を開けて、その皿の上のものの正体を見極めなさいませ」