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千菊丸2151さんコメント新着
カウンターの上に、出来上がったラーメンを3つ並べて、おばさんがくすくす笑った。
「あらまあ、それじゃあ美緒ちゃんがかわいそうだよねえ」
そうでしょ?そうでしょ?とうなずく美緒を、めっ、と睨んで、珠子は椅子から立ち上がり、美緒の襟首から捨吉を引っ張り出そうと手を伸ばした。
「じゃあ、あたしが捨吉のお守りをしててやるから、あなたが先にこのラーメンを食べなさい。ただし、次にあたしのラーメンができるまでの間に、3分以内に食べ終えて出てきてよねっ」
美緒が慌てて捨吉を抱え込む。
「だめーっ! お姉ちゃん、ステちゃんに冷たいんだもん。 ステちゃんを通りの真ん中にほっぽり出すかもしれないもん。 だいたい、捨吉なんて変な名前をつけたのもお姉ちゃんでしょ。 あたしは最初っからこの子の名前はホワイティと決めてたのに」
「・・・ほ、ホワイティ?」
ぷーっ、と吹き出して、正樹が手を伸ばし、美緒の頭をくりくり撫でた。
「じゃ、美緒がラーメン食べてる間だけ、ホワイティ・ステを昇一さんとこの娘さんたちに預かってもらえ。 外の駐車場で遊んでただろ? 二人とも、猫が大好きだって。 今まで住んでたアパートでも、大家さんの猫といつも遊んでたっていうから、猫の扱いにも慣れてるぞ。 ほら、行ってこい」
カウンターの向こうから、おばさんが苦笑しながら声をかけた。
「いいよ、いいよ、じゃ今日だけ特別に、美緒ちゃんのセーターの中にいる限りステちゃんの入店を認めてあげる。 どうせまだ開店前だしね。 さ、いつまでももめてないで、珠子ちゃんも正樹くんも、早くラーメンを食べなさい。 美緒ちゃんのもすぐにできるからね」
ひとりさっさと食べ始めていた虎雄も口をさしはさんだ。
「そうだよ、せっかくのラーメンがのびちゃうぞ。 ばたばた動き回るとよけい猫の毛が飛び散る。 みんな、おとなしく座れ」
珠子に向かってアッカンベーをした美緒が、カウンターのほうへ向き直る。
「おばさん、ありがとう! ・・・ねえ、昇一さんのお嬢ちゃんたち、あそこで何をしてるの? 駐車場の奥の生垣のところで二人でじっと座り込んでるから、どうしたの、って声かけたら、ここに猫のお墓があるから拝んでるの、だって。 どういうこと?」
新しいラーメンの玉を入れた大鍋をかき混ぜながら、昇一さんがちょっとカウンターのほうを振り返った。
「そうなんだ。 あそこには古い猫のお墓があるんだよ。 俺も今度帰ってきて、正樹に言われてやっと思い出したんだけど、実はオレも、子どものころ猫の子を拾ったことがあってさ。 美緒ちゃん、君たちがミケを拾ったのよりずっと前のこと」
