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シリーズ第8弾は、前巻のお話の続き。 2020年9月2日、絶体絶命の危機に陥った夏希のもとへ、何故上杉が現れたのか? その経緯が、2020年8月19日に遡って、記されていきます。 特別捜査でフランスに出国した北条直人は、5月17日以降消息を絶っていました。 織田と上杉は、2020年8月21日、北条の行方を追ってパリへと向かいます。 そこで、贋作を扱う詐欺師のブリュノ・レジェに会い、 8月22日に、レジェから紹介されたマフィアのボス・シモネッティにミラノで会い、 8月23日に、モロッコのメルズーガで、ロシアン・マフィアのムラノフに会い、 8月28日に、サンフランシスコで香港マフィアの盧承徳に会い、 9月1日に、かつて盧承徳の部下だった周天佑に横浜中華街で会います。行く先々で、これまでにはなかった生命の危機に瀕しますが(まるで『高校事変』のよう)、それらを命からがら切り抜け続け、9月2日、織田と上杉は遂に北条と再会を果たします。そして、二人は北条からの連絡で廃業ホテル、サテン・ドール店奥のアジトへと急行。上杉が辿り着くと、《ディスマス》のティファニー・ヤンが夏希に銃口を向けていたのです。上杉と織田は、救出した夏希、小川、アリシアと共にティファニー・ヤンを車で追います。そして、双方の車が停止して車外で対峙すると、北条がティファニーに銃口を向けます。しかしその時、CIAのウィバーらが現れて、ティファニーと北条、仲間の大男を射殺。さらにトップシークレットを知りすぎたとして、全員死んでもらうと宣言したのでした。 ***この後、ミーナがウィーバーに対し、取引を持ちかけます。それは、ダムを襲うクラッキングプログラム《フロウ》の暗号キーを提供するかわりに、全員の殺害をやめるよう要求するもので、ウィバーはそれに応じる姿勢を見せます。すると、ミーナは《フロウ》そのものを、世界中から消滅させてしまったのでした。ただ、このあたりの展開は、少々不可解で戸惑ってしまいました。ミーナも夏希たちも、この場を何事もなく立ち去ることなんか出来るの?ウィバー、上杉に殴られっぱなしで、それで本当に終わる?アサルトライフルを持っている特殊部隊の4人が、何もしないなんてあり得る?読み進めていくうちに、残りページ数がどんどん減っていき、「ひょっとして、さらに次巻に続くの?」と焦っていたら、あれよあれよという間に急展開、ちゃんと今巻でお話は終結しました。でも、3冊分ぐらいかけて、もう少し丁寧に描いた方が良かったような気も……。
2024.06.23
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籠神社第82代宮司・海部直彦が、ニューヨークで、 イスラエルの調査機関アミシャブ代表のアブラハム・ヘルマンと共に殺害された。 海部直彦の息子である賢司・リチャーディーは、 日本総領事館員・度会忠行から、直彦が残した暗号メッセージを受取る。 賢司は、かつて勤めたゴールドマン・サックスで同僚だったイラージ・カーニ、 デービッド・バロン、ウィリアム・王に協力を求め、暗号の解読作業を開始する。 そして、賢司の母・イエナンから、暗号文の文字がアラム語であることや、 日本と古代イスラエルには、数多くの共通点が見られるということを聞かされる。賢司は、父のメッセージやヘルマンが残したメモの意味を解明すべく、仲間と共に日本へ。伊勢神宮で元巫女の田中清美と合流して各所を巡ると、諏訪大社へも足を延ばし、そこで、第78代諏訪大社宮司・兼平正人から、非公開の秘祭を見せてもらう。それは、数千年前にモリヤ山で起こったと聖書に伝わる秘話を再現するものだった。さらに、日本ユダヤ教団では、故ラビ・コーヘンの娘ナオミ・コーヘンの手助けで、彼が隠し持っていた木版画を発見するが、そこに現れた二人組の女に銃口を向けられる。うち一人に7枚の絵を奪い去られるが、もう一人は倒し1枚の絵を手元に残すことに成功。そこには、ラビ・コーヘンが殺害された理由と思われる内容が記されていた。 ***賢司たちが暗号の解読作業を進める中、中国駐日本大使・郭雲雕と駐大阪総領事・周江は、諜報員を使ってラビ・コーヘンが海部直彦から預かっているはずの版画の入手を目指していました。また、下賀茂神社神職・小橋直樹は、なにやら不穏な動きを見せています。 もし、米国メディアと外交政策に強力な影響力をもつユダヤ勢力が日本に急接近すれば、 いま中国が進めている沖縄独立計画にもどんな歯止めがかかるかわからない。(中略) 確かに、イスラエルが突然動き出したこと以外は何の確証もない。 しかし、先を越されて致命的なダメージを受けるのはやはり中国、 何より郭大使自身だ。(p.251)これが、中国が必死になって木版画を入手しようとしている理由。一方、日本総領事館員・度会忠行が、2003年12月10日に、国会議員秘書・池田登から聞いたイスラエルの調査機関アミシャブが、旧宮家に接近しているらしいという話は次のようなもの。 「いいか、笑わないでくれよ。 なんと、天皇家がユダヤの血を引いているかどうかを確かめるために、 髪の毛を採取してDNAサンプルを取ろうとしているらしい」(p.192)そして翌日、度会はラビ・コーヘンから、次の言葉を聞いたのです。 「王家、ユダ族が日本にやって来たということですよ……」(p.217)聖書と日本神話の否定しがたい類似、そして、ユダヤ人が古代日本へ渡来した可能性。これらの謎を解き明かすべく、下巻の読書に突入します。
2024.05.26
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著者は、自らも発達障害当事者であるフリーライターの姫野桂さん。 「第1章 発達障害とはどのようなものか」で、その概略を確認した後、 「第2章 高学歴発達障害が抱える不条理」では、 10人の当事者が、それぞれの実体験を語っていきます。 その10人は、早稲田大学の政治経済学部(2名)、法学部、国際教養学部、 慶應義塾大学の文学部、経済学部、青山学院大学の文学部、上智大学の理工学部、 大阪大学の外国語学部、東京大学の法学部を卒業した人たちですが、 その歩んできた道筋や現状は実に様々で、個々に格段の違いがありました。職場では、学歴によるハードル上昇で苦しんだり、周囲の同級生との違いに落ち込んだり、発達障害に気付いて障害者手帳を入手、障害者雇用の求人に応募する人も。そこに至るまでの道のりは、想像を絶するほど厳しいものがあったことでしょう。しかも、その結果、辿り着いたところでは、次のような現実が待ち受けているのです。 早稲田卒で清掃の仕事をやっているなんて当然現場の人は知らないので、 軽度知的障害だと思われているようです。 子どもに対するような態度をとられたり、 本来なら自分できる仕事まで横取りされてしまって、地味に傷ついています。 配慮は求めているんですけれど、でもその配慮が苦痛になっているんです。 健常者として25年生きてきて早稲田を卒業したプライドもあるので……(p.035)「第3章 発達障害当事者の大学准教授が見た大学」では、京都府立大学の横道誠准教授が、認知行動療法や自助グループ、現在の大学のあり方について、「第4章 アイデンティティと現代社会と発達障害」では、精神科医の熊代亨さんが、高学歴ゆえにアイデンティティが負い目に変わったり、自己像に沿った支援を受けることが難しかったりする現状について語っています。また、「第5章 当事者に対する支援の取り組み」では、筑波大学ヒューマンエンパワメント推進局の佐々木銀河さんが、合理的配慮について、株式会社Kaien代表取締役の鈴木慶太さんが、発達障害支援サービスについて、それぞれの立場から、それぞれの取り組みについて語っています。 ***本著の中で、私が特に考えさせられたのは、まず、第3章の「無意識のうちの差別」における次の部分。 また、最近では、発達障害は「ニューロ・ダイバシティ」(脳の多様性)であるという 捉え方も広まりつつある。 ニューロ・ダイバシティとは、発達障害を「障害」として捉えるのではなく、 「神経系の多様なあり方」として捉えて尊重していく考え方である。 そして、定型発達の人でも多かれ少なかれ凸凹がある以上、 ニューロ・ダイバシティという概念はあらゆる人々を包含するものだ。 全ての人の多様性が尊重される社会をめざすキーワードと言えるだろう。(p.133)私は「ダイバシティ」と聞いて、先日読んだ『正欲』のことがすぐさま思い浮かんだのですが、あの作品を「ニューロ・ダイバシティ」という語をキーワードに据えて読むならば、誰もが「なるほど」と、スッキリした気分になれるような気がしました。続いて、第4章の「コモディティ化した現代の生きづらさ」における次の部分。 人間のコモディティ化(一般化)が進んで、 誰もが誰とでもコミュニケーションできるあり方を要請されるようになりました。 同時に、社会通念や習慣のレベルでも、横並びからのはみだしは良くない、 あるいはイレギュラーなことには容赦しない方向に年来傾いてきたのが 先進国社会の基調だと思うんですよね。 社会において少しはみ出してしまう人は、 かつて昭和時代の頃は大きな問題にならなかったかもしれない。 けれど、この令和時代においては、 そのままでは会社や学校にいてはいけない問題のある人として クローズアップされるようになってしまいました(p.152)私は、この部分を読んで「不適切にもほどがある!」をすぐに思い浮かべました。「横並びからのはみだしは良くない」「イレギュラーなことには容赦しない」令和の時代に、「寛容」さを求めることは、許されないことなのでしょうか。最後に、同じく第4章の「産業構造と発達障害」における次の部分。 ただ、産業構造が変わって、例えばサービス業などの第三次産業の割合が増えれば、 ADHDやASDの人が農業や漁業といった職に就ける確率は減っていきますよね。 そういう人たちでもデスクワークをしなければならなくなる。 第三次産業が台頭していくにつれて人間同士のコミュニケーションをする必要が出てきて、 どんな職場においてもうまく溶け込まなければならないといった要請が 労働者の側に立ち上がってきます。 そうなると、発達障害の方々はこの新しい状況についていけなくなりやすい。 こうしてASDの人は自分にぴったりの リピート作業を奪われていった経緯があるのではないでしょうか。(p.158)昨今の状況では、「職業差別」と糾弾されてしまいそうな危うさも感じてしまいますが、この主張が出来ないような世の中になってしまう方が、よほど不健全かと。熊代さんの『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』は、近々読んでみたいと思っています。
2024.04.07
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日暮里高校2年で新聞部の鈴山耕貴淺、有沢兼人、寺園夏美は、 取材のため顧問教員・植淺と共に東京スカイタワーに行っていた。 そこには、社会科見学に来た池袋高校2年の酒井鮎美や秋田貴昭らもいたが、 展望デッキ内3フロアが武装兵により占拠され、1437名が人質になってしまう。 タワー内には、米軍空母から盗み出された核弾頭が搬入されていることが判明、 政府は犯人から次々に繰り出される「日本存亡チャレンジクイズ」への対応に追われることに。 一方、異変に気付いた瑠那と凜香は、蓮實の制止を振り切ってスカイタワーに向かうが、 サイモン・リドラーに家を襲撃された結衣と、連絡が取れない状況になっていた。政府が「日本存亡チャレンジクイズ」に正解すると、人質のうち40人が解放されていくが、自衛官による展望デッキ奪回作戦は失敗、逆に武装兵の数が増えてしまう。その状況下、凜香は武装兵になりすまし、瑠那は人質に紛れ込んで展望デッキに到達。しかし瑠那は、そこにいたハン・シャウティンに見つかり、拘束されてしまう。凜香は、展望デッキを抜け出していた秋田貴昭と共に核弾頭を探すが見つからない。一方、結衣は、匡太によって差し向けられた瀧島直貴ら7人の閻魔棒に襲撃されるも、「シャウティンの計画を阻止すべきだ」と言う瀧島らについてタワーへと向かう。そして、伊桜里と夏美が合流、さらに東京ユメマチ4階で凜香と秋田が合流したのだった。 ***この後、展望デッキを制圧した結衣は、シャウティンを高さ634mの円形バルコニーに追い詰めます。今巻は、前巻以上に結衣らしさ全開のお話でしたが、瑠那は、これまでにないほど痛めつけられて、かわいそうでしたね。
2024.06.21
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スタートは、前巻までの定番・夏希のデートシーンからではなく、 2020年3月30日に酒匂ダムで発生した原因不明の異常放流のシーンから。 そして、2020年4月30日は、かもめ★百合を罵倒・嘲笑する動画に悩む夏希。 投稿主はVチューバー・波龍で、定期的にこれまで3回アップしていた。 続く2020年5月1日は、やっと北条直人とのデートシーン。 上杉から紹介された北条は、警視庁の警視で、上杉や織田と同期採用のキャリア官僚だった。 そして、2020年9月1日、誘拐事件が発生し、夏希は江ノ島署の指揮本部へ。 被害者は、昨年度の青少年ホワイトハッカー大会で優勝した13歳の龍造寺ミーナだった。その日以降、これまで定期的にアップされてきた波龍の動画が更新されなくなった。2020年9月2日、夏希がSNS上で波龍についての情報を求めると、2人からメッセージが届く。そのうち、ミーナの友人・ユーリと名乗る者に会うため、夏希は逗子海岸駐車場へと向かう。しかし、夏希は何者かに捕らえられ、気付くとそこは米国海軍潜水艦の中だった。CIAのウィーバーは、酒匂ダムを襲ったクラッキングプログラムの製作者がミーナであり、国際的犯罪集団《ディスマス》が、プログラムを悪用すべくミーナを誘拐したと夏希に告げる。夏希は、横須賀米海軍基地で、CIAの通信手段を用いミーナとの対話に成功、その中にミーナが仕込んだ暗号を解き明かすと、横浜関帝廟へと向かう。夏希は、応援要請を受けたアリシア、小川祐介巡査部長と共にミーナの居場所に辿り着く。しかし、突入したCIA5人が銃弾に倒れ、そこに少女を抱えた東洋人の大男と女が現れる。そして、女に銃口を向けられ、夏希が目をかたく閉じた時、一発の銃声が……夏希がアリシア、小川と共に上杉のランクルの覆面に乗り込むと、助手席には織田がいた。 ***ミーナ救出のため、上杉のランクルが山下公園方向へと向かうシーンで今巻は終了。お話がその巻の中で終わらず、次巻へと続くのも今回が初めて。シリーズ7巻目ともなると、さすがに色々とアレンジを加えてきましたね。それにしても、前巻同様、上杉がカッコよすぎます。
2024.06.22
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