全2936件 (2936件中 1-50件目)
![]()
今回の舞台は南房総、千葉県立菊良高等学校。 荒れてはいないが、低所得層、ひとり親家家庭、不登校経験者、軽微な非行歴と 進学校のレールから外れた生徒ばかりが集まっており、昨年は自殺者も出た。 菊良町は、福祉に力を入れている自治体で、弱者救済の精神で全国的に知られ、 中でも再生の丘センターは国内最大の薬物依存症回復支援施設だった。 結衣は、反故師の疑いがある元保護司で大地主の玖珂経子と早々に対面。 その場には、菊良署長・其田公威や町教育委員会教育長、校長らも同席していた。 以後、公安の御堂恒一らに追われつつ、逆スリ師の駒ヶ嶺隆敏、詐欺師の徐修也に加え、 今回は情報機器に強い檮原碧(ゆすはらあおい)、隣の席の同級生・堀村珠莉、 ドライブイン房総軒で絡んできた2年生・永島涼真らの助力も得て、VXガスの在処を探る。 ***さて、今回のお話の見所は1.菊良高校と菊良町の闇遅刻・欠席・家庭問題・素行不安・学力低迷・精神的不安定等を抱えるC群の生徒を、クラスで爪弾きされるよう誘導し、担任とSCは教育相談室で劣等感と自己否定を植え付ける。これが、退学や転学、不登校固定化による自然排出を促すRSP(再選抜計画)。社会の不適合者を覚醒剤に溺れさせ、回復支援施設への収容やむなしと判断させられる状態にし、再生の丘センターに閉じ込めておくことで、犯罪者、失業者、問題児を誰からも批判されず隔離。結果、町は平和になり、知的水準も上昇していき、補助金が得られる。覚醒剤の供給源は病院やリハビリ施設で、販売代行を行う灘木組はVXガスで脅されている。2.ANRP(急性覚醒剤依存リセットプロトコル)「ヤク抜き」「黙らせ玉」ともいう。バスで結衣に出会った際、唯一避ける様子を見せた女生徒・早見奈緒が覚醒剤に侵された際、結衣がドラッグストアで調達したもので、覚せい剤を全部抜いて依存症も完全に断ち切る。 3.三和音玖珂経子は、入手した22本分のVXガス溶液を、いつでも空中に散布できるよう、パイプオルガンで予め決められた音を鳴らせば、リモコンの電波が送信されるようにしていた。結衣は、VXガスを守る志虎冥地と闘う中で、講堂に響く『パラダイス銀河』の演奏の三和音にEdim系だけが出てこないことに気付き、電波発信用のキーを特定する。4.時系列匡太も手を焼いた殺戮魔、誠招連合系鍬形一家にいた志虎冥地。彼が口ずさむ『パラダイス銀河』がリリースされたのは、1988年3月9日。『高一事変』は『高校事変』の1年前のお話で、2018年が舞台。なので、30歳代と思われる志虎が、幼少期に大ヒットした曲を口ずさんでいることになる。一方、セクター26の店内防犯カメラが一部始終をとらえた動画を無効化するため、檮原のノートパソコンで手早くこしらえ、早々にユーチューブにアップしたのは、実際の動画の最後に、生成AIによる結衣と奈緒の顔がぐにゃりと崩れる数秒分をくっつけたもの。2018年時点の生成AIに関する世間の認識度は、ここまで辿り着いていたかな? ***5人のうちの二人が反故師でないことが確定し、残るは3名。 「哀れだね。おまえ、父親ばかりか、祖父のこともわかっちゃいない」(p.347)玖珂経子が発したこの言葉がキーとなるのでしょうか?続巻の情報は、まだ確認出来ません。
2026.10.12
コメント(0)
![]()
今回、実を言えば、私は新作を万全の態勢で読みたくて、 そこに描かれたどんな描写も意味も少しでも見逃がすまいと、 シリーズを最初からすべて読み返した。(p.62) これは『十二国記 30周年記念ガイドブック』に記された 『十二国記 幽冥の岸』に関する辻村深月さんの一文。 今回、私は既刊すべてを読み返すことは鼻から諦め、自分が書いた過去記事と 『ガイドブック』だけを読んで、本書の読書をスタートしました。 ***戦城南主上派と偽王派の争いに巻き込まれて死んだ鄷都(ほうと)の亡骸を弔おうと、短章と去思は、戴国の馬州と文州の境に位置する山奥の街・崎高(きこう)を訪れた。戦で死んだ者の遺体や遺品を集めて弔っている者がいると聞き、二人はその墓所へ。そこには、長年に渡り土匪の暴虐に苦しめられてきた南牆(なんしょう)出身の男がいた。主上派たちが激しい追撃を受けることになったのは、彼が県城に密告したからだった。異邦の客王命に逆らった驍宗と巌趙は、黄海で妖獣を狩り騎獣に仕立てる集団・朱氏の街で徒弟として日々を過ごしていた。13歳の琅燦は、騎獣を見ようと一人で騎囿に向かうが、虎に似た騎獣に襲われ岩場から転落、さらに妖魔にも襲われるが、驍宗と巌趙に危機を救われる。戴国を去った後、反民と呼ばれた者たちがどうなったかを心配する驍宗に、「じゃあ、王になるしかないね」と琅燦は言った。夢の結び火事で焼き出され浮民の少女・白玉は、草洽平の店で働くことになり、ある日、項梁という客人を妓楼まで案内する。洽平が妓楼に足繁く通う理由を知ろうと、白玉は中に忍び込むが見つかってしまい、英章の監視下で過ごすことに。やがて、不審な男が現れ、それを白玉は必至で食い止めるが、それは王師が文州に向かうと知らせる仲間だった。全ての事情を知った上で、白玉は洽平に恩を返すべく、共に雅游の街を旅立った。幽冥の岸李斎らに伴われ蓬山に辿り着いた泰麒だったが、西王母が口にした言葉は「これは、もはや治癒ならぬ」。しかし、女仙の長・玉葉のとりなしで癒され目を覚ますと、李斎は、延麒の指示で景王に経緯を説明するため慶に向かう。一方、延麒と耶利が見守る泰麒のもとに景麒が現れ、六夜の間そばに付き添うと、泰麒も回復に向かったのだった。 ***7年も経つと、やはり記憶は相当曖昧。『十二国記』の登場する人名、地名は難しい漢字を充てているものが多いのでなおさら。それでも、読み進めるうちに、その世界観の中にどんどん引きずり込まれていく。たくさんの人に読まれているのも納得です。
2026.10.10
コメント(0)
![]()
予約していた『十二国記 幽冥の岸』が届いたものの、 前作『白銀の墟 玄の月』に連なるお話とのこと。 しかし、それを読んだのは、もう7年も前。 記憶が定かでない部分も、結構あるかも…… なので、物語全体の復習も兼ねて、本書を先に読んでおくことに。 2022年8月に発行されたガイドブックです。 まず最初は、これまでのお話のおさらいから。『魔性の子』から始まって、『月の影 影の海』『風の海 迷宮の岸』『東の海神 西の滄海』『風の万里 黎明の空』『丕緒の鳥』『図南の翼』『華胥の幽夢』『黄昏の岸 暁の天』そして『白銀の墟 玄の月』まで、その概略が説明されていきます。続いては、主な登場人物の紹介で、中嶋陽子から始まって、楽俊、泰麒、驍宗、尚隆、延麒、珠晶、景麒と続いていき、総勢39ものキャラクターについて記されています。そして、用語解説は。王、麒麟、王気、誓約、失道、天帝等々50語を解説、さらに、『「十二国記」物語年表』で、これまでのお話のなかの出来事を年表形式で並べ、『「十二国記」世界地図』では、各地域がどのお話で舞台となったかを示してくれています。特別エッセイ『「十二国記」と私』には、萩尾望都さん、辻村深月さん、冲方丁さん、畠中恵さんら、総勢10名から寄せられたエッセイが、『祝30周年「十二国記」 ART GALLERY』には、萩尾望都さん、羽海野チカさん、藤崎竜さん、芥見下々さん、いとうのいぢさんら、総勢10名の作品が掲載されています。『「十二国記」と人』では、「十二国記」に携わった編集・校閲・装幀・イベントの各担当者が、それぞれの仕事の裏話を披露してくれていて、本書の中でも一際興味深い部分。編集者・鈴木真弓さんへのインタビュー『「十二国記」の30年史』と、著者である小野さん自身への「小野不由美ロングインタビュー」、『「十二国記」絵師』の山田章博さんへのインタビューも、作品理解を深められるものでした。そして最後に、あの幻の短篇「漂白」が掲載されています。これは、『東の海神 西の滄海』の100年後のお話で、『「十二国記」物語年表』には次のように記されています。 王国を抜け出した延王と延麒、斡由の墓に参る。(p.52) *** もうひとつ、小野さんからは、全4巻の新作には書き切れなかったエピソードを、 「短編集」にまとめさせてほしいとの希望を、新作が完成した直後にいただいたのです。 (中略)なるべく早い刊行を望んでおられましたが、大作の執筆での無理もあり、 ご不調が続いておられます。(p.99)これは、新潮文庫《完全版》の編集を担当された鈴木真弓さんの言葉。「全4巻の新作」とは、もちろん『白銀の墟 玄の月』のことです。そして、鈴木さんはさらにこんな言葉も述べておられます。 『白銀の墟 玄の月』の発売帯で「書下ろし短編が先に読める!」という 刊行記念の全員プレゼント企画を行ったのも、 そういうスケジュール感が念頭にあったからです。 でも実際には、年明けから小野さんのご体調の不調が続いて、 「一話が先に読める」プレゼントもなかなか厳しい状況でした。 夏過ぎにその目処が立って、新作刊行から丸一年の10月12日に 「お届け決定!」を発表できてほっとしました。 2020年の「十二国記の日」に、なんとか「幽冥の岸」を配信できました。(p.128)この部分には愕然としました。手元にある新刊『幽冥の岸』の第4話を、私は既に読んでいた……そして、それが他の3つのお話と共に刊行されるまでに、6年もの月日を要していた……小野さん、どうかお身体に気を付けて、今後も、長く長くご活躍ください。それでは、いよいよ『十二国記 幽冥の岸』を読むことにいたしましょう。
2026.09.27
コメント(0)
![]()
冒頭「まえがき」には、次のように記されています。 とにかく言わずにいたこと、今だから言えること、今こそ言いたいこと、 関わってくれた方々への感謝と後悔……すべてをさらけ出し、野球界のため、 ひいては未来の子どもたちのためにも、 道標のひとつになればいいと思っている。 「最後」という言葉は使いたくないが、決意を持った語り下ろしだ。(p.5) 江夏豊さんが語った野球選手としての人生、そしてその前後の人生を、 ノンフィクションライターの松永多佳倫さんが文字として書き起こした一冊。 阪神から南海、広島、日本ハム、西武を経てメジャーに挑戦した日々の記録は圧巻。 1995年に覚せい剤取締法違反で逮捕されたことにも触れておられます。 *** どんなスポーツにもミスは付きものだが、とりわけ野球ほどミスの多い競技はない。 野球のミスといえば多くの人が「野手のエラー」を想像するかもしれないが、 最も多いミスは「ピッチャーの投げ損じ」で、その次が「バッターの打ち損じ」だ。 110球完封の完璧なピッチングでも、その110球すべてが”完璧なボール”ではない。 何球か、あるいは十数球は甘い球もある。 それをいかに少なくするか、相手の打ち損じを誘うか。 その能力を持っているのが「いいピッチャー」なのだ。(p.142)本著の中で、最も唸らされた部分。確かに、そうですよね。それらをミスととらえ、そのミスを減らすこと、そのミスを誘うことに注力する。そのために必要なのは、やはり「制球力を磨く」ということになるのでしょう。 今のピッチャーを見て残念に感じるのは、フォアボールの多さ。 特にフォアボールを出しても平然とした顔をしているピッチャーには、 恥を知れと言ってやりたいくらいだ。 自分で計算したうえでのフォアボールなら構わないが、 とんでもないボール球を続けてフォアボールを出す。 挙句の果てにデッドボールをぶつけてしまうのはプロとしての技術的な問題だと思う。 (p.252)最近のNPBにおけるデッドボールの多さを見るにつけ、江夏さんがどれほどイライラしておられるかが推し量れます。江夏さんが現役の頃、どんな投球をしていたかは、次の王貞治さんによる言葉を見れば分かります。 若い頃の江夏くんは力のある球を投げていました。(中略) スピードだけでなく何より球に力があったので、 非力なバッターだと運よくヒットを打ててもホームランはしんどかったでしょうね。 コントロールも抜群に良かったから、僕は一度もデッドボールを受けませんでした。 インコース、アウトコースにきっちり投げ分け、 特に右バッターのアウトローへのコントロールには本当に目を見張るものがありました。 (中略)アウトローさえ決めれば、バッターがバットを振らずにストライクが取れるという 自信をもっていたのだと思います。(p.280)巻末の特別寄稿「王貞治からライバル・江夏豊へ」の一文です。「江夏の21球(1979年)」や「オールスターの9連続奪三振(1971年)」よりも前、「シーズン25勝、401奪三振(1968年)」を達成した頃の江夏さんを的確に表現した言葉。とにかく、速くて力があり、アウトローへのコントロールが抜群でした。 *** 自分ひとりで何でもできるなんて考え方はおこがましい。 人の縁のおかげで生きていて、人の縁に活かされている。 それを身に染みて感じている。 歳を重ねるとは、そういうことなんだ。(p.25)「第1章 生き様」の中の一文です。偶然にも、先日読んだ内田先生の『老いへのレッスン』と同じことが書かれていて驚きました。
2026.09.25
コメント(0)
![]()
大和書房の若い編集者・刑部愛香さんとの往復書簡を通じて、 内田先生が「老い」に関する様々な質問に答えていくという一冊。 その質問は、次のようなもの。 1.老いることは悪いことなのでしょうか? 2.老いると身体はどう変化するのでしょうか? 3.老いる祖母に対して、後ろめたさがあります 4.「供養」とは何なのか、よくわかりません 5.人生に行き詰った時、どうしたらよいのでしょうか? 6.年下への接し方がわかりません 7.友だちと疎遠になり、さみしいです 8.どうすれば、長く続く人間関係を築けるのでしょうか? 9.いまの仕事を続けていてよいかわかりません 10.「結婚」に意味を見出せません 11.子を持つこと不安です 12.いずれ死ぬという現実にむなしくなります *** 就職ってある意味結婚とよく似ているんです。どちらも「ご縁のもの」なんです。(中略) だから、「あ、ご縁があった」と思ったら、パッと結婚しちゃう方がいい。 配偶者が結婚以前にどんな人物であったのかということには 実は結婚にとっては副次的な重要性しかないのです。 だって、結婚したら人間が変わるから。 向こうも変わるし、こちらも人が変わる。両方変わる。 お互いがお互いに影響を与え合って、それぞれ別の人間になる。 そして「ベターハーフ(better harf)」というものになります。(p.137)これは「いまの仕事を続けていてよいかわかりません」への回答の一部。内田先生位の年代の人でないと、なかなかこんな風には思えないし、言えないかも。若いと、どうしても自力で何とかしたい、何とかなるって思ってしまいますから。でも、就職も結婚も本当に「ご縁」だと思います。 もう一度繰り返しますが、結婚は「大人になるため」するものです。 それ以外に目的はありません。 もちろん生物学的な言い方をすれば結婚の目的は「子孫を残すため」ですけれども、 結婚の人間的意味は「成熟すること」です。 「配偶者という他者」と共に暮らし、「子どもという他者」を育てることによって、 人は大人になる。(p.156)こちらは「『結婚』に意味を見出せません」への回答の一部。これも、内田先生位の年代の人でないと、なかなかこんな風に言えないかも。でも、結婚している人と結婚していない人とでは、やはり何かしら違いを感じるもの。それを「大人になる」という風に表現されているのですね。
2026.09.23
コメント(0)
![]()
髙田さんの作品は、これまで『あきない世傳 金と銀』シリーズ、 そして『みをつくし料理帖』シリーズと読んできましたが、 時代小説でないものを読むのは初めて。 2025年2月に刊行され、今年5月に文庫化されたばかりですが、 先日、本屋さんに行くと、表紙カバーが新しいものになっていました。 映画化され、11月6日に公開されるのに向けてのものとのこと。 ***第1章 履歴書中学生になって新しい制服に馴染んだ頃、潤間さやかは突然クラスメートたちから標的にされる。両親にも学校にも自分が置かれた状況を上手く伝えられず、理解も得られないまま時が過ぎ、理不尽な暴力を受け、大けがによる入院後、2学期の途中から不登校を通すことになってしまう。卒業前、その学校の卒業生として扱われることが受け入れられず、証書の受け取りは拒否した。バイト先のレンタルビデオ店「アガサ」の店長・緒方から履歴書の提出を求められたさやか。客の探していたビデオを契機に、山田洋次監督の『学校』と夜間中学校について知ったさやかは、店長から隣町に河堀夜間中学校があると聞き、1週間そこを訪ね続け、この学校に通うと決意。「2001年4月 大阪市立河堀中学校夜間学級(河堀夜間中学)入学予定」と履歴書に書く。第2章 夜の校庭で河堀中学校夜間学級に入学したさやかは、2年3組で様々な年代の生徒たちと共に学ぶことに。英語の授業や捕食の時間には、結婚のためベトナムから来日した1年1組のスアンも加わって、蕗子が持参した手づくりの小籠包を、他のクラスのメンバーたちと一緒に和やかに食べる。担任の江口先生担当の体育の授業では、美しい星空の下、普段着を着た2年生全員でラジオ体操。第3章 あおぞら捕食の時間、なかなか現れないスアンを呼びに、さやかが1年1組の教室に行くと識字の授業中。その後、江口先生やクラスの遠見、正子ハルモニから識字の授業について聞かされたさやかは、文字を読めない、書けないことの過酷さをを思い知らされる。7月7日、七夕の笹竹には1年1組の生徒たちが「あおぞら」と書いた短冊が何枚も下げられた。第4章 弱くて、脆い20年前『ハイスクールぶるうす』で一世を風靡した漫画家・用瀬裕が、『夜間中学校のことが知りたい』とやって来る。夏休み期間も自習に通う識字学級の生徒たちと共に学んだ用瀬は、2学期には2年3組で捕食の時間を過ごすように。学校からの帰途、蕗子は用瀬とさやかに、満州から日本へ引き上げてくる際の母親との別離の真相を打ち明ける。ひとの弱さや家族の脆さを受け容れようとする蕗子の温かで優しい寛容の言葉に、さやかは胸を撃ち抜かれる。第5章 明日の夢スアンの家に招かれ、待ち合わせ場所に向かうさやかは、途上で出会った同じクラスの健児から、料理人になった経緯や今後の夢について聞かされ、自分には何もないと溜息を漏らす。スアンの家では数々のベトナム料理でもてなされ、自分の父親ほどの年齢と思われるスアンの夫・原田は、二人の馴れ初めを語る。第6章 結び直すのは1年3組の授業中に教室で黒板に「助平」と書いた女性教員・吉村に憤るさやかに、昔国語の先生が作ってくれた「メニュー」の教材を示しながら、夜間中学にも色んな先生が居てると、遠見が宥める。が、河堀夜間中学教員・田村が女性用下着窃盗で逮捕されたとの記事が新聞に掲載されてしまう。緒方店長から、父母が実はこっそり入学式に出席し、度々アガサに自分の様子を聞きに来ていたと聞かされたさやかは、10月31日の遠足当日、遠足の案内の余白に「よかったら、ふたりで来てください」と書き込み、それをダイニングのテーブルの上に置いて家を出る。級友たちと昼食を楽しんでいると、両親が弁当を持って姿を見せた。第7章 まだ見ぬ友へ河堀夜間中学の生徒募集ポスターとビラ作りを任されたさやかは、用瀬にアドバイスを受けながら、それらを完成させる。ポスターには「まだ見ぬ友へ いっしょに やかんちゅうがくで べんきょうしませんか?」と書かれていた。12月23日、学校の在る駅周辺で、河堀中学の制服姿の生徒の助けも借りながら、さやかは生徒募集のビラを配り続けた。最終章 星の教室さやかは、鈴木養護教諭に中学生の頃のことを打ち明けた後、文字や言葉を、国語を教える人になりたいと話す。3学期最後の体育の授業、フェンスの向こうから見ている若い女性にさやかは声をかける。その手には1枚のビラが握り締められていた。ラジオ体操に加わったその女性は「ああ、星が綺麗」と声を漏らした。 ***高田さんが記した「あとがき」によると、この作品は漫画原作者時代に、漫画家・みなみなつみさんと組んで、2001年に漫画雑誌「YOU」に連載したものとのこと。 「ほんなら、さやかちゃん、その人らの受け皿になる夜間中学って、 一体、全国に何ぼほどあるん?」 「35校、あるそうです」(p241)店長とさやかのこのやりとりに、私はかなり驚かされました。その当時でも、私の住む政令指定都市内には2校あり、全国ならもっとあると思っていたから。あとがきによると、2024年に時点で53校、2025年10月時点で62校に増えたそうですが、まだ、各都道府県に1校ずつしかないレベルというのは、かなり寂しい状況ですね。
2026.09.22
コメント(0)
![]()
いつもの雰囲気とは少々違う、本格的ミステリーの雰囲気が漂う今回のお話。 イギリスの風景描写も、しっかりと取材されて来たことが伝わってきます。 さて、お話の行方はというと、前編終了時点ではまだあまり見えてきません。 驚くような展開を期待しながら、後編の読書を進めていきます。 ***【Bridge】清貴を真似てお茶に誘う円生の誘いを受け、葵はその後を追う。【Interlide】『緊急事態宣言』下の神戸元町・中華街、円生は坂口由貴に葵への告白の顛末や、化野でアトリエに使っていたアパートが跡形もなく取り壊されていたことについて語る。由貴から葵が清貴と結婚したことを聞かされると、円生は清貴に電話をかけ、清貴が結婚に対し負い目を感じていることや、葵の就職後の苦戦について知ることに。その後、円生は新潟から東北6県を巡り、清貴からのメールに応えロンドンにやって来た。要から葵に、篠原の事務所が爆破されたとの電話がかかって来たため、円生も葵に付き添って要の許へと向かうことに。【アートの巡礼<後編>】第1章 投げられた賽コラボ展示会を開催する予定の劇場に要、葵、円生、磨美たちが集まると、そこには篠原と話をする要の母・光子と、現在の夫の姿があった。光子は、展示会を何としても開催するよう息子・要に発破をかけ、立ち去った。篠原は、5年前にクズミグループが主催する美術コンクールで入賞し、アーティストになったアシスタントの松尾園子を要たちに紹介する。さらに、篠原はミラノ、ニューヨークで各2枚の原画が爆破され、爆破が未然に防がれた東京の1枚は空輸中に盗まれたと4人に伝える。そして、今回の事務所爆破は、自身が所有していた『巡礼』同人本が狙いだろうと話す。その他の原画は、裏表紙を除いて現在無事に確保されていた。第2章 ニューカッスルの審判ニューカッスルに到着後、代理人との待ち合わせ場所、セント・ニコラス大聖堂に向かいながら、天音は清貴に、『ノクターン』を開いた光子の英国人の元夫が病となり母国に戻った経緯を話す。そこに、ロビン・キーストンの世話役兼代理人・メグが現れ、ロビン・キーストンは筆名であり、本名はリチャード・ハントだと教えてくれる。家に到着すると、リチャードはチェルトナム文学祭に登壇するため出かけていたが、メグは彼の部屋を案内し、脅迫状は出版社に届いたが、現物は彼がシュレッダーにかけたこと、メグが運転する車の事故で、後部座席のリチャードが車椅子生活となり、代理人になったと話す。清貴は、リチャードが執筆するというデスクを見ると、翌日、天音と共にチェルトナムに向かう。さらに、円生に電話をかけ、今日一日の出来事を確認すると共に、小松への調査依頼等を伝えた。第3章 チェルトナムの告白天音は清貴に、光子と元夫で要の父・クリスとの出会いと結婚、発病と帰国、逝去について語る。清貴は、クリスが英国から光子に『巡礼』第6章の挿絵原画「恋人」を送ったことを言い当て、クリスに悪感情を抱いていた天音が、光子に知らせず『ノクターン』の顧客に売却したと指摘。天音の行動は、再婚を決意した光子が心を乱さぬよう考えてのものだったが、その後店を辞めた。一方、サザビーズ・ロンドンでは、葵が『巡礼』の原画を見て、描かれた時期の違いに気づく。それを受け、篠原がロビンの正体はリチャードではなくメグだと明かし、入替りの経緯を話す。その頃、文学祭で登壇したリチャードはエノキアン語で「最後の一枚は、原点に還る」と述べた。最終章清貴と円生によって、関係者の中に今回の事件の真犯人が雇った2人のスパイがいたことが発覚。一方、メグの自動車事故発生時に助手席に座っていた人物とその行動が明らかになり、事故後、メグ、リチャードとその人物の人生が大きく変わっていったことも分かる。その人物は、後に余命宣告を受けた際、リチャードとメグが住む家に身を寄せていた。その人物は、そこでリチャードが保管していた自身が描いた絵を見つけると、続きを描き始め、自身の死後、生活の足しにそれらを売却するよう二人に伝えるが、「恋人」の絵だけは、妻に届けてほしいと頼んでいた。その後、生活に困窮した二人は絵を売却、協力しながらその人物をモデルに小説を書き始めるが、目の前に現れた妻には、絵を描いたのがその人物だとは決して認めなかった。そのため、妻はメグに抱いていた疑念をさらに膨らませ、復讐を心に誓うことに。一方、妻の息子は母親の暴走を止めようと、その人物が描いた絵を全て集めた上で、作者は小説家の友人だった自身の父親だと公表しようと考えていた。清貴たちは、メグ、リチャードとあの人物の故郷・ノッティンガムの『イギリス最古のパブ』へ。その2階奥の部屋には、あの人物の写真が額の中に飾られており、その写真の後ろに、あの人物が自分の想いをすべて込めたと言っていた最後の一枚の絵があった。そこに描かれた女性の顔は、紛れもなくあの人物の妻そのものだった。【Interlide】[1]リチャード・ハントの告白リチャードが清貴の質問に答え、メグやあの人物、小説『巡礼』等について語る。[2]久住要の告白要が清貴の質問に答え、コラボ企画やあの人物とその妻について語る。【Epilogue】ロンドンに戻って来た清貴と葵は、サウスバンクを二人でデート。『アンダー25』の『妄想展示室』の課題発表では、磨美は『可愛い』を、葵は『旅』を、要は『巡礼』をテーマに挙げる。その後、篠原に促され葵が『アートの価値』について語る。ロビンの展示会を開くはずだった劇場をどうするか迷う篠原に、清貴は円生が描いた東北6県の絵を推薦した。 ***今回の作品で、望月さんは確実に一段高い所に達したように感じました。読み続けてきたシリーズが、グッとレベルアップした瞬間に立ち会うことが出来て、とても幸せな気分で、最後の頁を閉じました。今後も、このシリーズが末永く続きますように。
2026.09.21
コメント(0)
![]()
『(22)~美術補佐人の誕生~』の後、 『ex. ~春霞の夜の夢~』をはさんでの新刊は、 望月さんの本気度が伝わって来る、前編・後編の2冊に分かれた長編作。 ボリュームだけでなく、その内容もシリーズ最高級の仕上がりです! ***【Introduction】美術キュレーター・篠原陽平が企画する『アンダー25・アート・プロジェクト』。試験に合格した葵は、『クズミ・グループ』会長の久住恵蔵の孫・要に誘われ、陽平と打合せをするために、清貴と一緒にロンドンへと旅立つ。その頃、ミラノでランボルギーニが、東京ではセンチュリーが爆破される事件が起こっていた。【序章】応募作が『ミステリー小説大賞』を受賞し書籍化されるも、緊急事態宣言下で売り上げが伸びず、2、3作目の執筆依頼もミステリーだった梶原春彦は、『ノックスの十戒』に苦しんでいた。宮下香織に促され、一緒に兄・秋人が出演するドラマの撮影にエキストラで参加、雨天中断時に『蔵』を訪れると、秋人と清貴がドラマに関するミステリー談義を始める。そこで、清貴から「面白ければそれでいいんですよ」言われた春彦は、呪縛から解き放たれる。【アートの巡礼】第1章 魔法の国へ要が営む神戸のアートショップ『ノクターン』の元スタッフで、現在は大手損保会社に勤務する美術専門調査員・楠木天音がロンドンに到着。輸送したロビン・キーストンの作品を貨物エリアで確認すると、白紙にすり替えられていた。第2章 ロンドン散歩ビッグ・ベン、バッキンガム宮殿、シャーロック・ホームズ博物館を一緒に巡る葵、清貴、要、そして美術商『タジマ』の娘・田島磨美。ニューヨークでリンカーンが爆破された事件や、『ブルーチップ』候補について語り合うと、清貴はロビン・キーストンの名前を、要は円生の名前を挙げる。サザビーズ・ロンドンで葵ら4人と再会した篠原は、ロビン・キーストンの『巡礼』シリーズの1枚が盗難に遭ったことを告げる。そして、明日、天音がニューカッスルの自宅にいるロビン・キーストンに会いに行くので、清貴に同行して欲しいと依頼する。第3章 巡礼のはじまりロビン・キーストンは、不慮の事故で利き腕が使えなくなり絵筆を置くことになったが、その後執筆した小説『巡礼』が大ヒット。『巡礼』には、かつて自らが描いた絵が表紙と挿絵に使われており、その絵画や商業版以前に発行された同人本が再評価され、価格が高騰していた。篠原はロビンを『ブルーチップ』に押し上げようと、サザビーズ・ロンドンとのコラボを企画、世界中に散らばった『巡礼』の表紙と裏表紙、挿絵計22枚の原画や他の作品を集結し、展覧会を開こうとしていた。さらに、篠原は『アンダー25・アート・プロジェクト』に選ばれた葵、要・磨美の3人には、予算や条件を度外視した自分だけの展示室の企画書提出を求めたのだった。しかし、ロビンの許には脅迫状が届いていた。 「展示会を中止しろ。中止にしない限り、おまえの作品を爆破し続ける」(p.236)そして、篠原の事務所が爆破されたとの知らせが入る。【Interlude】天音は清貴と共に列車でニューカッスルに向かいながら、要の家族について語る。そして、『ナショナル・ギャラリー』に向かう葵の許には、円生が現れた。 *** 「ちなみに日本人の『ブルーチップ・アーティスト』っているの?」 磨美さんの問いかけに、もちろん、と要さんと清貴さんの声が揃った。 要さんの方が先に声を上げたため、清貴さんは、どうぞ、と説明を譲る。 「日本では、草間彌生、村上隆、奈良美智が、 『ブルーチップ・アーティスト』」といわれているよ」 「草間彌生って、あの水玉系のかぼちゃとかの?」(p.163)本作を読み進めている頃、草間さんの訃報が飛び込んできました。とても残念……ご冥福をお祈りします。
2026.09.19
コメント(0)
![]()
2014年4月に発行され、2016年11月に文庫化された作品。 これまで読んできたマハさんの他の作品とは、随分と色合いが異なるものでした。 強いて言えば『暗幕のゲルニカ』に近いものが漂っていると言えるでしょうが、 それでも、訴えかけてくるものは圧倒的にこちらの方が強烈です。 ***サンフランシスコの精神科診療所で、60年以上前に描かれた絵を眺めながら、84歳のエドワード・A・ウィルソンは、軍医として過ごした沖縄での日々を振り返る。1946年5月、医科大学院修了直前、従軍医に任命され婚約者を残して沖縄へやって来たエド。父親が送ってくれた真っ赤なオープンカーに乗って辿り着いたのがニシムイ・アート・ヴレッジ。そこでサンフランシスコの美術学校に留学、東京美術学校でも学んだセイキチ・タイラと出会い、その妻・メグミや他の画家たちとも親交を深め、母国から送られた画材で一緒に絵を描くように。婚約者にクリスマスプレゼントとして送る肖像画を描いて欲しいとエドが頼むとタイラは快諾。しかし、昼間から酒を飲んだくれている画家・ヒガに初めて引き合わせてもらった時、エドが次の言葉を発すると、タイラは激高しエドを村から追い返してしまう。 絵を買うのは、僕ら軍の人間だろう? こんな暗い絵、誰も欲しがらないよ。 君や、ほかの画家たちが描いているような、きれいで、明るくて、 故郷への手みやげにもちょうどいいと思えるような絵でなくちゃ……(p.123)その後、同僚からメグミを軍人向けバーで見かけたと聞き、エドはタイラに内緒でそこで働くメグミと会うが、居合わせた将校に絡まれることに。一方、タイラは完成した肖像画を持って基地を訪れるが、ゲートを突破しようとして袋叩きに。エドはタイラを家に送り届け、壷屋で働くようになったメグミに肖像画の代金を手渡す。ヒガは描いた絵が第1回沖展には選ばれなかったものの、酒を断って壷屋に絵付師として復職。しかし、メグミと市場に買い物に行った際、あの将校に絡まれメチルアルコールを一気飲み。タイラに救いを求められたエドは村に駆けつけると、院長に掛け合って眼科医を派遣してもらい、あの将校、ヒル少佐のオフィスを訪ね、何度もその顔面を殴りつけたのだった。 後日、帰国命令が下り、エドはニシムイの仲間たちと再会を果たせないまま出航。仲間たちは、エドからクリスマスに贈られたコンパクトを用いて太陽の光を明滅させ見送った。 ***佐藤優氏による巻末『解説』に、本著の存在意義は言い尽くされています。それにしても、私はなぜこれまでこの作品をスルーし続けてきたのでしょう……残念というより、不思議でなりません。原田マハという作家に対する印象が、一味違うものに変わりました。
2026.09.15
コメント(0)
![]()
『みをつくし料理帖』シリーズ完結の第10弾『天の梯』から、 4年を経て発行された特別巻は、主要キャラクターたちを描いた4つのお話。 『あきない世傳金と銀』でもシリーズ完結後に特別巻全2巻が発行され、 読者を大いに喜ばせてくれましたが、その原型がここにあったのですね。 ***花だより澪が大坂へ戻って4年、74歳になった種市は上野宗源寺からの帰り道、境内に倒れていた水原東西と名乗る易者に食事を与える。その礼にと占ってもらうと、来年の桜を見ることは叶わないと言われてしまう。ショックを受けた種市は男の話を最後まで聞かぬまま帰宅、何日も寝込んでしまうが、澪に会うため清右衛門、坂村堂と共に大阪へ向けて出発、小田原まではりうも同行する。が、小田原の旅籠『森雅屋』では、隣の部屋の客が夜通し祝詞を唱えて眠れない。種市が辛抱溜まらず部屋に乗り込むと、それは正真正銘、本物の水原東西で、先日出会ったのは詐欺師と分かる。本物の東西から、種市とりうは「保齢長命」の相が出ていると言われ大喜び。しかし、旅の途中で種市の腰痛が再発、箱根から江戸に引き返すことに。涼風あり17歳で御膳奉行・小野寺数馬に嫁いで6年の乙緒は、如何なる時にも動揺せず、喜怒哀楽を面に出さない。輿入れ前から乙緒に小野寺家の家風を叩き込んだ義母・里津は、亡くなる2日前にこう言う。 「心を見せないそなたと、それを酌もうとしない数馬との間に、 埋めようもない深い溝が出来たら何とする。 そなたひとりが苦しみ、思い詰めたら何とする。(中略) そうした時には、数馬に『岡太夫が食べたい』と伝えなさい。 この私に、そう言うよう命じられたと」(p.105)義妹・早帆から澪と数馬の話を聞かされた乙緒は、懐妊後に体調を崩し寝込んでしまう。乙緒に岡太夫を所望された数馬は、それを手ずから作り、妻と語り、母の思いを知る。秋燕高麗橋淡路屋が再建されて3年、摂津屋から「女名前禁止」の猶予が切れるのを前に、番頭・辰蔵を婿に迎え、淡路屋の店主に据えるよう促された野江が、辰蔵に昔を語る。 享和2(1802)年、翁屋に売られた野江は「あさひ」の名を与えられ、禿となった。 足抜けを試みた野江は、途中で出会った廓の料理番に唐汁を馳走され、戻るよう諭される。 文化2(1810)年、新造出し当日、女衒を仕損じたあの時の料理番・又次が飛び込んでくる。 振袖が血で汚れても、この人は恩人と又次を庇う野江の姿に居合わせた摂津屋が助け舟。 さらに、連れの二人と三人で預託金を出し合いあさひを年季明けまで全部買い切ること、 又次を新しい料理番として翁屋で雇うことも決めさせた。澪にから汁の作り方を教えてもらい、それを手ずから作って出す辰蔵に野江は言う。 「この私と一緒になってくれはるか?家族になってくれはるやろうか?」(p.223)月の船を漕ぐ「三日ころり」後、自らの無力さに夫・源斉が体調を崩し、道修町の家で寝込んでいた。代替わりした家主から北鍋屋町の店を立ち退くよう言われた澪は、その暖簾を一旦下し、源斉のため様々な料理を用意するが食は一向に進まず、義母・かず枝からの文が届く。そこには、源斉が好んだ永田家の江戸味噌の作り方が記されており、澪は大いに反省。源斉は澪が江戸味噌で作った味噌汁をお代わり、さらにご飯と味噌汁をお代わりした。そして、文政6(1823)年如月六日、初午、澪が四ツ橋で店を再開しようという時、種市、坂村堂、清右衛門がやって来た。 ***何と言っても、野江と摂津屋の関りの長さ、深さに驚かされました。種市が澪に亡き娘の姿を重ねていたように、摂津屋も野江に亡き娘の姿を重ねていたわけですが、澪と野江のお話は、この摂津屋なくしては成立しなかったのだと改めて知ることになりました。まさに、『みをつくし料理帖』の影のMVPですね。
2026.08.23
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖シリーズ第7弾『夏天の虹』の発行(2012年3月)後、 第8弾『残月』の発行(2013年6月)前に発行(2012年5月)された一冊。 「巻末付録 澪の料理帖」で紹介されたものの中から選ばれた料理の写真と 巻末付録では紹介されなかった新たな料理のレシピ&写真が掲載されています。 写真は全てカラーで、見るだけで美味しさが伝わってきます。 そこに各登場人物が発した印象深い言葉が添えられており、あの時の情景が蘇ります。 写真とレシピの間には、30もの「内緒話」が挿入されており、どれも興味深いものばかり。みをつくし料理帖シリーズ誕生の経緯、お話の舞台や登場人物の名前、スケッチ画について、著者と読者、関係者、家族とのエピソード等々、作品同様心が温まります。戯作者・清右衛門のモデルは、やはり「あのひと」だったんですね。 巻末「あとがき」では、本書誕生の経緯を高田さんが詳しく綴っています。 ***書き下ろし小説「貝寄風」享和2(1802)年、如月二十日、高麗橋淡路屋の三女・野江は、四ツ橋の塗師の娘・澪(8)と自分の部屋で貝桶で遊んだ後、高麗橋通りを二人で歩きながら、女衆や番頭の名について話す。その際、自分がやがて違う名を与えられ、違う名で呼ばれるのは嫌だと涙する澪に野江は、人の一生は何があるか分からず、自分も違う名を与えられるかもしれない、と言った後こう続ける 「ほかのどんな名ぁ貰たかて、澪ちゃんにとって私は『野江』やんね。 私にとっても、澪ちゃんはずっと『澪ちゃん』やわ」(p.150)
2026.08.22
コメント(0)
![]()
巻末「解説」は、成瀬あかりがM-1グランプリ出場を思い立つ契機となった 第15代王者・ミルクボーイのボケ担当・駒場孝さん。 成瀬や作品について、まるでラジオで語っているかのごとく、 臨場感たっぷりに、熱い思いが伝わって来て、とてもイイ! ***ときめきっ子タイム大津市立ときめき小学校4年の北川みらいは、総合学習の時間で地区活動している人として、夏祭りで司会をしているゼゼカラについて班で調べようと、オーミーで結芽とインタビュー。後日、他の組の璃央と結芽が、成瀬を馬鹿にしているのを陰で聞いてショックを受けるが、その帰り道で出会った島崎と成瀬の言葉で気持ちを立て直し、発表は大成功した。成瀬慶彦の憂鬱京大入試を2週間後に控えた娘のあかりが、京都での一人暮らしについて調べている。当然家から通うものだと思っていた父・慶彦は気になってしかたがなく、入試にも連日付き添う。入試初日後には、高知から来て今夜は京大で野宿するという城山友樹を、あかりと家に連れ帰る。後日、二人は合格、あかりは広島に住む京都の大学を受験した友人の部屋を探していたと分かる。やめたいクレーマーフレンドマート大津打出浜店の「お客様の声」に投函するのがやめられない呉間言実。アルバイトの成瀬に万引き犯逮捕の協力を依頼されると、後日怪しげな老女を発見。さらに日を経て再度その老女を発見、そのことを成瀬に伝えるとやがて犯人は逮捕された。夫・佑生と夏祭りに出かけ、お楽しみ抽選会で2等ミシガンクルーズペア乗船券が当選するが……コンビーフはうまい成瀬と共にびわ湖大津観光大使になった篠原かれんは、初めてスマホを持った成瀬にレクチャー。金沢駅で行われた「おいでやすびわ湖滋賀フェア」では、成瀬のパフォーマンスに圧倒される。「観光大使ー1グランプリ」近畿ブロック予選当日の朝、母親から見合い写真を見せられ口論に、乗った電車は緊急停止するが、本番では特技を生かし審査員特別賞、兄からLINEで祝福される。探さないでください大晦日、島崎みゆきはあかりに内緒で成瀬宅を訪ねるが、書置きとスマホを残して消えていた。心配する父・慶彦、北川みらい、篠原かれんと共に、呉間夫妻とも連携してあかりの行方を追う。名古屋城まで行って、既に東京にいると分かり滋賀に逆戻り、紅白でけん玉をする姿を確認する。そして、年明けのカウントダウンが始まる直前に自宅に戻ったあかりと、新年の挨拶を交わす。大津ときめき紀行 びわ湖さんぽ著者と小説新潮編集部Oさんが、成瀬と共に大津を一緒に巡りながら、色々と語り合います。 ***前回ご紹介した中学生も、今回の駒場さんも、本当に一生懸命成瀬について語りました。その熱量には驚かされますが、それ位成瀬が魅力的なキャラクターだということでしょう。『成天』から『成信』を経て、読者はさらに成瀬の魅力に引き付けられたはず。シリーズ累計250万部突破は、伊達じゃありません。第3弾は、素直にハードカバーを購入するか、解説や紀行文を読むために文庫化されるまでまた待つか、本当に悩ましいところです。(まぁ、両方買えばいいじゃないか、という話なのだが)
2026.08.15
コメント(0)
![]()
昨年の今頃、本書を読んだという中学生の女子と話をする機会がありました。 第21回本屋大賞を受賞し、大きな話題になっていることを知っている程度の私に、 彼女は、成瀬について、走るのが速くて絵も歌も上手、京大を目指す程頭が良く、 200歳まで生きるのが目標等々、そのスゴさをとても熱心に教えてくれました。 その熱量は、普段の彼女からは到底考えられない程大きなものでした。 ***ありがとう西武大津店幼稚園の頃から、他の園児と一線を画していた成瀬あかり。学年が上がるにつれ孤立し、小学5年生になると明確に無視されるようになるが、中学2年生となった今でも、他人の目を気にすることなくマイペースに生きている。8月末に営業終了する西武大津店を、3日からびわテレのぐるりんワイドで連日生中継するので、それに毎回映ると言う成瀬を、幼馴染の島崎みゆきはTVチェックし、時に一緒に映る。そして最終日、中継を楽しみにしていた祖母が亡くなるが、通夜は翌日となり成瀬は西武へ。膳所から来ましたM-1グランプリに成瀬と一緒に挑むことになった島崎、コンビ名は『ゼゼカラ』に。練習を重ね、途中でボケとツッコミが逆転してしまった文化祭の舞台を経て朝日生命ホールへ。1回戦敗退でナイスアマチュア賞も獲れなかったが、成瀬は来年も一応出るつもりだと言う。階段は走らない営業終了前年10月の西武大津店、Web会社勤務の敬太は法律事務所を営む吉峯マサルと会い、小学生時の級友4人とも偶然出会って、卒業30年の同窓会を行うことになるがコロナで白紙に。その後、マサルの賛同を得て敬太が同級生HPを作ると、仲の良かったタクローから連絡が。西武大津店最終営業日の屋上、3人は軽い揉め事の後にタクローが転校して以来の再会を果たす。線がつながる県立膳所高校入学式で新入生代表の挨拶をし、クラスの自己紹介でけん玉を披露した成瀬あかり。同じ中学校卒業生の大貫かえでは、前の席の大黒悠子と一緒にかるた班の見学に行き成瀬と遭遇。さらに東大を目指す大貫は、須田直也と一緒にオープンキャンパスに行くがそこでも成瀬に遭遇、二人で西武池袋本店へ行き、その際なぜ坊主頭にしたかを訊ね、先日自宅来訪時の非礼も詫びる。レッツゴーミシガン全国高等学校小倉百人一首かるた選手権大会に出場した広島県代表錦木高校2年の西浦航一郎は、滋賀県代表膳所高校2年の成瀬あかりに目を留め、同じ部の2年・中橋結希人が声をかける。翌々日、3人で一緒にミシガンに乗ると、成瀬は西浦と昼食を取り、自殺を企図した男を制止後、西浦に「今は自分のことに忙しくて、恋愛は人生の後半に回そうと思っているんだ」と告げた。ときめき江州音頭高校1年生の時、成瀬と島崎が馬場公園で漫才の練習をしていると、吉峯マサルに声を掛けられ、ときめき夏祭りの実行委員として総合司会をするようになり、今年で3回目を迎える。その打ち合わせ後、島崎が東京に引っ越すことを告げると二人は気まずい関係になってしまうが、実行委員の稲枝敬太から助言を得た成瀬は島崎に謝罪、夏祭りで漫才をした二人は来年も……大津ときめき紀行 ぜぜさんぽ著者と成瀬が、小説内の世界を一緒に散歩、各所で思い出を振り返る。 ***読み終えて、なぜ彼女があれ程の熱量で成瀬あかりについて語っていたのかが分かりました。そのカギは、巻末「解説」でも記されているように「線がつながる」の中にあります。彼女は、大貫かえでと同じように周囲の様子を窺いつつ密やかに学校で過ごしていたのでしょう。そんな彼女にとって、周囲から無視されても、嫌がらせを受けても決して自分らしさを失わず、日々を淡々と過ごし、自分の実力を発揮し続ける強さは、とても眩しいものだったことでしょう。さらに、成瀬はその言動の随所に、他者に対しリスペクトを持って接していることが分かります。自分もあんな風であれたら……そういう強い思いが、あの熱量を生み出したのだと気付きました。そして、そう思っているのは、決して彼女一人だけではない。中学生にも、高校生にも、そして社会人の中にも、数え切れぬ程たくさんいるのだということを、本屋大賞の受賞や、本書シリーズの大流行が証明しているのです。ふと、『きみの友だち』の恵美のことが思い浮かびました。
2026.08.14
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖の第10弾にしてシリーズ完結巻。 贅を尽くした特別なものではなく、 食べるひとの心と身体を日々健やかに保ちうる料理を、 私は作り続けていきたい。 医師が患者に、母が子に、健やかであれと願う、 そうした心を持って料理に向かいたいのです(p.36) 自らの進むべき道を見定めた澪が、新たな一歩を踏み出します。 ***結び草伊勢屋が新たな店舗で商いを再開、自らも翁屋引移り前日に飯田川沿いの借家に引っ越した澪は、重陽の日、鼈甲珠を翁屋に届けるとあさひ太夫に遭遇、太夫は鼈甲珠を右の掌に収め天に翳した。居合わせた者は幻想的情景に声を失うが、その様子は錦絵に描かれ世間に広く知られることに。一方、澪の新居で葛尽くしの料理でもてなされた美緒は、家族皆でまた日本橋に帰りたいと話す。張出大関澪は、鼈甲珠、持ち帰り用の粕漬けに加え、城勤務の下級武士のため1日10食の弁当作りを開始。すると、その旨さが城内でちょっとした噂になり、御前奉行も褒めていたと聞かされる。源斉の母・かず枝が弁当を求め訪ねて来た際には、留守番のふきが酢の物の味見を勧めるが、絵付皿を用いたことでかず枝の様子が急変、澪の迅速な処置と源斉の対応で大事に至らず済む。一方、澪が夜の通いだけとなったつる家では、政吉の作った薯蕷蒸しが「親父泣かせ」と大評判。料理番付の行司役が店に姿を見せた後、師走朔日には遂に『張出大関』との吉報が届く。明日香風一柳に年始に訪れた澪は、芳から座敷で見つかったという木蘭色のざらついた塊を見せられ、塊から零れ落ちた粉を指に付け口に含むが、何なのか分からない。病の床にある恩師にと七種粥を求めつる家を訪れた源斉のため、澪は自宅で調理をすることに。その際、口に出来るのは公方様だけという「酪」の話になり、それは木蘭色の塊だと源斉は言う。その後、柳吾は「酪」を勝手に作った疑いで捕らえられ、それを知った佐兵衛は澪の前で慟哭。そして、死期の迫った元天満一兆庵の料理人・富三に遭遇すると、「心許り」の重詰めを届ける。すると富三から、自らと采女宗馬、佐兵衛の酪作りに関わる全ての事情が記された文が届く。佐兵衛はその文を澪から預かると町奉行所に自訴、登龍楼は取り潰し、宗馬は行方知らずに。柳吾が戻り、やがて佐兵衛も解き放たれるが、その際、御前奉行の一人が庇ってくれたと言う。天の梯重陽の夜の出来事から、翁屋が太夫の存在を隠しきれなくなると、摂津屋が澪の覚悟を確認。鼈甲珠に関する全てを翁屋に売り渡し、以後は手を引くことで翁屋も了承、見請けが決まる。澪は野江にとって一番の幸せを実現すべく、翁屋と太夫の3人の旦那衆に、さらなるお願いを。卯月朔日、生家・高麗橋淡路屋の元番頭・龍蔵の息子・辰蔵に迎えられ、太夫は野江に戻った。 ***一方、奥医師の話を断り、恩師の遺志を受け継いで、江戸を離れ大坂で医塾を開く決意した源斉。永田家と絶縁して士分を離れ、澪と夫婦となることを母・かず枝も後押しします。先に大坂へ出発した源斉を追って、野江と共に大阪へ出発する澪に、清右衛門は、大坂で自分の店を持ち、その名を『みをつくし』とするよう声を掛けます。文政11年の料理番付には、東の大関「元飯田町 つる家」、西の大関「四ツ橋 みをつくし」、行司役には「日本橋柳町 一柳改メ 天満一兆庵」の名が記されました。 口じゃあ何とも言わねぇひとだが、お澪坊のことを、お澪坊のことだけを、 ずっと、もうずっとだ、想い続けていたんだぜ。何の見返りも求めねぇでよ(p.298) 雨の日、小松原との縁組を祝福したあと、 傘を忘れて俎橋を帰って行く男の姿が胸に蘇り、澪は苦しくなる。 あの時、源斉はどんな思いでいたのだろうか、と。(p.277)『あきない世傳金と銀』の賢輔を彷彿とさせる締めくくり。でも、あちらに比べると、こちらの方がそれらしい雰囲気は漂っていましたね。
2026.08.13
コメント(0)
![]()
カウンセリングの全体像を明らかにし、 心というものがいかに変化するものかを明らかにする。 20年の臨床経験を積み重ね、本や論文を書き連ねて来た著者が、 各論たちを俯瞰し、原論を生み出すことに挑んだ一冊。 ***著者はカウンセリングを次の3つに分類し、例を挙げながら、そこで行われることを詳細に説明していきます。・謎解きとしてのカウンセリング - 不幸を解析する・作戦会議としてのカウンセリング - 現実を動かす・冒険としてのカウンセリング - 心を揺らす なぜこの問題が起きていて、いかにすればそれが改善するのか。 これこそがインテーク面接で解き明かされねばならない謎であり、 そこにある「不幸という緋色の糸」を見出すことが カウンセリングの出発点でした。(p.157)インテーク面接(初回面接)で、カウンセラーはユーザーの置かれている環境や本人の性格構造、そして問題の経緯を詳しく聴取することで説明モデルを生成し、これをユーザーに伝えて、今後やっていくことについて合意するのが、この面接の役割だと著者は述べています。そして、これが「謎解きとしてのカウンセリング」というものです。 生存とは、困難な状況の中で、生き延びることを指します。(中略) いかに生き延びるか。カウンセリングは生存に取り組む。 実存は、その人独自の生き方のことを指します。(中略) いかに生きるか。(中略)カウンセリングは実存に「も」取り組む。(p.167)著者は「生存」と「実存」では抽象的だとして、「生活」と「人生」に言い換えます。そして、「生活」に関わるのが「作戦会議としてのカウンセリング」で、日常を立て直し、毎日を維持し、現実を破局の危機から守ることを目指すもの。一方、「人生」に関わるのが「冒険としてのカウンセリング」。誰とともに生きるか、何のために生きるか、自分とは何か、今まで生きてきた物語をつまびらかにし、紡ぎ直すことが試みられる、としています。読み進めるうちに、まるでカウンセリングの実際を目の当たりにしているかのような感覚に。学派に関わる記述は特に興味深く、著者が力動系の中の精神分析が専門というのも頷けます。 *** こういう心のプロセスを、ユング心理学は神話学の言葉を借りて 「死と再生」と呼んできました。 人生の危機とは、行き詰った古い自分が死ぬことであり、 新しいやり方で生きる自分が生まれることだという知恵が、ここにはあります。(p.335) 破局を心の次元で発生させ、そして生き延びることによって、 古い物語が終わり、新しい物語がはじまる。 これが生存のために犠牲になっていた実存を生き直すことでした。(p.413) 僕らは古い物語を背負っていて、それに執着することで、行き詰ってしまう。 そこには古い夢があり、古い幻想があります。 それは過去の大切な誰かからもらったものであったり、 植え付けられたものだったり、一緒に作り上げたものだったりします。 だからこそ、古い物語を終わらせることには痛みがある。 古い物語から離れるためには、 その過去の誰かとの心理的な別れを経験しないといけないからです。(p.418) これらを読んだ時に、真っ先に思い浮かんできたのが、先日読んだ『夏帆 The Tale of KAHO』。夏帆が描いた「ミソラの物語」って、「死と再生」の物語そのものではないでしょうか?そして、夏帆自身も同じように母親殺しを経て、古い物語を終わらせ新しい物語を始めた。村上さんの世界は、こんな背景を基に成り立っていたのですね。
2026.08.12
コメント(0)
![]()
副題は「”犯罪者”の作り方」。 著者は元厚生労働省事務次官の村木厚子さん。 2009年『郵政不正事件』で虚偽有印公文書作成容疑等で逮捕・起訴されましたが、 2010年9月の裁判で無罪が確定し、職場復帰を果たした方。 法務大臣の諮問機関である法制審議会『新時代の刑事司法制度特別部会』では、 『連合』元会長・神津里季生氏、映画監督・周防正行氏らと共に、 7人の市民委員の一人として、2011年6月から刑事司法制度改革の検討に加わりました。 その際の刑事司法専門家たちとのやり取りも、本著に赤裸々に記されています。 *** たしかに、被疑者・被告人が真犯人であれば、 本人に尋ねれば一定の真相に迫れるかもしれません。 しかし、被疑者・被告人が無辜である場合、事件の真相など知るよしもありません。 どれだけ問い詰めても真相には近づけませんし、 むしろ誤った結論に向かう危険すらあります。(p.118)「有罪率99.9%」が、いかにして生み出されているか。その詳細が、著者の大阪拘置所独房拘留中の体験を中心に綴られていきます。袴田事件等の殺人事件、痴漢冤罪事件、大川原化工機事件、東京五輪汚職事件、そして現在も報道が続くプレサンス事件等も取り上げ、人質司法の実態に迫ります。真犯人に真実を吐露させたい。しかし、その思いが強すぎると、無辜の人にありもしない犯罪を語らせてしまう。その狭間で、刑事司法専門家たちも悩み苦しみながら、最善を尽くしていると信じたい。ただ、その思いを裏切る行為が見られたり、冤罪がなくならなかったりするのが現状です。
2026.08.11
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖の第9弾。 燃え盛る炎の中からあさひ太夫を助け出した又次の最期の言葉 「頼む、太夫を、あんたの……あんたの手で……」 それを成し遂げるため、澪が動き始めます。 ***神帰月妻・お薗、娘・お花と一緒につる家を訪れた佐兵衛の賛同を得て、芳は柳吾の求婚を受け入れる。芳に代わってつる家で働くことになったお臼は、一柳仕込みの即戦力ですぐに大活躍。一方、澪は『鼈甲珠』を作ったあとの卵の白身を用い、源斉の助言を得て蒲鉾作りに成功。料理番付発表を考慮し、売り出しは来春からと言う種市を清右衛門が一喝、翌日から献立に載る。美雪晴れ料理番付は、登龍楼が『天の美鈴』で大関位となるが、つる家も『面影膳』で関脇位に返り咲く。澪は柳吾から一柳で修業するよう誘われるが、『鼈甲珠』で成し遂げたいことがあると断る。年末年始を芳と共に一柳で過ごす中、その板場を見て自身はどんな料理を作っていくか考える澪。七草の後、つる家を訪れた摂津屋助五郎が野江の諸事情を知ったと分かると澪も全てを打明ける。華燭柳吾がつる家の新しい料理人として連れて来たのはお臼の夫・政吉で、如月朔日から調理場に。あさひ太夫が源斉と共に化け物稲荷に参拝する姿を、澪は身を潜めつつ見つめ、その無事を祈る。初午前夜、つる家は店ゆかりの面々に佐兵衛も加わって宴を催し、翌朝には芳らを見送る。そして祝言の後、柳吾は今後育ててみたい料理人として、澪と佐兵衛の名を挙げたのだった。ひと筋の道初午から半月程経ち、芳は一柳の名女将として評判が立ち、吉原では花見見物が行われるとの噂。澪は弥生朔日を鼈甲珠の商い始めと決め、吉原の規を知らぬまま振売りに挑むが散々な目に遭う。一方、伊勢屋は失火の責めを負い、店主・爽助は身柄を拘束されるが、美緒は皆を守るため奮闘。その姿に励まされ、澪は翁屋と摂津屋の助力を得て、普請中の翁屋の軒先で再始動する。 ***澪の鼈甲珠は評判を呼び、弥生晦日の後も卯月末まで翁屋に卸し商ってもらえることに。清右衛門が褒めたように、摂津屋助五郎の力添えが澪にとって大きな助けとなりました。そして、料理人としてどう生きれば良いのかについても源斉の言葉が澪を迷いから解き放ちます。今巻巻末には、何と特別収録まで収められており、充実度が半端ない!特別収録 富士日和目黒行人坂の茶屋で、御前奉行・小野寺数馬と相模屋店主・紋次郎が出会う。紋次郎が持つ手持ちの弁当に入っていた湯葉の料理から、相模屋の白味醂へと話が弾む。紋次郎の弁当を作った料理人の手による『琥珀寒』という料理を、勧められ口にした数馬。「そうか、お前はここまで来たのだな」と、口中の幸福を飲み下したのだった。
2026.08.08
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖の第8弾。 燃え盛る炎の中からあさひ太夫を助け出した又次の最期の言葉 「頼む、太夫を、あんたの……あんたの手で……」 それを成し遂げるため、澪が動き始めます。 ***残月三方よしの夜、つる家を訪れた御用商人・摂津屋助五郎は、あさひ太夫の無事を伝えると、太夫と澪の関係や又次の最期の言葉の意味を問うが、澪がそれを語ることはなかった。澪は、又次の初盆に用意する膳を、盂蘭盆会の三日精進として店で出すことを種市に提案、苦労の末に完成させた氷豆腐を用いた揚げ物をそこに加え、『面影膳』として好評を博す。彼岸までつる家に訪れた内藤新宿・藤代屋が、澪の作った剥き物に目を留めたことを契機として、その妻・しのぶ(元翁屋新造・菊乃)が知る元宿場女郎・お薗の夫・捨吉が佐兵衛だと分かる。出水騒ぎの後、俎橋に姿を現した佐兵衛は、芳、澪、柳吾の前で料理の道には戻らないと宣言。柳吾からの労わりの言葉に涙した佐兵衛は、澪に登龍楼にだけは決して関わるなと念を押す。みくじは吉登龍楼本店に招かれた澪は、吉原新店の板長に迎えたいと言う店主・采女宗馬に四千両を要求。吉原で商うに相応しい逸品を作れたら考えてやらぬでもないという采女との賭けに応じることに。翁屋の寮で静養中のあさひ太夫と再会すると、その際に手渡された懐かしい『こぼれ梅』を用いて卵料理『鼈甲珠』を完成、清右衛門の上機嫌に背中を押され登龍楼に乗りこんで宗馬と対峙する。寒中の麦あさひ太夫に関わる全事情を清右衛門から聞いた種市は、澪をつる家から送り出す覚悟を決め、清右衛門は、澪に登龍楼の新作料理『天の美鈴』を語り、真の勝負は吉原再建後だと檄を飛ばす。一方、美緒が仕出しを引き受けた旅籠『よし房』の店主・房八が後添いを貰う内々の祝宴の後、一柳の今後を巡って坂村堂と激しい口論の途中倒れた柳吾を、芳が一柳で看病することに。芳は、御用商人の養子縁組顔合わせの宴を自ら行うという柳吾を押しとどめ、部屋替えも助言。さらに父子が和解へと向かうよう、目立たぬように双方に働きかける。床上げの日、芳と澪を招いた柳吾は、20日に渡り手厚く看護してくれ芳に感謝の言葉を述べ、残る人生を共に歩みたい、私のもとにいらしてくださいと語りかけたのだった。 ***本筋のお話ではありませんが、今巻ではおりょうや夫・伊佐三、息子・太一に動きがありました。太一は地面に描いた夕顔を絵師・辰政に褒められ、辰政自らが描いた絵手本を手渡されます。また、伊佐三が親方のために、妻や息子と共に裏店から引っ越すことに。さらに、早帆や美緒も登場し、近況を知らせてくれています。
2026.08.01
コメント(0)
![]()
『ランウェイ☆ビート』『ナンバーナイン』『さいはての彼女』『おいしい水』 『キネマの神様』と同じ2008年に刊行された『ごめん』を、 文庫化に際し改題した、4つの中・短篇が収められた一冊。 因みに『楽園のカンヴァス』は2012年の刊行です。 *** 【天国の蠅】この春、神戸にある国立大学に入学するひとり娘・明日香の詩が佳作に選ばれ雑誌に掲載された。その雑誌に「天国の蠅」という詩が掲載されていると気付いた典子は、自身の父に思いを馳せる。娘のバイト代寸借がバレると、自身の詩集を印刷販売するためだと言って、そのまま失踪した父。娘の身体を奪った男を待ち伏せして殴りつけ、娘にバイト代を返却、母の手術代も全額払った父。【ごめん】結婚10年目の陽菜子は、結婚後3人目の男・正哉と二人でプーケット島のコテージにいた。その際、夫・純一が事故で意識不明の重体となったことから不倫がバレ、正哉との関係も終わる。後日、純一が毎月給料日に10,210円を「オリヨウ」に振り込んでいることを知った陽菜子は、振込カードを手掛かりに高知の赤提灯のおかみに辿り着くと、10,210円を手渡し真相を聞く。【夏を喪くす】恋仲にある大物建築家・渡良瀬が情事の直後に発した一言から、咲子は胸のしこりに気付く。医師から乳癌と告知されるが、不倫が疑われる夫にも渡良瀬にも言えないまま社員旅行で沖縄へ。建設設計・開発プロデュース会社の共同経営者・青柳は、自身が失明してしまうと咲子に告げる。咲子は、渡良瀬に送信した別れのメールを夫のアドレスに転送後、道路中央線上に横たわった。【最後の晩餐】2000年の夏以来、久しぶりにマンハッタンを訪れた麻理子。アパートで一緒に住んでいたクロは、2001年9月11日以来行方不明。その部屋の家賃は、何者かによってずっと払い続けられているという。麻理子がクロを失ってしまう契機となったイアンも、自分ではないと言った。 *** 四人の女性は、読者の共感だけでなく、反発を買いそうな女性像でもあります。 なんだかみんな野心家だし、自らの欲望には思実(忠実?)だし。(中略) 四つの作品は解答編までは用意しません。 事件を提示し、主人公がゆるやかな決意をするところで終わります。 長編ではありませんから、掘り下げが足りない部分もありますし、 物語の裏をもっと知りたいとも思わせます。 しかし、たとえそうであっても読者はここで、 作中人物と同じ「異物」を突きつけられるでしょう。(p.291)文芸評論家の斎藤美奈子さんによる巻末「解説」の一部です。それ故、どのお話も読後感はあまり良いものとは言えません。もし、この一冊がマハさんの作品を読む最初の一冊だったら……そう考えると、恐ろしいですね。
2026.07.20
コメント(0)
![]()
シリーズ刊行10周年とコミック版第一部完結を記念した一冊。 黒主祇白さんの手による舞台『京都寺町三条のホームズ』の脚本を 望月さん自身がノベライズしたオリジナル掌編に加え、 清貴・葵・円生・利休・秋人の5人がメインの、望月さんによる5つの短篇と、 コミックスの第1巻から15巻に掲載された秋月壱葉さんによる特典4コマの数々。 さらに、望月さんとイラストレーターのヤマウチシズさん、 劇団『月光夜行荘代表』黒主祇白さん、漫画家・秋月壱葉さん、 担当編集者・宮澤さんとのスペシャル対談4つというバラエティに富んだ構成。オリジナル掌編「春霞の夜の夢」は、舞台のシーンがまざまざと目に浮かんでくるもので、いつものお話とは少々異なった趣の、ファンタジー色がとても強いお話になっています。それに比べると、5人のキャラクターをメインにした短篇は通常運転、安心して読めます。また、関係者4人との対談は、どれも作品を理解する上で興味深い内容でした。
2026.07.20
コメント(0)
![]()
『小澤征爾さんと、音楽について話をする 』に次のような記述があります。 僕は文章を書く方法というか、書き方みたいなのは誰にも教わらなかったし、 とくに勉強もしていません。 で、何から学んだかというと、音楽から学んだんです。 それで、いちばん何が大事かっていうと、リズムですよね。 文章にリズムがないと、そんなもの誰も読まないんです。 前に前にと読み手を送っていく内在的な律動感というか…… 機械のマニュアルブックって、読むのがわりに苦痛ですよね。 あれがリズムのない文章のひとつの典型です。(p.129)村上ワールドをこよなく愛する私にとって、今もなお印象に残り続ける一文です。そして、次は本書の中の一文。 どうやら私は、頭の中で文字を音に変換してから理解しているようなのだ。 目で文字を追いかけながら、もうひとりの私が脳内で音読してくれている。 合う文体のときは、すらすらと、 馴染まないときは、おっとっと……何回もつまずきながら。 みんなそうだと思っていたけど、どうやらそうではないんやね。 友人や夫は「文字を視覚でとらえたら音に変換されることなく頭に入っている」 と言うから驚いた。(p.18)私は、著者の高橋久美子さんと同様、普段はもうひとりの自分が勝手に音読してくれるけど、特定の人の声で音読させることも出来るし、友人や夫のように変換なしに入って来ることもある。それでも、合う文体のときはすらすらと、馴染まないときはつまずきながらというは常に共通。文章にリズムがないと読むのが苦痛というのは、絶対的に正しいのです。そんな、ことばと「音」、文のリズムについて書かれた本書は、とても贅沢な一冊。途中に何種類ものカラーページや光沢紙ページを挿入したり、様々なフォントやサイズの文字を入れ込んで、変化、抑揚をつけたとても楽しい仕上がり。さらに、方言も駆使しながら、最初から最後まで緩急自在に言葉を操っています。 心に浮かぶ感情にピッタリの言葉を既存の単語だけで構成し、 相手に伝えるというのは、なかなか至難の業。 言葉に置き換わらない感情も本当はたくさんあると思うし、 それを探すには時間がかかります。(p.3)これを読んだ時は、『生きる言葉』に登場した『説明できないわからない気落ちがあるのはなんで?』の質問に対する答えを思い浮かべました。説明できないってことをわかったうえで、いくつかの目印を集めて、だいたいこんな感じ、と伝える努力をすることが、コミュニケーションだし表現だということなのですね。
2026.07.19
コメント(0)
![]()
『街とその不確かな壁』以来の長編。 予約していたものが7月3日に届いて、一気読み。 (記事を書くのに、思った以上に時間がかかってしまいましたが……) これまでの村上さんの作品に比べると、素直な流れのお話。 途中で迷子になって彷徨うことなく、最後まで読み切ることが出来ました。 ***【第一章 夏帆とモーターサイクルの男】自身が描く絵本の女性編集者・町田がセッティングしてくれたブラインド・デート。相手の佐原から「醜い」とあからさまに指摘されたにも拘わらず、夏帆は再度会うことに。が、「一緒にモーターサイクルに乗ってみないか?」と誘われると拒否し、再会を激しく後悔。それから2か月、夏帆は一人の少女が自分の顔を探しに行く絵本を描き上げる。【第二章 武蔵境のありくい】夢 - 何かの作用を受けて一時的に質感を変更された現実の一部 - で出会った雌のありくい。彼女に武蔵境に引っ越すよう促され、夏帆は花畑から武蔵境の平屋の一軒家に転居する。夏帆同様、花畑から引っ越し、その家の床下に住むことになったというありくいの奥さんは、ご主人が大型のモーターサイクル音を聞きつけ、危機が迫っていると気付いた経緯を伝える。その後、夏帆はありくいの奥さんに頼まれ「シロアリのオイル漬け」を『とぎや』に取りに行く。それは武蔵境の駅の近くの商店街の中ほどにあり、包丁や鋏を研ぐことを商売にしている店。そして、夏帆が『とぎや』を2度目に訪れた際、ありくいの夫が現れて責務を果たすよう迫る。夏帆は躊躇しながらも、研がれた出刃包丁で店主の心臓を刺し、凶悪なジャガーを排除した。【第三章 夏帆とシロアリの女王】若い女王候補に敗れ、巣を追い出されたシロアリの女王が、ブラジルのジャングルとの間に出来てしまった秘密の通路を通り抜け、武蔵境へとやって来た。そして、ジャガーが『とぎや』の主人に取り憑いたように、夏帆の母親の身体を乗っ取てしまう。夏帆は『とぎや』で母親と会いシロアリであることを認めさせると、真実を引き出そうと試みる。【第四章 守護天使、象の卵とスカーレット・ヨハンソン】夏帆は、これまでのことを『とぎや』で主人と話し合い、「とくべつな刃物」作りを依頼する。「ミソラの物語」の執筆を進めつつ「とくべつな刃物」の完成を待つ夏帆は、三度佐原に会う。そこで佐原は、自身が夏帆の守護天使で、守護天使界のジャック・ケルアック的存在だと告げる。その後、夏帆は完成した「とくべつな刃物」を『とぎや』の主人から説明を受けながら受け取る。夏帆が浦和の実家を訪ねると、シロアリの女王に喉を締め殺されかけるが、危機一髪救われる。本物の母親とシロアリの女王が交互に入れ替わる状況の中、「ミソラの物語」を描き進める夏帆。大柄な雌猫に導かれ、両親の寝室へと向かった夏帆は、本物の母親に促され、躊躇に躊躇を重ねた末、「とくべつな刃物」でその心臓を一気に刺す。翌朝、実家の自室で目覚めると、母親はダイニングの食卓で新聞を読みながら緑茶を飲んでいた。そして、武蔵境方面には一度も行ったことはなく、『とぎや』のことも知らないと言った。武蔵境の家に戻り、夏帆が呼びかけても、ありくいから返事はなかった。夏帆は、「ミソラの物語」を完成させるべく、いつもの仕事机の前に戻っていった。 ***【第四章 守護天使、象の卵とスカーレット・ヨハンソン】の中で、夏帆が描き進めた「ミソラの物語」は、次のようなもの。10歳の少女・ミソラは、家族と一緒にハイキングで森の奥に来ていたが、昼寝から目覚めると、一人ぼっちになっていた。家族に置き去りにされたと思ったミソラは途方に暮れるが、大柄な雌猫に導かれ、一軒の小さな小屋に辿り着くと、中から老人が出て来る。シチューとパンをご馳走になり、寝床で眠った翌朝、ミソラはこれまでの経緯を老人に話す。老人は、猫の名がスカーレット・ヨハンソンで、ミソラの守護天使だと言う。そして、森に行って象の卵を探し、ここに持ち帰ってこられたら、この森から抜け出せるとも。怒った母象にしっかり気を付けるようにと注意を受け、ミソラは雌猫と共に森に出た。そして、ミソラたちは森の奥で探していた象の卵を見つけるが、その後を母象が追って来る。ミソラが小屋に辿り着くと、中から出てきた老人が母象を制止、ミソラから卵を受取る。が、老人の思いがけない言葉で、ミソラは母象に踏み潰され、いったん死んでしまう。生まれ変わったミソラは、境界線をまたいで、元の世界に戻り、平穏な家庭生活を取り戻した。 *** そう、彼らはメタファーであると同時に、紛れもない実体でもある。 その両者(メタファーと実体)は明らかに分離不可能な状態に置かれている。(p.316)世界観は、村上ワールドそのものだと思いますが、お話としては、とにかくスッキリと終わったという印象。今となっては、『羊をめぐる冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』を読んだ頃の放り出されたような自分の感覚がとても懐かしい……
2026.07.19
コメント(0)
![]()
『高校事変』の前日譚。 シリーズ完結が目前に迫ったところで時を大きく遡り、 結衣が高校に入学したばかりの頃のお話。 舞台は北茨城、福島との県境に近い今では人口約6千人の寂れた鵺沼町。 ***優莉結衣は高校進学を希望したが、父・匡太が死刑に処せられた凶悪犯であったことから、受入れ表明をしてくれた自治体は全国で5か所しかなく、そのうちの一つに入学する。それが茨城県立鵺沼高等学校だったが、同級生・榎阪道成以外は皆冷たい視線を向けてくる。結衣は、あちこちで度重なる嫌がらせを受けることになるが、全く手加減なしに対応。父・匡太の取引相手でフリーランスのコソ泥・駒ヶ嶺隆敏からは、反故師について聞かされる。反故師は高齢の保護司の一人で、保護観察中の少年を世話しつつさらなる凶悪犯に育て上げた。その一人が匡太で、今回結衣の受入れ表明をした5自治体の地域実力者全員が疑わしいと言う。駒ヶ嶺は結衣に魔手が伸びてくる恐れがあり、鵺沼町の名士・牟禮憲義に注意するよう警告する。駒ヶ嶺と共に、六本木オズヴァルドに出入りしていた徐修也も、結衣を護るべく行動。そして、反故師への礼として匡太が「神通力」を提供したと聞かされた結衣は、牟禮を探るうちにそれがVXガスであり、あと40日前後で容器から漏れ出すことを知る。結衣は放課後義務付けられている自治体バイトに参加し、榎阪、女生徒2名と共に沼へ辿り着く。鵺沼署地域課長・寶角恒吉らにそこで泳ぐよう強要されるが、それは産業廃棄物の不法投棄場所。化学物質を投棄した結果、硫酸の1京倍の強酸・フルオロアンチモン酸に満たされた毒沼で、大量の残土や被災地の瓦礫も山中に運び、その見返りに大企業から裏金を受取っていたのだった。結衣は寶角が運転する小型ホバークラフトに飛び乗ると、沼に浮かぶ小島で牟禮と対峙する。 ***大学生になって、妹たちを護るべく冷静に自分を抑制する結衣に慣れていたせいか、今回のお話の結衣の尖りっぷりには、懐かしさを感じました。しかしながら、この時点で既に身に付けている戦闘能力は驚異的。最後の大脱出劇を見せつけられると、横浜ランドマークタワーの逸話も頷くしかないですね。さて、5人のうちの一人、牟禮は反故師でないことが確定したので、残るは4名。さらに、VXガスの件も未解決で、これは続編なしには済ませられない状況に。シリーズ完結前の一冊と思っていましたが、そうではありませんでした。実際、次の一冊が今月24日に刊行されることが決まっています。
2026.07.04
コメント(0)
![]()
2001年『氷菓』でデビューした米澤穂信さんは、 第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)で奨励賞を受賞。 2021年に刊行された本作では、 第12回山田風太郎賞、第166回直木三十五賞、 第19回本屋大賞候補(第9位)、第22回本格ミステリ大賞(小説部門) と受賞を重ね、現在公開中の映画も話題を呼んでいる方。 ***幾万の織田勢に囲まれながら、有岡城に籠り抵抗を続ける荒木摂津守村重。謀反を止めるべく訪れた小寺官兵衛を地下の土牢に閉じ込めるが、その後、城内で立て続けに不可解な事件が起こると、村重は官兵衛に曲事を解くよう命ずる。官兵衛は実相を直截に語ることはないものの、その都度思考の方向性は示すのだった。1つめは、織田に降った大和田城の安部二右衛門の一子で、人質となっていた自念が、御前衆が警固する屋敷奥の納戸で、矢傷を負って死んでいたという事件。2つめは、村重が高山大慮率いる高槻衆、鈴木孫六率いる雑賀衆と共に敵陣に夜襲をかけた際、誰が敵大将・大津伝十郎長昌を討ち果たしたか判然とせず、その首が大凶相の首に変じた事件。3つめは、村重が光秀に和談取次を請う書状と天下の名物・寅申を言付けた廻国の僧・無辺が、警固していた御前衆の一人・秋岡四郎介と共に庵で殺害され、寅申も消えてしまった後、その犯人で織田方と通じていた瓦林能登が落雷で死亡した際、そのすぐ近くで撃ち込まれた鉛玉が見つかったという事件。村重は官兵衛の言葉から、御仏の罰であるとの風聞が流れた3つの事件の共通点に気付く。それは、ある者が、死にゆく民を安んじようとした行為であった。謀反人の存在が気になり、周囲の動きに疑心暗鬼になっていた村重がそのことを伝えると、官兵衛は、村重が直々に安芸に出向き、鞆の将軍家を通じ毛利輝元に出陣要請するよう進言する。しかし、村重は官兵衛の遠大な謀略に気付く。それでも、有岡城を脱け出ると、尼崎城、花隈城を頼って戦い続け、毛利領内に逃れた後も、茶人として摂津に戻り、天寿を全うした。そして、官兵衛は有岡城落城後に救出され、死んだものと思っていた松壽丸との再会を果たす。 ***時代物の中にミステリー要素を巧みに組み込んだ手腕もさることながら、籠城する村重が時が経つにつれ、内部から精神的に追い込まれていく様を見事に描いており、有岡城脱出の背景に実は官兵衛の存在があったとする設定にとても感心させられました。菅田さんは、大河の半兵衛も良かったですが、こちらの官兵衛も適役ですね。
2026.07.04
コメント(0)
![]()
アメリカという国の正体、本性を見せつけられた一冊。 そこに住む人たちの本音や実態が隅々から湧き上がってくる。 これまでアメリカに対して漠然と抱いていたイメージが大きく揺らぎ、 2016年の大統領選で、クリントンがトランプに敗れたのも頷けるようになる。 *** ファルウェルは続ける。 合衆国が陥っている罪が5つある。 中絶、同性愛、ポルノ、教育における神をも恐れない人間中心主義、壊れた家族。 これらを悔い改め、アメリカを変えるためにできることが3つある。 選挙登録、情報拡散、動員。 キリスト教徒が政治に参加しないことは、社会に参加しないことであり、 社会に参加しないキリスト教徒は中世の修道僧のようなものだ。 また、牧師には教会員がきちんと選挙登録するように促す義務がある。 そうして議会に議員を送り込むことで、 アメリカ人の自由と権利を守る法を通すことができる。 それがアメリカを「グレート」に保つ方法なのだ。(p.80)これは、「福音派の伝統に基づいたキリスト教主義の大学」を1971年に創立した伝道師ジェリー・ファルウェルが、モラル・マジョリティについて1980年に記したもの。この時の大統領選で「ともにアメリカを再び偉大な国にしよう!」と唱えたレーガンは、「古き良きアメリカ」を守りたい福音派へと秋波を送り、共和党との蜜月関係を築きあげ、進歩的リベラリズムの民主党・カーター候補に圧勝し、大統領となった。 ファルウェルに続いた福音派が目指したのは、 アメリカ社会全体をキリスト教的な「古き良き」価値観に立ち返らせることだった。 その影響は、家庭、ジェンダー観、宗教、教育、メディア、エンターテイメント・芸術、 ビジネス、政府など多岐にわたる。(中略) したがって、米国文化のキリスト教化を目指す福音派と、 リベラルで進歩主義的なカウンターカルチャー勢との対立は先鋭化し、 結果、米国社会の分断や分極化は深まるばかりだ。(p.283)キリスト教徒の国として「古き良きアメリカ」への回帰を目指し、終末論的な世界観の中で、対立する相手をサタンや悪魔の支配下にあるものとみなして、その言説を打ち負かすため戦い続け、そこに合意や妥協点を見出そうとしない。そういった態度の行きつく先には、どんな未来が待っているのだろう。
2026.06.28
コメント(0)
![]()
たくさんの方に読まれている本書。 文章もとても読みやすいもので、読み進めること自体に支障はありませんでした。 ただ、高校で世界史は習ったものの、 日本史と政経で大学を受験した私には、その内容がかなり手強かった…… もちろん、世界史の教科書では触れられていないような 細かく深い所まで本書には記されているので、なおさらです。「第1章 古代-王国とディアスポラ」の部分については、旧約聖書や新約聖書について書かれた書籍や、『ローマ人の物語』を以前読んだことがあるので、ある程度は付いていけました。が、「第2章 古代末期・中世-異教国家のなかの『法治民族』」になると、もう辛い。コーランについて書かれた書籍をちょっと読んだだけの付け焼刃知識の頭には、書かれていることがすんなりと入って来てくれない…… 「第3章 近世-スファラディームとアシュケナージーム」と「第4章 近代-改革・革命・暴力」も、朦朧としつつ匍匐前進ペースでページを捲り、「第5章 現代-新たな組み合わせを求めて」に入って、ようやく意識が戻って来た感じ。しかし、一冊を読み終えて一つも付箋を貼れなかったことから、理解の浅さが分かります。それでも、第5章は面白く、この部分だけでも読む価値はあると思います。
2026.06.27
コメント(0)
![]()
購入後、しばらく机の上に置いてあった本書。 「次は、これを読もうかな」と思っていた頃に出向いた職場研修。 当日の講師のお名前を見ると、何か見覚えがあるな。 レジュメを捲っていくと、そこに本書の広告が印刷されていました。 SCさんらしい、とても柔らかで温かみが感じられる語り口。 高校で指導後、現在も大学で指導を続けておられることから、 多くの聴衆を前にしても、残り時間を意識しながらの落ち着いた話しぶり。 聞く者の集中力を途切れさせることなく、講演を終えられました。帰宅して、早速本書を読み始めましたが、書き言葉になっても、一つ一つのフレーズに人柄が滲み出ていました。様々な現在の教育の課題に触れられていますが、どれもこれも的を得たもので、こういう方が、文科省の話し合いに加わってくださっていることがとても嬉しくなります。 *** さらに、教育現場において多くの手を必要としているのが、 特別支援を必要とする発達的な生きづらさを抱えた子どもたちである。 もちろん、発達障害が即、不登校につながるわけではない。 特別な支援を必要とする子どもたちの特性に合った対応がなされずに、 いじめられて不登校になったり、 周りの不適切な一言から学校が苦しくなったりというケースもある。 その場合、二次障害としての不登校が起こりうる。(p.59)不登校の児童生徒数も増えていますが、特別な支援を必要とする児童生徒数も増えています。そして、特別支援学級や特別支援学校における不登校児童生徒数も増えていますが、この問題については、その対応が後手後手に回っている感が拭い切れません。今後取り組んでいくべき、大きな課題の一つと言えるでしょう。 以上のように修正を繰り返すなかで、 いじめは加害者側の理屈や客観的な事実に基づくのではなく、 被害者側の主観(苦痛を感じているということ)を何よりも重視した定義に 変化してきたことがみてとれよう。(p.107)ポイントは「客観的な事実に基づくのではなく」の部分。「被害者側の主観を何よりも重視」としていることが、誰もが納得しやすい解決へと至ることを、より難しくしているとも言えます。「いじめ」も「ハラスメント」も、とても難しい。 教育の現場ではいま、国や自治体を中心に、 子どもたちの実情や時代の変化に応じた新しい取り組みが次々と行われている。 しかし、教育という生身の人間を対象とする営みの特性上、 その効果を数値で確かめることはとても難しい。 比較対象をつくることもできず、成果が表れるまでに時間がかかるからだ。 そのため、一つひとつの教育活動の成果を十分に検証しきれないまま、 次の取り組みへと移らざるをえない現状もある。(中略) こうした時代の流れに逆らうことは難しいが、 費用対効果は悪くても、そして時間はかかっても、 後からじっくり血肉になっていたことが実感できるような教育を 大事にしたいものだと切に思う。(p.192)これは教育現場に携わっている者なら、誰もが感じていることではないでしょうか。それに比べると、行政の方がそれらの諸問題に直接関わることの出来る期間というのは総じて圧倒的に短いため、短期間で結果を出さねばならないという現実があります。行政主導で教育が進められると、どうしてもこういった弊害が出てきがちです。
2026.06.27
コメント(0)
![]()
『キラキラ共和国』に続く『ツバキ文具店』シリーズ第3弾。 ミツローさんとの間に生まれた小梅と蓮太朗が小学校に入学し、 QPちゃんも中学3年生になった時点からお話は始まります。 鳩子が長らく休んでいた代書屋を再開すると、次々に依頼が舞い込みます。 *** 舞ちゃんからは、義母・ゆっこママに料理の中に髪の毛が入っていたことを伝える手紙。癌に侵された茜さんからは、結婚する娘・楓ちゃんへの手紙。マダムカルピスの旦那さんから紹介された神田川さんからは、退職届け。知的ヤクザからは、商品のペットフードと一緒に発送する手紙。若年性認知症の小森蔦子さんからは、認知症になった自分に宛てた手紙。ジャコメッティさんからは、母親から父親への自動車免許返納を迫る最後通告等々。鳩子の祖母である先代・雨宮かし子が、伊豆大島に住む美村龍三と交わした恋文の数々は、今巻のお話の中でも、最大の軸となっており、その手紙供養のため鳩子は大島に赴きます。そして、龍三の甥・美村冬馬と一緒に、二人の思い出の場所・サノ浜で全て燃やします。 その冬馬からは、同性愛者であることを両親にカミングアウトする手紙を頼まれることに。もう一つの軸は、思春期に入ってギクシャクしてしまったQPちゃんとの関係。鳩子は、QPちゃんに宛てて手紙を書いたり、伊豆大島への旅に誘ったりして関係改善に努めた結果、QPちゃんからの手紙を受け取ることが出来ました。さらに、気難しいお隣さんからの、騒々しいとのクレームの手紙に対しては、蓮太朗と小梅からの謝罪の手紙を代筆して届けますが、効果なし。しかし、南仏から一時帰国したバーバラ婦人の一言で、お隣さんを守景家の女子会に招くと、一緒に鎌倉宮で厄割り石をする関係になることが出来ました。 ***最後に、今巻の中で、私の最も心に残ったところをご紹介。 「この世界って、遊園地みたいなものかもしれないわね。 ジェットコースターで恐怖を味わったり、 メリーゴーラウンドでロマンスを知ったり、 みんな、人生を謳歌するために遊園地に来るんじゃない?(中略) 遊園地で、思いっきり楽しむのが人生の醍醐味。 怖いことや苦しいことも全部全部ひっくるめて、 経験そのものを、楽しむっていうこと。 でもね、絶対に誰もが必ず遊園地を出なくちゃいけないの。 それが、この世の唯一のルールなのかもしれないなぁ、って思うんだ。 遊園地でどれだけ楽しめるかが、人生の真価のような気がするわ。」(p.412)バーバラ婦人の一言。深いです。
2026.06.21
コメント(0)
![]()
『復讐の協奏曲』に続く御子柴礼司シリーズ第6弾。 ようやく文庫化されたので、早速読んでみました。 最近読んでいた、香月玄太郎や高円寺静が登場するお話と違って、 やはり全編が暗くて湿った重たい空気に覆われていました。 ***深夜、介護士・忍野忠泰は自らが勤務する高級有料老人ホーム<幸朗園>に侵入すると、当直の3人を縛り上げ、入所者9人を次々に刺殺した後、現行犯逮捕された。忍野は自らは正気で、この行為は虐殺ではなく天誅だと強弁、さらに狙ったのは9人ではなく、入所者39人全員を殺すつもりだったと言う。そして、令和最初で最悪の事件の弁護人が、元<死体配達人>御子柴礼司に決まる。御子柴は、元東京弁護士会会長・谷崎完吾、宏龍会渉外委員長・山崎岳海、そして自らの法律事務所事務員・日下部洋子の強い反対を受けながらも、国選弁護人となって、被害者家族の家を一軒一軒訪ね、その人となりを聞いて回るのだった。 ***今巻も残り30頁を切って、御子柴が帝都大学医学部付属病院を訪ねたところから空気が一変。第4回公判では忍野のメール通信記録が弁一号証として提出され、犯行に及んだ背景が明らかに。さらに、判決後の面会室での忍野とのやりとりから、この裁判で御子柴が目指していたものを、読者はようやく知ることになるという展開は、いつも通り圧巻で、流石は七里さんです。
2026.06.14
コメント(0)
![]()
4年ぶりの新刊となる今巻は、栞子と大輔が海外へ行き不在となる1週間、 ビブリア古書堂の手伝いをすることになった樋口恭一朗の視点でお話が進みます。 恭一朗は、栞子から古書関連の相談は独断で受けないよう言われてましたが…… 結局、扉子と共に馴染み客からの急ぎの依頼に次々に応えていくことに。 第1話 『シャーロック・ホームズの歸還』(岩波文庫)は、 坂口昌志・しのぶ夫妻からの相談。 昌志の父・平尾和志郎が太平洋戦争中に戦地に持って行った 『シャーロック・ホームズの歸還』の文庫本。 この一冊が捕虜収容所で和志郎の命を救うことになり、 昌志の人生にも関わっていると和志郎は述べていました。 扉子は、『日本書紀』の下巻の中に嵌め込まれたその本に記された「踊る人形」から 和志郎の言葉の意味を解き明かしていきます。第2話 森山大道『写真よさようなら』(写真評論社)は、文香の高校の同級生・日野千尋からの相談。千尋の元夫で故人となった江間の蔵書である写真集『写真よさようなら』と挟まっていた赤いスリップの不可解。オリジナル初版と復刻版、著者のサイン、そして同級生・石黒和也との貸し借りに加え、和也の妹・美月の存在等々、謎は深まるばかり。しかし、扉子は美月と言葉をやりとりする中で、『写真よさようなら』を巡る関係者の行動の裏側を、一つ一つ解き明かしていきます。第3話 中原中也『山羊の歌』(文圃堂書店)は、文香の高校の後輩で元カレ・玉岡昴からの相談。中也の恋人・長谷川泰子への献呈署名が入った『山羊の歌』初版本が玉岡の婚約者・永井亜紀子と共に姿を消してしまいます。玉岡が『山羊の歌』を購入した大庭堂店主・田中敏雄は、亜紀子から電話があったと言います。そして、扉子たちが田中から聞き出した中也の詩集の元持ち主・安田道弥の家を訪ねると、そこに亜紀子が現れ、『山羊の歌』を父・道弥に差し出す姿を目にしたのでした。その後、亜紀子から不可解とも思える行動の理由が語られていきます。店に戻ると、扉子と恭一朗は篠川智恵子に出くわすことに。後日、玉岡が手元に戻った『山羊の歌』を店に届けてくれますが、その函の内側には「✓」が書かれていました。栞子と大輔がこれまでに見つけた「✓」の書かれた商品の多くは、これまでビブリア古書堂に持ち込まれた相談事に絡んでいたものだったのです。 「これらを作った人物は、母と繋がりがあるのかもしれませんね」(p.262)これは、栞子が大輔に言った言葉。もちろん、そういうことで、智恵子自身もそれを探っているのでしょう。 帯や函が偽造できるなら、本そのものも偽造できるのではないか。(p.260)これが、今後の展開の軸になっていくと思われる部分。誰がどのような意図でこのようなことを企てたのでしょうか? ***さて、巻末「あとがき」には、『ビブリア古書堂の事件手帖』の2027年のTVアニメ化について告知されています。TVドラマ化、映画化に続く3つ目の動画化ということになりますが、私としては、『事件簿』での扉子の活躍の方を見たかったかな。
2026.06.14
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖の第7弾。 心星を目指す決意をした澪でしたが、周囲は既に武家奉公に向け動いていました。 そんな中、やっと小松原に会うことが叶い、自分の気持ちを伝えた澪。 すると「お前は誰にも何も言わずとも良い。全て俺に任せておけ」という言葉が。 ***冬の雲雀やがて小野寺家用人・多浜重光が現れ、澪と種市、芳に平伏し、武家奉公を白紙に戻すと伝える。後日、姿を現した早帆に、澪は真相を話そうとするが、全てを悟った芳がそれを引き留めた。そして、食欲が落ちて眠れなくなった澪は、つる家の名前が消えた料理番付を目にすることに。落胆する澪に、源斉は自身も医師見立と呼ばれる番付に一度も載ったことがないと語りかける。忘れ貝再び『三方よしの日』を手伝うようになった又次から、新しい料理を考えてはと提案された澪。試行錯誤の末に出来上がった「牡蠣の宝船」は、あちこちに真似する店が現れるほど評判を呼ぶ。小松原に憤慨しながら現れた美緒には事の真相を話し、「きっと道はあるはず」と励まされるが、天赦日の夜、輿入れの長い行列が小野寺家の屋敷の中へと吸い込まれていくのを見届けることに。一陽来復味覚と嗅覚を失った澪を助けるため、又次が2か月間つる家に寝泊まりして調理場に立つことに。『三方よしの日』でない日に酒を出せと強要する二人の若侍も、機転を効かせ追い返す。一方、澪は一柳店主・柳吾から瀬戸物商で助言を受け、厳しい発言の背景にあった思いに気付く。伊佐三の親方や源斉の言葉からは、鯛粗炊から九つ道具を捜し出す「鯛の福探し」を思いついた。夏天の虹清右衛門に又次が作った料理の名を教えられ、あさひ太夫の身請けについて発破をかけられた澪。その後、坂村堂が清右衛門に頼まれたと『料理物語』と『料理早指南』4巻を届けに来る。又次が去る前日、『三方よしの日』が一日早く実施され、又次は客たちに最後の挨拶をして回る。帰途に就いた又次と、忘れ物を届けようと又次を追った澪が吉原に近付くと、甲高い鐘の音が……京町の海老屋吉助方より出た火は、余すところなく遊里を焼き尽くし、全てを灰にした。あさひ太夫は燃え盛る炎の中から又次に助け出され、澪は彼女の焦げた髪の臭いを嗅ぎ取る。が、又次は太夫を澪に託して力尽き、崩れ落ちてきた廓の大屋根の火の海に吞み込まれてしまう。弔いの後、又次が残した「柚餅子」を口にした澪は、両の瞳を閉じその味わいに専心した。 ***最後は思いもよらぬ急展開、澪は今後どのようにして野江と繋がっていくのでしょうか?また、小野寺数馬や早帆との関係は、このまま消え失せてしまうのでしょうか?さて、「巻末付録 澪の料理帖」と共に、今巻から「特別付録 みをつくし瓦版」が登場。『あきない世傳金と銀』の「治兵衛のあきない講座」に当たるもので、りうが担当しています。
2026.06.07
コメント(0)
![]()
第23回『このミステリーがすごい!』大賞文庫グランプリ受賞作品である 「一次元の挿し木」を加筆修正した一冊。 2026年7月5日(日)から、読売テレビ制作・日本テレビ系「日曜ドラマ」枠で 放送される予定にもなっています。 ***24年前、分子生物学の世界的権威・仙波佳代子をリーダーとするループクンド湖発掘調査隊で、共に調査に当たった日江製薬の先輩、後輩である七瀬京一と石見崎明彦。現在、京一は日江製薬主幹研究員兼代表取締役を務めているが、9年前に新興宗教団体・樹木の会の熱心な信者・七瀬楓と再婚した。しかし、その1年後に彼女は脳の病気で他界、さらに、娘の紫陽(しはる)も4年前の豪雨災害時に失踪していた。楓の連れ子だった七瀬悠(はるか)が、今でも義妹を懸命に捜し続けているのに対し、自らは失踪宣告届を提出、紫陽の葬儀を執り行う。一方、20年程前に日江製薬を退職、大学の遺伝人類学教授となっていた明彦には、インドの研究者・アモールから24年前に発掘した『骨を送った』とのメールが届く。明彦が研究室で指導する大学院生・七瀬悠に古人骨のDNA型鑑定を依頼すると、その解析結果が紫陽のものと一致、明彦は何者かによって殺害されてしまう。研究室からは古人骨とDNAサンプルの全てが盗まれ、明彦の娘・真理も行方不明に。悠は明彦の姪・唯と一緒に紫陽と真理の行方を追うことになる。悠と唯は仙波佳代子について探り、東邦ジャーナルの記者・平間孝之とも知り合う。しかし、悠は牛尾という男に襲われ、その後研究室に平間の頭蓋骨が送られてくる。さらに、刑事から京一に娘はおらず、紫陽はこの世に存在しないと言われ、京一もそれを肯定。唯の自宅を訪ねると、インターホンで「娘は、6年前に交通事故で亡くなっている」との返答。しかし、悠が紫陽との二人だけの避難所だった山城美術館に行くと、亡き母親が最期に自分と紫陽に宛てた手紙を見つけ出す。それぞれの手紙には、いずれも『あなたを産めたことを、誇りに思います』と記されていた。悠は佳代子を明彦の墓に呼び出し、彼女からループクンドの人骨研究データを受取ると、紫陽が紫陽花を見て「私と一緒」と述べていたことを伝え、佳代子、京一、明彦が携わった研究が、死者の複製だったことを看破する。佳代子は、樹木の会教祖・真鍋宗次郎と関係が深かった京一の父親で日江製薬前会長だった七瀬弓彦の全面協力を得ながら、宗次郎のクローンである牛尾から依頼を受け、『魂の巡る土地』に残された人骨から女性後継者を作ったことを認める。悠は、日江製薬応用技術センターへ向かい、そこで出会った京一から、紫陽を守るため彼女の存在を隠す必要があったこと、それは、再び牛尾が動き出し、研究の証拠や関わった人物を完全に消し去ろうとしているからだと聞かされる。実験の影響で楓が亡くなり、紫陽も同じ運命をたどる可能性があったため、京一は独自に紫陽の治療を行い続けていたが、牛尾に殺されてしまう。悠は山城美術館で、それまで唯だと思っていたのが実は石見崎真理で、そこにあったベッドで屍のように横たわっているのが紫陽だと知る。真理は4年前の紫陽との出会いから現在に至るまでの日々を悠に語るが、そこに牛尾がやって来る。悠は囮になって牛尾を引き付け、真理と紫陽を逃がすと、危機一髪で牛尾を倒すが意識を失う。真理は倒れた悠を見つけると研究施設まで運び込むが、紫陽は自ら姿を消してしまった。日江製薬のスキャンダルは表に出ることなく4年が過ぎ、悠は真理と一緒に暮らしながら、山城美術館の復元に励んでいた。そしてあの夜、紫陽は京一から投与された薬で身体の支配を取り戻すと、樹木の会教祖の役目を引き受け、現在に至っていた。 ***ドラマでは、七瀬悠を山田涼介さんが、石見崎唯を白石聖さんが、仙波佳代子を鈴木保奈美さんが、七瀬京一を佐々木蔵之介さんが演じられるとのこと。他にも錚々たるメンバーが揃っており、注目を集めそうですね。原作からどのようなアレンジが施されるかも楽しみです。
2026.06.06
コメント(0)
![]()
タイトルはもちろん知っていたし、よく売れていることも知っていた。 でも、中身はあまりよく知らないまま、ネットでポチっと購入。 きっと、歩くことを奨励し、どんな風に歩くかを指南する一冊だと思いつつ。 なので、日々ウォーキングに励む私は、読み始めて結構驚いてしまいました。 確かに 棺桶なんかに入りたくなかったら歩こう(p.3) とは書いているけど、著者が本当に言いたいのは 歩けるうちは、人は死にません(p.4) ということ。歩くことを奨励すると言うよりは、 寿命ってどれくらい歩けるか、どれくらい立っていられるかなんだから、測れるんだよ。 ちょこちょこ歩きじゃそろそろだね(p.32)っていうことを書いている。即ち、在宅緩和ケア医として2,000人以上の看取りに関わった「緩和ケア 萬田診療所」院長・萬田緑平さんによる人生の最期をいかに生きるかについて記したもの。これが、世間で評判を呼んでいる一冊の正体なのでした。新書でありながら、活字のサイズはハードカバーレベルに大きく、行間のスペースも十分にとっているため、高齢者の目にも優しい。そして、文章も分かりやすいのでスイスイ読める。さらに、自分事として誰もが向き合うべきテーマなので、一生懸命に読むしかない。人それぞれに、本書を読んで思うこと感じることは違うでしょう。そして、今後の行動も、最期の時の過ごし方も人それぞれでも、先程述べたように、自分事として誰もが向き合うべきテーマなのは間違いない。ですから、送る側も、送られる側も、読んでおいて決して損はしない一冊です。
2026.05.31
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖の第6弾。 今巻は、シリーズの中でも大きな分岐点となりそうなお話が続きます。 人生を左右するような選択肢が次々に示され、大きな決断を迫られる澪。 果たして、本著タイトルの「心星」を見つけ出すことが出来るのでしょうか。 ***青葉闇坂村堂の助言で、澪は何とか生麩を作りあげるが、小松原は献立に載せるのは考えものだと言う。それを口にした坂村堂の父で料理番付行司役の日本橋『一柳』店主・柳吾は、澪と芳を店に招き、幕府の重鎮だけがそれを口にできる理由を伝え、澪に料理人としての矜持を問い、最後に一言。 「ひとは与えられた器より大きくなることは難しい。 あなたがつる家の料理人でいる限り、あなたの料理はそこまでだ」(p.75)天つ瑞風澪は、翁屋楼主・伝右衛門から吉原に出店し『天満一兆庵』の暖簾を再び掲げてはと打診される。一方、登龍楼店主・采女宗馬は、神田須田町店をつる家に30両で譲り、健坊も引き渡すという。澪は双方の申し出を断り、客の顔が見える今のつる家の料理人でい続けるという決断を下す。伝右衛門から、澪に用意した店を采女が譲ってくれと言いに来ていたと知らされた後、又次に案内されて花魁の居室へと赴いた澪は、襖越しに野江と言葉を交わし合ったのだった。時ならぬ花元飯田町でぼやが続き、火の扱いを朝五つから四つに限られたつる家は、客足が遠のいてしまう。澪は白木の割籠に入った弁当「お手軽」の販売を始め評判を呼ぶが、柳吾は「邪道」だと言う。世継稲荷の縁日に出会った早帆に料理を教えるうち、火の扱いの申し入れ、弁当販売が終わる。指南最終日、早帆と共に「お手軽」を持って、覚華院、里津と名乗る早帆の母親を訪ねる。覚華院は、小松原の妹・早帆が、澪を兄・小野寺数馬の嫁に迎えよと懇願しに来たと話す。心星ひとつ小野寺家用人・多浜重光がつる家を訪れ、覚華院が澪に武家奉公するよう仰せだと伝える。事の仔細を聞かされた面々が澪の決断を見守る中、婿を取った美緒が自身の思いを澪に伝える。後日、店に顔を出した小松原に「俺の女房殿にならぬか」と言われた澪は「はい」と答える。が、周囲が様々な反応を示す中、澪は源斉の助言で自身の中の揺るぎない「心星」を探し当てた。 ***澪の最後の決断は、はっきりとした言葉は書かれていませんが、まぁ、そういうことでしょう。でないと、『みをつくし料理帖』が『みをつくし料理帖』でなくなってしまいます。しかしながら、この選択が周囲に及ぼす影響は相当なもののはず。はたして、どのように道を切り開いていくのでしょうか?
2026.05.31
コメント(0)
![]()
前巻発行からおよそ3年半を経てのシリーズ第9弾。 副題は「ビーベリーは美しく輝く」。 コーヒー豆は、実の中に片面が平らな種子が二つ入ったものですが、 まれに実の中に丸い種子が一つだけのものがあり、”ビーベリー”と呼ばれます。 ***美星と結婚してくれたら、店を二人に譲ろうと思っていると藻川氏から言われたアオヤマ。結婚に関する条件は明かさずに、藻川氏が店を譲る心づもりがあるらしいと伝えると、美星は、店を継ぐ準備としてできるのは不安要素をできる限り排除しておくことだと答える。そして、二人は『食べマップ』に直近3カ月で3度低評価をつけたレビュアーX氏を特定することに。そのレビューの内容は「営業中に、店員がよその古書店のことを非難しているのが聞こえて来た」「外から帰って来た猫に、平気で店内を歩き回らせていた」「店のオーナーが、芸能人の訃報を話のネタにしていた」というもの。そして、3件のレビューに書かれた出来事のすべてに関わっていたのが常連客の高地和雄。アオヤマは高地から話を聞き出そうと強引にカフェに誘い出し、さらに居酒屋で酒を酌み交わす。そこで、高地には現在良い感じの女性がいて、毎日のように連絡を取り合っていることが分かる。さらに酔った高地を自宅マンションまで送り届け、彼がいつも玄関の鍵をかけないことを知る。翌日、X氏が「店員が職務放棄して客と店の外へ出かけた。他の客がまだいたのに」とレビュー。美星は問題となっている4件のレビューを高地に見せ、この内容を誰かに話したかと確認する。さらに、店に姿を現した女性に投稿の理由を問いただすと、彼女は高地への想いゆえと口にする。しかし後日、高地が持ってきた書籍の中に挟み込まれていた「遺書」を見つけた美星は、これまでの推理がまるで見当違いで、犯人の真の狙いが何だったのかにようやく気付く。 ***赤川みぞれが、母である女優・赤木みちほについて著した手記『女優である前に』。今回のお話では、その抜粋が随所に挿入されていることから、X氏が誰であるかは、読み進めていくうちに凡そ見当がつくと思います。それでも、エンディングを迎えた時、このお話にどんな感想を抱くかは、読者により様々かと……一方、巻末の特典掌編「優しい人」は、とても良い短篇でした。ところで、今回、私が最も印象深かったのは次の箇所。なぜなら、これに近いことを、かつて私も実際に体験したからです。くれぐれもご注意を! 泥棒は朝のゴミ出しの、せいぜい5分くらいのあいだ、 住人が鍵をかけずに外出した隙を狙うという話も聞いたことがある。(p.247)
2026.05.24
コメント(0)
![]()
2009年3月に刊行されたものを2012年7月に文庫化した一冊。 『カフーを待ちわびて』の舞台である沖縄・与那喜島をめぐって繰り広げられた、 もう一つの物語。 先日読んだ『一分間だけ』とも共通点がありました。 ***鳳仙花岡山を離れ、沖縄・与那喜島のダイビングショップで雑用アルバイトをする純子。ショップのある南浜に巨大リゾート開発の話が持ち上がり、住民は立ち退きを打診されているが、同意していないのは、オーナー・田中庄司と友寄商店経営者・友寄明青、ユタのおばあらだけ。が、もう一人のアルバイト・奈津子から庄司が立ち退きに同意、石垣島に移転すると聞かされる。奈津子が島を出て行くのを見送った後、与那喜に帰って来た成子を車で実家に送っていく。ねむの花 デイゴの花日本有数の都市開発企業に勤務する成子は、プロジェクトリーダーとして多忙な日々を過ごす。が、結婚して5年の夫・憲明から離婚を切り出され、残された愛犬・ホープとの暮らしに。久々に再会した同業他社勤務の同級生・照屋俊一から与那喜・起死回生の開発プランを聞かされ、それを前に進めるため、同級生の友寄明青に移転するよう説得してくれないかと頼まれる。さがり花奄美諸島・与路島を訪れた難波純子は、加計呂島に到着した山内成子に、早速メールを送る。それは、ひとり旅が好きな女性が憧れる島の宿をプロデュースするプロジェクトの予備調査。純子と共にサガリバナが一輪咲くのを見た民宿徳田の息子・開大は、ノロの母のお告げを伝える。あの花が落ちるころ、故郷に残してきた大切な人の命が尽きるので、明日すぐに帰れと。千と一枚のハンカチ成子は加計呂島の「木綿のハンカチーフ」というカフェの経営者・知花子に会う。東京出身でバツイチ、ひとり娘は15歳の時に事故で他界、50歳を超えてこの島にやって来た。知花子に自身の本音を見抜かれた成子は、知花子がこの島を終の住処に選んだ理由を聞かされる。それは、一度会っただけの浜木綿一からコンロンカ、別名ハンカチの花畑を相続した経緯だった。花だより母親の初七日を終え、岡山市内のフラワーショップで働き始めた純子が、島な人々に「旅人廃業」というタイトルのメールを出すと、成子、奈津子、庄司、開大らから便りが届く。そして、出張で広島に行った成子と再会後、彼女から届いていた手紙を改めて確認すると、2枚目の便箋追伸に、友寄明青が幸と一緒に島に帰って来たと聞いたと記されていた。 ***『カフーを待ちわびて』発行から、約3年を経て発行された作品ですが、初々しさの中にも、マハさんらしさが感じられました。こういった手法で作品を次々に生み出していけば、量産も可能だったのでしょうが、それは、原田マハという作家のイメージとは異なるものですね。
2026.05.23
コメント(0)
![]()
『さよならドビュッシー』に登場した香月玄太郎を主人公とする 『要介護探偵の事件簿』を、文庫化に際し加筆修正した一冊。 以後、高円寺静を主人公とする『静おばあちゃんと要介護探偵』、 『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』へと続いていきます。 ***要介護探偵の冒険内側から全て鍵が掛かった建築中の自分の家で、ハルミ建設建築士・烏森健司が絞殺された。玄太郎は、現場周辺の新築物件がユニット工法で建てられていたことや、烏森が設計したマンション地下駐車場物損事故現場に残されたコンクリート片、医学部教授から聞いた死亡推定時刻算出方法と被害者に付着した塗料の情報から真犯人に迫る。要介護探偵の生還70歳の玄太郎が脳梗塞で倒れ、その後遺症は下半身と両手の指、言語中枢に及んだ。リハビリのため訪れたケアセンターには、息子夫婦に励まされ歩行訓練を続ける領家壮平がいた。玄太郎は、介護士・みち子が用意した戦艦三笠のプラモデル作りに、集中力と忍耐力を発揮する。壮平の歩行訓練に周囲が熱狂する中、その声なき訴えを受け止めた玄太郎が「た、たわけかあ」。要介護探偵の快走近所の高齢者を狙った通り魔事件が続発してると、神楽坂美代から聞かされた玄太郎。しかし、その美代、さらに車椅子に乗った区内最高齢90歳の佐分利亮助も襲われる。亮助を見舞った玄太郎は、小学校の運動会で後期高齢者と障害者による車椅子400m競走を企画。自ら賞金100万円を用意し、自身も競走に参加して犯人をおびき出すと、一連の真相を暴き出す。要介護探偵のと四つの署名玄太郎はみち子と共に銀行に行くと支店長が対応、しかし計画停電で閉店が1時間早まっていた。シャッターが下り始めると、そこに4人組の強盗が現れ、行員10名と利用客23名が人質になる。電磁ロックが無効となった地下大金庫から、金地金を盗み出そうとする4人に玄太郎は説教。さらに事件の黒幕を暴き出すと、県警の特別対策班突入後、4人に署名せよと紙片を突き出した。要介護探偵最後の挨拶国民党愛知県連代表・金丸公望が、自宅でレコード鑑賞中に青酸カリを摂取して急死、 元塗料メーカー社員で現在は県会議員の長男・龍雄は、事件は汚職隠しと野党から攻撃を受ける。玄太郎から協力を依頼された岬洋介は、アクセサリー類の全てが可燃ゴミに出されたと知ると、介護車両でゴミ回収車を追い、静電気防止用のスプレーが爆発するのを阻止、真犯人を暴き出す。 ***時系列としては、全てのエピソードの中で「要介護探偵の生還」が最初に位置し、最後に位置するのが『さよならドビュッシー』、その一つ手前が「要介護探偵最後の挨拶」ということになります。即ち、これら以外の全てのエピソードは、「要介護探偵の生還」と「要介護探偵最後の挨拶」に挟まれた時期の出来事ということ。一度亡くなったキャラクターを、時を遡って復活、活躍させるのも七里さんの得意技?
2026.05.18
コメント(0)
![]()
前巻発行から半年を経ての新刊発行。 読むまでに少し時間がかかってしまいましたが、読み始めると一気読み。 エンディングに向けて、お話も恋も大いに盛り上がっていきます。 そして、TVアニメも7月から放映開始です! ***王都へと向かう船上、慧月は玲琳を生かすため、気が枯渇したと嘘をつき、入れ替わり解消を先延ばしにしていた。そして、気の器を癒すには夜光草が必要とさらに嘘を重ねるが、玲琳はそれなら黄家の屋敷裏の黄山にあると言う。一行は黄家に立ち寄り大歓待を受けるが、慧月は玲琳が病弱になった時期を知ろうとその幼少時代について探る。玲琳の父・泰山や侍女たちに正体を見抜かれそうになると景彰に助けを求め、自身の彼への想いに気付くことに。慧月が玲琳の母・静秀が弔われている祠堂に行くと、そこにある文献庫で夜光草について調べていた玲琳と出会う。後殿には、静秀とその主治医で父・泰山の兄でもあった暉宏の位牌が並んでいたが、慧月はそこに怨念が凝っていると感じる。廂房では、皇后・絹秀が蒐集した呪具の中にあった血錆びた短刀、そして幼い頃の玲琳の手習いの紙が入った桐箱に目が留まる。その後、慧月が自室へと引き返し、狩りを終えた男たちが酒を酌み交わし始めると、玲琳は夜光草を求めて黄山に向かった。途中、辰宇に見つかり二人でかつての秘密基地まで辿り着くと、そこで夜光草を摘み、墓に手を合わし、辰宇に洞穴まで水を汲みに行ってもらう。玲琳が手記の入った桐箱を土中から掘り出した頃、にわかに雨が降り始め、辰宇は襲ってきた土砂に閉じ込められてしまうが、玲琳が救出に成功する。一方、玲琳の長時間不在を怪しんだ男たちは手分けして捜索を開始、尭明は客室へ、景行は黄山へ、景彰は祠堂へと向かう。景彰は、廂房で血錆びた短刀を探す慧月に遭遇、入れ替わり解消後に腕輪を渡したいと伝えると、慧月は事の真相を打ち明ける。その後、慧月は強烈な痛みに襲われるが、景彰に己の名を呼ばれると痛みは消失、これは黄玲琳の名にかけられた呪いだと気付く。そして、そこに皇后にして玲琳の伯母・黄絹秀が姿を現した。 ***今巻は、辰宇の生い立ちについても詳しく記されていますが、凡そ次のような感じ。辰宇は、皇帝・弦耀が周囲への当てつけに臘楚の奴隷・アイレナに産ませた子でしたが、皇后・秀絹が哀れんで、母子を玄領に逃します。しかし、結局、母に利用され、玄家でたらいまわしにされたあげく、初陣では養父・玄冰凌に裏切られるなど、苦難の日々を過ごします。その後、やっと義兄である尭明から鷲官長の座を与えられたのでした。そして、この辰宇の生い立ちに重ねて語られる、玲琳に関する次の記述が、今後の焦点となっていきそう。 なぜだか、辰宇から顔を背けたという人々の顔が、福英たち侍女のそれに重なった。 玲琳に優しい眼差しを注ぎながらも、けっして玲琳自身を求めているわけではない彼女たち。 いいや、彼女たちだけではない。目を閉じればすぐに思い浮かぶ、苔むした墓。 すると必ず思い出す人物。父と母、そして主治医。(p.271/350)やはり、カギを握っているのは皇后・絹秀のようですね。 ***さて、特典SS『下戸』の方は、下戸である冬雪が景行に、下戸である者のことをどう思っているのかと訊ねるお話。そして、付録小冊子の特別編『稽古を休んだ日の話』の方は、次のようなお話です。風邪を引いたのに父母が全く構ってくれなかった12歳の頃の自分の夢を見た慧月。目覚めると、やはり風邪を引いたようだったが、二胡の稽古に雛宮へと向かおうとする。しかし、朱駒宮を出てすぐ、景彰に呼び止められてしまい、強制送還&諸方面への伝達。その後、莉莉、冬雪、尭明、玲琳が、次々に慧月のもとに駆けつけたのだった。お話の本筋に深く絡むことはないエピソードですが、それにしても、辰宇、玲琳、慧月と、幼少期に寂しい体験をしたキャラばかりですね。
2026.05.10
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖の第5弾冒頭のお話では、種市が20年前を振り返ります。 14歳年下の絵師・錦吾と出来て家を出た元妻・お連が11年ぶりに現れると、 17歳の娘・おつるは、45歳の母の姿を見て、家を離れ一緒に暮らすことに。 5か月後、おつるは家に戻りたがりますが、種市は半年辛抱しろと追い返します。 ***迷い蟹-浅蜊の御神酒蒸しが、その半月後、おつるは錦吾の借財の形として金貸しに送られた末に自ら首を括った。あれから20年、錦吾が谷町の湯屋で働いてるので、敵を討ってほしいとお連が店を訪ねてくる。お連と澪のやりとりを聞いた種市は、後日湯屋で錦吾に襲い掛かろうとするが、澪とふきが阻止。そうと気付かぬ錦吾とその妻子が展開する光景を前に、種市も敵討ちを断念せざるを得なかった。夢宵桜-菜の花尽くし吉原の翁屋楼主・伝右衛門から花見の宴の料理を頼まれた澪は、小松原や源斉の助言を受け、菜の花尽くしの料理を用意、集まった人々は感嘆するが、一人苦言を呈し続ける僧侶・祥雲。遂には、あさひ太夫に出てこいと要求するが、遊女が現れ歌を一首詠むと、座り込んでしまう。宴を終えた後、澪は伝右衛門から吉原で料理屋をやらないかと声を掛けられたのだった。小夜しぐれ-寿ぎ膳父・伊勢屋久兵衛が決めた中番頭・爽輔との祝言を目前に、気持ちが沈む美緒を誘い、つる家の面々が店を休んで浅草へ出かけると、そこでお芳と澪は佐兵衛の姿を見かける。吉原で天満一兆庵を再建、成功させれば、佐兵衛の名誉を回復出来るのではと考えた澪から、指が元通り動くようになるか尋ねられた源斉は、深く頭を下げ謝罪の言葉を口にする。その様子を見ていた美緒は爽輔との婚姻を決意、自身の婚礼の膳を引き受けた澪に、「あなたを嫌いになれれば良いのに。心から憎めれば良いのに」と低い声を絞り出した。嘉祥-ひとくち宝珠直参旗本で33歳の御前奉行・小野寺数馬は、嘉祥という儀式に出す菓子を決めかねていた。妹・早帆の夫で竹馬の友でもある駒澤弥三郎は、小納戸役で食事担当の御膳番を務めている。町に出て見聞を広め、市中の料理屋を探るよう、駒澤家の湯島の別邸を貸したのも彼だった。数馬は弥三郎と語り合ううち、駒繋ぎに似た娘が発した「煎り豆」から「豆飴」に思い至る。 ***今巻最後の「嘉祥-ひとくち宝珠」は、シリーズで初めて、小野寺数馬視点のお話。これまで分からなかったことが、周辺の人物に至るまで続々と明らかになりました。母親も人物としては認めた澪と兄の仲を、妹までもが取り持とうとする展開には驚き。旗本の長男と親のない町人の娘、どうすれば結びつけることが可能なのでしょうか?
2026.05.09
コメント(0)
![]()
「言葉」というものについて、色々と考えさせられ、 新たな発見がとても多くあった一冊。 そして、俵万智という名前は知っていても、その人がどんな人なのか、 実は全然知らなかったということに気付かされた一冊。 *** 一夫多妻だったり、通い婚だったり、レイプまがいのことがまかりとおっていたり、 生まれながらに身分の差が歴然とあったり、今の世の中とはかなり様子が違う。 社会規範や常識の違いに驚きつつ、今の私たちもまた、 別の社会規範にとらわれているのではと考えることもできるだろう。 あるいは、こんなに時代が違っても、恋のときめきや失恋の辛さ、 嫉妬といった感情は変わらない。 ホッと共感すれば、遠い時代に同士を見つけたような気持ちになれる。 過去から現在を照らしたり、過去の人と何かを共有できたりすることは、 とても豊かな時間ではないかと思う。 自分は、たまたま今という時代に生きているにすぎないのだ。(p.132)これは、Questionaryという子ども向けのサイトで、子供たちからの質問に答えた際、『人間はどうして勉強しなきゃいけないの?』という質問に対して、俵さんが「世界を知るためだよ」と答えてあげたいと思い、『源氏物語』を通じて、本を手に取ることで体験は無限大になることを示そうとした一文。「今の私たちもまた、別の社会規範にとらわれているのでは」や「自分は、たまたま今という時代に生きているにすぎない」という言葉には心底共感。 「芸人でテレビとかに出ているから、こうして本も出してもらえる。 ワシより、もっと努力して、出版にふさわしいものを書いている人もおるはず」 と謙虚なヒコロヒーさん。(中略) 芸人とか関係なく、スゴイ書き手がここにおる! というのが私の偽らざる思いだ。(p.150)ヒコロヒーさんの言葉の中の「ワシ」とか「おるはず」はまだしも、俵さんが主語である文中の「ここにおる」には「えっ?」となってしまいました。調べてみると、ヒコロヒーさんは愛媛県出身で、近畿大学中退、松竹芸能大阪養成所卒業。まぁ、これは私の中では想定内の事柄で、関西弁や伊予弁が出てくるのは当然のことかと。一方、俵さんの方は、大阪府北河内郡門真町(現:門真市)の生まれで、四條畷市で幼少期を過ごし、中学生のときに福井県武生市(現:越前市)に移住されていました。何と、私が生誕後最初の記憶が残っている時期に住んでいた町で、俵さんは生まれ、私が3年間通った高校のある町で、幼少期を過ごされていたと知り本当にビックリでした。 人と話すとき、SNSに何かを書き込むとき、 何を言うかと同じくらい、何を言わないかを考える。 誰に向けての言葉なのかを意識する。 発してしまう前に、一呼吸おいて確認したい。(p.184)この部分を読んだ時に、まず頭に浮かんだのは、「何を語るかが知性、何を語らずにいるかが品性、と申します」という言葉。『ふつつかな悪女ではございますが 8』の中で、主人公の玲琳が発した言葉ですが、相通ずるものがあるのではないでしょうか。 額面通りに受けとって腹を立てるか、背景を感じとって労わるかで、 人と人との関係は変化してゆく。 そういうことの積み重ねが、日々の暮らしなのだ。(p.229)これも、とても深く考えさせられ、反省させられたところ。表面面だけでなく、そこに潜む思いをきちんと推し量れる人でありたいものです。そして、本著の中で最も印象に残ったのは、『説明できないわからない気落ちがあるのはなんで?』の質問に対する次の答えでした。 身もふたもないことを言うと、実は言葉で100パーセント気持ちを説明するのは不可能だ。 でも、それは言葉が無力だということではない(中略) 基本、言葉は、世界と1対1で対応しているのではなくて、 ざっくりとした目印だと知っておくといいと思う(中略) モノの名前を表す名詞でさえこうなのだから、 まして人の心という目に見えないものを表す言葉が、 すべてを言い尽くせないのは当然のことだろう(中略) 説明できないってことをわかったうえで、いくつかの目印を集めて、 だいたいこんな感じなんですと伝える努力をすることが、 コミュニケーションだし表現ということなのだ。(p.128)
2026.05.06
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖の第4弾。 冒頭では、大奥への奉公に備える美緒に、澪が包丁使いを教えることに。 さらに、身分の高い武家が縁組前の聞き合わせをしているような動きもあって、 源斉に心を寄せる美緒は、とても心穏やかではいられませんでしたが…… ***花嫁御寮-ははきぎ飯小松原が店に落としていったのは、地膚子というほうき草(ははきぎ)の実を乾燥させた薬種。澪は、それを料理に使おうと丹念に洗っていると、江戸紫の頭巾を被った女性に声を掛けられる。日を置いて現れた女性は、自身とその実との関りについて語り、小松原は息子だと打ち明ける。後日、小松原が店に姿を現した際、澪は「お持ち帰りになって、お母上に」とその実を差し出す。友待つ雪-里の白雪清右衛門があさひ太夫を題材に戯作を書こうと吉原を探り、翁屋に売飛ばした女衒を突き止める。清右衛門と女衒・卯吉のやり取りを聞きつけた又次は、清右衛門を殴り倒し、卯吉の悪行を暴露。澪は、旨い蕪料理を考えれば褒美をくれるという清右衛門の言葉を思い出し、執筆を断念させる。清右衛門は、天満一兆庵を再建し、身請け銭・4千両を用意して吉原から出してやれと助言する。寒紅-ひょっとこ温寿司おりょうは、夫・伊佐三が新宿に詰め始めて以来お牧という茶屋娘に入れあげてると聞かされる。それから伊佐三は一度姿を見せたが、その後お牧が現れおりょうに伊佐三と別れてくれと言う。さらに、お牧は太一を誘拐、おりょうは離婚を決意するが、伊佐三はやっと真相を明かす。太一の声が元に戻るようにと、伊佐三は誰にも知られぬよう帝釈天に百日詣の願を掛けていた。今朝の春-寒鰆の昆布締め版元の聖観堂が、登龍楼とつる屋に料理対決を提案、その結果で年内に料理番付を出すことに。競い合う食材は「寒鰆」、大坂では春が旬の魚を様々な調理方法で堪能するが、冬は勝手が違う。小松原のことが色々と気になる澪は、出刃包丁で左手人差し指と中指を傷つけ縫うことに。それでも、澪は寒鰆の昆布締めに辿り着くが、大関位を得ることは出来なかった。 *** 「日本橋伊勢屋の娘ならまだしも、何の後ろ盾もない、それも女料理人では話にならぬ。 そなたの気持ちは知らぬが、私は母として、さような縁組を許すわけにはいかぬのです。 どうあっても、許すわけには」 「武家の格式とはそうしたもの。なれど……」 「精進を厭わぬ心ばえ、決めたことをやり通す芯の強さ、加えて心根の温かさ。 そうそう居る娘ではない。 あれのひとを見る目の確かさを、今度ほど誇りに思うたことはない」(p.62)澪はすっかり諦めモードですが、小松原の母親の言葉からは、僅かながらも一筋の光明が……でも、実際のところは、天満一兆庵の再建以上に、相当難しいところではありましょう。それでも、髙田さんなら、きっと良い収め方をしてくれるはず。それを信じて、この先の展開を楽しんで読み進めていきたいと思います。
2026.05.02
コメント(0)
![]()
倦怠感、頭痛、慢性的な胃腸不調等の症状の原因は、 体内にマイクロプラスチックが入り込んだためではないか。 検査や体内洗浄を求める人々が急増し、診療所の待合室には長蛇の列が。 このように社会的不安は高まっているものの、科学的確証はまだ揃っていない。 が、このような状況下、マイクロプラ除去サプリを売る長命サイエンス(株)、 体内プラ洗浄を謳う星賀ライフクリニック、プラ排出セラピーの篠沢トータルサロンは、 いずれも大胆な初期投資が功を奏し、各業界のトップに躍り出ていた。 3つの業態最大手に対する科学的追及、それが今回瑞希が文科省で委ねられた仕事だった。瑞希は、職場である文科省科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室の先輩・瀬岐智紀、厚労省医政局研究開発政策課治療推進室係長補佐の佐久間英里子と共に協真製薬研究開発部長・樋崎昭輔によるサプリ業界への復讐行為を突き止めると、以後、樋崎の協力を得ながら、星賀ライフクリニックと篠沢トータルサロンの闇も炙り出す。 *** 善人に見えて抜け目のない人、友情に見える取引。努力に見える焦り。 やさしさに見える支配。誠実に見える演技。愛に見える依存。無関心に見える防御。 余裕に見える虚勢。素朴に見える計算。自信に見える怯え。(p.88)これは、瑞希が瀬岐に言った人に関する”欺瞞十の法則”。これを当てはめてみて、ぜんぶしっくりこなければ、対象者はとりあえず嘘をついていないと考えればいいとのこと。 自由に見える選択肢の強制。意見に見える引用。共感に見える同調。主張に見える炎上狙い。 本音に見えて構築されたプロセス。人気に見えてじつはステマ。綺麗に見えて画像加工。 革新に見える焼き直し。無関心に見える疲弊。誠実に見える演出。(p.91)これは、瑞希が瀬岐に言った”謀りごと十の法則”。二つ以上に該当すれば、関係者がなにか企んでいるとのこと。どうでしょう?
2026.04.29
コメント(0)
![]()
戦後、大学数は増え続ける一方、18歳人口は1990年代以降減少を続け、 1994年に30%だった大学進学率は、2002年に40%を超え、 2009年に50%、2025年には59%にまで上昇した。 そんな中、学校推薦型選抜や総合型選抜が広がり、 受験生の現役・安全志向が高まったことなどから、 有名私大合格者の現役比率は3割から7割へと変化、 予備校にも大きな変化が見られるようになった。以上が、第1章で記された「予備校の現状」の概略である。そして、続く第2章から第4章においては、明治から現代に至るまでの予備校の変遷が記されている。 ***1870~1880年代の私塾を起源とする予備校は、1900年代に入ると大学や中学が予備校経営に乗り出すようになる。そして、1945年の「決戦教育措置要綱」で予備校の授業は停止となった。戦後、授業を再開した予備校は、1950年代に入るとその校数を増やしていく。そして1960年代後半、団塊世代が大学受験を迎えると、その需要はさらに高まる。1960年に男子56,000人、女子7,000人だった予備校生の数は、1977年には男子190,000人、女子42,000人にまで増加、予備校は1980年代に最盛期を迎える。しかし、1979年に共通一次試験が導入され、全国規模の情報が要求されるようになると、以後、駿台・河合・代ゼミの三大予備校が全国展開を開始し、その勢力を拡大していく。これにより他の予備校は厳しい状況にい込まれ、2010年代にはその多くが姿を消した。ところが、その後浪人生が減少、2015年に代ゼミは全国20校舎を閉鎖し7校体制となる。三大予備校は二大予備校となり、急成長した東進ハイスクールや鉄緑会も安閑とはしていられない。 ***以後、第5章からは「予備校」というものについて、様々な角度から考察を進めていく。予備校を体験したことがある者にとっては、たいへん興味深い内容となっている。 予備校が、受験生のより効果的な教育のためという論理よりも、 たんにライバルをつぶすためという「資本の論理」で動く、 といわれても反論できない面があるだろう。(p.177)これは、全編を通じて強く感じること。生徒の争奪戦はもちろん、講師の争奪戦も当たり前の仁義なき戦い、マネー戦争。しかし、顧客である生徒が確実に減り続けるなか、どのようにして生き残っていくかについては、「学校」も全く同じ状況であり、行政主導でどんどん統廃合や改革が進められている。その動きは、まるで公教育を放棄し、全てを民間に委ねてしまいたいようすら見えてしまう。 「高校は文部省の学習指導要領通りにやらなくてはならない。 予備校は勝手なことがやれる。 実際、文部省の言う通りにやっていると損をするんです。 キーポイントがあるんです。 そのキーポイントを文部省は教えてはいけないと言っているんです。 予備校は勝手に教えてしまう」(p.233)『駿河台学園80年史』に掲載された、数学講師・中田義元氏の言葉である。本著では多数の予備校講師が紹介されているが、皆それぞれに個性的で尖っている。そんな講師たちが、そこに集う生徒たちにどれほどの影響を与えるかは推して図るべし。そんな授業を背景に予備校文化は形成され、それがメディアでも取り上げられてきたのである。
2026.04.27
コメント(0)
![]()
朝ドラ『風、薫る』が始まって4週間。 かなりハイペースでお話はどんどん進んでいますが、 早速、原案である本著を購入して読んでみました。 が、本著で描かれているお話は、朝ドラとは全くと言って良いほど別物でした。 ***下野国黒羽藩主・大関増裕の縁戚で、鉱山開発実務を一手に引受けていた国家老の大関弾右衛門。その妻・哲との間に、二男三女の次女として安政5(1858)年に生まれたのが大関和(ちか)。会津征討を巡り藩主・増裕は自害、新藩主は戊辰戦争で新政府側に立って会津藩を攻撃した。増裕死後、弾右衛門は家老職を辞し家知事に、その後上京し商売をするが失敗、流行り病で逝く。和は、弟・衛、妹・釛と共に書道と算術の塾に通い、釛とは華道と茶道も学んだ。また、哲からは裁縫、機織り、料理を仕込まれ、黒羽の士族・柴田豊之進福綱に18歳で嫁ぐ。22歳年上の豊之進は、陸軍少尉として勤務後退官、大地主として成功していた。しかし、妾の千代とその子どもたちと別宅で暮らし続け、義母は和に米作りを命じた。長男・六郎を連れて東京で里帰り出産した和は、明治13(1880)年長女・心を産むと、柴田家に離縁の意思を伝え、幕府の中国語の通訳として重用されてきた鄭家の女中となる。鄭家の主・永寧の二男で大蔵省で勤務する永慶から植村正度が経営する英語塾を紹介され、通うようになると、さらに正度の兄・正久が牧師を務める下谷御徒町の教会にも足を運ぶように。和は洗礼を受けた後、永寧から鹿鳴館で開かれる『婦人慈善市』の手伝いを打診され、明治17(1884)年6月、会津藩出身の大山捨松に英語対応を申し出て外国人対応を引き受けた。数日後、永寧を通して捨松から鹿鳴館で通訳をしないかと誘われると、鄭家の女中を辞し、子どもたちの世話を哲に頼んで、昼は婦人慈善会会員に英語を教え、夜は通訳の仕事をした。3年後、宣教師マリア・トゥルーの娘・アニーが経営する桜井女学校に附属看護学校を作るので、1期生として入学しないかと正久に勧められ、マリアらと横浜で貧民救済活動に参加する。意を決した和は、明治20(1887)年に麹町区の櫻井女学校附属看護婦養成所に入学した。寮で同室となった長身で断髪、同い年の鈴木雅は、ナイチンゲールの著作を原書で読んでいた。 ***このあたりまでが、現在朝ドラで放映中の時期、即ち看護婦養成所入学に到るまでの経緯ですが、実在の大関和と、朝ドラの一ノ瀬りんとの間には、かなりの相違があることが分かります。そして、鹿鳴館や貧民救済活動に纏わるお話も、大家直美の挿話として描かれていましたが、実際は鈴木雅ではなく大関和に関するものであり、和の英語能力の高さがが伝わってきます。 ***看護学校1年目は教室での座学で、教師・峯尾纓と8人の学生が『Notes on Nursing』を翻訳。2年目は第一医院での実習に6人の学生が臨み、修了式後には和が第一医院の外科看病婦取締に、雅と桜川里以が内科看病婦取締となり、1年も経つと和の奮闘ぶりは医療界中に知れ渡っていた。が、その精神は医局には容れられず、第一医院を去り高田女学校寄宿舎に舎監として赴任する。高田では廃娼運動に時間を費やした後、新設された知命堂病院の看護婦長に就任。その頃、雅は留学を取りやめ横浜貧民窟で天然痘に対処した後、慈善看護婦会を設立していた。一方、和は赤痢の防疫に尽力、以後『婦人新報』に感染症予防や看病法について寄稿する。そして高田で5年半を過ごした後、東京看護婦会で雅の片腕として多忙な日々を過ごすことに。雅と共に東京看護婦会講習所で看護婦養成を行い、大日本看護婦人矯風会会長に就任すると、廃娼運動で知り合った社会運動家・木下尚江が逮捕されると、監獄署へ足繫く通い求婚される。が、雅に反対され、後に新宿中村屋創業者となる相馬愛蔵も猛烈に反対し、結婚話は白紙となる。そして、明治32(1899)年、41歳の夏に『看護婦派出心得』を出版した。明治33(1900)年に病院実習を行っていた長女・心が結核を患い20歳で早世すると、和は雅に辞表を提出して箱根で隠遁生活に入るが、翌年、雅が引退すると東京看護婦会の会長に、さらに婦人矯風会の衛生課長に抜擢され、その翌年には大日本看護婦協会幹部に選ばれる。やがて、東京看護婦会に代わり大関看護婦会の看板を掲げ、所属看護婦はクリスチャンに限ったその後、身内の度重なる死にさらされ、自らも病を抱えるなか、大正11(1922)年には、雅が息子・良一と共に京都・下鴨へと旅立って行った。その4年後、雅は沼津へとさらに居を移し、昭和15(1938)年82歳で永眠した。一方、和は関東大震災後に病気がちとなり、昭和6(1931)年73歳でこの世を去っていた。 ***大河ドラマ『べらぼう』と『蔦屋』も全く別のお話でしたが、こちらの場合は、両方とも概ねフィクションでしょう。それに対して、朝ドラ『風、薫る』はフィクションですが、本著については、巻末「おわりに」に 史料の乏しい部分や会話には創作を加えている。(p.347)とあることから、話の流れ自体は凡そ史実に基づいたものだと思われます。これらのことを踏まえた上で、朝ドラも楽しんで観ていきたいと思います。
2026.04.26
コメント(0)
![]()
久しぶりにマハさんらしい作品を読んだなという感じ。 2007年の刊行なので、『楽園のカンヴァス』等のアート系の作品ではなく、 『カフーを待ちわびて』や『ランウェイ☆ビート』等、初期の作品群の中の一つ。 そう言えば、『まぐだら屋のマリア』も地上波でのドラマ放映が始まりましたね。 ***渋谷区にある中堅出版社・たから出版のモード誌『JoJo』編集部に勤める神谷藍(25)は、コピーライター・岩倉誠のオフィスで、津村浩介(23)と出会い、やがて一緒に暮らすように。それから1年後、取材先のペットショップでゴールデンリトリバーのリラに出会うと、店員から、このままだとリラは明日保健所へ送られてしまうのでもらってほしいと頼まれる。リラの飼い主となった藍は、恵比寿のワンルームマンションから調布の閑静な住宅地に転居。しかし、これまで15分だった通勤時間が80分になってしまう。それでも、公園の隣にある都営のドッグランでは、ドッグオーナー同士の交流もさかんで、ミニチュアダックスのショコラの飼い主・西野友里とは、浩介共々とても仲良くなる。浩介が岩倉誠事務所の社員旅行に誘われ3泊4日でグァム旅行に出かけた際、藍が仕事で帰宅が25:00を回ってしまうと、外でしかトイレをしないリラが我慢しきれず粗相。藍はテーブルの下で震えながら隠れるリラを怒鳴りつけ、そのお尻を何度も思い切り叩いた。そして、「リラ、ごめん。ごめんね。馬鹿なのは、あたしのほうだ」と力いっぱい抱きしめた。その後、藍は担当するフリーランスのライター・岡部翔との関係を深めていく。翔から誕生プレゼントに貰ったテディベアのぬいぐるみをリラがぼろぼろにしてしまうと、藍は浩介からのプレゼントの分厚い本をリラめがけて投げつけ、こめかみから出血させる。そして、寝室から出て来た浩介に「自由になりたいよ。もっと仕事して、もっと他の人に恋して」翌朝、藍はバス停で定期を出そうとポケットに手を入れた時、バースデーカードに気付く。その裏面には「他のひとに恋をしてるのは、僕のほうだ。」と記されていた。やがて、藍が別れを告げると浩介は家を離れ、一緒に付いていくはずだったリラは戻って来た。仕事を早めに切り上げ、翔からの誘いも断り、自宅に戻って徹夜で頑張る生活で一月は乗り切る。しかし、編集長・北條恵子の命令には逆らえず、年下の多川奈津美にリラを託す。しかしそれが叶わず帰宅が遅くなると、リラはやっぱり……それでも藍はリラを抱きしめた。そういうことが繰り返される中、リラは脾臓を癌に侵され手の打ちようがない状態に。藍は、獣医の宮崎やタクシー運転手の斉藤らに支えられながらリラの看病を続ける。そして、北條に実情を打ち明け、担当していた仕事を奈津美に代わってもらえるよう頼み込む。自分の担当を降りた理由を知った翔が、藍に嫌ごとを口にすると、逆に捨て台詞を吐き立ち去る。やがて、リラの状態が悪化するが、発熱に苦しむ藍が電話をかけると、浩介がすぐに駆け付けた。そして、浩介は藍と二人で暮らした家に留まってリラの看病を続け、最期を見届けたのだった。仕事中だった藍は、知らせを聞いて急いで帰宅したが、10分遅かった。リラの遺骨が帰って来て、夕焼け空の下、藍と浩介はいつもの散歩道を二人で歩く。「一分間だけ、あればいいな」という浩介の言葉に「そしたら、どうするの?」と返す藍。浩介は「さよなら」と言う代わりに、藍を抱きしめた。 ***映画化もされてたんですね。台湾・日本合作で、日本で公開されたのは2014年5月31日。主演は、チャン・チュンニンという方。こちらのレビューにも、主人公のリラに対する態度に、非難の声が多数あがっていますね。
2026.04.23
コメント(0)
![]()
内容は高度なものなのに、とても読みやすい文章です。 ですから、読み進めることに苦痛を感じることがありません。 第2章以降は、章の最後に「まとめ」を掲載してくれているので、 頭の中を整理したうえで、次の章を読み始めることが出来ます。 また、章と章の間に挿入される「コラム」も良いアクセントになっています。 そして、終章では筆者たちの考える「脳の本質」が、次の8項目にまとめられています。①環境を知る②複数データに基づき推論する③誤差を修正する④環境に働きかける⑤神経修飾物質で精度をコントロールする⑧世界のモデルを学び続けるそして、私が本書から学んだことは、次の一文に集約されています。 これらに共通する脳機能の本質は、「予測」である。 私たちは決して感覚データそのものを見たり感じたりすることはできない。 私たちが知覚できるのは、胎児期からずっと培ってきた世界に対する、 知識(生成モデル)に基づき「予測」した世界なのだ。(中略) 時々刻々と変化する環境において、 脳はとめどなく予測と後付け(予測の上書き)を行い続ける巨大な推論システムなのだ。 現在とは、そこにあるものではなく、 私たち一人ひとりの脳が決定しているのである。(p.227)脳についてここまで研究が進んだのかと、とても感慨深いものがありました。他分野との間に横断的な研究も進み、新たな世界が次々に開けてきています。近年のAIの急速な発展には目を見張るものがありますが、この分野にも、脳研究は大きく寄与していくことでしょう。
2026.04.19
コメント(0)
![]()
「静おばあちゃん」シリーズの第3弾。 今回も、要介護探偵・香月玄太郎とのコンビで数々の事件を解決へと導きます。 前巻のお話の舞台は、玄太郎のホームグラウンド・名古屋でしたが、今巻は東京。 健康診断を受ける静と、大腸の内視鏡検査を受ける玄太郎が病院で出会います。 ***第1話 もの言えぬ証人大腸がんを患う古見正蔵は1週間前に摘出手術を終え、集中治療室で栄養剤を投与されていたが、何者かによって麻酔薬に差替えられ容態が急変、医師たちの蘇生処置も空しく死亡した。外科医・楠本や看護師・朝倉、正蔵の長男・鷹也や嫁の涼美、孫娘の綾子に嫌疑がかかるが、玄太郎と静は、古見鉄工所の決算報告書を入手後、点滴パックのラベルから真犯人に辿り着く。第2話 像は忘れない衆院国交委での構造計算書偽造問題証人喚問を前に、一級建築士・鳴川秀美が歩道橋から転落死。証人喚問には、丸刈りにしたカイザ建設代表取締役・介座峯治だけが出頭する。製図用インク、介座が選考委員を務めた日事協建築賞のトロフィー、鳴川の実妹・千佳の自死、玄太郎と静は、これらのことから一連の事件の真相と鳴川秀美の思いとを暴き出す。第3話 鉄の柩愛宕署・砺波の元上司・壁村正彦が運転するクルマが、園児の列を避けコンビニに突っ込み死亡。コンビニの隣のビルの1階には、瘦身美容の<ビューティー・クリスタル>が入っていた。玄太郎と静、愛宕署の砺波は、特殊詐欺を侵し服役中の息子・幸弘に面会に行くと、玄太郎は国税局を巻き込んで、<ビューティー・クリスタル>代表取締役・皆木と対峙する。第4話 葬儀を終えて静が死刑判決を下した被告人・雪代佳純、その時法廷に響いた「お母さんっ」という幼い声。十数年後、静は右陪審を務めた多嶋俊作の葬儀で、左陪審を務めた牧瀬寿々男と再会する。しかし、静は多嶋の孫の一言からその死因に不審を抱き、玄太郎の助力を得て司法解剖を断行。そして、多嶋の長男・幸助と妻・礼香と対峙すると、犯行の一部始終を突きつけたのだった。第5話 復讐の女神多嶋に続き牧瀬が刺殺され、静は群馬県警本部・末次と共に妻・久爾子を訪ねる。葬儀後、多嶋が死を前にとった行動の意味する所を静が伝えると、久爾子は両手で顔を覆った。その後、静にも脅迫電話がかかって来るが、一連の事件を裏で糸を引いていた女を突き止めると、最後は、玄太郎が経済的手段で怒りの鉄槌を振り下ろしたのだった。 ***第5話では、静の一人娘・美紗子とその夫・滝沢陽平が交通事故死し、孫の円と養子縁組して引き取ったときの様子が描かれています。また、今回は修習生時代の岬洋介も登場しています。それにしても、大腸がんのステージⅢbで手術を受けた玄太郎が元気過ぎる……
2026.04.18
コメント(0)
![]()
タイトルからはハウツー本のような印象を受けますが、そうではありません。 書かれている内容は、確かにミステリーを書く上で参考になるものですが、 松岡さんの『小説家になって億を稼ごう』とは、明らかに違うものです。 本著は、中山七里という作家を知るための手引書とでも言うべきものです。 *** 書店に来て、何か面白い本はないかなって見渡した時に、片方によく見かける著者の本、 もう片方にまったく知らない新人の本があったとしたら、どっちを手に取るかって話です。 (中略) で、どうしたら中山七里の作品に手を伸ばしていただけるのかと考えた時に、 量産するしかないと思ったんです。 僕はこれ本当に自覚してるんですが、文芸の世界って化け物ばっかりじゃないですか。 こんな化け物ぞろいの世界で僕みたいな才能のない人間が生き残るには 量産するしかないんですよ。 それで量産できる生活と身体を作ったというわけです。(p.162)この後に続く、「原稿執筆中の眠気対策」や「健康維持の秘訣」「映画鑑賞と読書は趣味というより食事」に記されているのは驚愕の世界。真似しようと思っても、とても真似できるものではありません。七里さん自身も間違いなく化け物です。
2026.04.11
コメント(0)
![]()
『静おばあちゃんにおまかせ』の第4話「静おばあちゃんの醜聞」に出て来た 高円寺静が定年を前に退官することになった事件の全貌が描かれています。 お話には、静や葛城が登場すると共に、犬養の名前も出てきます。 そういう部分を除いても、本著は七里さんの代表作とも言える名作でしょう。 ***昭和59年11月2日、埼玉県浦和市のラブホテル群の中にある久留間不動産で夫婦が刺殺された。浦和署の鳴海と渡瀬は、不動産屋に残された帳簿から容疑者を楠木明大に絞り込み、自供させる。明大は一審で一転無罪を主張するも死刑判決、東京高裁の高円寺静判事は控訴を棄却、さらに最高裁も上告を棄却し刑が確定、昭和63年7月15日に明大は拘置所で自死した。平成元年12月24日、大原で留守中の病院経営者・鏑木宅に空き巣が入った。同日、上木崎の高嶋邸では、夫・恭司の渡仏中に妻・艶子と息子・芳樹母子が刺殺された。二つの事件の容疑者・迫水二郎には、渡瀬と堂島が当たり、不動産屋の事件も一緒に自供させる。渡瀬は東京高検の恩田と東京高裁の高円寺静の二人を訪ね、それぞれから話を聞くと、周囲からの圧力に屈することなく不動産屋の事件を再度追い、やがて冤罪が世間に暴露される。平成24年3月15日、府中刑務所から仮釈放されたばかりの迫水二郎が刺殺された。渡瀬は、警視庁の葛城公彦から容疑者が不動産屋の娘・松山那美と高嶋恭司だと知ると、府中刑務所、さいたま地検、明大の両親が住む楠木家、那美のバー、恭司のオフィス訪ね歩き、楠木家と那美、恭司に迫水の出所予定日を知らせる手紙が届いていたことを知る。さらに不動産屋跡地を訪ね、そこで第一発見者のラブホテルの元従業員に遭うと、当日見たクルマの助手席に元女優・生稲奈津美が乗っていたことを聞き出す。そして、奈津美から夫の裁判判決を減刑に導くというある男の申し出を受け入れたことを知る。その上で、迫水二郎殺害の真犯人と対峙、自らの犯行を認めさせると、3通の手紙の送信者と対峙、元ホテル従業員が見たクルマについて話し始めるのだった。 ***エピローグは秀逸です。これほど綺麗に終わるお話は、そうあるものではありません。高円寺静の墓前で手を合わせる渡瀬、そこに現れた円と葛城。円の「じゃあ、それまで刑事さんでいてくださいね」の言葉が胸に沁みます。
2026.04.11
コメント(0)
![]()
みをつくし料理帖の第3弾。 冒頭は、芳が澪がのために手放した深い赤色の大粒の珊瑚のひとつ玉の簪を、 種市が質屋や損料屋を回り、大坂屋にも協力してもらって取り戻したお話。 そして、神田永富町の版元『坂村堂』店主・嘉久が清右衛門と共に来店します。 ***豊年星-「う」尽くし坂村堂の料理番がつる家へやって来ると、それは佐兵衛と共に江戸に下った富三だった。富三は、佐兵衛が花魁・松葉に熱を上げた末、手にかけて行方不明になったと話す。つる家を手伝うことになった富三の作る料理を、又次は手入れの悪い包丁で作ったものと指摘。さらに、芳から佐兵衛を探すよう頼まれ簪を受取ったことも判明し、又次は富三の虚言を暴く。想い雲-ふっくら鱧の葛叩き澪は源斉の依頼で翁屋で鱧を調理することになるが、主人・伝右衛門は女が作る料理を拒絶。しかし、主人が呼んだ板長には扱いきれず源斉に強制終了させられ、結局澪が調理することに。その後、『俄』で白狐を踊ると言う菊乃に「西河岸のお稲荷さんに行く」と声を掛けられ、澪がそこで待っていると、30人近くの白狐に囲まれて、野江との再会を果たしたのだった。花一輪-ふわり菊花雪澪が神田御台所町のつる家跡地を訪れると、そこには「つる家」と元登龍楼板長・末松の姿が。その美貌の女料理人の店で歌舞伎役者・坂田寿三郎が食当たりすると、種市の店も客足が止まる。澪は「三方よし」に因んで三のつく日に酒を出すことにし、助っ人・又次が店先で秋刀魚を焼く。この七輪の焼き物で食当たりの濡れ衣が晴れ客足も戻るが、つる家跡地の方は箒屋になっていた。初雁-こんがり焼き柿ふきは、登龍楼を抜け出してきた健坊を追い返すが、健坊はそのまま行方不明になってしまう。ふきは「健坊と比べて、あたし、あんまり幸せだから、罰が当たったんです」と漏らす。澪が焼き柿を健坊にと陰膳として据えると、食事を一切とらなかったふきもそれを口にする。やがて、千駄ヶ谷の百姓に背負われ健坊が戻って来るが、登龍楼への奉公は続けることになる。 *** 「千代田のお城の中にそんな部屋があると聞いてますよ。 何でも、刻を決める時計とかいうのもが据えてあるから、 そんな名前がついたんだとか。」(p.257) 「御前奉行なんですよ」 「公方さまの食膳を掌るお奉行さまです」 「平たく言うとですね、公方さまの召し上がる食事の献立を考えたり、 料理番に調理方法を指示したりする偉い人、ってことですよ。 食に関する豊かな知識と優れた味覚の持ち主でなければ 勤まらないお役目でしょうねぇ」(p.259)以上、りうが澪に語った「土圭の間」に関するあれこれ。かなり、正体が見えてきましたけれど、澪が恋する相手としては……どうでしょう? 「その花は、いかなる時も天を目指し、 踏まれても、また抜かれても、自らを諦めることがない」 見習いたいものだ、と言い残し、男は去ってった。(p.208)「あれを見ると、どういうわけだか、お前さんを思い出す」と小松原が澪に言った化け物稲荷に根付いた「駒繋ぎ」についてのコメント。小松原にも色々とありそうですね。
2026.04.10
コメント(0)
全2936件 (2936件中 1-50件目)


