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宇野龍彦記者
実家が、島根原発(中国電力)から2キロの松江市にありました。そうしたこともあり、原発は最新科学の粋を集めた技術のかたまりだと思っていました。
朝日新聞の科学担当記者になった1995年、阪神・淡路大震災が起きました。絶対安全といわれた高速道路が倒壊する現実を目の当たりにして、専門家の言葉を頭から信用するのは危ういと肝に銘じました。
原発について疑問を持ち始めたのは、当時問題になっていた島根原発と活断層について取材してからです。
中国電力は、島根原発付近には活断層が「存在しない」と説明してきました。しかし専門家の調査でその存在が確認され、原発が想定している地震の規模も、根拠があやふやだということが明らかになりました。
◆「想定外」に憤り
2011年3月11日の東日本大震災で、福島第1原発は「全電源喪失」という最悪の事態に陥りました。その際、 東電の清水正孝社長(当時)は記者会見で「想定を大きく超える津波だった」と発言しました。それを聞いて、頭に血が上りました。
想定外? そんな訳はありません。それまでの取材で、巨大津波の想定を東電が放置していただけだ と想像がついたからです。東電と国の責任を追及しなければ、と思いました。
実際には東電も国も津波による浸水、地震による全電源喪失の危険性について、何度も専門家などから警告を受けていました。14年に出版した『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)で詳しく書いています。 東電も国もわかっていた ことです。
◆ 阪神の教訓から
津波防災に関わる 7省庁が98年に作成した津波防災対策の手引は、原発も最新の地震学から考えうる最大の津波を想定して対応するよう提言 しています。 この考え方で試算すると、福島第1原発で想定される津波は13・6メートルです。 東電の評価による5・7メートルを大きく超え、実際に発生した津波(約13メートル)とほぼ同じになります。
阪神・淡路大震災の教訓から、政府は地震調査研究推進本部(地震本部)を設置。 地震本部は02年、日本海溝の地震について「長期評価」を発表し、三陸沖から房総沖で大津波を起こす地震の発生を警告しました。
さらに政府は、原発の建築基準法に当たる「耐震設計指針」を06年に改訂しました。津波対策を含む新たな指針で、古い原発も3年以内に調査することとしました。これに基づいて東電が08年、「長期評価」の考え方で津波の高さを試算したところ、15・7メートルと想定しました。
◆ 新たな疑惑浮上
国会でも共産党の吉井英勝衆院議員(当時)が予算委員会などでたびたび原発の危険性について質問しています。特に06年12月の質問主意書で、具体例を挙げて巨大地震に伴う津波被害と全電源喪失事故への対策をただしたことはよく知られています。
しかし当時の安倍晋三首相(第1次安倍内閣)は「(そんな事態は)考えられない」「万全を期している」 として、原発は安全だとする答弁書を閣議決定。 対策をやらなくてもいいとお墨付きを与えました。
新著『東電原発裁判』では、08年以降に起きたことを中心にとりあげました。
取材を進める中である疑問が出てきました。先に紹介した02年の「長期評価」以降、 現場の担当者は津波対策を進めようとしていたにもかかわらず、その動きが途中でつぶされた疑い です。まだ明らかになっていない深い闇があります。これからも追い続けていきたいと思います。
東電も国も事故の責任を否定し続けています。これを改めることなく、原発再稼働を進めていることは本当に恐ろしいと思います。
そえだ・たかし=1964年、島根県松江市生まれ。福島原発事故の国会事故調で協力調査員を務める。元朝日新聞記者。科学ジャーナリスト貿、第3回日隅一雄・情報流通促進責大賞
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