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12月12日土曜日の午後6時半過ぎ、東京都品川区にあるクリニックを大手IT企業の社長と妻が訪れた。休診日の診察室で待っていたのは、院長と中国人男性。「本当に安全なんてすか」。初対面のあいさつもそぞろに、妻が不安そうに2人に尋ねた。背を向けたまま机上のパソコンのキーボードをたたき何も語らない院長に代わり、中国人男性がうなずきながらほほえんだ。
中国人男性は日中間を仕事で行き来しており、20年の付き合いがあるこの社長に新型コロナウイルスのワクチン接種を勧めた。
「副反応(副作用)なら安心してください。注射した部分のちょっとした筋肉痛とか、ワクチンを打った時によくあることです」。中国人男性はそう答えながら、社長夫妻にクリップボードに挟んだ「予防接種同意書」を示した。病歴やアレルギーの有無を確認する設問はなく、同意を得るだけの内容だ。社長に「大丈夫だから」となだめられた妻は、ボールペンでゆっくりと日付と名前、連絡先の携帯電話番号を書き込んだ。
中国人男性は、そんな様子に目もくれず隣の部屋に向かい、冷蔵庫からA4判程度のステンレス製の箱を取り出して院長に手渡した。中には、それぞれ袋に入った2本の注射器と5mlの容器1本。ラベルには、日付とともに「COVID-19」「新型冠状病毒滅活疫苗」と書き込まれていた。説明によると、中国の国有製薬会社、中国医薬集団(シノファーム)製という。
院長は医療用の手袋をはめ、注射器の針を容器に差し込んだ。容器の半分ほど入っていた透明の液体がみるみる減っていく。「久しぶりに電話をもらって驚いたけど、こんな話だったとはねえ」。院長は社長の左腕をアルコールで消毒しながら、そう漏らした。長年の友人である社長から接種に協力するよう頼み込まれ、やむなく応じたという。
◎ ◎
クリニックに到着してから5分足らずのうちに、2人は接種を終えた。「ただのワクチンなのに怖がり過ぎたかな」。社長にそう笑いかけた妻は、バッグから財布を取り出し、1人あたり1回1万円のワクチン代を中国人男性に支払った。
匿名を条件に取材に応じた社長は、「新型コロナに感染するのが怖くて未承認のワクチンを探し回ったのではなく、ただ個人のつながりで紹介されただけ」と平然と語り、こう続けた。「ワクチンをいち早く経験しだのをきっかけに知見を深めれば、新しいビジネスを展開するヒントを得られるかもしれない」。次回の接種は3週間後の21年1月3日。自身も妻も初回の接種後、副反応などはないという。
なぜ、この社長にワクチン接種を持ちかけたのか。中国人男性はこう打ち明けた。「やみくもに手広く声をかけているのではなく、提供したい相手が決まっている」
(鳴海崇)
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