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つまりは「自分で脅威を作り出し、その脅威を減じてやるから金を出せ」という態度のことだ。 例えば政府が市民を守ろうとしている脅威が架空のものであったり、実際には政府の活動が引き起こした結果であったりするならば、それは「守ってやるぞ詐欺」なのだ。 そして「多くの政府は本質的にゆすり屋と同じことを行っている」と。
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私が言っているのでも岡野さんが言っているのでもない。ティリーが、それも近代国家成立の歴史を論じる中で言っているのである。つい、今の日本の現政権の、「台湾有事」とやらの軍拡行動が脳裏に浮かんでしまうかもしれないが、そういう想像はご自由に。
その「みかじめ料」のことを江戸時代までは「年貢」と言った。「貢ぎ物」だから、使用目的や配分を国民的に議論したりはしない。 年貢は藩単位で集め、「守ってやるぞ」と言っている武士たちが給与として受け取った。そして実際に対外戦争も内戦も起こさないよう努力し日本を守った。 ただし治世の基本は身分制度であり、諸藩には参勤交代を義務づけ、島原天草一揆ではキリシタンを、由井正雪の乱では浪人集団を、安政の大獄では反幕府の人々を、容赦なく弾圧した。こうなると「守ってやるぞ詐欺」の守る相手は誰なのかわからなくなるが、年貢を納める人、つまり農民たちであったろう。
一方、税金は貢ぎ物ではなく国民が自治体や政府に預けたお金だから、当然使用目的も配分も明らかにし、国会で議論もしなければならない。 しかし内実が「みかじめ料」なら、なるほど議論しにくいだろう。
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ここで思い出すのは宗教団体だ。世界の終末時に天国に行かれるようにしてやるとか、先祖の恨みから守ってやるとか、地獄に行かないよう話をつけてやるなど、「守ってやるぞ詐欺」が幅を利かせる。 暴力団が壊滅させられても政治党派や宗教団体がなくならないのは、ティリーによるとそこに「神聖さを帯びる力」があるからだという。 つまりは「権威」だ。日本は長い間武家政権が続いたが、それが安定していたのは「将軍」職位が天皇によって与えられたからである。そこで、天皇を味方につけておくために各時代の幕府はあらゆる努力をした。 戦前の日本においていくつもの戦争が常に天皇の名のもとに行われたことも、それと同じであった。 軍部は天皇の権威をまとったのである。
戦後は「選挙で勝つ」ことが権威となった。私たちは投票した党に権威を与えている。権威を得た党は国会の議論もなしにことを進めることさえある。 本を読んで勉強し、情報を集め、熟慮して投票し、意見は常にはっきり表明する。それが「守ってやるぞ詐欺」に引っかからない、唯一の方法だろう。

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