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一方、多くのフランス人が同じ発音の姓名を聞いて思い浮かべるのは、20世紀後半の政治家である(ただし、「べ」のスペルは、思想家がW、政治家はV)。その不屈の生涯を描いた映画「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」が、28日から公開される。
1970年代前半、フランスの世論は人工妊娠中絶の合法化を巡り2分した。この時、司法官から保健相に抜てきされ、法案成立の陣頭に立つだのがベイユだ。
堕胎は当時犯罪だったが、闇で年間30万人が危険な違法手術を受けていた。カトリックの影響が強く、保守派が過半数を占めていた議会で、女性自身に決定権を与える法案をいかに通すか。
ベイユは哲学論争やフェミニズムの権利主張を避け、 産んだ子を母として育てられるのかに論点を絞り、「喜んで中絶する女性はいません。中絶が悲劇だと確信するには女性に聞けば十分です」と説く。ついに反対派から「中絶には反対だが、法案は支持する」との発言を引き出し、採決で逆転勝利した。 討論で強調した 社会全体で育児を支える家族政策の主張が、約20年後の出生率回復につながったとも評価される。
「胎児大量虐殺はナチスと同じ」。心ない攻撃も受けた。ペイユは16歳でアウシュビッツに送られ、両親と兄をホロコースト(ユダヤ人大虐殺)で奪われている。収容所で「一人の人間の中には野獣と聖人が矛盾なく共存し得る」という絶望を刻みつけられたが、だからこそ人間の可能性を信じる覚悟も生涯揺るがなかった。
「偉大な女性」と呼ばれ、老若男女、右派左派を問わず広く愛されたのは、 どんな問題も人間とは何かの基点に立ち戻って考えた骨太な政治家への畏敬(いけい)だろう。
直接選挙による欧州議会の初代議長に選出され、2017年に89歳で死去。国葬が営まれ、偉人が眠るパンテオンに5人目の女性として埋葬された。著名な妻を支え続けた夫も一緒に眠る。
日本では女性の政治進出の少なさが問題になっている。人数が増えるのに異論はないが、職業政治家が凡庸でない情熱・責任感・判断力を求められるのに男女の別はない。まず本物の政治家であること。その人が男性か女性かは、誰も問題にしない。
(専門編集委員)
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