文の文

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sarisari2060

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2006.01.02
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カテゴリ: エッセイ
あけましておめでとうございます。


当方は京都で一人暮らしをしている姑の元へ例年のごとく帰省いたしました。実を言うと、新しい年のはじまりだというのに、どこか心晴れやかにはなれない自分をもてあましています。

今年90歳になる姑、いかに気丈だとはいえ、心身に衰えが顕著な彼女ををひとり京都に置くことの気の重さがぬぐえません。

更年期のせいなのでしょうか、自分に繋がる人に関して、たくさんの否定的な言葉が押し寄せてきて、逃げ場なく爪先立っているような思いを感じています。


元旦に兄嫁に会うと、糖尿病が原因で左目の視力がほとんどないのだと聞かされました。夫を喪い、財産を失い、家屋敷も人出にわたり、年金で暮らす兄嫁が視力も失ってしまったのです。

驚くわたしにむかって「それでも今が一番気楽で結構や」と笑って言いました。切なくなっているわたしに自由であることの幸せを言いました。

時間はありあまるほどあるから、お正月は500円の市バスの一日乗車券を買って、あちこち回ろうと思っているのだと言いました。遠近感がわからなくて車の運転は難しいようでした。どこにいくにも車を運転していたひとなのに。

わたしと会ったあとは北野の天神さんへ行くというので、堀川今出川の交差点で分かれたのでした。元旦の町は暮れ始めていました。



横断歩道を渡ってそばに寄ってみると、とまった車の先に自転車と人が倒れていました。三つある車線の真ん中が交通事故の現場でした。

自動車から白髪交じりの眼鏡をかけた男性が降りてきて携帯電話をかけていました。横断中にその現場を目の当たりにしたカップルも携帯電話で連絡をしているようでした。

横たわっているのは若い女性でした。身動きひとつしませんでした。時間が止まってしまったような空間は宵の薄暗さに包まれ、街灯は地面にひろがるその人のつややかな髪を照らすのでした。

カップルの男性が自転車を起こすと、かごの中にチェックのカバンがありました。どんな用事があったのでしょう。意識が戻り始めた女性が動きだすと、男性はそれを制しました。

呆然として突っ立つ運転者は憑かれたように携帯電話に向かってなにごとか繰り返すのでした。車の中には小さな人影が見えました。

横断歩道で信号を待つおじいさんが「かわいそうになあ」と呟きました。両側の車線を一瞬速度を落とした車が走り抜けていきました。

そのときわたしの携帯電話がなりました。横断歩道の向こう側から兄嫁がかけてきたのでした。

「今、交通事故があったみたいやけど、あんたとちがうなあ?」と。

薄闇のなか片方だけの目ではよく見えなかったのでしょう。わたしの身を案じる言葉が届きました。

「うん、だいじょうぶ」と答えると安堵の声が返ってきました。

その現場にこころを残しながら家路につきました。



どんなわずらいごともなるようにしかならなのだから、自分の無力さを嘆きつつも、なんとかやっていくしかありません。

そんな情けないわたしですが、どうぞ、今年もよろしくお願いいたします。





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Last updated  2006.01.16 22:50:54
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