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sarisari2060

sarisari2060

2006.06.26
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カテゴリ: エッセイ
「甲斐庄楠音」という日本画家がいた。明治二十七年に京都で生まれたひとだ。

「かいのしょう・ただおと」という名のこのひとの絵は一度みたら忘れられない。昨晩のNHK教育テレビで初めて見た。

横櫛

島原の女

春宵

この絵を見て、度肝を抜かれた。これが日本画かと。

調べてみると

「第5回国画創作協会展(東京展3月7-21日、大阪展3月28日-4月11日、京都展4月17日一21日)に《南の女》《歌妓》《裸婦》《女と風船》を出品するが、《女と風船》は土田麦僊から“きたない絵”として陳列を拒否される。」

という解説がある。

昨晩は、番組にゲスト出演していた松岡正剛氏がこの画家は土田麦僊の言った「穢い絵」という言葉が終生忘れられなかったのではないか、と言っていた。

それ以後、甲斐庄楠音は「では」と戦いを挑むように、美しい女ではなく、生きた女の絵を描く。それはありのままの女の姿であり、決しておさまった美人画ではなかった。

「わしの絵が針で突いたら血のでる絵や。そばによったらおしろいの匂いがする」と弟子に語っていたという。



甲斐庄楠音はバイセクシャルであったかもしれない、とセイゴウさんは言っていた。

のちのこのひとは映画界に身を投じる。日本画家としての着物選びのセンスを買われて衣装の仕事についた。女優の演技指導などもし、このひとの演技指導を受けた女優の演技は目に見えて色っぽくなったという。

溝口監督の「雨月物語」の衣装でアカデミー賞にノミネートもされている。この雨月物語に出てくる京マチ子の衣装、化粧のしかたなどはこのひとの仕事だ。なるほどぞくっとするほどの色気、妖気、が漂っていた。

「畜生塚」 という未完の作品がある。屏風に描かれた大作だ。秀吉に根絶やしにされた豊臣秀次一族の女たちが描かれている。恐怖、不安、混乱、落胆、悲哀、狂気、さまざまな表情、ポーズの大勢の裸婦。宗教画のようにも響いてくる。

大正時代にこんな日本画家が活躍していた。ああ、驚いたことだった。知らないことが山ほどある。

このひとの絵を見ていると、なんだかおなかのなかに得体のしれないものがごろごろしてるようなそんな気分なのだけれど、それでもそれはそれでなんだかあっぱれで、一皮剥いてみればだれだって、という気分になり、いずれいとおしきおんなのすがたかなと思ったりする。


甲斐庄楠音 研究室 参照





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Last updated  2006.06.27 00:01:06
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二人道成寺  
ぶろん さん
ご覧になってたんですねえ。
わたしは流し見でお話の方はいい加減に聞いていたのですが、甲斐庄楠音のここらへんのことは、久世さんの本で読んだ気がする…。
(2006.06.27 01:47:44)

わたしも  
sarisari2060  さん
アイロンがけしながら見てたもんで
見落としてるとこあるかもしれません。
しかしインパクトのある画家ですね。
驚きました。知らんことがぎょうさんあって、
ここちよく度肝を抜かれました。

久世さんの「怖い絵」ですね。
ああそれを読んでいたら、もっと番組が楽しめたかもしれんですね。
作文書くのにも厚みがでるんだろうなあ。
なかなか一朝一夕にはいかんもんですな。
でもこういうの、ワクワクします。
きっかけがないと敬遠したままで終ってしまうので、扉をすこし開けてもらったような気分です。 (2006.06.27 07:01:44)

Re:甲斐庄楠音というひと(06/26)  
初めて名前と作品を知りました。
体重を感じる人物画です。絵は素晴らしく上手いのに、そこに描かれている人間の生々しさがリアル過ぎて「穢い絵」と表現になったのでしょうか?

いつか実物を見たいと思わせる迫力がありますね。
(2006.06.27 09:59:00)

Re:甲斐庄楠音というひと(06/26)  
 女性の体温を感じさせる”息吹のある画”と言いましょうか、生涯を通じて自己主張なさった人生は立派だと思っています♪ (2006.06.27 11:23:27)

キリングラスさん   
sarisari2060  さん
>体重を感じる人物画です

ほんとうにそんな感じですね。
驚きました。
今日本屋で岩井志麻子さんの「ぼっけえ、きょうてい」という文庫本がディスプレイされてたんですが
その表紙がこの甲斐庄楠音さんの「横櫛」でした。
雰囲気がマッチしていて、どきりといたしました。

この人の絵が家の中にあって、夜中にその絵が暗がりからぼうと浮かんでいたら・・・。 (2006.06.27 21:41:10)

しぐれ茶屋おりくさん   
sarisari2060  さん
「穢い絵」と言う言葉がこのひとのオリジナルな創造の世界を切り開いたのでは?とおっしゃるかたがいて、ああ、そうなんだなと納得しました。

「畜生塚」を描き続けたというその姿勢にも、このひとの人生がにじんでいるのかもしれませんね。

人間の生理に訴えかけてくる絵だから、記憶に残りますね。 (2006.06.27 21:47:15)

本気で表現  
kinu さん
好きな絵ではないけれど、目を逸らせられない迫力がありますね。
写真では捉えられない『肉』の部分を直視していると、敬遠してしまう自分が恥ずかしくなる。
抱えているものを美化しながら(表現しながら)生きてきた自分が『うそつき』みたい。
(2006.06.28 09:14:00)

kinuさん   
sarisari2060  さん
いずれ人間はきれいごとだけでは語れないのだけれど、だからこそきれいなものにあこがれるのかもしれんですね。

うそもほんともいろいろあるけど、最後は自分の「このみ」というものではないでしょうかね。

(2006.06.28 14:40:49)

こわいこわい  
kokoro さん
この生々しさ、迫力を見れば、原画を見てみたいという気持ちになりますけれど、好みという点から言えば、側に置きたくない絵ですね。
というか、たぶんこの方の絵のいくつかには、描かれた女性が写しこまれています。生きたまま。
私なんぞはその『念』みたいなものをさらっと払える自信がない(笑)。ほんとうに凄い絵です。
でも、雨月物語は観たくなりました。 (2006.06.28 17:43:16)

kokoroさん   
sarisari2060  さん
>描かれた女性が写しこまれています。生きたまま。

きゃー!!こわいー。黒猫の世界だあ・・・。
霊感のあるひとの背中にそんな「念」が乗り移り、そのひとが今あなたの後ろに・・・きゃー!
ブログの怪談ですね。

その番組中、ちらっと「雨月物語」が紹介されてたんですが。京マチ子さんのお化粧が・・・。色っぽいというより妖艶という感じでした。

(2006.06.28 21:54:33)

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