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2005.12.30
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カテゴリ: 茶木の音楽紀行
僕が新しい訓練としてまずやらねばならなかった事は、バリトンとして今まで培って
来たものを土台としてその上にテノールとしての何かを積み重ねて行くのではなく、
根の張った土台の基礎までハンマーで叩き崩して、そこに全く別の物をゼロから築き
出すことであった。
しかしその時僕は28歳でその大工事を行うにはあまりにもバリトンに深追いし過ぎ
ていたし、筋肉ももう若くは無く、頭も融通が利かなくなっていて、まず解体工事自
体が一筋縄では行かなかった。
ここへ来るのが余りにも遅かったのだ。
前を見ると何処へ伸びているのか、何処まで続いているのか分からない道が見え意識

どちらにしろこの道を前へ進むしか手はないのだ、そして誰も戻って来た者はいない
。
シューベルトの「冬の旅」の[道しるべ]が頭の中でぐるぐる鳴ったまま持って来た
パンを昼休みに一人で食べた。
この曲は「冬の旅」全24曲の中で一番好きな曲だ。
その日の終わりに先生はまた僕と直子さんを呼び「外国人はいつまでここに居られる
か分からない、いつかは自分の国に帰らなくてはならない、その分時間がないので毎
日授業に来なさい」と言った。
帰りの車の中で直子さんがその事について説明してくれた。
「先生の所にはオランダ人、ポルトガル人、ルーマニア人、韓国人、日本人といろん
な国の人たちが来ているけど、実質上日本人と韓国人の生徒だけが皆と同じ授業料で

ジアの私たちは一度帰ってしまうとそうそう来れないものね、でもなんだか皆に悪い
気がしてね」「皆は週にどれくらい来ているんですか?」「週に三日の人と二日の人
がいて、授業料が違うの、でも私たちは月曜から金曜までべったりいるわ、ちょっと
しんどい事も有るけどね。
先生のご好意だから甘えさせてもらっている訳。

上げる事に強い野心を抱いておられるの、すごいわねあの集中力は、時々ついて行け
ない時もあるのよ、私たちは生活して行かなくちゃいけないし、一日中歌の事ばかり
考えていられないものね」
と言って直子さんは屈託のない笑顔で笑った。  つづく





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最終更新日  2005.12.31 13:45:43
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