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・3、19、土
金子みすヾの大漁という詩は、正直言って僕はあまり好きになれなかった。
大漁でわく港で、海の下で仲間を弔う鰯を思うことが、何だか幼稚に思えたからだ。
しかし矢崎さんの大漁という作品に対する思いを聞いていると、確かに我々は生かされている立場であり、他者があってこそはかれる自分の存在(自己と客体)と言えるかもしれない。
そういった意味では、この作品の裏に潜むみすヾの胸の内を読み落としていたのかもしれない。

小さなころに養子に出され、みすヾを実の姉であると20歳まで知らなかった上山雅輔さんは、矢崎さんの依頼を受けて、二人の間に交わされた膨大な手紙を抜粋してノートにまとめようとしていた。
みすヾが自殺した後の彼女の部屋から、自分の出した手紙がすべて残されているのを発見し全部持ち帰っていたのだ。
でも矢崎さんからの「みすヾさんが貴方に出した手紙は?」という質問に「すべて処分した」と答えたという。
これが本当ならば、処分はみすヾを忘れる苦しい努力の一つなのかもしれない。


当時80を越えていた上山さんは、一つずつ日にちを記載し、自分が出した手紙をノートに移す毎日だった。
しかしこれは多くの部分を意図的に省いて書き記したのではとも思っている。
そしてノートには4月11日の日付で手紙が書き写され、12と書かれたところでそのノートの上に伏せるように亡くなっていたという。
心不全だった。
警察では4月12日が死亡推定日としたが、矢崎さんは、いや、上山さんは11日に亡くなっているに違いないと信じ、司法解剖によって調べてもらうと、やはり11日であったという。
何故なら、4月11日は金子みすヾの誕生日であるのだ。
何と強く結び付いた兄弟であろうかと矢崎さんは言う。
しかし僕は、何故に彼ら二人は兄弟として生まれて来たのだろうかと悲しい気持ちになる。
上山さんが一生を通じて背負った重い苦しみ、結局死を選んだみすヾの本当の胸の内。
いやいや、これは僕の妄想だ。
矢崎さんはそんなことは一言も言われなかった。

僕の勝手な妄想を持って彼女の詩に向き合えば、優しい文章に潜む難解な作品たちがするする胸に入って来るから不思議だ。

レクチャーが終わって、矢崎さんと少し話すことができた。
自分は音楽で以て金子みすヾの詩と向き合っていると自己紹介し、6月11日のNSKファンドレイジングコンサートのチラシをお渡しして部屋を出た。
最後に握手した矢崎さんの手には、彼の持って生まれた熱い情熱が感じられた。


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最終更新日  2011.03.27 22:14:37
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