わんこでちゅ

あの川のむこうは3




しばらくゆくと、お年よりの犬が、大きな岩を背もたれにゆったり座っているのがカークの目にとまった。目を閉じたままでうっすら笑っているような表情を浮かべていた。カークがじっと見つめていると、お年よりはきゅうにふっと目を開けた。

「あのう、なにをしていらっしゃるんですか?」

「歌をきいているんだよ。」

カークは不思議に思いききかえした。

「どこからも歌なんてきこえませんが、、」

お年寄りは首をゆっくり振りながら答えた。

「だめだめ、聴くようにしなくちゃ聴こえないんだよ。」

カークはじっと耳をすまして何か音がしないかと、神経を集中した。するとかすかに、細かい雨が地面をたたくような音が本当にかすかに聞こえてきた。カークがもっとよく聴こうと、前足で自分のたれ耳をひょいともちあげてみると、そのかすかな音はひとつの音ではなく、何百、何千、何万、いいや数え切れないほどのかすかな音のあつまりであるのがわかった。カークがその格好のまま、お年よりの犬のほうに顔をむけると、お年よりの犬はうんうんと頷いたので、お年寄りの犬の顔をみつめながら、その音にさらに集中すると、その音の中からひとつの歌を聞分けることができた。小さい人間の女の子がひとこと、ひとことを大事そうにゆっくり歌をうたっていた。

「よるのおそらに いろんなひかりのほしが
きらきら きらら みえてるよ
みつけ みつけ ビビちゃんのほし あいたいよ、、、、♪」

それから、その歌と一緒に大人の人間がささやく声もした。

「ビビ、ビビーーっ」

カークは聞いた。

「あなたの名前はビビというのですか?」

「そうだよ。私のために女の子が歌を歌ってくれているんだ。ここは聴きたいことはなんでもいつでも、こうやって耳をすませば聴こえて来るんだよ。」

そう言われてカークはあわてて、また耳をすました。するとたくさんのささやくような声が聞こえてきて、そのささやきの中からひとつの音がだんだんと大きく聞こえだした。

「カーク、カーク、カークもう寝ちゃったの、、」

それはカークの人間のお母さんのとても低くて、優しい声だった。いつもいたずらをして大きくて雷のような声で怒られていたカークだけど、そのときの声とは違う。眠くてうとうとしていると、そっとカークの体の毛をなぜながらいつもお母さんが、かけてくれる優しい声だった。どこからともなくきこえるその声はカークの体に入り込んで、ひとつひとつの細胞を、爪の先、毛の先の細胞さえもぴぴりと震わせると、そのあと今度はすーーーーっとその中にしみこんで混ざっていってしまった。その感覚にカークの全身の毛がさわさわと波うった、、。

「ああ、お母さんの声、、、」

「聴こえたろう。」

「ええ、聴こえました。ありがとうビビさん。」

カークはお年寄りの犬にそうお礼を告げると、また歩き出した。


douwa3
次へ



本童話の著作権は ちゃにさん もちぽ1980 さんにありますので、絵、文ともに他での使用を禁じます。文章アップ2004.3挿絵アップ2005.4














http://plaza.rakuten.co.jp/chanisan/11001 

このお話にリンクする場合はその旨BBSにかきこみください

たいせつなものをなくしたら、、泣いてもいいよ。思いはとどくから、、


バナー



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: