ロシアのウラジミル・プーチン大統領がドンバス(ドネツクやルガンスク)の独立を承認した後、ドンバスで「特殊軍事作戦」を実施すると発表した。ネオ・ナチ(ステファン・バンデラの信奉者)の一掃が大きな目的のようだ。
ハリコフ、クラマトルスク、ドニプロ、マリウポリ、ザポリージャ、そしてキエフで爆発音が聞かれたと伝えられているが、巡航ミサイル「カリブル」で攻撃されているようだ。11カ所の航空基地や3カ所の司令センターを含む74の軍事施設が破壊されたという。カリブルは亜音速から最終的に超音速のマッハ2.5から2.9へ加速してターゲットへ向かう。
バラク・オバマ米大統領が政府のメンバーを好戦的な布陣に変更していた2015年、マーチン・デンプシー統合参謀本部議長が退任した直後の9月30日からロシアはシリア政府の要請で軍事介入した。そして10月7日、カスピ海からシリアのターゲットへ向けて発射されたのがカリブルだった。発射されたミサイル26機は11のターゲットに数メートルの精度で命中している。そうしたミサイルの存在を認識していなかったアメリカ軍を震撼させたとも言われている。
アメリカの外交や軍事の分野で主導権を握っているネオコンは「脅せば屈する」と信じてきた。リチャード・ニクソンは、他国にアメリカが何をしでかすかわからない国だと思わせれば自分たちが望む方向へ世界を導けると考え、イスラエルのモシェ・ダヤン将軍は、狂犬のように思わせなければならないと語ったが、似た発想だろう。
1991年1月に湾岸戦争があったが、国防次官だったポール・ウォルフォウィッツはその経験から中東でアメリカが軍事力を行使してもソ連軍は出てこないと考えるようになったという。これは ウェズリー・クラーク元NATO欧州連合軍最高司令官の話 だ。
その思い込みは2008年8月に打ち砕かれている。イスラエルやアメリカを後ろ盾とするジョージア軍が南オセチアを奇襲攻撃したのだが、返り討ちにあってしまった。2015年9月のシリアにおける出来事によってネオコンの思い込みが間違っていることは決定的になったのだが、まだその考えを捨てられていないようだ。そうでなければ、バイデン大統領もこれほど挑発的なことをできなかっただろう。
バイデン政権は2021年1月に誕生して以来、ウクライナへ武器/兵器を含む軍事物資を運び込む一方、ウクライナ周辺で挑発的な行動を繰り返してきた。
例えば、3月10日にNATO加盟国の軍艦がオデッサへ入港、同じ頃にキエフ政府は大規模なウクライナ軍の部隊をウクライナ東部のドンバス(ドネツクやルガンスク)やクリミアの近くへ移動させてロシアを挑発している。
4月に入るとアメリカ空軍は1週間の間に少なくとも3度、物資を空輸していると伝えられた。4月5日にはウクライナのゼレンスキー大統領はカタールを訪問、そのカタールの空軍は5機の輸送機を使い、トルコを経由でウクライナへ物資を運んでいるという。
そのトルコはウクライナでアメリカと連携、3月14日には少なくとも2機のC-17A輸送機がトルコからウクライナへ物資を輸送、トルコ軍兵士150名もウクライナへ入る。
4月10日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はトルコを訪れてレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談、その直後にトルコの情報機関は「ジハード傭兵」を集め始めている。
その直前、4月6日と7日にはNATO軍事委員会委員長のスチュアート・ピーチ英空軍大将がウクライナを訪問、9日にアメリカは「モントルー条約」に従い、トルコ政府へ自国の軍艦2隻が4月14日か15日に地中海から黒海へ入り、5月4日か5日まで留まるとると通告した。
その前にアメリカの軍艦2隻が4月14日か15日に地中海から黒海へ入り、5月4日か5日まで留まると通告されていたが、ロシアの反発が強いため、米艦船の黒海入りはキャンセル。
そうした中、ウクライナの国防大臣が辞意を表明し、その一方でネオ・ナチ「右派セクター」を率いる ドミトロ・ヤロシュ が参謀長の顧問に就任したと伝えられた。
6月28日から7月10日にかけてアメリカ軍を中心とする多国籍軍が黒海で 軍事演習「シー・ブリーズ」 を実施したが、これには日本も参加している。
シー・ブリーズに参加するために黒海へ入っていたイギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」は6月23日にオデッサを出港した後、ロシアの領海を侵犯してクリミアのセバストポリへ接近。それに対してロシアの警備艇は警告のために発砲、それでも進路を変えなかったことからSu-24戦術爆撃機が4発のOFAB-250爆弾を艦船の前方に投下している。この爆弾は模擬弾ではなく実戦用。その直後にディフェンダーは領海の外へ出た。
当初、イギリス海軍は警告の銃撃や爆弾の投下はなかったと主張したが、問題の駆逐艦に乗船していた BBCの記者ジョナサン・ビール が周囲にロシアの艦船や航空機がいて、銃撃音や爆弾を投下した音を聞いたと伝えている。
6月24日にはオランダのフリゲート艦「エバーツェン」がクリミアへ接近したが、ロシア軍がSu30戦闘機とSu-24爆撃機を離陸させると、領海を侵犯しないまま、すぐに離れていった。
12月に入るとアメリカの偵察機が黒海の上空を何度も飛行、民間航空機の飛行ルートを横切るなど脅しを繰り返し、ウクライナ軍はアメリカ製の兵器を誇示してロシアを挑発している。その前にはアントニー・ブリンケン国務長官がロシアを恫喝、ロード・オースチン国防長官はウクライナを訪問していた。
一方、ウクライナの現政権は部隊をドンバスの近くへ移動させて軍事的な圧力を強めている。ゼレンスキー大統領は外国の軍隊が領土内に駐留することを議会に認めさせ、キエフ政権側で戦う外国人戦闘員にウクライナの市民権を与えることも議会は認めた。脅しのつもりだろう。
また、CIAがウクライナ軍の特殊部隊を秘密裏に訓練しているとする情報も伝えられている。この訓練は2015年、つまりウクライナでアメリカ政府がネオ・ナチを使ったクーデターを成功させた翌年にアメリカの南部で始められたという。
訓練を受けた戦闘員はドンバス周辺で活動することが想定されているはずだ。ウクライナ軍の活動をアメリカ政府は「ロシアの偽旗作戦」だと宣伝する可能性がある。そうしたストーリーをバイデン政権は宣伝している。
今回のロシアによるミサイル攻撃は、西側がウクライナへ持ち込んだ兵器や軍事物資を破壊することも目的のひとつだろう。