ロシア軍は3月18日、超音速(マッハ10)ミサイル「Kh-47M2キンジャール」でウクライナ西部にあるデリャテンの地下武器庫を、また沿岸防衛システムの「K-300Pバスチオン-P」でオデッサ地域の無線監視センターをそれぞれ破壊したという。バスチオンの主要な役割は艦船に対する攻撃だ。
3月13日にロシア軍は8機の巡航ミサイル「カリブル」を使い、ポーランドとの国境から約25キロメートルの場所にあるヤボリウ基地を攻撃した。キンジャールと同様、約1000キロメートルを飛行、ターゲットを正確に捉えている。
いずれのミサイルも実際に軍事施設を破壊しているが、それだけでなく、ロシアが保有する最新鋭兵器の性能をデモンストレーションしているのだろう。
ウラジミル・プーチン露大統領は2018年3月1日の連邦議会における演説で、ロシアやその友好国に対する攻撃には反撃すると宣言、同時に保有する最新兵器を明らかにした。これはアメリカが2002年にABM(弾道弾迎撃ミサイル)条約から一方的に脱退したことに対するロシアの回答だとしている。
アメリカがABM条約から脱退した当時、同国の好戦派は自分たちが「唯一の超大国」であり、何をしても許されると信じていた。そうしたことを示しているのが フォーリン・アフェアーズ誌の2006年3/4月号に掲載されたキアー・リーバーとダリル・プレスの論文
この論文ではアメリカが近いうちにロシアと中国の長距離核兵器を先制第1撃で破壊する能力を持てると主張している。この雑誌は外交問題評議会(CFR)が発行している定期刊行物で、アメリカ支配層の考え方が反映されていると言えるだろう。中でもネオコンは1991年の湾岸戦争以来、ソ連/ロシアはアメリカが軍事侵攻しても出てこないと考えるようになっていた。そうした考えがアメリカ支配層の内部では広まっていたのだ。
イスラエルやアメリカを後ろ盾とするジョージア軍が北京オリンピックの開催に合わせて2008年8月に南オセチアを奇襲攻撃したのもそうした判断があったからだろうが、この攻撃は失敗に終わる。ロシア軍の反撃でジョージア軍は完敗したのだ。
バラク・オバマ政権がシリアをリビアと同じようの壊滅させるために本格的な軍事介入を準備していた2015年9月30日、シリア政府の要請でロシア軍が介入し、アメリカ、イギリス、フランス、サウジアラビア、カタールなどを後ろ盾とするジハード傭兵、つまりアル・カイダ系武装集団やダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)を敗走させた。
そして10月7日、カスピ海にいたロシアのコルベット艦から発射された26機のカリブルは約1500キロメートルを飛行し、シリアのターゲット11カ所を正確に攻撃、破壊している。この性能にアメリカ側はショックを受けたと言われている。キンジャールにしろ、バスチオンにしろ、使った目的は同じだろう。単に軍事目標を破壊しただけではない。アメリカに従属するヨーロッパ諸国だけでなく、アメリカもロシアを攻撃したなら確実に報復され、破壊されるということだ。
スタンリー・キューブリックが監督した映画「博士の異常な愛情」ではアメリカ軍の先制核攻撃に対し、ロシア軍の「ドゥームズデイ・マシーン」が起動して地球は破壊され、放射性物質で汚染されることになる。本来、「ドゥームズデイ・マシーン」は抑止力として考えられたのだが、発表前に核攻撃があり、人類を破滅させることになる。それに対し、プーチンは事前にロシアが保有する最新兵器を明らかにしたわけだ。