アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は12月2日、ロシアの傭兵会社「ワーグナー・グループ」を「特に懸念される団体」、つまりテロ組織だと宣言した。お得意のタグ攻撃だ。自国の情報機関にテロ部門を持ち、NATOの内部にテロ部隊のネットワークを組織、イスラム系カルトやネオ・ナチを傭兵として使っている「テロ帝国」で外交を取り仕切っている人物がこうしたことを言うのは滑稽だが、それだけ痛い目に合っているのだろう。
そのワーグナー・グループを率いているエフゲニー・プリゴジンはチェチェン人部隊を率いているラムザン・カディロフと同じように、軍事と政治の「釣り合いがとれた取り組み」を批判している。そうした姿勢が中途半端な対応になり、事態を悪化させたということだろう。ハリコフやヘルソンでロシア/ドンバス軍が撤退したのは戦力不足で包囲されることを避けるためだった。ロシア/ドンバス側の戦力はキエフ側の数分の一だったとも言われている。
戦闘を単純な「陣取り合戦」だと考えているらしい西側の有力メディアはロシア軍が敗北したと宣伝していたが、その撤退がトラップでもあることがすぐにわかる。ステップ(大草原)へ入り込んだウクライナ軍はロシア軍のミサイルや航空兵力による攻撃で大きな損害を受け、バフムート(アルチョモフスク)では壊滅的な状況のようだ。欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は11月30日、演説の中でウクライナの将兵10万人以上が戦死したと語っているが、概ね正しいの見られている。ロシア/ドンバス側の戦死者はその約1割だ。
プリゴジンが批判しているひとりは今年7月までロシア国営の宇宙開発会社「ロスコスモス」のCEOを務めていたドミトリー・ロゴージン。この人物はドンバスへしばしば赴き、ワーグナー・グループの戦闘員と会っているとする話が伝えられているが、それをプリゴジンは否定。宣伝に過ぎないというわけだ。そもそもワーグナー・グループの戦闘員は最前線で戦っているのであり、会うことは不可能だとしている。
プーチン大統領は9月21日に部分的な動員を実施すると発表、西部軍管区司令官の司令官をロマン・ベルドニコフ中将へ交代、10月にはドンバス、ヘルソン、ザポリージャの統合司令官としてセルゲイ・スロビキン大将をすえた。またチェチェン軍を率いているラムザン・カディロフは上級大将の称号を与えられている。指揮体制の変更はロシア政府内の西側とつながっている勢力の影響力が低下していることを示しているかもしれない。
ウラジミル・プーチン露大統領は11月25日、ウクライナでの戦闘に参加している兵士の母親と会談した際、「ドンバス(ドネツクやルガンスク)をもっと早くロシアへ復帰させるべきだった」と語っている
バラク・オバマ政権はウクライナで2013年11月から14年2月にかけてネオ・ナチを使ったクーデターを実行、東部や南部を支持基盤とするビクトル・ヤヌコビッチ大統領を排除した。そのクーデターにドンバスの住民も反発、5月11日に住民投票が実施され、ドネツクでは89%が自治に賛成(投票率75%)、ルガンスクでは96%が独立に賛成(投票率75%)している。
こうした住民の意思をロシア政府は受け入れず、現地の住民とクーデター政権が送り込んだ部隊との間で戦闘が始まるが、ドンバス側にはネオ・ナチ体制を拒否した軍や治安機関のメンバーが合流、戦況は住民側が有利だった。そこで話し合いが始まるのだが、その間にアメリカ/NATOはクーデター体制に軍事的な支援を行い、ネオ・ナチを主体とした親衛隊を内務省内に創設、ドンバスの住民に対する攻撃は続ける。そしてジョー・バイデン政権はNATO加盟という形でウクライナを征服しようとした。その先には軍事力によるドンバスやクリミア制圧があったはずだ。
こうしたことはアメリカの元政府高官や退役将校も「時間稼ぎにすぎない」と指摘していたことで、プーチン政権が中途半端な形で話し合いに応じる姿勢を批判していた。