カップル喫茶レポート

カップル喫茶レポート

2005/03/15
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【プロローグ】
 正直に告白すると、私はこの原稿を書きたくないのだ。
 この原稿を書くためにはあの日のビデオを見なければならない。さらに、悪夢のようなインタビューのテープを聞かなければならない。それが嫌なのだ。出来ることならば、なかったことにしてしまいたいのだ。
 今日、編集長から電話があった。このルポの予告記事に対する反響が大きい、という話だった。同じXX出版から出ている雑誌に予告を掲載したらしいのだ。どうしてそんな余計なことを…
 実は、今となってはこんなに抵抗を感じている私も、最初は乗り気だったのだ。自称「背徳マニア」の私にはぴったりの取材だと小躍りまでした。
 マニア達の間で極秘に行われている、人身売買。例え、買い取り期間限定のお遊びであっても、その集まりは背徳感に満ちた妖しいものになるに違いない。そして、その妖しさは私の性癖を快く刺激するはず。そう、思ったのだ。
 ところが、妄想と現実の間には大きな差があった。ありがちな話しではあるのかもしれない。ただ、そのギャップは私にとって、とても意外なものであったのだ。
 私は、この潜入取材の後、髪を切った。そして、スカートをタンスの奥深くにしまった。
「もしもし、聞いてる?みんな期待してるよ、頑張ってね」

 しようがない。分かりました。ここで、ビデオの再生ボタンを押すことにします。せめて、出来るだけ画面を見ないように、ワープロを前に置いて…それくらいは許されても良いでしょう?
【ルポ本文】
 人が人を買う。なんのために? 『使用目的が性的なものである方』と、いう限定のついた人身売買サークルの集会は、深夜、東京どまんなかの、とある店で開催された。
 普段は高級ピアノバーとして存在しているらしい空間。その店の空気は、その日、とても粘っていた。
 蝋燭と煙草と麝香の煙りに強い照明があたり、宙を舞うホコリがキラキラと光る中、そのかたまりたちは登場した。なぜか、どの固まりも妙に白い。全員が若い女だった。彼女たちは皆、肩を落とし、顔を伏せている。まるで、消えてしまおうとしているかのようだった。そんな姿が『かたまり』に見えたのだ。
 様々な拘束具で繋がれている。その拘束具の鎖が彼女達のよろめきに合わせて鈍い金属音を立てた。一人の子は、身体を大きく痙攣させている。泣いているようだった。
 泣き顔。いつもだったら、私が最も感じる表情。だけど、この時は違った。自分も同じ女という性を持っていることがせつなかった。
 その会は遊びのはずなのに、この女たちはなんらかの理由を持って売られることを承諾しているはずなのに。例え、彼女達の涙が本当のものであったとしても、それはある程度悦に入ってのものなのだろうに…
 終始、泣き続ける女、硬く目をつぶり歯を食いしばったま女、そして、うつろな目を泳がせる女。彼女たちは、なぜ、どうしてここに居るのだろう?売られるということによる耽美を求めて?本当にそうなのだろうか?
 私は、女として生まれて良かったと思っている。売春が出来る性に生まれたことを幸せに感じたこともある。女は女であるだけでも価値があるんだ。そう、思っていた。自分の性を売らなければならない状況を妄想し、ヒロイズムに酔ったこともある。そして、その妄想はとても刺激的なものだった。女である、ということは私にとって特権の一つであったのだ。
 しかし、ここにきて考えが少し変わった。女であることが、ひどく惨めに思えてきたのだ。女は、性しか価値あるものを持っていないのかもしれない。そう、思えてきてしまったのだ。

 奥に座っていた中年のカップルに促され、売り物の女が一人、彼等のテーブルに呼ばれた。その女は、彼等の方に頭をむけさせられ、両手を床につかされた。高く突き上げた白いお尻が客全員のほうに向けられた。そのお尻を紳士が鞭で強く打つ。
一発、二発…
 その女の白いお尻に、みるみるうちに模様が描かれた。参加者の誰もが無表情で、言葉一つない。
 粘った空気の中に女の「ぎゃっ」という悲鳴が広がる。そして、その悲鳴はヒュッという音で鞭に裂かれ、かき消された。その鞭がまた、新しい悲鳴を生む。無気味なまでに音のない空間に、その3種類の音は大きかった。
 今も、耳について離れない

 明らかに不自然である。
 だが、これはこういう遊びなのだ。これだけ大掛り、かつ真剣であっても、これは『ごっこ』なのだ。そうだとすれば『ごっこ』だからこそ役に入れてこうなっているのだろうか。そうだったら良いのだけれど…
 一人、もう一人、女たちは引き剥がされていった。お客達が品定めを始める。自分のモノを舐めさる、アヌスの拡がり具合を調べる、もとの持ち主に説明を受ける…
 その光景は、まるでなにか家具でも買い求めるかのように見えた。これは、決して『女を買う』という行為ではない。そんな野卑なものではなく、そんな情に満ちたものでもない。もっと冷酷で、そして、まったくもって上品な行為であった。
 いってみれば、風俗産業の現場や日常の中は売手市場で、ここは買手市場なのだ。彼等が商品に対して媚びを売るようなことは絶対にない。
 上品な紳士貴婦人に買われてしまう女はどうしたら良いのだろう?なにを思えば良いのだろう?そこには、もう、女としてのプライドを保てる要因が一つも残ってはいないのだ。
 太った女がカウンターに上げられた。脂肪だらけの大陰唇が押し分けられる。枯れかけたバラの花びらのような小陰唇が男の指でつまままれ、強く引かれた。そこに、もう一人の男が冷たいステンレスの器具を差し込む。彼女の口から、体とは似つかわしくない、細く小さな悲鳴が洩れた。器具はきりきりとバラの花弁を押し開く。私は、驚いた。枯れかけた花びらの内側が、赤ん坊の口の中のようだったからだ。なぜ、そのように思ったのか。それは、色もさることながら、なんとこの女、白いミルクをその淫猥な口の中に含んでいる。その様子が赤ん坊の口の中のように見えたのだ。
 そう、女は感じていたのだ。感じて、濡れて、分泌液を泡立たせていたのだ。この、異様な惨めさの中で、優しい言葉の一つもかけてもらえないまま…
 私の思考は混乱を極めた。こんな状況の中で感じられる女なんて、いていいはずがない。そう思った。だが、そのすぐ後に、でも、ひょっとしたら私も…そんな、自分にも理由の分からない甘いうずきが下腹部に走った。信じられない。そんなこと。
 陰部を大きく拡げられた女の姿に私の顔がオーバーラップする。
 私は女でさえいなければこんな惨めな思いをしなくてよかったのだ。例え、どんなに貧しくても、例えどんなに醜くても、女でさえなければ、こんな屈辱を味わう必然はあり得なかったのだ。この悲劇は私が女であるがゆえなのだ。私は悲劇のヒロ…
「いやあ、ああー」
 女の声で、私はハッと我に返った。
汗とも、分泌液ともつかぬ湿り気でスカートの中が澱んでいた。嫌だ!店の中の空気も一段と粘り気を増したように感じた。
 周りを見ると、ありとあらゆる場所で女たちが『試用』されている。
 先ほどまで鞭打ちに興じていた婦人は、長いドレスの中に女を潜り込ませている。この貴婦人は、同じ女という性を持つ。彼女はドレスの中のものに対していったいどう思っているのだろう?私には、出来ない。
 私には、作り笑いに顔をひきつらせて、そこに座っていることしか出来なかったのだ。





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Last updated  2005/03/16 12:47:42 AM
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