CHINAず~五輪を目指す北京のヨシナシゴト

CHINAず~五輪を目指す北京のヨシナシゴト

2007.07.27
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カテゴリ: 北京コラム
「北京工人体育場(スタジアム)」・・・この名前を聞いて、2004年のサッカーアジア杯決勝を思い出す人も多いだろう。当時、中国の若者を中心に渦巻いていた「反日感情」がサッカーという舞台で爆発した・・・と言われているあの大会である。

2003年から2004年夏まで、勤めていたテレビ局を休職し、留学生という身分で北京にいた私は、この時、取材者という立場ではなく、あくまで一人のサッカーファンとして、工人体育場にいた。日本が決勝まで来ることは予想していたから、チケットはあらかじめ買っていた。だが、まさか中国との対戦になるとは正直、予想していなかった。私の席は、真っ赤に染まる中国人サポーターのただ中。当時、大使館から「日本人は一か所に固まるように」との指示があったが、せっかく「いい席」を手に入れたのに何で・・という単純な気持ちで、中国国旗が無数に揺れる一般の席に陣取った。そしてそこには、報道されている以上の「反日感情」が溢れていたことを肌で感じた。これは間違いない。一般の“アウェーの雰囲気”とは全く異なる、不合理で、強烈な罵倒の数々・・選手たちにではなく、選手たちがつけている日の丸に対する悪意・・若者たちの嫌悪に満ちた眼・・これ以上、当時のことを描写するのはやめよう。だが、確かにあのとき、北京工人体育場は「サッカーの場」ではなく、「政治の場」であり、若者たちの日頃の不満の欝憤をやみくもに晴らす場となっていた。

あれから3年・・・私は久々に北京工人体育場を訪れることにした。五輪に向けた改装工事のため、中国スーパーリーグの北京国安は南西部の「豊台スタジアム」にホームを移している。だから、サッカーの取材でも、ここを訪れることは全くなかった。

北京工人体育場は、北京市の東部にある。あの天安門広場からみて北東側。タクシーで順調にいけば15分ほどのところだが、渋滞することも多いので、最寄りの地下鉄「東四十条駅」から歩いていく方が便利だ。近くには、北京一のバーストリート「三里屯」があり、行き来する外国人も多い。2004年当時、ここを練り歩いていた五星紅旗を掲げて練り歩く若者たちの、あの殺気に満ちた表情を思い出しながら、スタジアムへ向かう。

北京工人体育場は1959年8月31日竣工。北京最大の総合スタジアムとして建てられた。この当時で収容人員8万人というのはかなりの規模である。「工人」というのは労働者、もしくは「工場労働者」のことを指す。労働者の国、中国ではもちろん今でも国の主人公であるはずだが、残念ながら今は「工人」という言葉は、「経済競争に乗り遅れた」「学歴の低い」「肉体労働者」という、ある種、差別的なニュアンスを含んでしまう。

だが、竣工当時は、いろいろな意味で、確実に「工人」が政治の主役だった。そして、ここでは、その名にふさわしく、スポーツと政治が一体化した数々のイベントが行われた。その「こけら落とし」となったのは1959年9月3日からひと月にわたって行われた「第1回全国運動会」であろう。日本でいえば国体に当たるものだが、以後、4年に1回行われ、各省が威信をかけて競い合う。次年度以降のスポーツ予算はこの成績を基準に決められることから、今もアスリートにとっては五輪の次に大切なイベントである。第1回大会には毛沢東、劉少奇、周恩来、朱徳ら、そうそうたる指導者が列席し、盛大に行われた。

また1964年5月1日にはメーデーが8万人の市民を集めて開催されたし、その年には「第5回工人運動会」なるものが行われた記述がある。「全国運動会」もそれ以降、北京開催の年はここで行われた。最近では2000年のユニバーシアードの開幕式など、数々の国際大会が催され、世界の一流選手たちが集っている。

国家によって養われた中国のスポーツ選手たちは、この場に立つことを夢見ていた。そして、多くの人民たちがスタンドを埋め、彼らの類まれなスポーツパフォーマンスに息を飲んだ。そんな彼らを育てた祖国の偉大さを実感し、中国人であることを誇りに思った。ここは、いわば中国スポーツの聖地であり、かつ、人々の愛国心を育てた場所、そして、その愛国心の集積地といえるだろう。2004年、サッカーアジア杯で生まれた「反日感情」という名の“異常な空気”も、この歴史と無縁ではない気がする。

スタジアムに到着した。改装中のスタジアムは、全面にネットがかぶせてあり、クレーンが横付けされて、まだまだ工事の真最中という感じであった(7月25日現在)。すでに長年の歴史があるから、周囲の緑化も進んでおり、公園のように整備されている。だが、ところどころ改修が行われていて、ブロックも掘り起こされている。



敷地内をぐるりと回ると、スタジアムの周りの所々に建物が点在しているのが目に入った。スポーツ用品店があるのは分かるが、瀟洒な外観の「ギャラリー」、スローフードを売り物とした「高級レストラン」もあった。スタジアムは改装中だが、それらはすべて営業中で、店の前の駐車スペースには、整った身なりのボーイが立ち、次々とやってくる高級車を出迎えていた。そういえば、このあたりを行き来する人たちは、工事現場を歩くには少し違和感のある“身なりのいい”人が多い。何度か試合の観戦で訪れたことがあるが、こんな店があるのは知らなかった。

かつて、“新中国”を率いる指導者たちと大勢の「労働者」が集い、政治とスポーツが一体化した「中国スポーツの大舞台」であった工人体育場・・・そこに「富」の象徴である「ギャラリーと高級レストラン」、そして若者文化の象徴である「クラブ」が共存している・・・この不思議な場所は、実は、今の中国を象徴しているのかもしれない。労働者が主役の社会主義を建前としながら、実は、裕福なものを成功者とし、そうでないものが失敗者として、切り捨てられる・・・中国はその意味で、今、過渡期であり、大きな矛盾を抱えている。

そして、その「工人体育場」は今、まさに来年の五輪に向けて、生まれ変わろうとしている。それは、あたかも北京五輪という節目の場で、その歴史を一新し、スタジアムが抱える「矛盾」を一掃したいかのようである。これもまた、北京五輪を機に、過去のイメージを一新し、新たな「国際デビュー」を目指す中国の思いと重なってくるのである。

会場へのアクセス
 地下鉄2号線(環状線)「東四十条」下車、東へ徒歩10分
 タクシーでは天安門から北東へ約15分

会場概要
 競技場名称:北京工人体育場(北京工人スタジアム)
競技項目:サッカー
(男女、このうち女子は決勝も行われる。男子決勝は国家スタジアム)
 建築面積:44760平方メートル

工事開始:2006年4月18日

現在、建物・フィールドの修復、電気設備や内装変えなど全面的な改装が行われている。また太陽エネルギーを利用したトイレの設置など、「環境に優しい五輪」にふさわしい競技場作りが進められている。





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Last updated  2007.07.27 16:48:16
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