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レストランのテーブルに座った二人。裕子と聡美は同時に見つめ合って
「あー 忘れてた!?」
テーブルの真ん中に折り紙で作ったカブトがあった。裕子には孫息子もいるのに
「五月五日はこどもの日。日本の節句なんて忘れてたわ」
「懐かしい日本の思い出を味わうわ。食事だけじゃなくてゆき届いたサービス。従業員の皆さんの思い入れがとてもありがたい」
「ほんとに」
と大きくうなづく。
例によって少々ビールを飲みすぎた裕子を部屋まで送ってきた聡美。裕子程は酔っていなかったが聡美もすぐに自分の部屋に戻る気にはならずぶらっとライブラリーに行ってみた。入ってみるとスタッフはいなかった。ベルを押そうかと思ったけれどやめて奥の小さな部屋に行ってみたら壁に向かったタムタムが一人でいた。パソコンは空いていたが付いていなくてタムタムの顔が写っていて目を閉じていた。聡美が
「居眠り?」
と思った途端彼が目を開けた。そして振り向いた。
「聡美さん!」
ひどく嬉しそうだった。
「お仕事ですか?」
「いやだね〜まだ何にも書けないよ。それより裕子さんは?」
「とてもいい調子。私の勘違いみたいで物忘れもひどくなくて」
「それはよかった」
「それよりタムタムさんも外に出ていい空気を吸わなきゃ」
「そうだね」
と答えたがデッキの散歩を邪魔するようにコーヒーの香りが漂った。28番が持ってきたからだ。
「以前のものとまた違ってかなり香ばしいですよ」
「そう? 確かにいい香りだね」
28番は船のスタッフなのに聡美のことを全く見ようとしなかった。要するに無視。聡美は
「何の挨拶もないの?」
と思った途端言った。
「今ね 外に出ていい空気を吸わなきゃダメとお誘いしたのよ」
「ん!?」
なんと答えていいかわからなかったタムタムだった。
66 節句

76 またいつかどこかで 2026.04.02
75 ブーブ・グリコ・バンザイ 2026.03.23
74 嘘 2026.03.16