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2026.04.22
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笑いの臨界点 #27 指紋が急に私を拒む
コンビニを出た。
駅を出た。
家の前まで来た。
今日はスムーズだった。
忘れ物もない。
つまずきもない。
人として合格。
……のはずだった。
ポケットからスマホを出す。
いつもの動作。
いつもの角度。
いつもの親指。
そしてロック解除。
……解除されない。
もう一回。
解除されない。
もう一回。
解除されない。
私はここで、
静かに自分の存在を疑い始める。
私の指なのに。
私のスマホなのに。
私の人生なのに。
なぜ。
指紋認証というのは
未来の技術のはずだ。
「あなたです」と言えば
「あなたですね」と開くはずだ。
なのに今日は、
冷たい。
まるで昨日まで仲が良かった相手が
急に敬語になったみたいに
スマホが距離を取ってくる。
私は指を拭いた。
服で。
意味はない。
だがやる。
もう一度。
解除されない。
私は焦った。
焦ると指が雑になる。
雑になると認証されない。
認証されないと焦る。
完璧な循環である。
周囲には誰もいない。
だがこの瞬間、
私は社会から置き去りにされた気分になる。
現代でスマホが開かないというのは、
財布がないより怖いときがある。
財布は最悪、現金でなんとかなる。
スマホは、
なんともならない。
私はパスコードを打とうとして、
一瞬止まった。
これを打ったら負けだ。
という謎のプライドが出る。
指紋で開け。
いつも通りで行け。
ここでパスコードに逃げたら
人類の進歩が泣く。
誰が泣くのかは知らない。
だが泣く。
私はもう一度、
丁寧に親指を置いた。
……解除。
開いた。
あっさり。
驚くほどあっさり。
私は勝った。
勝ったというより、
許された。
画面が開いた瞬間、
私の中の緊張がほどけた。
そして同時に、
さっきまでの自分の必死さが
少しだけ滑稽に見えた。
自分の指に拒まれただけで、
ここまで心が揺れるのか。
でもこれが今の生活だ。
鍵は指。
財布はアプリ。
連絡先は雲の上。
時間も予定も、全部ここ。
だからこの小さな拒否は、
意外と大きい。
私はスマホをしまい、
家の鍵を開けた。
鍵はふつうに開いた。
その瞬間、
私はちょっと安心した。
少なくとも私はまだ、
金属の世界には受け入れられている。
スマホには拒まれる日がある。
だが鍵は、
今のところ私に優しい。
そして私は思う。
明日また指紋が通らなかったら、
今度は潔くパスコードを打とう。
人類の進歩より、
私の時間のほうが大事だ。
そういうふうに
大人は未来と折り合いをつけていく。





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最終更新日  2026.04.22 05:30:37 コメントを書く


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