南カリフォルニアの青い空

南カリフォルニアの青い空

2007.12.19
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カテゴリ: 私の電子本
十三章・その1


 富雄を亡くしてから早二年の月日が流れ、アンディーが六歳、ブライアンが四歳、そして

チェリーが二歳であった。この地方に日本の移民が増えると共に、朋子の日本語学校も

どんどん盛んになって行った。

 山野夫婦は学習に日本の文化も取り入れ、正月には餅つき、節分には豆まき、三月には

雛祭り、そして端午の節句には鯉のぼりなどを作ったりして、子供のいない日本人達も招い

て大きな行事をするようになったため、日系社会の注目を浴び出し、本気で正式な日本語

学校を設立してビンヤードから独立しようと計画を たてていた。山野がそういう行事で忙しい

時には、菊は山野の仕事は勿論の事、重い葡萄の配達、肥料の注文やらお得意先巡りを



校においてもらい、チェリーはマリアに面倒見てもらっていたが、仕事が終われば、どんなに

くたびれていても子育てと家事を怠るわけにはいかず、菊は父親と母親の二役をこなしてい

るようなものだった。いくら若く健康だとは言え、これは菊にとっても可なり体がこたえた。

 青木夫婦は、半年前に自分達の八百屋を始めると言って、ヴィンヤードから独立して行っ

たが、カリフォルニア州では、外国人土地法のために自分達の土地を買うことも畑を借りる

事も禁じられていたので「いつか、上の子の名義で土地を買うまで」と言って、自分たちの借

家の庭やヴィンヤードの一部で野菜を育てさせてもらい、安く仕入れて小売商を始めたの

だった。

 カルロスは相変わらず車の設備やら配達、トラクターの運転をしていたが、彼らの夢はい

つか二人でメキシカン・レストランと車の修理会社を経営する事であり、菊がビンヤードを止

める時が来たら、親族が大勢いるロス・アンゼルスに引越すつもりでいた。



に、小さくても自分たちの一軒家を借りようと思っていた。彼らの夢は、食料品から雑貨まで

扱う小さな日本のジェネラル・ストアーを持つことであった。


 青木夫婦が去って行った半年ほど前から、菊は本能的にビンヤードの仕事を止める時期

が近づいて来たと感じていた。アンディーも九月から一年生になる事だし、子供達に良い教

育を与えたかった富雄の夢を叶える為には、もっと母親の集中した愛が必要であると菊は気



の仕事を継続するのは無理であった。幸い貯えは充分あったし、ヴィンヤードを処分すれば

もっと入るから、何年かは働かずに済む。菊は出来るだけ子供のそばにいてやれる事をずっ

と考えていた。そして朋子を見ている内に、家にいながら収入のある教師になるのはどうだろ

うかと思い、そこに焦点をしぼった。『何を教えたら良いだろう?日本の着物など着る人もめっ

きり少なくなっている。お茶やお花などをやるような余裕のある移民はいない。そうだ!皆洋

服を着るようになっているから、洋裁を教えるのはどうだろう?先ず洋裁学校に通って教師の

免除をとるのだ』と決心した。

 菊はそう決めるとすぐ行動に移した。山野夫婦は、菊にとって家族のようなものであったか

ら菊の考えも一番最初に知らせた。

「キクさん、皆それぞれ落ち着き先もあるようだからグッド・タイミングかもしれないね」

「そう、良い考えだわ。あなたが病気にでもなったら大変な事だもの。かげながら私もキクさ

んが三人の子供を抱えて、今やってる事を続けるのはちょっと無理が出てきそうだと思ってた

のよ」

 山野も朋子も菊の考えに賛成してくれた。他の従業員達も青木夫婦がやめた頃から、

この日が来るのを薄々感ずいていたので、菊がヴィンヤードを閉めるという発表をした時に、

皆「寂しくなる」とは言ったが、誰も驚かなかった。菊は、又生まれ変わる時期が来た事を

悟った。



 菊は最後を飾って、盛大なパーティーをしようと思った。富雄の血と汗の結晶を大勢で祝い

たかった。富雄と触れ合った従業員、得意先の人々はもとより、パートの人々も友達も知り

合いも全員来て貰いたかった。

 菊は山野夫妻が、学校で大きなイベントなどを手がけるのに慣れていたので、彼らにこの

イベントの音頭をとってくれるように頼んだ。

「一夫さんにまとめ役をやってもらいましょうね」と朋子が言うまでもなく菊は大賛成であった。

「最高のチョイス!よろしくお願いします。カルロスやマリア達にもメキシコの民謡とか踊りが

出来る人を探してもらうように頼んでみる、季節労働者の中にもいると思うから」と菊が興奮し

た口調で話すと、朋子がもっと良いアイディアを提供した。

「ほら、キクさん外回りするじゃない?ワイナリーの中にはイタリア人やフランス人もいるので

しょう?それぞれにお国自慢の披露してもらうってのはどうかしら?」

「そうね。きゃ~、素敵!」

 二人は、小娘になったようにはしゃいで計画を始めた。イタリア系の得意先もフランス系の

得意先も、そう言うイベントは初めてで素晴らしいと言って喜んでくれた。

「まるでインターナショナル・パーティーじゃないか!」

「その日が待ち遠しい。家族つれて参加します」と、皆口を揃えて返答した。そして最終的に

は、クライエントも、いっそうのこと参加者がそれぞれの国の食べものを持ち寄ろうじゃない

かと言い出した。

 それからの数ヶ月、菊はヴィンヤードを手放す手続きで忙しく、山野夫妻はパーティーの

計画に日夜奔走していた。小川夫婦は借家を探し始め、カルロスやマリア達も、ロス・アンゼ

ルスに引っ越す仕度にとりかかっていた。朋子は日本語学校で工作の時間に、そのさよなら

パーティーのイベントを取り入れ、生徒達に折り紙を折らせたり、日本の歌を教えたり、お遊

戯を教えたりもした。日本の雑貨屋も紙提灯を卸の値段で売ってくれたり、そのうちに、

ニュースが日系社会に広がって行って、ビンヤードに関係のない人までが手伝いに来た。

器用な男性達はステージまで作り、可なり大掛かりになって益々エネルギーが高まり、祭り

でもやるように大勢の人が、当日を待ちわびていた。

 パーティーの数週間前に、菊にとって飛び上がる程うれしい事があった。それはヨネからの

手紙であった。

 菊は、二年前にヨネが来た時、正式な従業員にならないかと勧めたのだが、「今まで人を

頼ったり、悪いことは人のせいにしたりしていたけど、キクさんを見て、自分も出来る所まで

やってみたい気持ちになりました」と言って、収穫期が終わった時に、ヨネはまた信吾をつれ

て他に流れて行った。今、ヴィンヤードを閉めるに当たって考えてみたら、その方が結果的

には良かったと思った。時々手紙で連絡をしてほしいという菊の願いに、ヨネは仮名が少し

書ける程度で英語の住所はとても無理だと言うので、菊は自分宛の住所を書いた封筒数枚

と「信吾君に何か買ってあげてください」といくばくかの金をヨネに渡しておいたのだが、

それっきり音信不通になっていたから、その封筒を開ける時には胸がドキドキした。


キクサン イマフタリハサクラメントにイマスオオタにサンののウジョウデアスパラガスヲツンデイマスヤットオオタにサンにサイカ イシマシタシンゴハゲンキデスサヨナラ ヨネ


 句読点のない片仮名と平仮名が並んでいて、最所は理解に苦しんだが、読み返す内に

(今、二人はサクラメントにいます。大谷さんの農場でアスパラガスを摘んでいます。やっと、

大谷さんに再会しました。信吾は元気です)と言う意味が分かり、踊りたくなるほど嬉しかっ

た。

 大谷さんの誰かに書いてもらったらしく住所がかいてあったので、菊は即座に大谷と加藤ヨ

ネ宛にも「宿泊は心配しないように」と書いてパーテイーの招待状を送った。


★昨日の一刻千金は、一攫千金の間違いでした。教えてくださった方ありがとうございました。また、今後も、誤字、誤文がありましたら、教えて下さい。






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最終更新日  2007.12.19 23:50:06
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