南カリフォルニアの青い空

南カリフォルニアの青い空

2007.12.20
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カテゴリ: 私の電子本
十三章・前篇の終わり


 ついにパーティーの日が来た。午後の五時に開催する予定のパーティーだったが、日本人

の招待客は「何か手伝わせて下さい」と、興奮して午前中から集まって来て、三時頃には大

太鼓やら、小太鼓を積んだトラックや馬車までやって来た。中には、そろいの浴衣で来たグ

ループもいて、盆踊りの練習をしていたり、日本語学校の子供達も、朋子の指揮で折り鶴を

あちこちに飾りをつけたり、舞台でお遊戯の練習などをしていて、パーティーが始まる前から

パーティーのようであった。

 故郷を後にして「地の果て」にやって来た人々にしてみれば、この集まりは里帰りの次くら

いに嬉しかったに違いない。菊はこの予想外の出来事に胸をときめかせ、同時に、このイベ



日本の行事が広がって行くだろうと想像した。

「何か、皆さん興奮気味ねえ。キクさん、ちょっと~チェリーを見て!あそこで盆踊りの真似し

てるわ」と、朋子が言った。

「うふふ。一人前に踊ってるつもりなのね。二人の坊主たちも、走り回って・・・・・・ああ、危な

い!」と、菊は舞台に上り下りしてるアンディーやブライアンやケンジや、名前も知らない子供

達の追いかけっこを見て胸を弾ませていた。

「移民の皆さんは、働いてお金をためることにばかりで、今までこうやって楽しむ事もなかった

んじゃあないかしらね」と、朋子が言った。

「私は場所があったのだから、もっと早くに気付いていればよかったなあ」と菊が答えた。

「あなたは、富雄さんの分もがんばっていたから、それどころじゃなかったわ」


 ビッグ・ハウスの葡萄のパッキング場は、収穫時には大勢の季節労働者がすわって、葡萄



べものはその部屋に用意された。テーブルの上には、煮物、握り飯、海苔巻き、稲荷寿司や

漬物は勿論のこと、マリアが用意したメキシカン・フードや、青木夫妻が持って来た茹で上

がったとうもろこしの湯気がたっていた。開会時間が近づくにつれ、イタリアン・フードもフラン

ス・パンやチーズも並べられ、まさにインターナショナル・フード・センターと化した。酒造元も

ワインを沢山寄付してくれたので、それも飲み放題であった。



「胸が一杯で、なにを言ったらよいのかわかりませんが。まず本日は遠い所からいらしてくだ

さった皆様に、亡くなった主人に代わってお礼を申し上げます」

 ここで拍手が起こった。菊は無意識にヨネを探していたが、みつからなかった。

「主人、トミーこと平岡富雄は、明治三十二年(1900年)に大志を抱いて日本から一人で海

を渡って来ました。英語を覚えるために先ずハウス・ボーイをしながらカレッジに通い、そこで

紹介された方のワイナリーの従業員になり、そこから通訳を兼ねた移民の職業斡旋業などを

経て念願の自分のヴィンヤードを手に入れました。そして皆様の中にも大事な方を亡くされた

方がいらっしゃると思いますが、ご存知のように、主人も1918年に世界中に猛威をふるった

スペイン風邪の犠牲者の一人となり、この土地で短い一生に幕をとじました」

 その時、一台の大きな乗用車がビンヤードに入って来て、大人や子供達がぞろ

ぞろ降りた。

「残された子供三人を抱えて、女手一つでこのヴィンヤードを今日まで何とかや

ってこられましたのも、ここにいらっしゃる皆様の暖かいご支援の賜物と心より

感謝いたします」と、深々とお辞儀をした。

 拍手の中で頭を上げると、先ほどの車から降りた一行の中にヨネと信吾を見つけて、

菊がニッコリと微笑んで手を振ったので大勢の観客が後ろを振り向いた。

「皆様の中には、アメリカで富を築いて、故郷に戻られる計画の方もいらっしゃるでしょう。

しかし主人の夢は、この個人を尊重してくれる国、自由に意見ものべられる国、どのような

生まれでも努力次第で企業や政治のリーダーともなりえる国で独立心旺盛の子供達を育

てることでした。その主人の夢を叶えるためにも、これから学校に行き出す子供を育てるに

当たって、ヴィンヤードの経営との両立はとうてい不可能である事に気付きましたので、

この季節をもちまして手放す決心を致しました。最後になりましたが、ここにおられる山野

ご夫妻は良きにつけ、悪しきにつけ私の家族全員をずっと守り続けて下さいました恩人です。

皆様も山野日本語学校の前途を暖かい目でお守りくださるよう、心よりお願い申し上げます。

長いこと本当にありがとうございました!」

 拍手と口笛が暫く飛び交う中で深々と頭を下げながら『見てる?これ皆あなたが撒いた種

よ。素晴らしいじゃない!』と菊は心の中で富雄に語りかけていた。菊が舞台から降りると

山野の司会とカルロスの通訳でメキシカンのマリアチ・グループが舞台に楽器と共に上って

来た。

 トランペット、ギターやバイオリンでマリアチがラテンの曲を奏でる中を、菊はヨネに近づい

て行った。ヨネも信吾もきちんとした身なりで見違えるほど立派であった。

「ま~、よくいらっしゃいましたねヨネさん。信吾君も大きくなっちゃって~」と菊は信吾と握手

をした。

「キクさんどうもすみません、こんなに大勢になっちゃって。あの人達が車で一緒に来てくれ

たもんで」と、ヨネが指差すほうを見ると。三人の男の子に囲まれた婦人が大きなお腹で

立っていた。家族の服装といい、車といい、成功者であることは一目瞭然であった。

「大谷さん、覚えてます?」とヨネが言い終わる前に菊の方が、

「きゃ~、大谷さん!お久し振りです。お元気ですか」と話しかけていた。

「本当にお久し振りですねえ。見て!四人も出来ちゃったのですよ。一人、あの流感で亡くし

たけど、また次のが生まれるのよ。じっとしてる閑なんてないの。ヨネさんから、ご主人の事

聞きました、お気の毒にねえ。あんなに良い人を亡くされてさぞかしご無念だったでしょう・・・

あ、失礼!これが私の主人です」

 ミセス大谷が後ろを向くと、先ほどから終始にこやかな笑顔で立っていた恰幅のよい男性

がお辞儀をした。二人共菊と同じくらいの背丈であった。船の中では、大谷は殆ど横になりっ

切りで話す機会もなかったが、なかなか陽気で華やかな人だと菊は思った。

「その節は、ワイフが船の中でお世話になったそうで、お礼を言います。いや~、シンゴが息

子の一人と同い年ですが、なかなか頭の良い子で、息子に色々教えてくれてます。そうだ

な?シンゴ?」と、ミスター大谷は信吾の頭を撫ぜた。

「大谷さんが、家族のようにしてくれて、やっと信吾にも人間並みの生活をさせてやれるように

なりました。ありがたいことです」と、ヨネが言った。

 心なしか、菊の目にはヨネの態度も顔つきも穏やかに見えたし、信吾もなかなかハンサム

であった。

「キクさん、家の農場のアスパラガスを沢山持ってきたので、台所の方で誰かに茹でてもら

えるかしら?」と言うと、一番上の子が持ってた籠を突き出した。

「わ~、こんなに沢山。どうもありがとうございます。じゃ、どうぞ舞台でも見ていて下さい。い

ろいろやるみたいですから」

 ビッグ・ハウスでは、ミセス小川、青木やマリア達がボランティアーと一緒に食べものを用意

するので、台所とパッキング場を忙しそうに往復していた。舞台からは、誰かがアコーデオン

でイタリアの民謡を歌ってるのが聞こえていた。

「すみませ~ん。こんなにアスパラをいただいちゃった。悪いけど、誰かこれ茹でてくれます

か~」と、差し出した菊のバスケットを見て、マリアが喜んだ。

「お~。これは凄い!私がやります。茹でて、バターと塩で食べると最高よ」と、早速かかえて

行った。

「さ~くら~。さ~くら~。やよい~のそ~ら~は~」

 菊が、台所のあちこちを点検していると、見物人がシーンとして子供達の合唱が聞こえて

来た。菊は勿論のこと、台所にいた日本人も全員ビッグ・ハウスから舞台を見に飛び出て

行った。

 舞台の上で、行儀良く整列した日本語学校の生徒全員が、朋子の指揮で一生懸命に歌っ

てい、チェリーまでがアンディーと手をつないで皆をキョロキョロ見ながら、意味が分からず

とも口を動かしていた。集まった日本人達の中には、それぞれの思いを心に深く秘め、感無

量になって涙を拭いている人も大勢いた。理由はともあれ、皆、遠い故郷を後にしてこの

大陸にやって来たのである。出身地がどこであれ、日本人の心が一つになった一瞬であっ

た。合唱が終わった時、人々の拍手が爆発した。

 折から大きな太陽が沈みだし、空は真っ赤になっていた。菊は初めてこのヴィンヤードに

着いた日を思い浮かべていた。怒涛のような七年は、瞬く間に過ぎ去ったようでもあり、一人

の人間が一生かかっても経験しないような長い人生のようでもあった。

 舞台では、その後も、詩吟やら、三味線の伴奏て民謡があったり、フランスのフォークダン

スやらが続き、やがて山野が食べものの用意が出来た事を知らせると、群衆はビッグ・ハウ

スに移動して行った。

 人々が食べものに舌鼓をうち、ほろ酔いかげんになった頃には星が輝き出し、舞台の周り

のちょうちんに火がともされ、用意してあった、たいまつにも火が放たれた。舞台には大小の

太鼓が並らび、フィナーレの太鼓が天まで届くような力強さで響き渡った。『さ~て、また新し

い人生が始まるのだ!』菊は先程からその太鼓の音を富雄も聞いているのを感じていた。


★ながらく、ご愛読ありがとうございました。これで、前篇の終了です。後編は執筆中です

が、また、彼女の新しい人生が始ります。菊はサン・フランシスコのドレメに二年通い洋裁教

師の免除を手にして昔の町に戻り、普通の家を借りてリビングルームを改造し平岡ファッショ

ンスクールを経営しますが1939年の(世界大不況)株の大暴落で金繰りに窮した白人の

大家が家賃の法外な値上げをするので、その学校を手放し、南カリフォルニアに越します。

(こういういさぎよさは気持ちが良いほどです)5エーカー付きの大きな家を借りて、また農業

を始め成功し、米国籍のアンディーが18になった時にその土地を買います。(普通の人は

躊躇するのですが、菊はチャンスをのがしません)チェリーが歯科医の学校をあと二ヶ月で

卒業できる所で第二次世界戦が始まり強制収容所に護送されます。。。さて、それから、

それから、又悲劇が沢山まってます。でも菊は決して諦めなかったのです。

 私は、この物語のために30冊近い参考書を読み、数ヶ月図書館に通い詰めで新聞、雑誌

の記録も読みました。菊は成功したケースですが、挫折した人、戦死した人、人種差別問題

に悩んだ人、親子の国籍の違いで悩む人も大勢いたわけで、そういう人を、菊の知り合いとし

て織り込んで見ました。因みに菊一家のほかは全員、私の架空の人物です。





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最終更新日  2007.12.20 22:59:25
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Re:十三章・前篇の終わり(12/20)  
第二次大戦時の強制収容所のお話し、・・徴兵された日本人の兵隊の悲劇・・・いろいろ思い出されます。
でも、菊さんは気強くがんばってこられたんでしょうね。
後編を期待しています。 (2007.12.20 23:25:43)

Re[1]:十三章・前篇の終わり(12/20)  
Hirokochan  さん
ナイトサファリさん
>第二次大戦時の強制収容所のお話し、・・徴兵された日本人の兵隊の悲劇・・・いろいろ思い出されます。
>でも、菊さんは気強くがんばってこられたんでしょうね。
>後編を期待しています。
-----
かなり、大勢の二世がなくなりました。

後編はブログに載せません。あはははは!
ずるいでしょう? (2007.12.20 23:27:01)

Re:十三章・前篇の終わり(12/20)  
前編はハッピーエンディングですね!
このイベントに参加した方たちは、みんな幸せなひとときを過ごされたことでしょう。
読んでいて私も嬉しくなりました。
毎日楽しませていただいて、ありがとうございました!
(2007.12.21 02:15:23)

Re[1]:十三章・前篇の終わり(12/20)  
Hirokochan  さん
ジャスミンHAWAIIさん
>前編はハッピーエンディングですね!
>このイベントに参加した方たちは、みんな幸せなひとときを過ごされたことでしょう。
>読んでいて私も嬉しくなりました。
>毎日楽しませていただいて、ありがとうございました!
-----
こちらこそ、ありがとうございました。
クリスマス、師走、正月をひかえて、きっちりと、皆様に安心していただくように、終わらせました。
あはははは!サービス精神満点でしょう? (2007.12.21 02:50:10)

Re:十三章・前篇の終わり(12/20)  
mattun12da  さん
本当に素敵な人ですよね
後編早く読みたいです (2007.12.21 07:16:43)

Re[1]:十三章・前篇の終わり(12/20)  
Hirokochan  さん
mattun12daさん
>本当に素敵な人ですよね
>後編早く読みたいです
-----
ざんね~ん!無料でお見せするのは、ここまでです。 (2007.12.21 08:35:01)

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