

ジョンという名前の人は、アメリカでは10人に1人
位の割でいるので、ニックネームとか、苗字とかで
呼ばないと、誰の事か間違いやすい。
そういうわけで、今から書くジョンのことはエンゲルと
書く。Engelというのは、ドイツ語でエンゼルつまり
天使という意味。ついでだが、ロス・アンゼルス
Los Angelesも、スペイン語で天使達と言う意味である。
そのエンゲルは、あるクラブでグレッグの弟分だった
のでよく面倒をみてあげていた。感謝祭や、クリスマス
にも招くし、我々がバカンスでいなくなるときに、留守を
頼むのもエンゲルである。我が家にくると、ピアノを
数本の指でひいたり、ギターを弾いて楽しみ歌謡界の
ことには詳しかった。動物的なところもないがゲイでも
なく、欲もなく、あまり学問もなく、寝る場所があって
その日に、食べられたらそれでいいという感じで、
ひなびたもやしのような、夢なき男だと思っていた。
両親はすでにあの世だが、末っ子でお兄さんや
お姉さんたちから可愛がられるらしく、いつもきちんと
した服装であり、清潔で、のんびりしていて、
こまると、きょうだいが皆で助けてくれるから、仕事を
なくしても、慌てるようすがない。独立してはいるが
収入も微々たるものなので、間借りをしている。この10年
同じ家にいるから、問題も起こさない人間なのだろう。
そのうちに、
「セキュリティー・ガードの仕事が手にはいった」とか
言って、借金を返しに来たが、それから数ヶ月たった。
「ちかごろ、エンゲルから連絡ないね」と、グレッグと
話し合っていたのだが、昨日電話がかかってきて、
「自作自演のCDをつくって写真もうつしたからカバー
作るの手伝ってくれないかな」という事だった。
それで、今日の午後、数時間かけて、グレッグと私とで
エンゲルのCDカバーを作る手伝いをした。
「今から、印刷屋にいって、今夜はケースにいれるんだ!」
「出来上がったら、一枚くれる?」と聞いたら、
「もちろん!」
もう、もやしのようではなく背筋を伸ばして元気に
帰っていった。エンゲルにも夢があったのだ。そして、
その夢を叶えて、羽ばたくときが来たんだ。よかった
よかった、と心の中で祝福した。

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