南カリフォルニアの青い空

南カリフォルニアの青い空

2025.03.01
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 数年前、「ヒロコさん、手打ち蕎麦食べに行きません?」というメッセージを受け取り地図をみると、私の家から車で10分位の場所であった。私は地元の人間なのに、その店をしらなかったが、その日より更に数年前からあったらしい。こういうのを、灯台下暗しというのだろう。天ぷらそばを注文したら、結構こしがあって歯ごたえもよく美味しかったので、以後他の友達とも時々そこで会っており、昨日も食べてきたのだが、今回の話はちょっと違う蕎麦の思い出話。

 私がまだ子育て中で、ラグナビーチに住んでいたころPTAとガールスカウトで友達になったジョーンから電話が来た。
「ねぇ、ヒロコ、昨日突然東洋人が玄関に来て、名刺と蕎麦を差し出して,よろしくって挨拶されたのでセールスマンだと思って断ろうとしたら、アクセントの強い英語とパントマイムでどうやら隣に引っ越してきた人らしかったのね。オオモリという人なんだけど、これ日本の名前?」と、助けてくれ~という声でいった。
「へぇ、名刺と蕎麦ねぇ。なんだろう?・・・あ!わかった!」私自身は日本でも全く経験していなかったが、『引っ越し蕎麦』という風習を思い出して、げらげら笑ってしまったのだ。
「何がおかしいの?」とジョーンがきいた。

「それはね、日本語がわからないと説明しにくいけど、そばに引っ越してきました、どうぞよろしくお願いします、みたいな意味で蕎麦と傍の同音異義語を使った日本の古い習慣みたい。我が家では、やったことも、もらった事もないけど」と説明したら分かってくれた。
 蕎麦と言えば、わが子達を日本の年末年始に連れて行った時にも、除夜の鐘をききながら食べた年越し蕎麦に笑い転げた思い出があるが、ついでにジョーンにその話もしておいたら、「オー、ノ―、ニューイヤーズイブにも、また持ってくるかしら?」というので、その心配はないといったが文化の違いとは時々面白い思い出をつくってくれる。

 暫くして、西郷隆盛がラブラドール犬をひっぱって歩いてるみたいな感じの東洋人の男性を時々見るようになった。日本人は町に三人しかいなかった頃だからそれが大森氏だろうと想像し、すれ違ったときに軽くお辞儀をかわしたが、その程度であった。

 ジョーンと次にあった時に、「これよ、日本の名前でしょ?ご夫婦の他に若い娘さんがいてね、なんでも日本では有名だとかいってたわ」と出された名刺をみると、時事評論家・大森実と書いてあったように記憶している。

「この人、知ってる?」と聞かれ、「知らない」と答えたが、ずっと後になってロス・アンゼルスに地元の日本語テレビ局が出来て、週に数時間ハリウッド何やらいう番組が出始めた頃、チロリとインタビューでみたような気がするが、例のラブラドールをひっぱっていた男性であった。
 何年かたって、ラグナビーチに大火事があり、我が家もちょっと焦げたがジョーンの家は、あちこち焦げたり家中灰だらけで、消火用の水やスモークダメージで可なり長い事家中が焦げ臭かった。お気の毒な事に大森氏の家は全焼したようであった。

 その後は、『西郷どん』も犬も、自転車にのっていた東洋系の若い女性もみかけなくなったのだが、インターネットとは不思議な世界、ある日、未知の人からメッセージを受け取った。
「ヒロコさん、はじめまして。ヒロコさんのブログサイトにラグナ・ビーチの写真が沢山のっていて、とっても懐かしくなり、衝動的にメッセさせてもらいました」と書いてあったので、タイプで会話をすることになった。

 会話はそれが最初で最後だったから、名前も忘れたが確か関西の人だった。「今は、日本に戻っていますが、長年大森実という人の秘書をやっていて、ラグナビーチにもいたので、自転車に乗ってどこでも行きました。ときどきデーナ・ポイントなんかにも行きましたよ。写真を見ると相変わらず良いお天気ですね」というような会話だった。なるほど、ジョーンが言ってた謎の『若い女性』というのは、大森氏の秘書だったのだ。

「じゃ、隣に住んでいたジョーン覚えてるでしょ?」と聞くと、
「ああ、旦那さんが大学教授だった人ですね、子供が二人いましたねぇ」と答えたので引っ越し蕎麦に面食らった話をしたら、大森氏は日本の文化を大事にする人だったといった。

「山火事のあと、お目にかからなくなりましたが、日本にお帰りになったのですか」と聞いたら、「いえ、ラグナ・ビーチの家を全焼してから近所の町に越しました」と答え、「ところで、ジョーンさんはお元気ですか」と聞かれた。

 一瞬言おうか言うまいかちょっとためらったのは、実は彼女は亡くなっていたのだった。今なら、いくらでもGluten Freeの食品を買える時代だが、当時は自分でいつも気をつけていないと大変な事になると言っていた記憶がある。そのグルテン入りの食べ物が命取りになったと聞いた。

「残念な事に彼女亡くなってしまったのよ」とタイプしたら、「あら~、そうでしたか、実は大森氏もお亡くなりになりました」という事であった。それで、彼女が日本に帰国した事も納得した。このように、人生長い事すんでいると、蕎麦ひとつでも、こんな思い出話が飛び出てくるのである。









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最終更新日  2025.03.01 10:26:00
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