曹操注解 孫子の兵法

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Oct 5, 2005
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カテゴリ: 戦略


・・・・・いったい、君主や共和国が自分の領民を恐れ、彼らが反乱を起こしはしないかと心配することが、かえって支配者に対する憎しみを領民に植えつけるものだ、と言っておきたい。すなわち、このような憎悪感は、領民が自分たちは不当なとりあつかいを受けたと感じることから起こってくるのである。
 しかも、この不当なあつかいを受けたという気持が領民にでてくるのも、支配者側が腕ずくで領民を抑えられると考えていることに基づくものであり、あるいは、支配者が彼らをとりあつかうときに、いくらか慎重さを欠いたことに端を発するものである。
 さて、領民は力ずくで支配できると支配者に思いこませる原因の一つに、彼らがその背後に城塞をそなえていることがある。・・・
・・・・・なぜなら、まえにも述べたように、これを持てば第一に支配者はその領民に対し、ますますとりあつかいが無神経になる一方で、それに乱暴さも加わっていくからである。 次に城塞の中にいることが支配者が信じるほど安全を確保するものではありえない。
・・・・・ミラノ公となったフランチェスコ・スフォルッツァ伯が賢君の誉れが高かったとしても、ミラノに城塞を構築した事実をみれば、この点では、彼もあまり賢明ではなかったのではないかと申し上げる。しかもその結果、彼の後継者たちにとっては、城塞は害にこそなれ、なんの支えにもならなかった。
 つまりフランチェスコの後継者たちは、この城塞さえあれば、自分たちが安泰に暮らせるし、その市民や領内の人びとを抑えることもできると思ったからである。そして、ありとあらゆる悪行に身をゆだねるようになってしまった。ところが、その悪行がはげしい憎悪の的となり、外国軍が攻撃をしかけると、たちどころにその国家は瓦解してしまった。
 すなわちその城塞は、いざ戦争になったら、なんの役にもたたなかったし、平時には支配者に多くの災いを与えるもととなった。というのも、仮に彼らが城塞を備えていなかったら、あるいはまた、その市民たちをあれほどまで苛酷にとりあつかうへまをやっていなかったら、もっと早くに彼らは自分たちの置かれた危険な立場を読み取ったであろうし、また手びかえていたことであろう。
 そしてフランス軍の攻撃に対して、城塞などあてにせずに好意的な領民と力をあわせて、もっと果敢に抵抗できたはずだ。こういうやり方のほうが、実際に彼らが体験したように、城塞をそなえながらも、自国民の敵意を浴びて戦わねばならなかったばあいにくらべて、はるかに底力のあるものだったに違いない。・・・・・

 一方、教皇ユリウス二世は、ペンティヴォリオ家をボローニャから追放し、そこに城塞を構築し、自分が任命したひとりの行政官に多くの人民を殺させた。このために反乱が勃発して、たちまちその城塞は陥落してしまったのである。こうして城塞はユリウスにとっては、役だつどころか災いをもたらすものとなってしまった。・・・・・
・・・・・さて、精鋭な軍隊を擁し、そのうえ海岸か国境近くに城塞をそなえている君主は、この城塞のおかげで、数日間は敵の侵入をくいとめて、自軍を集結する時間をかせぐことができる。したがって、こんなばあい城塞はときとしては有効であるかもしれないが、かといって、必要条件だとは言いきれない。
 ところが、精鋭な軍隊に恵まれない君主のばあい、城塞をその領内や国境に構築することは百害あって一利ないことになる。というのは、この城塞はいとも簡単に敵の手にわたってしまい、敵の手にはいった城塞は、逆に(もとの主人に)仇をなすようになるからである。
 さもなくて、仮にその城塞の守りが堅く、敵軍も容易にこれを抜くことのできないようなばあいは、敵軍はこの城塞を素通りして軍を進めていくために、せっかくの堅固な城塞もなんの役にもたたないことになる。つまり、精鋭な軍隊は、熾烈きわまる抵抗に遭遇しないばあいは、(いまだ陥落しない)都市や城塞があろうとおかまいなしに、これを背後に残したままで敵地深く進攻していくものだからである。
 このような実例は、古代の歴史においてみられるところであるが、最近ではフランチェスコ・マリーアがその好例を示している。ごく最近のこと、彼はウルビーノ攻撃にあたって、十指にのぼる敵の都市などに見向きもせずに進撃をつづけていった。
 したがって精鋭な軍隊を動員しうる君主ならば、なにも城塞を構築するまでもなく、事にあたることができるはずだ。一方、強力な軍隊に恵まれない君主は、決して城塞を築いてはならない。つまり、これらの君主のなすべきことは、自分が住む都市の強化に心がけ、物資の集積と民生の向上に励まなくてはならない。このような配慮を怠らなければ、少なくとも和平を結ぶまでか、あるいは同盟国の援軍が救援に駆けつけてくれるまでは、敵軍の攻撃に対してこれをもちこたえることができるはずである。・・・・・

『マキァヴェリ全集 2 ディスコルシ』 永井三明訳 筑摩書房 1999年 pp.251-9

☆ここで使われている論理は弁証法ではない。
 帰納法である。





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Last updated  Oct 8, 2005 08:24:24 PM
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