山口小夜の不思議遊戯

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2005年09月02日
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テーマ: 小説日記(233)
カテゴリ: カテゴリ未分類
 武人や剛が目を配っているにも関わらず、海ではちょっとした不慮の事件もたまにはあった。

 ある日のこと、子供たちは朝から海で平和に遊んでいた。向こうの腰まわりの深さのところで、すせりな(御詞ですばしこいの意)の仮名を持つ綾一郎とあかえ(実直の意)と呼ばれる尚敦の斥候同士が互いに水をかけあってはしゃいでいる。
 と、尚敦が突然泣き声をあげた。
 ──いしきな! くらげに刺されたっちゃ!

 岩場の突端で剛と並んで釣りを楽しんでいた武人は、悲鳴を聞くと手製の竿を放りだしてすぐさま立ち上がった。
 ──わぁ! まだひっついとる!
 ばしゃばしゃ水を跳ね上げて近寄ってきた綾一郎が、尚敦の足元を見てそう叫ぶと、つられて自分の足を見てしまった尚敦は、度を失いそうになった。

 それに気づいた武人は、間髪を入れずに尚敦に喝を入れた。

 ──わし、ようとれん・・・・。
 普段は斥候として武人の右腕を任じている綾一郎までもが情けない声を出し、武人は眉をひそめた。
 ──今からそっちへ行くけ、おとなしゅう待っとれ。
 武人は走り、剛が後に続いた。

 そして顔をゆがめて海の中に立ち尽くしている尚敦のもとにたどりつくと、武人はこの弟分の右足に、べったりと電気くらげの王さまみたいなやつが貼りついているのを見た。
 うす緑色のそいつは、尚敦のふくらはぎ一帯に触手を張りつかせて、水中に揺らめいていた。

 武人は眉ひとつ動かさずに、片手でくらげをひっぺがしてうんと遠くに放り投げると、尚敦を抱え上げて傷ついた足を海中から救い出した。
 尚敦の足には、、まだちぎれてひくついているくらげの触手が残っていた。浜辺につくまでに、剛がていねいにそれを取り除いてやったが、赤くただれた傷の痛みは、潮にひたされて相当なものになりそうだった。

 ──すせりな、ますら。皆生から真水もらって来。
 浜に降ろされた尚敦を囲んで、痛々しそうに見下ろしている子供たちに向かって、武人はてきぱきと指示を出しはじめた。
 ますら(次男坊の意)は、清二郎の仮名である。命令をうけた綾一郎兄弟は、皆生と聞いて、一瞬躊躇した。

 武人の的確な言葉に、俊足の兄弟はさっと走り去った。

 ──痛、痛いよぅ・・・・。
 尚敦が大将の頼もしさに甘えるように、鼻をぐずぐずさせはじめた。
 ──くらげに刺されたんだも、そりゃ痛いがな。我慢せぇ。
 武人は笑って、尚敦のうすい肩に手をやった。

 武人の言葉に、集まっていた子供たちがみんなして笑い、つられて尚敦までもが引きつっていた頬をゆるませた。

 ややあって、綾一郎兄弟が真水の入ったバケツを大事そうにひとつずつ抱えて、戻ってきた。
 見ると、年少者ふたりにバケツを持たせて、悠然とそのあとを歩いてくるのは、なんと皆生の大将だった。
 この皆生の大将、すなわち池田和彦はしょうもなくたかびしゃで、更には大柄なやつで、池田という名字をいいことに、自分の先祖は因幡の国の池田藩主であるなどとうそぶいてみたり、彼の誕生日が天皇誕生日(現在のみどりの日)と同じであることにわけのわからない誇りを持っているようながきんちょであった。

 ──電気くらげか。おぼれんでえかっただな。
 とはいえ、さすがは海の大将。和彦は尚敦の傷をひと目見てそう言った。
 ──びっくらこいて、そのまま溺れてまうやつもおるっちゃ。
 ──つれて帰るがええだか?
 ふり返って武人が尋ねた。
 ──たいしたことないっちゃ。すぐにひっぺがしだんであろ、毒針がよう取れとる。
 そう言って、和彦はぽんと手を打った。
 ──やぁ、ちょうどええ。おまいら、しばらく残っとけぇよ。小一時間もすれば、地引網はじめるで。
 和彦がそう言うやいなや、相生の子供たちから歓声が上がった。なんといっても地引網漁だ。大量なら浜で焚き火をして、獲れたての磯の香りのする焼き魚をたらふく食える。

 ──こら、おまいも来るがええ。そん頃にはもう治っとるが。
 和彦は尚敦の頭をはたくと、ひとしきりヒロイックな余韻を楽しんだ。
 そして武人に大将同士としての礼儀をもって慇懃に黙礼すると、なんてわしは寛大なんじゃといった風でその場を歩き去った。
 大将のくせに、ちまちましているところもあったが、総じて池田和彦はいいやつなのだった。

 本日の日記----------------------------
 私もくらげに二回刺されました。ひじと肩に今でも小さな痕がついています。来週あたりにはちに刺されたいきさつをお話することになると思うのですが、鳥取では縦横無尽に遊びまわっていたせいか、くらげ、はち、へび、ブヨ、いろいろなものに食いつかれました。でも一番怖かったのははちかな。今でもはちには恐怖症です。へびに咬まれたのは、気がつかなかった。いしきなに見つけられて、足にふたつの歯痕があるのに気づいたのです。

 明日は●鳥取砂丘を遊び場にする子供たち●です。タイムスリップしてきて下さい☆ 






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最終更新日  2005年09月02日 08時53分36秒
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