山口小夜の不思議遊戯

山口小夜の不思議遊戯

PR

×

バックナンバー

2026年08月
2026年07月
2026年06月

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2005年09月17日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 たいこうがなる(久松山)の秋は、また格別の趣があった。

 人間界の見地からいうと、今年は今年は必ずしも実りの秋とはいえなかったが、それでも山は紅葉に燃え上がった。
 そして林の中にあっては、紅や黄の心踊るような軽快な色調に彩られていた。

 小夜は教えられるままに、あけびや山ぶどうを摘んで帰った。
 中でもあけびは山のバナナと呼ばれているだけに、実は濃厚な甘さがあり、つるも茹でて卵に合わせればまさに秋の味覚ともいうべきおいしいおかずになるので、みんな毎日のように採っていた。

 そんなある秋の日の午後のこと、小夜はみくまりに作り方を伝授してもらったばかりの、すすきの穂でできたふくろうを、ふと思い立って喜平じぃのところに捧げに行った。

 何個か作ったものの中から、一番よくできているふたつを選んで届けたのを、彼はことのほか喜んでくれて、小夜を散歩に連れ出した。

 ──どれ、お小夜とそぞろ歩きでもするだか。
 ──ああ、いい場所があるっちゃ。



 小夜たちは無言のまま、自分たちの柔らかい足音、松の枝の擦れあうさやさやという音、そして川べりに遊ぶ鳥たちの啼き声を聞きながら歩き続けた。

 そして、ふいに地面が落ち窪んで淵になっているあの場所にたどりつくと、小径が途絶えてそれ以上は前に進めなくなった。
 黙ったままふたりは、淵に面した大きなブナの木の前に腰をおろした。

 どちらもなにもしゃべらなかった。
 長いあいだ、喜平じぃは口を開こうとしなかった。

 喜平じぃは、自分の懐に長い間しまっていた、ある民話がの時が満ちたのを感じた。

 喜平じぃは、今やこの辺り一帯の押しも押されぬ族長であるが、若いうちは語部(かたりべ)の役割を持っていた。
 今でも折を見て彼は、この地方に伝わる民話で、その子供に適ったものを、ひとりひとりに話して聞かせるようにしている。

 民話には「むかしむかしあるところに」からはじまる普遍的な昔話として誰でも知っているものと、「これはあったることだが」と実際にあったこととして口伝えでひとりずつに語られるものとがあることを、喜平じぃは知っていた。

 そしてそのどちらにしろ、民話は子供たちだけが、大切に守りえるのだ。




‘民話’と聞いて何を思い浮かべるでしょう?
 私にとって、鶴の恩返しやかさこ地蔵だけが民話ではありません。
 私が鳥取にいたとき、「口裂け女」の話が日本全国区で大流行を見ました。そのとき、私は「これは現代の民話だっちゃ・・・」と思ったのです。

 沖縄では、ひめゆりの塔で月夜の晩に髪をとかしている少女たちを見るかもしれないと思っていました。また、日もとっぷりくれて月明かりしかない沖縄の夜に、読谷のさとうきび畑の中に分け入って、キジムナーという妖怪に本気で出会いにいったり。

 私が民話に対して特別に興味を持っているとお考えですか。

 私と同世代の方で、「口裂け女」を語らなかった人はいないでしょう。「人面犬」の話も耳にしてすぐに誰かに伝えた人がいるかもしれません。あなたも語り部だったのです。

 私はいろいろな国の人を見てきましたが、日本人はとかく民話が好きです。そこかしこから、今でも民話が聞こえてきます。

 喜平じぃは現代民話の第一人者でした。
 口裂け女は山陰地方で生まれた民話で、昭和55年にはもう岡山・鳥取でその名を轟かせていたそうです。裂けている口をマスクでかくし、異形であることを自ら知っていながら、人に出会うと「わたし、きれい?」と問いかける悲しい女──。

 喜平じぃは言います。
 ──山陰には、せつない物語が多いっちゃ。


 明日は●小夜の民話●です。タイムスリップして、数知れぬ人生を宿して語っていかれる民話の世界に、魂を遊ばせに来てください。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年09月17日 09時17分22秒
コメント(6) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: