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2007年12月04日
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 そう、名画の秘密といえば──
 不二豊による 【重文 寒山拾得図】 顔輝作 東京国立博物館蔵 解説

 にやっと笑って妖気迫るこの図は、古くから有名な作品として知られている。これに直面した誰しもが背筋になにか冷たいものが流れるような気がするし、なんで笑ってこっちを見ているのか、他の人を見て笑ってでもいるのかと後を振り向きたくなる笑いである。悪く解すれば揶揄されているようでも嘲笑されているようでもある。

 確かに我々にそう感じさせるところにこの絵の持つ特殊な力があると解してよいのだろう。顔の描写や衣の線のまわりに、気味の悪いような、リアルで凄味のある陰影が施されている。あまりにもリアル過ぎるところが、昔から鬼気迫るとか薄気味悪いとかいわれる所以であろう。

 寒山と拾得とは、中国の国清寺豊干(ぶかん)禅師のもとに来て、残飯をもらい飢えをしのいでいた二人の怪異な貧士であった。残飯をもらいに来たそのつぐないとして箒ではき清めていたのだが、豊干に拾われたので拾得。その友で寒山に住み、詩をつくることに巧みなのが寒山である。その詩は寒山詩として有名である。
 あたかも乞食坊主のような姿をしていたが、あるとき豊干から、勉強して偉くなり、世に出ないかといわれると、呵々大笑してふたりともその言葉を一蹴したといわれている。
 ふたりともすべてのことに達観し、禅の境地に入り、その態度は豊干に比肩するほどの域に達していたのだろう。そこで、禅宗絵画に多く取り入れられることになった。



 時を隔てて大正12年、八月末日、多くの者の遍歴を経て、この幅は東京へと渡ってきた。その翌日の正午、関東大震災に見舞われたことで、一部の美術愛好者たちを震撼させたこともある。

 さらに日本近代社会の転換期といわれた昭和11年2月25日のことである。明ければ雪の降る2月26日、人も知る二・二六事件、その前日、これが芝美術倶楽部の売立てに出たのである。あの笑いの幅が、床にかけられていた。つまり、一般市民は、軍の動勢など知る由もなく、有名な顔輝の名幅が出ていたので、見にもいったのである。
 しかし、これも大きな事件を予想したかのように、一夜明ければ東京に戒厳令がひかれ、流血のクーデターが敢行された。反乱軍は鎮圧されたが、ちょうど本能寺の変のような混乱が、東京に巻き起こったことになる。

 つまり、この幅が動くときには、必ずといってよいほど、政変を伴うか、あるいは天変地異を誘う物騒な代物ということになったわけである。そうしたひとつの生きた実例が、たとえば歴史的に間隔があるにせよ、あったということは、そこに底知れぬ恐ろしさを包蔵している名作ということができよう。その幅が持っている生命力というか、破壊力が期せずして働くのかもしれないが、それが鬼気迫る魅力とでもいってよいのかもしれない。
 この画幅が出来たときの作者顔輝が、思うところあってこの絵に遺恨の霊をふき込んだのではないかという、猟奇的な考えもしたくなる。

 今は東京国立博物館の有に帰しているから、これが動いて身売りすることはまずあるまい。
 事実、太平洋戦争に敗れたのを機に、また人から人へと渡って国立博物館蔵品になったのであるから、先の大戦の結果もこの幅の動きに拠ったともいえなくもないか。にしても、今般は相当な厄落としをして入ってきたわけで、この幅もおさまるところにおさまったということがいえよう。それでも、この絵に宿った霊力は、いまだ衰えていないと私は見ている。いかなる名画展といえども東博がこの幅を決して他へ貸し出そうとしないあたり、いまだ事情を知る人の誰かが「いわく」を信じて幅の動静を死守しているからであると睨んでいる。

 なにか異様な感じのする芸術品にはいわくがあるもので、顔輝のこの幅が今後特別展などで東博を出るというような情報が出れば──その時はみんなで逃げよう!


 ◆ 応援ありがとうございます!
  字数が足りないので…この幅の作者顔輝については──
  自分で調べるように(不二先生より)





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最終更新日  2011年01月13日 11時34分26秒 コメント(14) | コメントを書く


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