全て | 雑記 | 小説
2007.05.02
XML
カテゴリ: 小説
その一瞬からは、入り組んだ景色が見て取れた。
見慣れた部屋、道路、人、ビル、空、太陽。そして見たことないそれらが、見て取れた。
現実には程遠い、しかし幻覚からも同じぐらい遠い。いないのにいる、ないのにある現実味。
断片的ではあったものの、一瞬の間で無理矢理頭に広辞苑の中身を詰め込んだ程の情報量。俺の頭はイカれそうだった。
その一瞬は続いた。俺の頭の容量を超えてもまだ情報は入り続けた。
見たことのないものと見続けてきたものが入り交じった風景は、この世のものと思えない程の綺麗さだった。
しばらくの一瞬の後、遠くから響くような声が聞こえた。
「私が成し得なかった事を君に託す」
老人の嗄<しわが>れたような、青年の溌剌としたような声は、一瞬の映像よりも遥かに強く頭に残った。

見えないその声に無意識に手を伸ばして、俺は目を覚ました。

「ん・・・っ?」
手が伸びていた。何を捉えようとしたのか、天井に向けて突き出されていた。それが自分のものと気付くのに数秒。気付いてからも数秒。感覚を取り戻せないままそれは布団の上に落ちた。
自然に出た大きな息のはぁ、という音がやたらとでかく聞こえた。
カタン
「・・・んぁ」
落ちた手を少し動かしてみると何かに当たった。それを掴んで目の前に持ってくると、1から12までの数字が書かれた文字盤と針が見えた。短い針が1、長い針が7を指していた。いくら寝ぼけた頭でも、カーテンから漏れる陽光を浴びていながら、それが寝入ってから1時間程度だという認識はしなかった。急に目の前がくっきり見えるようになっていった。
「・・いち、じ・・・・さんじゅう・・・・・!?」
そのよく見える目で改めて時間を確認すると、昼ともなると流石にうっとうしい布団をはね除けて飛び起きた。ものの1分足らずで着替えと洗顔を済ませて、小さいあんパン一つ口に放り込んで家を飛び出た。

目的地は駅前の軽食兼喫茶店、『Hex』。人通りの激しい駅前でありながら落ち着いた雰囲気が人気の店だ。俺はそこに2年前から勤めている。肩書きはフロアマネージャー・・・とは名ばかりの、ただの雑用。まぁそれに不満があるわけでも何でもないんだが。
ガチャッ、バタン!

とにかく急いで仕事服に着替えようと、勝手口から入って右側突き当たりの更衣室へと進路を変えた。
途端。
「おい」
声と衝撃。どちらが早いかはわかりかねるが、とにかく俺は「障害物」にぶち当たった。
ドンッ

ぶつかった衝撃で後ろに跳ね飛ばされる俺。とは対照的に、障害物は揺らぐことすらなかった。
尻餅をつくかつかないか、俺は後転でダメージを和らげてぶつかった物を見た。そこには。
「・・・宏人、何してる」
えらく強面の、よく見知った顔が腕組みして俺を見下ろしていた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.05.02 10:12:38
[小説] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

由遠 @ Re:うわー(10/17) うおをおなつぃwwぶるじゃないか! 覚…
ホネホネ@ うわー めっちゃ久しぶりやなあ。 ていうか覚え…
 セツ@ 休日出勤オツカレサマですっw! お久しぶりですwお兄様w お兄様があの…
松田@ ランキングサイトご参加のお願い 突然のコメントで失礼いたします。 携帯…
せつ@ 日記が既に作品っぽいですwてかマジ売れますヨw!?ワラ お兄様wせつはどこまででも付いていきます…

Profile

由遠

由遠


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: