『頭ぐしゃぐしゃ』の彼方に・・・

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chang-wei

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August 26, 2004
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<第2話・ニセモノたち>

アテネ市街地の場末にある、とある酒場にて。
日本人とおぼしき男女が、ギリシア特産のメチャ強い酒「ウゾー」を舐めるように呑みつつ会話をしている。彼らを除いては、どうやら殆どがギリシア人らしく、地元の言葉での会話が花開いている模様。
男は、どうやらどこかの新聞記者らしい。女の素性は、よくわからないけど一見観光客風だ。
夫婦なのか、日本人同士ということで、男のほうから「観光案内」などと云って近づいたのか、そのへんのいきさつはまだよくわからない。

男が女に、低い声で話しかける。
「なあ、こんな話知ってる?」
「ん、なあに?」
「100m平泳ぎで銀メダル取ったハンソンって、実は双子だったんだってさ」

「それはこの酒だろう」
男は呑んでいる「ウゾー」のグラスを指差す。ちょっとオヤジギャグが入っているが、女にはイマイチウケなかった模様。
「君、ちょっと声がでかいよ、ヤバネタなんだからさ。つーか、周りはみんなギリシア人だからわからないだろうけど」
「ごめんなさい。ねえそれでそれで?」
「実はこのこと、オレもまだよく知らないんだ、ウラを取ってないから。ただ、もっぱらの噂なんだよ。噂の発信源があるらしいんだ」
「そーなの!? もっと他にもいろいろそういう話ってあるのかしら?」

「他にはねえ・・・。まだ記事にしてないからあまりでかい声で云えないんだけど、女子マラソンのロドクリフも、実は双子だったっていう説が飛び交っているんだ」
「ええー!? そんなことありうるのかしら? 第一、そんなことする前に、ドーピング検査で引っかかったりするんじゃないの?」
「そうなんだよね。ただ、もしこれらの噂が本当だとしたら、かなり周到に仕組まれた作戦としかいいようがないんだよな。彼らの母国の陸連や水練とIOCやギリシアのオリンピック委員会がグルになって、ウラで手を回していたりだとか、検査のあとにうまく本人と摩り替ったとか」
男は、低い声だけど饒舌だ。酒のせいだろうか、あるいは女によほど心を許しているのか。

「うーん・・・。だけど、そんなことして出てきた選手に勝って取った金メダルなんて、価値が下がっちゃうわねえ。スポーツマンシップも地に落ちた、って感じじゃないかしら」

「そうよねえ。もしニセモノだとしたら、アテネのマラソンコースをリタイアするのもわかるわね」
君のー行くー道はー♪ と唄おうとして、男はやめといた。「ニセモノたち」という唄、というオヤジギャグ2号のつもりだったのだけど、即興の作詞ができなかったのと、唄に自信がなかったからだ。

「ねえ、日本人選手にそういう噂は出てないの?」
「うーん、今のところないみたいだな。日本選手は、そういうことしても性格的にバレやすいみたいだし、オリンピック選手は、開会前からテレビの露出度が高かったからな。まあ、これまでのところ、プリティーナカシマぐらいかな。ウケ狙いが仇になってヒンシュク買ってるみたいだけど」
「ふーん」


「ところで、テロのこととかだいぶ心配されてたみたいだけど、そっち方面の話題はないの?」
「うん、そうだなあ、そっちの話題は、ウチの社会部のほうで追いかけてるみたいなんだけど、IOCや地元のオリンピック委員会がなかなか公表しないせいか、今のところ表立った動きは知らされてないみたいなんだ。情報セキュリティだとか云ってるんだが、実際は自分たちの内部自体のセキュリティ管理ができてないのかもしれないけどね。だけど・・・」
「だけど?」
女はちょっと、イロっぽい顔つきになった。

「聞きたい?」
「うん」
「オレは今、そのへんの話題で、ウラ情報を拾える場所をつきとめたんだ」
「へえー、すごいじゃない、どこでそんな情報拾えるの?」
「この酒場を出て、2本北側の通りに面した、こことよく似た店なんだ。ホントは今日、このあとにでもそこに行こうと思ってたんだけど、明日でもいいや」
「えっ、目と鼻の先じゃないの、どんな情報が拾えるの?」
「んーと、PとかIとかNとかAとか、そのへんのヤバそうな国の奴らの、アテネでの動向とか、今話した選手たちのヤバい情報とかが、しょこでは・・・、ムニャムニャ。だけど、今日はもういいや、明日に、ムニャムニャ・・・。君、これから予定入ってる?」

「明日も行かなくていいわよ、これから私が代わりに行ってきてあげるから!!」
女は急に強い口調に変わった。
「語るに落ちたわね、TスポのNさん。私は日刊GのHよ。IOCだのオリンピック委員会のことを云う前に、自分のお口のセキュリティも守らなきゃね。憶えておくといいわ」
「うっ、お前・・・。しゃ、しゃけににゃにか仕込んだにょか・・・、ムニャムニャ」
「昼過ぎに街の市場の裏通りで、催眠効果と自白剤に似た効果のある薬草で出来た薬を手に入れといたのよ。2、3日は身体がまともに動かないことでしょうよ。情報スクープのためなら、私はなんでもやるわ。ふふ、ごちそうさま♪」
男の意識はすでに朦朧として、言葉は次第に寝息に変わっていった。





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最終更新日  August 26, 2004 07:49:47 PM


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コメント新着

野鳥大好き @ Re:ちょいと試みに・・・(11/21) あのな…、解ったよん。
chang-wei @ Re[1]:やれやれ・・・(11/20) 野鳥大好きさん >やれやれ…でしたね。あ…
chang-wei @ Re[1]:やれやれ・・・(11/20) setattiさん >私のPCも時々おかしくなる…
野鳥大好き @ Re:やれやれ・・・(11/20) やれやれ…でしたね。あはは、赤ちゃんなん…
setatti @ Re:やれやれ・・・(11/20) 私のPCも時々おかしくなるから困ってるん…

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