はにわきみこの「解毒生活」

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2005.01.18
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「私が言いたいのは、つまり、独身でいるからといって、おつきあいしている人がいないってお思いになるのは早計だってことです」

 そう、私には4年ごしのつきあいになる男がいるのだ。決して誠実とは言えな
い男だが、それでも愛着はある。結婚の話が出ないからといって、最近、会う時
間が減ってるからって、うまくいってないわけじゃない。

「あなたほどの人だ。もちろん、ライバルが全くいないなんて都合のいい想像は
していませんよ。私にとって大事なことは、あなたが、今、だれの妻でもないっ
てことです。それは、私の妻になって頂ける可能性がまだ残されてるってことな
んです。私は、欲しい物を手に入れるための努力は惜しまない男ですよ。今日の
ところはここまでだ。


 げっ。このムードを引きずったまま、車で送られるなんて耐えられない。密室
の中、どこに連れ去られるかわからない恐怖でイヤな汗をかくのはさけたい。

「いえ、私も最寄り駅からは車で通ってますから。まだ時間も早いし、電車で帰
ります」
「送らせてくれないんですか?」
「そうです。自分の足で帰る。それが私の希望です」
「あなたの希望を優先したら、また必ず会ってくれるって約束してくれますか」

 しかたない。その約束にどれほどの効きめを期待しているのか知らないが、私
はこの場を逃げるためならどんな方便でもつかう。
「もちろん」

 彼は財布を開こうとする私を手で制止すると、ウェイターを呼んで金色のクレ

主なのだ。

 預けていたコートを受け取ると、彼はさりげなく私に着せかけてくれた。紳士
ではある。
 店を出る階段を下りると、冷たい空気が鼻の奥をツーンとさせた。まだ11月だって言うのに、今夜は冷える。末吉から、腕をまわして並んで歩きたいという態度がただよってくる。おっとそうはいかない。二歩下がって後をついて行く。

「この店の料理、気に入りましたか」

「昔からある店でね。私にとってこの店は、特別な存在だ。今日こうしてあなたに告白をした場所ですから」

 きざなせりふに立ちくらみを覚えた。しかし、末吉が口にすると、そんなせりふも嫌みではない。押しは強いが泥臭くない。どこかスマートで憎めないのだ。

「ところで末吉さん。私のどこが気に入ったんですか?」
「肌、ですよ。キメの細かい、透明な肌。精神のありかたが透けて見えるような。あなたは自分の美しさに気がついていないらしいね」
「肌のキメを整えることは、うちの製品を使っていれば簡単なことですよ。お化粧の効果が私の個性ってわけじゃないでしょ」

 そもそも、私が化粧品メーカーに就職したのは、何にでもかぶれる敏感肌が悩みだったからだ。既成品で私の肌にあうものがないのなら、作る側に回ればいい。

「いいや。私はいいものを見極める目を持っているつもりだ。あなたはメイクな
んかしなくても十分輝く肌をもっている。おせじじゃなくね」
「でも、そんなこといったら、化粧品の存在意義そのものを否定することになりませんか? 私は、私のようなかぶれやすい肌の人が安心して使える品物を開発することに必死になってるんですよ。それはほめ言葉じゃない」

 首筋がカーッと熱くなってきた。ああ、なじみのあるこの感触は、まさか。
 ぶつぶつと赤い斑点が身体に浮かび上がってくる、じんましんだ。
 幸い、駅が見えてきた。末吉には気づかれないで済む。

「今日はごちそうさまでした。それから。沈着冷静がモットーの私ですけど、久
しぶりにびっくりしましたわ」
「前向きに考えて。また電話する」

 末吉は、軽く手をあげるとクルリと振り向き、来た道を戻っていった。





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最終更新日  2005.01.19 13:55:47


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