はにわきみこの「解毒生活」

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2005.02.07
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 これまでの私にとって、 旅行といえば、両親と連れだっての神社仏閣、花と温泉巡りが定番
 が、老夫婦と連れだって娘が一人、というメンバー構成は、あまり一般的ではないだろう。 少なくとも同年代の女性の多くは、もっと年の近い人と旅をするはずだ。友達とか恋人とか夫とかと。

 そんな私が一人で、しかも海外に行くなんて大冒険である。

 東華はここぞとばかりに私の一人旅を援護射撃することに決めたようだった。パスポートの申請から旅の組み立て、航空券はもとよりホテルやレンタカーまでビシバシ手配するつもりらしい。
 たとえ人ごとであっても、旅を楽しくする工夫には絶対に手を抜けないのが東華という女なのである。ぶあつい地球の歩き方を手に東華の家を訪れると、さっそくレクチャーが始まった。

「一番苦労したのは、スコッツヘッドっていうのがどこにあるか、ってことだったの。場所がわからないと、どの空港を使ったらいいか決められないもんね。えーとね、場所は、ブリスベンとシドニーのちょうど真ん中ぐらいだったの。でも、ゴールドコーストにあるサーファーズパラダイス周辺も気になる。だから、ブリスベンから入って南下するのがお薦めコース」

 私は地図のページをひろげてフムフムとうなずく。

「資料に寄ればこのサーファーズパラダイスってのはその名の通りサーフィンのメッカなの。ただ、龍ちゃんは性格的にもっと田舎のんびりしたビーチを選ぶはず。波にのるのも混めば順番待ちになるって言ってたし。て、ことはよ。バスとか電車とかタクシーとかそういう手段で彼を捜すのは難しいと思うの。パスポートがとれたら次のステップは国際免許証よ」


 北海道では、空港を降りたところでレンタカーを借りる手配をしていた。国土が広い国ならばその方法はメジャーなはずである。
「それなんだけど。私が考えてるのは、サーファーズパラダイスでホテルをとって、そこで車を借りるっていうプランなのよ」
「どうして?」

「あんたの乗る予定の飛行機は、成田を夜11時に出て、ブリスベンに朝7時に着く直行便がベストだと思うの。言葉の心配もないJALね」
「ご親切いたみいります。なにしろ私、海外旅行は初めてにちかいもんね」

「そう、それなのよ! いくら夜の便で寝られるっていったって、あっちに着いたら疲れてるわよ。いきなりレンタカーに乗って運転なんてできる? だから最初はもよりの街に移動。ホテルにチェックインして初日はここで疲れをとる。レンタカー会社はこの街にもあるから、地図を手に入れて次の日からの移動予定を立てればいい。もちろん、レンタカー自体は日本から予約していけるから安心して」
「で、その街ってどんなとこ?」

「あんたが初めていった旅行先にそっくり。ホノルルみたいなもんよ。ビーチのそばに高層ビルがずらーってあって、ブランドショップに免税店。世界規模のリゾート地。日本資本のホテルもあるから、英語に自身がなくても心強いはずよ。だからここに泊まって、日帰りで車を走らせたらいいと思うんだ」
「そっか」
 午前中にホテルについて、のんびり疲れをとってから捜索にはいる、か。うん、悪くない。なんだか映画の主人公になった気分だ。

「お姉ちゃん、ありがと。なんかこう、ドラマチックだよね、私の一人旅」


「持つべきものは旅慣れてる姉だわ。だけど本当にパスポートの申請までお願いしちゃっていいの?」
「いいってことよ。産科の検診って言っておけば会社はちょっとぐらいの遅刻は認めてくれるし、あんたこそ長く休暇を取るなら、それまでの間まじめに会社に行った方がいいじゃない」

 その言葉に甘えることにして、私はパスポートの申請書にサインをした。使い慣れた漢字で書くことにする。国立亜南。左右対称の文字はバランスがいいし運が開けると信じている父がつけた名前だ。
アジアの亜に、南。姉の名前は東の華 、中国をイメージしているのだという。そして奈々は、七つの海、から来ているのではなかったか。



「で、出発日のことなんだけど」
 東華は航空券の価格表を取り出した。
 年末年始というのは世界的にホリデーで旅行者が増えるらしく、混むは高いはでいいところなしだという。しかし私はこれからパスポートの申請をする身である。パスポートや国際免許の準備ができ、なおかつ年末価格に引っかからない12月中旬の平日、ということで話の大筋は決まった。それならば、少し早めに冬休みに入るというイメージで動ける。

「亜南、ブツブツのほうはどう? 色は少し薄くなってきたみたいだけど」
 東華は私に拡大機能の付いた手鏡を差し出した。この家のリビングは明るい自然光がさしこむので、私の部屋よりは観察条件がいい。

「あの漢方の先生の言うことを聞いたのがよかったのかな。もらった漢方薬飲み始めたら、なんか身体が引き締まってきた感じもするし」
「あら、漢方の病院に行ったの?」
「そこで転地療養を勧められたのよね。旅に出ようかと思ったのはそれも理由のひとつなの」

「そういうことだったの。おしりの重いあんたがよく決心したな、とは思ってたんだけどね。ま、医者が薦めないんだったら私が薦めたけど、傷心旅行」
「やめてよ傷心旅行だなんて。まるで私が祥二にふられたみたいじゃない」
「ふられたんじゃないの?」

その反対よっ。 例の女は仕事の都合で一時的につきあってるだけだから、目をつぶってくれって言われたのよ」

 東華は手のひらを天井に向けて、肩のあたりまであげた。あきれた、のポーズだ。
「そんな男に、まだ未練があるの?」

「当然、私だって頭に来たわ。だから彼のいないところへ行きたくなったの。少し頭を冷やしてもらなわいと気が済まない。もし本気でまだ私と続けるつもりがあるなら、考えを改めるべきだってことをわからせないといけないのよ!」

「つまりあんたはこの期に及んでも、びしっと切ることができないってわけね」

「一時の感情で行動を決めるのはよくない、と思ってるだけよ。じっくり考えて、物事は慎重に運ばなくては」

 東華は、ああそうですか、という顔をした。

「じゃあさ、例のプロポーズの男はどうするわけ? その人の存在だって、これからのあんたの人生に影響を与えるかもしれないわけでしょ」

 いけない。すっかり忘れていた。
「まあそれにしたって、今すぐどうなるってもんでもないし。相手がどこまで本気かもわからないし、あの食事以来電話してこないし」

「あんた、携帯の電源切ったままなんじゃないの? 今朝、私がかけたら出なかったわよ」

 ああそうだ。祥二からの電話がいやで、電源を切ったままにしていたのだった。末吉は携帯のナンバーしか知らないのだから、電話のつながりようがなかったわけである。
 小さな電話機の電源をいれると、私は祥二のナンバーだけ、呼び出し音を変更した。ヤツ以外の電話なら出てもいいんだから。もっとも私は、気軽に人にケイタイの番号を交換するようなタイプではない。もともと携帯電話の使用頻度は恐ろしく低いのだが。





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最終更新日  2005.02.07 11:09:15


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