はにわきみこの「解毒生活」

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2005.02.09
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 空港ってこんなにきれいなところだったかしら。

 私はいつもどおり仕事を終えてから、23時のフライトに搭乗するべく成田へとやってきた。

「亜南ちゃん、オーストラリアは夏だっていうし、日本よりも5倍だか7倍だか紫外線が強いんですって。お願いだから、サンスクリーンだけはしっかり塗ってちょうだいよ。それとこれ、紫外線カット効果の高い日傘。見た目は黒くて暑苦しいけど、使うとすっごく涼しいから」

 武岡はくねくねと身をよじらせながら、せんべつの品々が詰まった袋を手渡した。 ずっしりと重い。恐ろしい分量である。 スーツケースにしてよかった。
 夏に活躍した紫外線対策グッズがつまっている大型スーツケースに、新しく増えた品物を押し込む。
 旅立ちを決めてから2週間とちょっと。私はバッグの中に手を入れてできたてホヤホヤのパスポートの赤い表紙をなでた。これをチケットといっしょにカウンターに出すのよね。そうそう、ぶ厚いコートは空港に預けていけって、割引券をもらったんだった。

 搭乗はふつう2時間前から始まるという。気が焦った。東華が持たせてくれたメモには、時系列を追ってするべきことがかかれている。この通りにやれば問題ないはず。

知らない人と接するときは、最初からあんまり信用しないことよ。自分のことは最小限しかしゃべらなくていいの。 でも英語では、何をしたいか何はイヤなのかをハッキリ言わなきゃだめよ」

 龍一を訪ねてオーストラリアに行くと告げると、母はそう言った。

「本当は一人で海外なんてやりたくないんだよ。東華の場合は博君がついてるから心配ないけど、おまえは一人だし」

 父はしぶしぶだったが認めた。結局、今までの国内小旅行はすべて私が仕切ってきたという実績がものを言ったのだ。もう私は子供じゃない。いったい何がそんなに心配だというのか理解に苦しむ。

 私が今まで海外旅行を避けていたのは、犯罪に巻き込まれることや、事故にあうことをやみくもに怖がっていたからじゃない。
誰かと行動をともにすること。そのときに、相手に不愉快な思いをさせること。そのときの失敗が痛すぎたから、あえて旅の道連れを家族に限定していただけなのだ。

 ボーディングパスを手に、ボディチェックをくぐり抜けると、出国手続きのカウンターへと進んだ。周りの人と同じ行動を取っていれば大丈夫。どうせやることは同じなのだ、ベルトコンベアーに乗っているように。
 真新しいパスポートのページにスタンプが押されると、免税店がひしめくエリアへに出た。強烈な香水の香りが鼻の奥に突き刺さる。これはいくら何でもやりすぎだ。足早に搭乗ゲートの待合室へと移動する。

 ベンチに腰掛けると、ポーチから手鏡を出して、顔をのぞき込んだ。
 大丈夫、もう、あの斑点は消えている。こういう連続したトーンの低い緊張感には反応しないのだ。

 あの赤い水玉が顔から消え去るのに、たっぷり10日かかった。斑点は水ぶくれのようになり、かさぶたを形成した。すべてがぽろぽろとはがれてつるりとした肌に戻ったのは、つい最近のことだ。経過は清水みどり医師に見せに行ったが、どういうしくみで治癒に向かっているのかはわからずじまい。もっとも、私にはこれを研究しなければならない義理はない。頻繁に起こるのでなければ放っておきたいくらいなのだが。



 ハワイ行きを提案してきたのは、エリさんだった。バイト先で知り合った、二つ年上の大学生。
「格安でハワイにいけるツアーがあるんだけど、一緒にいかない? 一人部屋だとすっごく割高になっちゃうのよ。私のルームメイトになってくれれば嬉しいんだけど」

 彼女は大学生とは思えない落ち着きのある女性で、私は密かにあこがれていた。スタッフの中で唯一、天気やテレビじゃない会話ができる相手。こっちが好ましく思っていれば、相手もまたそう思ってくれるものなんだ。私は有頂天になって二つ返事で承諾した。初めての海外旅行、初めてのハワイ。あこがれのエリさんとの旅行。すっごく楽しそう!

 だけど。

 あの旅行が失敗に終わったのは、奈々のせいだ。奈々が割り込んできたからいけないのだ。 そもそも、旅先でルームメイトの体調が悪くなったら、つきそってあげるのが普通ではないか。私たちがいないほうがエリさんはゆっくり休める、なんて奈々の口車に乗ったのが間違いだった。おかげで私は、友達を裏切った薄情なヤツになってしまったのだ。エリさんは私のことを許してはくれなかった。


 おかげで身体が軽くなってきたし、あの漢方薬を飲み始めてから今日までの間に、何もしていないのに体重が2キロ落ちている。

気にくわないばあさんだったが、この旅行のきっかけを作ったのはあの人だし、体調もよくなっているというのも事実だ。てことは、太陽を浴びて海水に浸かれば、もっと調子がよくなるということだろうか。あの予言通り。

 考えるのはもうよそう。
 私はすでに何度と無く読み返したガイドブックを開いた。 あの旅と、この旅は、全く違うものなのだ。出発地点は同じだが、今回は私ひとり。もめ事を起こす妹や、不機嫌な友達はいない。それがとても気楽だ。
 しかし同時に、旅慣れた先輩もいない。私は、自分の行動のすべてを自分自身で決めて行かなければならない。そのための予習はいくらやっても十分だという気がしなかった。

そう、ここからは自分だけが頼りなのだ。





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最終更新日  2005.02.09 16:48:06


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