はにわきみこの「解毒生活」

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2005.02.10
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 成田を出て、飛行機で夜を越え。
 今、私は通された部屋のベランダに立ち、青く輝く海を眺めている。日差しは肌に突き刺さるほど強く、吹く風はどことなく塩辛い。

 私は来た。見知らぬ土地へ、たった一人で。

 日本では雪が降りそうな寒さだというのに、こちらはまるで反対だ。 真冬から真夏へ、飛行機に乗って一気に季節を飛び越したのだ。

 青いテーブルのような海面にはいくつものサーフボードが浮かんでいる。それは笹船のように小さくて、サーファーの顔までは見えない。でもこの海のどこかに、龍一がいるのだ。今、私は彼の近くまで来ている。

 ブリスベンの空港についてから、サーファーズパラダイスの日系ホテルまでは、何の問題もなかった。東華の行動マニュアルは実に正確に描かれていた。入国手続きをする、預けていた荷物をピックアップする、そしてエアポートバスを探して泊まるホテルを告げてから乗る。言葉の問題といっても、プリーズとイエスノーが言えればことたりた。しかもホテルのチェックインでは日本語で出迎えられる。「お待ちしておりました、国立様」。

 気が抜けてしまうほど、危険とは縁がない。なーんだ、心配ないじゃない。準備さえちゃんとして入れば何にも問題ないものなのね。
 なぜ今までこんな旅をしてこなかったのかしら。

 ミニバーからよく冷えたミネラルウォーターを取り出し、グラスに注いで口をつける。


 裸足のままぺたぺたと部屋の中を歩き、化粧ポーチを手にバスルームへと向かう。洗顔をするとコットンに化粧水をたっぷりしみこませてパッティングした。身体には中から水を。そして肌からも水を。

 そろそろ身体が睡眠を欲しがっている。
 予想通り、飛行機の中での熟睡は無理だった。映画を見ながら、知らない国に行くという興奮を抑えるのがやっとなのだ。でもこうしてホテルについたんだから一安心。まずは睡眠。おっと、その前に荷物をきちんとほどいておきたい。

 ふと、自分の几帳面な性格に笑いがこみ上げた。誰もいないんだから、私だけなんだから、散らかしておいたってかまわないのに。
そういえば、母も東華もエリさんも、荷物はひっちらかす人たちだった。
 なんでスーツケースのフタをがばっと開けたまま床に放置できるの? なんで脱いだ服を椅子の背にかけたままにしてるの? なんで飲みかけのペットボトルを冷蔵庫にしまわないの? なんで、なんで? 私にはさっぱり理解できない。
 とにかく物はあるべきところにきちんとしてあるのが好きなのだ。私はスーツケースから服を次々と取り出すとハンガーに掛けていった。

 ひととおり作業が終わると、どさり、とベッドに横になる。
 見上げた白い天井には、窓から入る日差しがちらちらと影を作っている。薄いカーテンがまぶしい日差しを和らげている。私はシーツを目の上まで引き上げると眠りにおちていった。

 私は白いサンドレスに身をつつみ、日傘を放り出してビーチを走っている。
 だってついに、会いたかった人が見つかったのだから。
 龍一は、日焼けした肌に水滴をいっぱいつけたまま、サーフボードを脇にかかえてビーチを走ってきた。ボードをソッと砂の上に置くと、塩辛い手で私の両手をつかむ。

「亜南、よくきたね。オレの送ったメッセージにちゃんと気づいてくれたんだ。
 もっと早くこうして会えればよかった。ずっとずっと、気になっていたんだよ」

 私は、服が濡れるのもかまわず、彼の太い首に飛びつく。

 私だってずっと会いたかった。とっても話がしたかったの。どうして私のそばから離れていったの? 私が奈々をいじめた悪い女だから? お願いだから違うって言って。その思いは声にはならず、涙となってあふれ出る。

「亜南は自分らしくしていればいい。奈々を許せないのは正義感が強かったからなんだ。亜南は自分だったらやらないような恩知らずの行動をとった彼女を許せない。でもそれが君の性格なんだから気に病むことはなかったんだ」

 龍一は、涙に濡れた私のほほを両手で包み、その唇を近づけた…… 


 がばっと身を起こすと、反射的に時計を見た。午後1時。
 いかん、変な夢を見てしまった。
これじゃあまるで私が龍ちゃんに恋をしているみたいじゃない。
 仲良くしてる頃だって、二人の間にそんな雰囲気はなかった。恋愛論を戦わせることはあっても、題材は映画や小説だったし、実生活における色恋沙汰が私たちの会話に登場することはなかった。私は龍ちゃんにつきあっていた女がいたかどうかは知らないし、向こうだってそうだ。

となると原因はひとつしかない。私は欲求不満なのだ。
 思い返せば祥二とはここ1ヶ月何もなかったし、末吉さんとだって何もない。だから私には不満がたまってる。 そう、ロマンス指数が低下しているだけなのよ。
 気づけば首の周りが汗だくになっていた。クーラーを切った部屋の中はだいぶ熱くなってきている。この汗は生理的現象なのか、それとも心理的要因なのか。
 追求するのはやめてシャワーを浴びることにした。

 私が龍ちゃんを探しているのは、占いをしてもらうためなんだから。
 私の人生の中に隠れている新しい選択肢に光を当ててもらうのが目的なんだから。





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最終更新日  2005.02.10 11:16:40


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