はにわきみこの「解毒生活」

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2005.03.30
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「阿南は、奈々のこと、忘れたわけじゃなかったんだ」
 龍一はちょっと驚いた顔をした。

「思い出したくなかっただけよ。完全に忘れることなんて、やっぱりできないわ。あの悲劇が始まったとき、私も隣にいたんだから。
 あの子がバカなのは仕方ないけど、その場にいながらあの子を引き留められなかった私はもっとバカだって」

「お姉さんなのに、そばについていながら何もしてやれなかった、って?」

「そうよ。実のところ、最初にあの男を見たときの第一印象はサイアクだったわ。
 うさんくさくて信用ならないって。奈々だって同じ印象を受けたと思ってた。
 あんなに調子のいい言葉をずらずら並べられて、それをうのみにするほど脳が足りないと思わなかったのよ」
「だけど、奈々のこと、本当に止められた? 恋は盲目って言うじゃない。奈々は一途で情熱的な子だった。横でいくら注意しても聞かなかったんじゃない? 


「そう思いたいわ。 でも、奈々にとって初めての男が、あんなヤツだったってこと、私、許せないの

 いつのまにか、体が小刻みにふるえていた。
 奈々のことを思い出さずにいたのは、考えただけでつらくなるからだった。

「どうして私を止めてくれなかったの」。そう奈々に責められているような気がしてたまらなかった。私は妹を救う努力を放棄して、その場から逃げたのだ。


「龍ちゃんと東華がついていてくれなかったら、奈々、あの時ほんとに死んでたかもしれない」
「奈々が死ななくて良かったと思う?」
「うん。あんな目にあってそのまま死んじゃうなんて可哀想すぎる」
「奈々が阿南に会いたがってるとしたら?」

「私には会う資格がないわ。止められなかったし、助けてあげられなかったんだから」
「でも、奈々がそんなこともう気にしてないって言ったら? あっちが会いたがってるなら、構わないんじゃない?」


「阿南、ずいぶん変わったね」
 龍一は静かに笑った。
「そうかしら」
「そうだよ。奈々が家に帰ってくることは絶対に許さないって。ずっとそういうスタンスでいただろ。 ひとり暮らしを避けて実家にいたのは、奈々が戻ってくるのを阻止するため、っていう意味もあったでしょう


 そうか、年老いた親が心配、そんな気持ち以上に、私は、あの家に奈々を近づけたくなかったのだ。私が門の前に頑張っていれば、奈々は絶対に家に入れない。もうこれ以上お父さんとお母さんを苦しめないで。

「うちの両親が奈々の結婚を反対したのは、不幸になるのが目に見えていたからよ。
 奈々はそれを逆恨みしてた。お父さんだってお母さんだって、ものすごく心が痛んだのよ。あんな重い時間を過ごすのは二度といやだった。元凶である奈々がいなくなれば、平安な日々が過ごせるって思ったの。そういうものじゃない?」

「みんな、奈々が今どうしているのかって心配してるのさ。阿南だって、実はそうでしょう? やっとその気持ちを認めることができるようになったところだ」

「そうかもしれない。ねえ、龍ちゃんは奈々の居場所を知ってるの?」
「ああ。もし阿南が会いたければ、いつでもセッティングできるよ」

 その時私はどんな顔をしたらいいのだろう。
東華が望んだように、子供が産まれるときは三姉妹が仲良くいられるのだろうか。そして、それは私の決断にかかっているのだ。
 人にはみな、いろいろ事情がある。
 龍一のうちあけ話は、さびついた扉のちょうつがいに油を差す役割をしてくれたのだった。





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最終更新日  2005.03.31 10:03:10


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