はにわきみこの「解毒生活」

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2005.03.31
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 手の甲に目を落とすと、ついさっきは赤黒かったはずの水玉の色がすっかり薄くなっていた。目の錯覚かと思ってサングラスをはずしてみたが、やはり薄い茶色に変わっている。

「なんだか、発疹の色が薄くなってるみたい」
「どれ」
 龍一は、私の顔を正面に向けるとじろじろと遠慮のない視線で眺めた。
「そうかもしれないな。時間がたつと色が落ち着くとか、そういうこと?」
「ううん。ついこの間は、どんどん色が濃くなっていったし、治るまでに10日近くかかった。 もしかして、少しずつ毒が外に出てるのかもしれない。この間一回出たから、体内の毒素の総量が減ってきてるのかも
「毒って?」

「今回さ、上司の命令で医者に行ったのね。いつも研究所でお世話になってる皮膚科の先生ではお手上げで、その人のお母さんって人を紹介されたのよ。お母さんの方は漢方を専門にやってる内科医だったの。
私のこの水玉は、心の毒が出てくるから起きるって。いつも自分を抑えていい子にしてる不満が、時々何かのタイミングでわいてくるんじゃないかって

「毒か。毒ねえ。でもその現象はそう悪いことでもないんじゃない? オレから見ると、亜南はすごく落ち着いてる。 いつも安定した精神状態でいられるよう、自分をコントロールしてるでしょう。だからたまには、コントロールされたくない自分が、暴動をおこしたくなるんじゃないの」

「そんな言い方したら、私が二重人格みたいじゃない?」

「だれでも多かれ少なかれそういう要素は持ってるのさ。自分の中に、自分の理想にはそぐわない自分がいる。一方が楽天的なら、もう一方が悲観的だったりね」

 そんなものかしら。

「旅に出ると、今までの自分とは違う面が見えて来るって事があるじゃない?」
 返事に困っていると、龍一は説明を続けた。

「一人で海外にでてきて、砂浜を歩いて。最近、海を見たことなんてあった? 長い時間、太陽の下にいたこと、あった? ずっとビルの中で働いて、休みになると家にいたんでしょう。自然を楽しむってこと、してこなかったんじゃない?」

「国内旅行ならしてたけど」
「皮膚で感じてた? 風や太陽を」

 ――それは。私はずっと肌をさらすことを避けてきた。それが仕事だったから、ということもあるが、 夏でも長袖を着ていたのは、自分自身を外界から隔てて守るためだったのかもしれない。



「心を解放してやることさ。カゴから出して羽ばたかせてやるんだ。今の阿南ならきっとそれができる。ついでに海で泳いでみればいい。しばらくやってなかったでしょ」

 心を解放する。どこかで聞いた言葉。ああそうか、漢方の軍鶏婆さんが同じ事を言った。そして、塩水に体を浸すのは肌にいいとも言った。
 海で泳ぐ。せっかくだからやってみるか。

「そうね。でも私、プールならともかく、波があるところでなんか泳げないわ。水着を買ったのだって10年ぶりだったんだから」

「泳がなくたっていいじゃない。地球の懐に入ってるって感覚を味わうだけでいい。そうだ、サーフィンに挑戦してみない? 教えてあげるから」

「じゃあ、海に入るだけなら? やってみる?」
「うーん。足がつくあたりまでならいいかな」

 龍一はニッコリと笑った。

「オレが占いをしないって言ったのはさ。 阿南にはそんなやり方は必要じゃないって思ったからなんだ。阿南にとっては、オレに占ってもらうことがこの旅の目的だったんだろうけど。でも、目的なんて必要かな?
「海で泳いだあとなら占ってくれる、ってこと?」
「どうしてもあきらめないなら、考えるけど」
「だって、目的を果たさないなんて気分が悪いわ。私は何のためにここまで来たのかって」

「旅しに来た、っていうのが目的でいいじゃない。旅っていうのは、一心不乱に目的を果たすだけじゃつまらないのさ。目的は何でもいいんだ。それにこだわる必要なんかない。動く動機になれば充分。 動いて感じること、それが旅なんだし、人生の薬になるんだ
「薬って?」
「いったでしょ。自然治癒力。 旅ってのは自分のなかの治癒力を引き出す一番簡単な方法なんだ。特に一人旅はいいね。すごく効くよ。 悩める女性にはもっと薦めたいと思ってるんだ」
「それができれば、占いなんて必要なくなる?」
「はは、商売あがったりだね。 ただ、占いが必要ないっていうより、占いに頼るパーセンテージが低くなる。自分で決められる力がつくんだ



 それでも、彼が言わんとすることは、少しだけ理解できた気がする。知らない土地で車を運転する。海を間近で見る。それだけのことなのに、今までの自分とは違ったきた気がするのは確かだった。






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最終更新日  2005.03.31 10:08:53


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