♪ 戻り来ればたった5日の入院が旅に枕の夢と思えり
最新の腹腔鏡による手術なので、従来の外からする方法に比べて傷口も小さく回復も早い。
この手術方法を選択するにあたって、心配が全くなかったわけではない。
当市民病院では今年の1月から採用されるようになった手術であり、執刀医が昨年の4月にここに赴任してきたばかりの若い医師だということ。
どちらを選ぶかは患者の自由と言われ、私は迷わずこちらを選んだ。ヘルニアがある人は反対側にも起こる可能性が高く、腹腔鏡ならついでに調べて同時に手術することも可能だというのでこちらに決めた。
♪ 竹藪の東へそよぐ夕まぐれ明日の手術の無事を思いいる
20年以上前にやった胃の手術の跡があり、先生は癒着を心配していた。古い癒着ははがす事が困難で無理にやろうとすると腹壁を破損する恐れがあるという。
♪ 確定は腹腔鏡で診てからと古き手術の跡を眺めて
医師と患者は信頼関係が重要で、安心して身を委ねることが出来ない様では困る。私はこの若い医師に初診で会った時から好感を持っていたので、安心して身を預ける事が出来た。
腹腔鏡手術のリスクは、全身麻酔だということ。外からやる方法だと下半身麻酔だけで済む。
全身麻酔は自力呼吸が出来ず、術中は人工呼吸器に頼る事になる。喉の奥に酸素の管を入れるし、高齢者は麻酔がさめてからの自力呼吸が上手くいかない場合があったり、心臓に負担が掛るので危険を伴うのだ。
♪ 若き医師の手腕を信じオペ室に身を委ねいる約3時間
オペ室に行く前に麻酔の点滴を開始し、歩いてオペ室に入り、ベッドに寝かされて酸素マスクを当てられる。そのマスクからも術中は麻酔薬が混合して入れられているという。
「効いてきましたか?」と声を掛けられているうち、間もなく意識が無くなった。
♪ 自ずから呼吸をせずに眠りたる吾(わ)は人力の木偶人形かな
「終わりましたよ」という声で起こされる。
「えッ!? もう終わった?」
意識の中では、眠り始めてから30分ぐらいしか経っていない。3時間も経っている事がとても信じられなかった。
案の定、以前の手術の痕が癒着していて難儀したらしい。予定より腹に開けた穴の数が一か所多いとの報告があった。
最初に入った部屋とは違う部屋に自分のベッドが入れられていて、カミサンが待機していた。自力でベッドに横になり、思わず時間を確認した。1時ごろから手術が始まり、今4時過ぎだというから間違いなく3時間が経過している。
その3時間の間の記憶が全く無く、すこーんと抜け落ちている。記憶喪失というのはこういう感覚なんだろうなぁと、妙な納得をする。
バイタル・モニターを付けられ、酸素マスクを当てられ、尿道には管を入れられ、点滴を打たれている。ああ如何にも病人だ。
さすがに酸素マスクは直ぐに外された。尿道口の管も夜中には外された。
♪ 何ということもなかれど顔見せて世間話をする妻を待つ
翌日にはバイタル・モニターも点滴も外された。これで漸く身軽になり、ごく普通の病人の姿となった。
♪ 点滴の管外されて嬉しかり漢字ナンクロを妻持ちて来る
それにしても看護師の存在は病人にとって救いの神だ。いやいや天使だ。女神といってもいい。その微に入り細に渡った気配りとケアには心身ともに救われる。
こっちが男だから特にそう思うのかもしれないが、看護婦さんはみんな可愛いし良い表情をしている。
あまりブスの看護婦というのを見た事が無い。採用の段階で落とされるのだろうか。
確かに美人じゃなくても笑顔の可愛い看護婦の方が良いに決まっている。
♪ 毎日があたふたと過ぐ看護婦の笑顔の下のインナーマッスル
3交代で、夜勤の場合は夜中に出勤してきて、一人で10人以上の面倒を見るらしい。
こんなにメンタル・フィジカル両方がきつい仕事も無いだろう。人の命を預かっているのだ。
余程心がしっかりしていないと務まらない。病気そのものは勿論だが、精神的な部分でのケアはとても重要で、患者の心に寄り添った臨機応変の対応はそれなりの心構えとハートがなくては出来ない事だ。
♪ 病棟の廊下はへの字に曲がりいて真夜のトイレの心安かり
病棟の夜の廊下は気味が悪い。今は明るくしてあるが、古い病院のまっすぐ続く長くて暗い廊下は厭なものだ。
それを緩和するためか、この病院の廊下はストレートにはなっておらず、建物そのものが「へ」の字に折れ曲げてある。
入院者は高齢者ばかりで、中には痴呆の気のある患者もいるし、頭のちょっとおかしいのも居てひっきりなしに変な声を出していたりする。
手術後の痛みで”うんうん”唸っているのもいるし、いびきも凄かったりする。
♪ どの部屋も年長者らで埋まりいる病棟二階の吾はルーキー
高齢化社会を反映して、病院はどの科へ行っても高齢者で溢れている。当然、入院患者も高齢者ばかりで、私の同室の人は89歳と75歳だった。
♪ 病院では弱者の吾と思ほへば憚りのなき人を演じて
♪ 我慢する意味もなかりて痛み止めを求めて夜の小舟に乗りぬ
♪ ロキソニンに胃を痛めれば食むを得ず病みにうつうつ 嗚呼また痩せる
今は回復が早いという理由で、手術したその日から歩く事を強制させられる。歩く事が嫌いではない私だが、腹に力を入れると痛いのでおいそれとは歩けない。
誠に頼りなげな姿で、そろりそろりと歩き始めた。
♪ 階段を上り下りして持て余すうつろな時をつぶすリハビリ
廊下を歩いたって大した距離にはならず、そう何度も同じところを往復するのも気が引ける。一日経って少し楽になったのを契機に、階段を上り下りすることに。
病室のある2階から屋上の洗濯場のある6階まで上がり、下りは地下の倉庫まで下りたりして一度に2往復する。
それを適当に時間を見計らって一日3往復から4往復程度する。
♪ 静かなるリゾートとして猛暑日をやり過ごしてる病棟二階
暑さを避けてこの時期を選んだ手術・入院。冷房完備の食事つき。ここはリゾートと思わなければ安穏に過ぎゆく時間に失礼だ。
♪ 抗がん剤の話題に耳をそばだてて他人(ひと)ごとに聞く食堂の隅
食堂には色んな人が出入りする。看護学校生の研修後の報告会があったり、患者の家族に治療方法の説明をしていたり。
♪ 食堂の窓がきゅきゅきゅうきゅきゅきゅうと飼い猫ピピを思わせて鳴る
来週からサイドの仕事をする事になっているが、この猛暑がまだ続くというのは想定がいだった。
連日、35、36℃というむちゃくちゃな暑さ。リゾート気分で弛みきった心と身体で、この暑さに打ちのめされないように、今から心の入れ替えに努めねばならない。
◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」と
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題してスタートすることにしました。
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