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Salzburg Wind Philharmonicという吹奏楽団の録音が大量にリリースされていることを知り、その中からオリジナル作品を集めたアルバム「Salzburg Wind Philharmonic vol.11」を購入した。このバンドは日本ではあまり知られていないが、世界最高峰の吹奏楽団の一つとされている。このシリーズは最近配信が始まり、その流れでダウンロードサイトでもカタログに掲載されるようになったようだ。この楽団は常設ではなく、演奏会ごとに編成されるプロジェクト型の吹奏楽団であり、ルツェルン祝祭管弦楽団と同様の形態といえる。ベルリン、ウィーン、コンセルトヘボウ、バイエルンなど、ヨーロッパの名門オーケストラの団員が多数参加している。当初はザルツブルク・モーツァルテウム大学のオーケストラ組織として活動していたが、年を追うごとにプロ奏者の比率が増し、活動範囲の拡大に伴って2022年に大学から独立した。指揮はホルン奏者であり元モーツァルテウム音楽院教授のハンスヨルク・アンゲラーが務めている。コンサートマスターはベルリン・フィル首席のフックスが担当しているようだ。現在までにCD約45タイトルの充実したカタログを誇り、現在は自主レーベルBPS Recordsからリリースされている。SpotifyでSalzburg Wind Philharmonicのvol.1~vol.12やベートーヴェン、「アルプス交響曲」などをつまみ聴きした。アレンジ作品が多いがサウンドは非常に充実しており、通常の吹奏楽団にありがちな貧弱さはなく、厚みがあってオーケストラに遜色しない響きであった。ワーグナー「神々の黄昏」の「夜明けとジークフリートのラインの旅」や「葬送行進曲」では、オーケストラと比べるとスケール感では及ばないものの、ソロの完成度は高く、全体のサウンドも十分に説得力があった。サウンドは意外にも地味な印象。アメリカのバンドのような明るく突き抜ける響きではなく、暗めで抑制された音色であり、派手さよりも緻密さを重視したアンサンブルだ。そのためパワーで圧倒するタイプではなく、むしろ玄人好みのバンドだ。ただし、このアルバムでも十分に分かるが、いざっとなった時のパワーは凄味がある。AIのおすすめとして「アルプス交響曲」が挙げられたが、高価であり、配信で聴ける録音の多くが編曲作品であったため、今回は管楽器のみの作品を集めたvol.11をeclassicalからダウンロードした。vol.11はクルト・ワイルのヴァイオリン協奏曲、ベルトルト・フンメル《ファウストの情景》Op.72b、ミーナス・ボルブダキス《Chorochronos II》という現代作品を組み合わせた内容であり、いずれも国内での演奏例はほとんどないと思われる。クルト・ワイル《ヴァイオリンと吹奏楽のための協奏曲 作品12(1924)》は、木管10名にトランペット、ホルン、ティンパニ、打楽器、コントラバス4という編成。初期ワイルらしい新即物主義的でやや辛口な語法ながら、透明感があり過度に暗くならない音楽で、非常に聴きやすい。ストラヴィンスキー《兵士の物語》(1918)との類似も感じられる。またヴァイオリンと管楽器の掛け合いが魅力的で、ヴァイオリンの涼やかな音色も心地よい。特殊編成のため演奏機会は多くないが、初めてでもすんなり耳に入ってくる作品で、もっと演奏されてもよい曲だろう。ワイルの隠れた名曲?昨年BISからリリースされたHK・グルーバーの《7つの大罪》を中心としたアルバムにも収録されていた。録音はBIS盤の方が優れており、この曲を聴くなら同盤を推したい。ドイツ生まれのベルトルト・フンメル(1925–2002)は戦後ドイツを代表する作曲家であり、ベルク、メシアン、さらに師であるハーラルト・ゲンツマーやヒンデミットとの精神的な連続性を語っている。十二音技法に全面的に依拠することなく、調性感をある程度保持しながら現代的語法を展開した作風を持つ。代表作として《Sinfonietta for Large Wind Orchestra(1970)》や《Chorale for Band "Tier"》などがあり、吹奏楽作品として重要な位置を占めている。《ファウストの情景》はゲーテの『ファウスト』を題材に、管楽オーケストラによる交響詩的な6曲構成の組曲として描いた作品であり、打楽器が大きく活躍する。難解な現代音楽ではなく、ストーリー性とユーモアを備えた聴きごたえのある作品だ。旋律や和声にはメシアンの影響も感じられ、興味深い語法となっている。邦人作曲家を思わせる和声が現れる場面もあり、国内の吹奏楽団で演奏されても不思議ではない完成度を持つ。難易度は高いが演奏効果も大きく、ぜひ取り上げてほしい作品だ。最後の《Chorochronos II》はミーナス・ボルブダキス(1974–)の作品。彼はギリシャ・クレタ島出身の現代音楽作曲家である。タイトルはギリシャ語の「空間(Choros)」と「時間(Chronos)」を組み合わせた造語。全体にクールな雰囲気が漂い、荒々しいティンパニと多数の打楽器が強烈に活躍する作品であり、他の楽器も持続的なエネルギーを放っている。グロッケンやチャイムなどが組み合わさったガラスを連想させるきらびやかなサウンドが耳を引く。打楽器の扱いが非常に興味深く、高音域を多用する金管なども含めて難易度は高いが、実演で聴いてみたい作品だ。ということで、国内では知られていないとはいえ、大変充実した作品がならんだ優れたアルバムだった。このアルバムの配信を機に、多くの吹奏楽団で演奏される機会が増えることを期待したい。Salzburg Wind Philharmonic vol.11(BPSRECORDS-Volume_11 )24bit 44.1kHz Flac1.Kurt Weill: Concerto for Violin & Wind Orchestra, Op. 12 第1楽章 Andante con moto 第2楽章 Notturno:夜想曲らしい静謐さの中にも不安が漂います。 Cadenza Serenata 第3楽章 Allegro molto6.Bertold Hummel: Faust Scenes, Op. 72b Incantation Seduction Dance of Unhappy Spirits Witches' Sabbath Gretchen (Intermezzo) Fair and Faust's Journey to Hell12.Minas Borboudakis: Chorochronos II Benjamin Schmid(vn track 1-5)Peter Sadlo(timp,perc. track 12)Salzburg Wind PhilharmonicHansjörg Angerer
2026年06月30日
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ドラマーのニール・グレイによるハードバップ・セッション「In The Street」を聴く。Cellar Liveからのリリースで、このレーベルはPresto Musicで安価に購入できるうえ、録音・演奏ともに優れたアルバムが揃っているため、最近よく聴いている。ニール・グレイは西カナダのジャズ・シーンで15年ほど活動してきたドラマーで、このアルバムが初の本格的なリーダー作とのこと。ありふれたジャズでが、勢いのある演奏と優れた楽曲、そして透明度の高い録音が魅力で、何か新しいものを求めるのでなければ文句の付け所がないアルバムである。プログラムは最後のヴォーカル・ナンバーを除き、すべてグレイのオリジナル。メンバーはほとんどが気心の知れた仲間とのことだが、演奏にだれるところはなく、終始ノリが良い。典型的なハードバップだが、ジュリアン・ボルコフスキとコリー・ウィーズによるフロントのハーモニーが実に心地よい。ボルコフスキのリー・モーガンばりの柔らかなサウンドが、その魅力に大きく貢献している。ケベック出身のフランス系カナダ人ジャズ・ピアニスト、ブルーノ・ユベールのピアノは、ブロックコードを交えた骨太なバップ・スタイルで、ソロにもソニー・クラークを思わせる味わいがある。ミディアム・テンポの演奏が多い中では、ラテン・テイストの「Latin Fiasco」が異色の存在である。タイトルは「ラテンの大失敗」という意味らしいが、ユーモアに富んだ楽しい曲である。「Somewhere」はやや速めのテンポながら、しみじみとした味わいを湛えた佳曲。朴訥としたタッチが、かえって魅力につながっている。「Shotgun Blues」は物騒な題名だが、典型的なハードバップのブルースで、コリー・ウィーズの骨太なアルトによるファンキーなソロがご機嫌。ボルコフスキのトランペットも軽快な持ち味を発揮している。「Seymour Street Shuffle」もテンポの速いブルースで、ここでもウィーズのブルージーなソロが光る。ボルコフスキのトランペットも健闘している。リーダーのドラムスが前面に出る場面は少ないが、バンド全体を後方から巧みに支えている。最後の「Night and Day」には、バンクーバーを拠点に活動するLeila Naderiがゲスト参加している。高音がきつめで、あまり若さを感じさせない歌唱。また歌はややエキセントリックで、それまでのよくブレンドされたサウンドとは調和していない。このトラックはなくても良かった。ということで、気心の知れた仲間たちとの日常の一コマを切り取ったようなアルバムで、新たな発見こそないが、肩の力を抜いて楽しむことができる。意欲的な作品や奇抜な趣向のアルバムが多い昨今だからこそ、このような作品の存在意義は大きい。こうした地味ながら味わい深いアルバムこそ、長く聴き継がれていくに違いない。ジャズならではの魅力を備えた一枚だ。Neil Gray:In The Street(Cellar Live CMF030325)24bit96kHz FlacNeil Gray: 1.Frankie's Ghost2.For Those In The Back3.It Wasn't Was It4.Latin Fiasco5.Somewhere6.Shotgun Blues7.Seymour Street Shuffle8.Cole Porter: Night and Dayall composed by Neil Gray except track8Neil Gray(ds)Bruno Hubert(p)Julian Borkowski(tp)Cory Weeds(ts)Conrad Good(b)Leila Naderi(vo track 8 only)Release Date: October 31, 2025Recording Date: Not specifiedRecording Location: Not specified (Vancouver, British Columbia, Canada)
2026年06月28日
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最近お気に入りのフランスのテノール歌手、シリル・デュボアの新録音『So Poetique!』を聴く。本作は、ヴェネツィアに拠点を置くフランス・ロマン派音楽(1780~1920年頃)の研究・普及機関、Palazzetto Bru Zane(仏ロマン派復興機関)との共同制作によるものだ。最近はBru Zane単独ではなく、アルファレーベルの録音にBru Zaneが協力する形での制作が増えているように感じる。ほかにもApartéやHarmonia Mundiとの共同制作が目立つ。このアルバムの狙いは、あまり演奏されない作品群の中に埋もれた「失われた宝」の再発掘だそうだ。全曲が管弦楽伴奏による豪華な編成で、通常のピアノ伴奏版と比べると実にゴージャスな仕上がりだ。ピアノ伴奏版との直接の比較はしていないが、聴き手のイマジネーションをかき立てるサウンドが魅力的だ。デュボアの歌唱は期待にたがわぬ見事な出来で、その美声にうっとりとしてしまう。一方で、曲によっては表現がやや大きすぎるように感じる場面もある。収録曲はいずれも短いが、バラエティに富んでいて飽きさせない。なかでも、フォーレの「イスパハンの薔薇」の優美な旋律、サン=サーンスの夢見るような「法悦」、そして彼のエジプト趣味を反映したスケールの大きな「ナイル川の日の出」は聴きごたえ十分だ。初めて聴く作曲家の作品の中では、ベンジャミン・ゴダートの「3つの詩的断章」の明るくふんわりとした抒情が印象に残った。また、トンベルの「ピレネーの子守歌」は、持続音(ドローン)や旋法的なメロディーによって、異国情緒あふれる歌の世界を聴かせてくれる。フランクの「行列」は宗教的な雰囲気こそ感じられるものの、流麗な旋律と劇的な表情によって、いつものフランクとは異なる一面をのぞかせるのが意外だった。実はフランクはオペラも何曲か書いており、その片鱗がこの曲からうかがえるのも大変興味深い。書き始めるときりがないのでこのあたりまでにしておくが、どの曲も魅力的で、未知の宝物を発見したような喜びを味わわせてくれる。ブリュッセル・フィルのサウンドは、それほど洗練されたものではないが、そのことがかえって、デュムソーの指揮ともども、少し前までフランスのオーケストラに息づいていた独特の香りを伝えており、大変魅力的だった。録音は悪くないのだが、このレーベルの最近のヴォーカルアルバムはサウンドが前に張り出しすぎて、雰囲気を損なっているような気がする。特にこのようなフランス物の時は、もう少し奥行きをもった音にして欲しい。録音にクレームをつけたが、演奏、選曲とも素晴らしく、未知のフランス歌曲に出会いたければ、ぜひお聴きいただきたい。このアルバムを聴けば、幸せな気分になれること請け合いだろう。Cyrille Dubois:So Poetique!(ALPHA 1214)24bit 96kHzFlac1. Charles Gounod:Le Soir 夕べ2. Benjamin Godard:Embarquez-vous ! さあ船出しよう3. Camille Saint-Saëns:Aimons-nous 愛し合おう4. Louis Vierne:Chanson d'automne 秋の歌5. Théodore Dubois:Printemps 春6. Benjamin Godard:Trois Fragments poétiques, Op.13 - I. Lamartine 3つの詩的断章 第1曲「ラマルティーヌ」7. Charles Gounod:Ma belle amie est morte 私の美しい恋人は亡くなった8. Gabriel Fauré:Les Roses d'Ispahan イスパハンの薔薇9. Fernand de La Tombelle:Berceuse pyrénéenne ピレネーの子守歌10. Jules Massenet:Le Poète et le fantôme 詩人と亡霊11. Augusta Holmès:Ne nous oubliez pas ! 私たちを忘れないで!12. Benjamin Godard:Trois Fragments poétiques, Op.13 - II. Alfred de Musset 3つの詩的断章 第2曲「アルフレッド・ド・ミュッセ」13. Fernand de La Tombelle:Sonnet d'Estienne de La Boétie エティエンヌ・ド・ラ・ボエシーのソネット14. Gabriel Fauré:En prière 祈り15. Théodore Dubois:Pourquoi les oiseaux chantent なぜ鳥は歌うのか16. César Franck:La Procession 行列17. Félicien David:La Vengeance des fleurs 花々の復讐18. Benjamin Godard:Trois Fragments poétiques, Op.13 - III. Victor Hugo 3つの詩的断章 第3曲「ヴィクトル・ユーゴー」19. Camille Saint-Saëns:Extase 法悦20. Ambroise Thomas:Le Soir 夕べ21. Camille Saint-Saëns:Lever de soleil sur le Nil ナイル川の日の出Cyrille Dubois(t)Brussels PhilharmonicPierre Dumoussaud Recorded at Flagey Studio 4, Brussels, Belgium, 31 March–4 April 2025
2026年06月26日
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ギタリストのミック・グッドリックとピアノのフレッド・ハーシュによるデュオ作「Feebles, Fables & Ferns」を聴く。これは、1988年に録音されたECMの未発表音源を収めたアルバムだ。グッドリック(1945-2022)はこれまで聴いたことのないギタリストだったが、1970年代前半にゲイリー・バートンのグループに所属し、若きパット・メセニーとも共演している。その後もチャーリー・ヘイデンのリベレーション・ミュージック・オーケストラやジャック・デジョネット、スティーブ・スワローらのグループで活躍したという。彼の大きな功績は、ビル・フリーゼル、ジョン・スコフィールド、マイク・スターンなど、錚々たるギタリストを育てたことにあるようだ。芸風は派手さを避けた知的で繊細なスタイルで、ハーシュとの相性も良い。アルバム全体には動きがあるものの抒情的な雰囲気が漂い、これまでリリースされなかったことが不思議に思えるほどだ。驚いたのは、ハーシュがかなり饒舌なピアノを弾いていることだ。現在の彼は抒情的ながら寡黙なスタイルなので、そのイメージで聴くと意外に感じられる。当時は音数の多いスタイルだったが、病気などを経て大きく芸風が変化したのだろう。個人的には初期のロジャース曲集を愛聴していたが、その後長いブランクを経て現在のスタイルに接したため、なおさら驚きが大きい。タイトル曲の「Feebles, Fables & Ferns」は、Feebles(弱々しいもの)、Fables(寓話)、Ferns(シダ植物)という単語を並べたもので、特別な意味はないようだ。やや速めのテンポによる抒情的な作品で、ギターとピアノの掛け合いが聴き手を優しく包み込む。聴き終えた後には幸福感が残る。近年スタンダード化しつつあるスティーブ・スワローの「Falling Grace」も、アドリブの応酬から始まり、最後にテーマが現れる構成だ。楽器編成は異なるものの、チック・コリアとゲイリー・バートンのデュオを思わせる熱のこもった演奏で、実に素晴らしい。次の曲は、グッドリックの「Away 10」とスワローの「Amazing」のメドレーだ。ゆったりとしたテンポで慰めに満ちたメロディーが流れ、心安らぐひとときを味わえる。4曲目の「Five Excursions」は、アルバム最長となる9分余りの作品。フリー・インプロヴィゼーションによる演奏で、5つの部分に分かれているようだ。無調的に聴こえるが、クラシック音楽のような厳格さや冷たさを感じさせるほどではない。その中でピアノはかなり冷たく聴こえる一方、ギターにはそこまでの冷たさがなく、そのため緊張感はあまり強くない。ユニークでなかなか興味深いトラックだ。スタンダードの「Out of Nowhere」は、速いテンポによるフリーフォームの掛け合いが続き、最後にテーマが現れるしゃれた構成で、テーマが現れた瞬間に思わずニヤリとしてしまう。ハーシュの「Heartsong」は、まるでメセニーの作品を思わせるような、アメリカの田園風景を連想させる懐かしさを湛えた曲で、心温まる演奏となっている。マル・ウォルドロンの「Soul Eyes」は、ミディアム・テンポによるさらりとした表現ながら、しみじみとした情感が込められている。通常のバラードとは一味違う、リズミカルなピアノのコンピングが心地よい。ということで、軽量級の作品ながら、これまで未発表だったとは思えないほど完成度の高いアルバムだった。ジャズに安らぎを求める聴き手なら、期待を裏切られることはないだろう。Gary Burton Quintet 1974 feat. Pat Metheny, Mick Goodrick, Steve Swallow, Bob MosesMick Goodrick,Fred Hersch:Feebles, Fables & Ferns(ECM ECM2876)24bit 88.2kHz Flac1.Mick Goodrick: Feebles, Fables & Ferns2.Steve Swallow: Falling Grace3.Mick Goodrick / Steve Swallow: Away 10 / Amazing4.Mick Goodrick & Fred Hersch: Five Excursions5.Johnny Green: Out of Nowhere6.Fred Hersch: Heartsong7.Mal Waldron: Soul EyesMick Goodrick(g)Fred Hersch(p)Recorded: August 1988, Classic Sound Studio, NYC
2026年06月24日
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クロノスカルテットのゴスペルの女王 マヘリア・ジャクソン(1911-1972)へのオマージュを記録したドキュメンタリー的なアルバム「Glorious Mahalia」を聴く。このアルバムは、単なるマヘリアのレパートリー集ではなく、語りを含む大変凝ったアルバムだ。アルバムは下記のように3部に分かれている。1. 1957年シカゴ・ライヴ(歌)2. 1963年Studs Terkelとのインタビュー(語り)3. 新録音のインタビュー(Clarence B. Jonesなど)前半はStacy Garropによる、マヘリアの語りを含んだドキュメント的な作品だ。単一の音源に基づくものではなく、複数の歴史的記録を編集・再構成したものらしい。後半は公民権運動に関するキング牧師の思想を題材にしたコラージュ的な作品だ。クロノスらしい政治的メッセージを含んだ刺激的な内容で、クロノスのファンには訴求力があるだろうが、純粋に音楽そのものを楽しみたい向きには必ずしも向かないだろう。筆者自身も好んでこうした作品を聴きたいとは思わないが、マヘリアの歌と同様に重厚な語りが強く印象に残った。多くの聴き手の関心は、マヘリアとクロノスがどのように融合しているかに向かうだろう。しかし、マヘリア本人の歌唱が聴けるのは「Sometime I Feel Like a Motherless Child」1曲のみで、やや肩透かしを食らう感はある。とはいえ、この1曲の説得力は圧倒的だ。ヴォーカルに絡みつくクロノスの濃厚なサウンドも強烈で、頻繁に用いられるグリッサンドはフィドル的な語法としてゴスペルによく馴染んでおり、極めて効果的に使われている。マヘリアの録音に含まれていたピアノ伴奏もそのまま使用されているようで、ヴォーカルとともに当時の雰囲気を伝えてくれる。その素朴な味わいは実に魅力的だ。仮に後から録音した伴奏を重ねていたなら、この雰囲気は生まれなかっただろう。マヘリア・ジャクソンのレパートリーの一つとして知られるAntonio Haskellのゴスペル曲「God Shall Wipe All Tears Away」のジェイコブ・ガーチクによる編曲は、1937年録音のEstelle Allenのオルガン伴奏を弦楽四重奏で再現することを発想の出発点としている。ヴィオラがマヘリアのヴォーカルを担い、他の3人がオルガンの和声を受け持つ構成とのことだ。オルガンを思わせる重低音が印象的だ。ザカリー・ジェームズ・ワトキンス(1980-)の「Peace Be Till」は、オークランドを拠点とする作曲家・電子音楽家による作品だ。ワトキンスは実験音楽、即興、電子音響の分野で活動しているという。キング牧師のスピーチライターだったクラレンス・ジョーンズ(1931-2026)のインタビューをもとにした「Peace Be Till」は、「キング牧師との出会い」、「キング牧師の演説の力」、「I Have a Dream演説が生まれた背景」、「公民権運動における音楽の役割」、「今日の社会正義への思い」という5部から成る。クラレンス・ジョーンズの野太く熱のこもった語りは圧巻だ。一方、音楽は存在感こそ大きいものの、語りに積極的に絡むというよりは脇役に徹している。音楽自体は比較的分かりやすいが、ときおり挿入される効果音は浮遊感を生み出しており、必ずしも効果的とは感じられない。むしろ弦楽器と語りだけで構成した方が良かったように思う。ヘリコプターのローター音を思わせる効果音が断続的に現れるが、ベトナム戦争を暗示しているのだろうか。アーカイブ音源を含め録音の質は大変良好だ。しかし、語りとその他の音響要素とのバランスはあまり良いとは思えず、扱いの難しい素材であることを感じさせる。ドキュメンタリーとして、あるいはサウンドそのものを楽しむ作品としては興味深く、試みとしても評価できる。ただし、政治的メッセージが前面に出ており、純粋に音楽作品として聴くには無理があると思う。Kronos Quartet:Glorious Mahalia(Nonesuch 7559-79137-2)24bit 96kHz Flac1. Stacy Garrop: Glorious Mahalia Hold on Stave in the ground Are you being treated right Sometime I feel like a motherless child This world will make you think6.Antonio Haskell(arr. Jacob Garchik):God Shall Wipe All Tears Away 7. Zachary James Watkins:Peace Be Till I.Doors of Justice / Black Thread(夢と正義の扉) II.Protest(抗議・デモ・社会運動) III.Copter(キング牧師とジョーンズの協働) IV.Symphony of Social Justice(社会正義の交響曲) Ⅴ.Tell 'em about the dream(未来への希望と継承)Kronos Quartet:David Harrington(vn)John Sherba(vn)Hank Dutt(va)Sunny Yang(vc)Mahalia Jackson(archival voice)Recordede 2022,Lucas Valley Rd, Nicasio, CA
2026年06月22日
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ここ数年続いているプレスティッジのマイルス・デイヴィスの年代別録音集シリーズ?の1956年版。例によってリマスター盤で、有名なマラソン・セッションに加え、ソニー・ロリンズが参加した1956年3月16日のセッション(Collectors' Items収録)の3曲が収められている。このセッションでは、ロリンズのすっとぼけた味わいのあるプレイ(特に「Vierd Blues」)が全体をリラックスさせており、マラソン・セッションの緊張感とのコントラストが顕著だ。ロリンズの円熟した音楽と、若々しいがまだ発展途上のコルトレーンの音楽の違いがよく分かるともいえる。個人的には『Collectors' Items』をまともに聴いたことがなかったので、興味深く楽しめた。マラソン・セッションについては、アナログ盤やCD、『The Legendary Prestige Quintet Sessions』(2006年)などで散々聴いてきたはずなので、新たな発見はなかった。しかし、改めて聴くとコルトレーンの出来がここまで不安定だったとは思っていなかった。現在では当たり前に聞こえるマイルスやガーランド、フィリー・ジョーの演奏語法も、当時は最先端の表現だった。この録音を評価するには、その後のジャズが、彼らの成果の上に築かれてきたことを踏まえる必要がある。今回はほぼ続けて聴いたが、全体としては普段着のセッションという印象だった。かつて正真正銘の名盤として喧伝されていた頃に聴いていた時とは、こちらの精神状態も明らかに違っているのだろう。良く言えば客観的な聴き方であり、悪く言えば現代の基準で聴いているともいえる。なお、曲順はロリンズのセッションが先頭に置かれているものの、マラソン・セッション部分はクロノロジカルな配列ではなく、『Cookin'』『Relaxin'』『Workin'』『Steamin'』の収録曲が混在している。Craft Recordingsは意図的に「アルバムとして聴かせる流れ」を重視して再編集したという。そのため、これらの録音を熟知している聴き手にとっては、かえって新鮮に感じられるかもしれない。昔は名演だと思っていたバラードが意外に平凡に聞こえ、その一方で「Half Nelson」「I Could Write A Book」、ロリンズ作の2曲などは勢いがあり、コルトレーンも懸命なプレイで周囲に引けを取らない演奏を聴かせていた。速いテンポの曲でのチェンバースのベースが凄いことに気づいたのも収穫の一つだ。名演の誉れ高い「Blues By Five」は現在の耳で聞いても良かった。個人的には、編集によってアルバムのイメージから解放されたためか、速いテンポの曲でのライブさながらの熱演の魅力を再認識させられた、という感想だ。リマスターによる音質向上はあまり目立たないが、音量を上げてもうるさくならず、SN比はかなり改善されている。ただし高域の抜けは今ひとつで、このあたりがリマスターの限界かもしれない。できれば大音量で聴いた方が、この演奏の真価は伝わりやすいと思う。特にバラードは全く別物に聞こえるとは思っていなかった。ただ、音量を上げるとマイルスよりコルトレーンの音量が大きく感じられ、結果としてコルトレーンの野暮ったさがかえって目立ってしまう。ガーランドのピアノはやや抜け切らない印象だが、フィリー・ジョーのドラムスはかなり鮮明に聴こえる。Miles Davis:Miles '56(Concord 7274564)24bit 192kHz Flac1.Dave Brubeck, Iola Brubeck : In Your Own Sweet Way2.Miles Davis : No Line3.Miles Davis : Vierd Blues4.Dave Brubeck, Iola Brubeck : In Your Own Sweet Way5.Erno Rapee, Lew Pollack : Diane6.John William Coltrane : Trane's Blues7.Jack Yellen, Herb Magidson, Sammy Fain : Something I Dreamed Last Night8.James van Heusen : It could happen to you9.John Gillespie : Woody'N You10.Ahmad Jamal : Ahmad's Blues11.Richard Rodgers :The Surrey With A Fringe On Top from Oklahoma!12.Richard Rodgers : It Never Entered My Mind from Higher and Higher13.Edward Heyman, Victor Popular Young : When I Fall In Love14.Kenny Clarke, John Gillespie : Salt Peanuts15.Miles Davis : Four16.Miles Davis : The Theme17.Miles Davis : The Theme18.Frank Henry Loesser : If I Were a Bell19.Thelonious Sphere Monk : Well, You Needn’t20.Thelonious S. Monk, Charles Cootie Williams, Bernard D. Hanighen : ‘Round Midnight21.Miles Davis : Half Nelson22.Harry Warren, Joe Young, Mort Dixon : You're My Everything23.Richard Rodgers : I Could Write A Book from Pal Joey24.Sonny Rollins : Oleo25.Sonny Rollins : Airegin26.Miles Davis : Tune Up27.Benny Carter, Spencer Williams : When Lights Are Low28.Red Garland : Blues By Five29.Richard Rodgers :My Funny Valentine from Babes in ArmsMiles DavisPaule Chambers(b)Sonny Rollins(ts track 1-3)Tommy Flanagan(p track 1-3)Paul Chambers(b track 1-3)Art Taylor(ds track 1-3)John Coltrane(ts track 4-29)Red Garland(p track 4-29)Philly Joe Jones(ds track 4-29)Recorded at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ, on March 16, May 11, and October 26
2026年06月20日
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以前聴いて気に入った古楽グループのラ・タンペートの最新作を聴く。この団体は一応古楽アンサンブルに分類されるが、古楽を素材として用いながら、それを現代的な表現へと再創造するグループだ。合唱と器楽は曲ごとにさまざまな編成で演奏される。古い題材を扱いながらも、現代に生きるまったく新しいイメージの音楽を生み出しており、聴くたびに心を躍らせてくれる。今回はフラメンコとルネサンス音楽を融合させたプロジェクトだ。Bomba Flamenca(フラメンコの爆発)という少々物騒なタイトルだが、ベースとなるのはミサ曲で、そこにスペインやアフリカの伝承音楽が挿入される構成となっている。フラメンコが前面に出ているわけではないので、それを期待すると肩透かしを食うかもしれない。本作は、「中世スペイン → ルネサンス・スペイン → 地中海・アラブ文化圏の影響 → カール5世の死」という流れを、音楽によって描いた歴史絵巻のようなアルバムだ。副題は、このグループの音楽監督シモン=ピエール・ベスティオンが構想した「皇帝カール5世のための架空の追悼ミサ」。史実の再現ではなく、16世紀スペインの豊かな音楽文化を、レクイエムの典礼構造に沿って再構成した舞台作品とのことだ。カール5世は16世紀ヨーロッパ最大の君主の一人で、スペイン王であると同時に神聖ローマ皇帝でもあった人物だ。ジャケット写真は、皇帝の葬列が砂漠を静かに進む光景を思わせる。通常のミサ曲の間に挟まれた北アフリカ(第1曲)、アラブ・アンダルシア(第5曲)、セファルディー(ユダヤ系スペイン、第11曲)、モサラベ典礼(第12曲)のナンバーは、スペインや北アフリカの雰囲気を強烈に感じさせる。これらの曲がアルバム全体に鮮烈な印象を与えている。冒頭の「Taqsim(即興前奏曲)」では、バグパイプの持続低音、ドゥルツィアンの賑やかな響き、そして時折聞こえるサックバットの咆哮が織りなす、途方もないスケール感に度肝を抜かれる。特に気に入ったのは第11曲「Irme kero madre a Yerushalayim」。15世紀末にスペインから追放されたユダヤ人たちによって伝承されてきた歌で、旋律には日本の歌謡曲にも通じる親しみやすさが感じられる。伴奏もどこかチンドン屋を連想させて興味深い。第12曲「Vidi sub ara Dei」はモサラベ聖歌だ。グレゴリオ聖歌によく似ているが、スペイン固有の典礼音楽であり、その起源はグレゴリオ聖歌よりも古いとされる。タイトルからフラメンコ作品集を想像しがちだが、実際には純粋なフラメンコ・アルバムではない。それでも「フラメンコの源流」や「フラメンコ的な情熱」を感じさせる曲は随所にあり、第8曲、第9曲、第11曲、第17曲などがその好例だ。個人的には、第17曲「El fuego」の沸き立つようなリズム感が印象的だった。また、合唱と伴奏が一体となって躍動する第9曲「Ad mortem festinamus」(『モンセラート赤い写本』所収)も強く心に残った。第9曲はヴォーカル・ソロが次々と交代していく点も聴きどころだ。一方、通常のミサ曲のナンバーは単独で聴けば十分に優れた演奏だが、これらの強烈な個性を持つ楽曲に挟まれると、やや印象が薄くなるのはやむを得ないかもしれない。全体としては、スペインや北アフリカを思わせる荒々しく生命力に満ちた音楽と、ルネサンス期の静謐な音楽が融合した、不思議な魅力を持つアルバムだ。古楽やクラシックの愛好家よりも、むしろワールドミュージックや民族音楽に関心のある人に強く訴えかけるアルバムだと思う。何度か聴いているが、そのたびに新たな魅力を発見できる。味わうほどに奥行きの深さが感じられる、含蓄に富んだ優れたアルバムだ。Bomba Flamenca(Alpha Classics ALPHA 1216)24bit 96kHz Flac●PROCESSIO(入場行列) チュニス遠征、イタリア戦役、新世界遠征の記憶1. 北アフリカ伝承:《Taqsim(即興前奏曲)》2. クレマン・ジャヌカン/マテオ・フレチャ:《La Guerre(戦争)》抜粋 ~ 《La Bomba(爆弾)》抜粋●INTROITUS(入祭唱) 憂愁を抱えた皇帝(Requiem aeternam)3. ルイス・デ・ナルバエス:《Mille regres》千の後悔●KYRIE 敬虔な男の祈願と後悔(Kyrie eleison)4. クリストバル・デ・モラレス:Missa Mille regretz: Kyrie eleison》5. アラブ=アンダルシア伝承:Nawa athar●GRADUALE(昇階唱) 正しき者への永遠の光と記憶(Requiem aeternam)6. ニコラ・ゴンベール:Musae Jovis●TRACTUS 原初的恐怖に集団で立ち向かう(Absolve, Domine)7. 《カリクスティヌス写本》(パリのアルベール師作とされる):Congaudeant catholici 抜粋●SEQUENTIA(続唱) 五世紀に及ぶレコンキスタ(Dies irae)8. フアン・デル・エンシーナ:Una sanosa porfia9. 《モンセラート赤い写本》:《Ad mortem festinamus》10. トマ・クレキヨン:《Lamentationes hieremiae prophetae: Mem》●OFFERTORIUM(奉献唱) アブラハムに与えられた契約の約束(Quam olim Abrahae)11. セファルディー伝承:Irme kero madre a Yerushalayim12. 《シスネロス・モサラベ聖歌集》:Vidi sub ara Dei●SANCTUS 最後のカロリング皇帝の栄光と衰退(Sanctus & Benedictus)13. ペドロ・デ・エスコバル:《Missa pro defunctis: Sanctus & Benedictus》14. マルブリアノ・デ・オルト:《Lamentationes hieremiae prophetae: Gimel》●AGNUS DEI 不死か、それとも死後の生命か?(Agnus Dei)15. ペドロ・デ・エスコバル:《Missa pro defunctis: Agnus Dei》●COMMUNIO(聖体拝領唱) 慈悲と母性的優しさの力(Lux aeterna)16. アントニオ・デ・カベソンに基づく:《Magnificat》●ABSOLUTIO(赦祷) 最後の言葉:「主よ、炎から私を救いたまえ!」(Libera me, Domine)17. マテオ・フレチャ:《El fuego》18. クリストバル・デ・モラレスに基づく:《Parce mihi, Domine》La TempêteRecorded in March 2025 at Temple protestant du Saint-Esprit, Paris (France)
2026年06月18日
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マルタ・サンチェス(1983-)というマドリード生まれのピアニストによる、プリペアド・ピアノを用いたジャズ・アルバムを聴く。彼女はニューヨーク大学への留学を経て、現在はニューヨークを拠点に活躍するジャズ・ピアニストだ。デヴィッド・マレイ・カルテットのピアニストとしても知られている。今回のアルバムを含め、リーダー作は8枚を数える。今回のアルバムは初のピアノ・ソロ作品であり、しかもプリペアド・ピアノによるフリーフォーム的な演奏を収めた意欲作だ。フリーフォームではあるが打鍵は力強く、「Frost Bloom」に聴かれるように構造は堅牢で、セシル・テイラーを思わせる瞬間も少なくない。一方で、ときに柔和なフレーズも現れ、彼女のラテン的な感性もあって、難解な音楽という印象はまったく受けない。もっとも、プリペアド・ピアノゆえに雑音のような響きも交じるため、多くの聴き手の支持を得られる作品とは言い切れないだろうが、非常に興味深いアルバムだった。個人的には、「Inward Loop」や「Pygmora」で聴かれる、ガムラン音楽を思わせるシャンシャンと鳴るサウンドがやや耳についた。加工されていないピアノに近い響きの部分では、彼女の堅牢なピアニズムが際立つ。「Espejos」や「The Regret」のような、クラシック的で穏やかな曲調も魅力的だ。最後の「One for Blake」では、リズミックで明るい左手のテーマの上に、右手の鮮明な不協和音が重ねられる。それまで比較的柔和な雰囲気で進んできた流れに対し、終曲ではその緊張感が聴き手に強いストレスを与えるという凝った構成になっている。意図的な演出であることは理解できるものの、少なくともエンディングについてはあまり好ましいものとは感じられなかった。録音はまずまずだ。プリペアド・ピアノ特有の立ち上がりの速いサウンドのためか、ときおり歪みを感じる場面があり、それが少々気になった。Marta Sánchez:For The Space You Left(Out Of Your Head Records OOYH 043CD)24bit 96kHz FlacMarta Sánchez:1.Frost Bloom2. Inward Loop3. Snowing in the Woods4.Estalagtita5.Espejos6.Echolord7.The Regret8.Pygmora9.One for BlakeMarta SánchezRecorded February 2024 at Opus Studios, Berkeley, California
2026年06月16日
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スイスのヴォーカリスト、エリナ・ドゥニとイギリス出身のロブ・ルフトのギターによるデュオの新作『Reaching for the Moon』を聴く。このコンビでは『Lost Ships』(2020)、『A Time To Remember』(2023)に続く3作目となる。キャッチーなメロディーがあるわけではなく、ひたすら暗い――それが筆者の彼女のヴォーカルに対する印象だ。彼らのオリジナルは3曲収められており、前作までと同様の叙情的な路線を踏襲している。その中では、アコースティック・ギターやエフェクトをかけたエレクトリック・ギターが使われている「Foolish Name」で聴かれる、スパニッシュ風味のリズミックなギターが印象的だ。フランスのシャンソンに触発された「Magnolia」は、静かな中にほのかな甘い香りが漂うような夜の音楽。また、オリジナル以外の選曲も優れており、大変興味深い音楽が演奏されている。アルバニア・コソボの伝承歌、イタリアのカンツォーネ、フランス歌曲、ペルシャの子守歌、アメリカのスタンダード、日本映画音楽、フリージャズの名曲などが並ぶ。アルバム全体は世界を旅するような趣だが、思索的なテーマで統一されている。彼女の歌唱スタイルは曲によって大きく変わることはなく、例えていえば、すべてがドゥニ流に染め上げられているといったところだろうか。良し悪しは別として、高名な歌手が何を歌ってもその人自身の音楽になってしまうのと似ているかもしれない。前作までと同じく、ルフトのボリュームノブ操作によってアタック音を消し、弦楽器のように音を立ち上げる「ボリューム・スウェル」というテクニックが多用されている。亡くなった恋人を思いながら、月明かりの港で死を待つ老人を描いたナポリ方言のイタリア歌曲「Cammina Cammina」は甘く切ない。一方で、コソボ民謡「Ani More Nuse」のように、ドゥニのパーカッションが加わったリズミックな曲もある。この曲では、ルフトのギターによるコンピングも気が利いている。イランの歌手・作曲家マフサ・ヴァフダットの「Leili Lullaby」は、オリエント・ムードあふれる楽曲で、ペルシャ語で歌われている。子守歌でありながら太鼓が入るところが意表を突くが、イランの子守歌ではそれほど珍しいことではないらしい。1936年にコソボのプリズレンで生まれたアルバニア系作曲家アキル・コチの「Zambaku i Prizrenit(プリズレンの百合)」は、民族音楽の香り高い佳曲だ。最後のオーネット・コールマンの「Lonely Woman」は、テンポを落として幻想的な世界を描いている。その後テンポが上がると、打楽器とスキャットが加わり、楽曲に新たな表情を与える。ということで、最初はそれほど強い印象を受けなかったが、何度か聴くうちに彼女の独特な音楽観の良さが伝わってきた。そして、本作が前2作とは段違いに優れた内容であることも分かった。今後もこの独自の路線を貫きながら、聴き手を楽しませ続けてほしいと思う。Elina Duni & Rob Luft: Reaching for the Moon(ECM 2866)24bit 88.2kHz Flac1. Irving Berlin: Reaching for the Moon2. Pino Daniele: Cammina Cammina3. Gabriel Fauré: Les Berceaux4. Traditional (Kosovo): Ani More Nuse5. Elina Duni, Rob Luft: Foolish Flame6. Mahsa Vahdat: Leili Lullaby7. Akil Koci: Zambaku i Prizrenit8. Shigeru Umebayashi, Krzysztof Komeda: Yumeji's Theme / Sleep Safe and Warm9. Elina Duni, Rob Luft: Magnolia10. Elina Duni, Rob Luft: Your Arms11. Ornette Coleman, Margo Guryan: Lonely WomanElina Duni(vo,perc.)Rob Luft(g)Recorded June 2025 at Studios La Buissonne, Pernes-les-Fontaines, France
2026年06月14日
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バーバラ・ハンニガン=イェーテボリ交響楽団によるアメリカ音楽を特集したアルバムを聴く。彼女は2019-2020シーズンからこの楽団の首席客演指揮者務めている。硬派なアルバムが多い印象のハンニガンにしては意外な選曲だが、以前にはガーシュインを特集した「クレイジー・ガール・クレイジー」をリリースしており、ポピュラー系の音楽と決して縁遠いわけではない。今回のアルバムはガーシュイン、コープランド、リチャード・ロジャース、その他という変則的なプログラム。ガーシュインはロバート・ラッセル・ベネット編曲による交響的絵画「ポーギーとベス」。コープランドは「ダンス交響曲」。リチャード・ロジャースの「回転木馬」からは「回転木馬のワルツ」。さらにビル・エリオットとハンニガンによる歌入りの管弦楽組曲「At The Fair」が収められている。ガーシュインはイェーテボリ交響楽団のサウンドが実にゴージャスで、おそらく既存の録音を上回る出来栄えだと思う。イェーテボリのサウンドは透明感があり濁りが少ない。リズムはしなやかで機動性にも富み、本場アメリカのオーケストラ以上に華やかで、ワクワク感が半端ではない。以前レビューしたロウーバリ指揮によるシベリウスの一連の録音でも感じたことだが、いつの間にかこのオーケストラが驚くほど上手くなっている。ネーメ・ヤルヴィ時代にはそれほど高い技量を感じなかったので、ロウーバリ時代に一気に進化したように思われる。ハンニガンはどの曲でも適切なテンポを採り、外連味のない解釈を聴かせる。ガーシュインの交響的絵画「ポーギーとベス」は充実したサウンドで、音楽として弱いところも上手くカバーされていて、大変充実した演奏だ。エンディングの高揚感もなかなかのものだ。コープランドの「ダンス交響曲」は筆者にはあまり馴染みのない作品だ。ゾンビを題材にしたバレエ音楽を改作したもので、全体に暗い雰囲気を持つ。手持ちのドラティ=ダラス交響楽団盤と比較しながら聴いたが、テンポはドラティの方がわずかに速い程度で、大きな違いは見つからない。ところが、なぜか第2楽章 Andante moderato はハンニガン盤の方が2分半ほど長い。特に明記されていないため、詳細に比較してみないと理由は分からない。この楽章後半の阿片常習者の場面では、十分に間を取りながらじっくりと進行し、身震いするような迫力が感じられるので、そのあたりが要因かもしれない。第3楽章でも大太鼓の重量感あふれる強打が印象的で、スケールの大きさを感じさせる。このアルバムの中では最も聴き応えのある曲だ。Richard Rodgersの「回転木馬のワルツ」は、当初ロバート・ラッセル・ベネットがオーケストレーションを担当したが、その後ロジャースの要請でドン・ウォーカーが再オーケストレーションを施した版による演奏である。オリジナルより約2分長く、オーケストレーションも厚みを増しており、このミュージカルの魅力的なサウンドを存分に味わうことができる。タイトル・チューンの「An American Dream?」は、6曲のアメリカ音楽の断片を凝縮したような作品で、アイヴズを思わせる接続曲である。しかし2分足らずと短く、あまり面白いとは思えない。両脇を固めるポピュラー・ナンバーは「Have I Stayed Too Long at the Fair?」と「Don't Rain on My Parade」。ムーディーではあるが、こちらもあまり面白くない。ハンニガンのヴォーカルもねっとりとして感情過多に感じられ、あまり好みではない。編曲もそれほど優れているとは思えなかった。Barbara Hannigan:An American Dream?(Alpha Classics ALPHA1222)24bit 96kHz FlacGershwin: Porgy and Bess, a Symphonic Picture (Arr. for Orchestra by Robert Russell Bennett) 8.Arlon Copland: Dance Symphony 11.Richard Rodgers: The Carousel Waltz (Arr. for Orchestra by Don Walker) Barbara Hannigan (b.1971) – Bill Elliott (b.1951):At The Fair Orchestral Suite With Soprano(arr.Barbara Hannigan,Bill Elliott) I. Billy Barnes:Have I Stayed too Long at the Fair? II. An American Dream III. Jule Styne:Don't Rain on My Parade Gothenburg Symphony OrchestraBarbara HanniganRecorded in November 2025 at Gothenburg Concert Hall, Gothenburg (Sweden)
2026年06月12日
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ジョー・ロバーノの新譜「Paramount Quartet」を聴く。アルバム名をグループ名にした、ギター・トリオにサックスが加わった編成だ。パラマウントと言えば映画会社を思い出すが、この名前には「決意表明」「最重要のもの」「新たな高みへの上昇」という意味合いが込められているという。要するに、新たな高みに到達したというロバーノの宣言のようなものだろう。常人ならこんな言葉は気恥ずかしくて使えないものだが、あえてこの名前を掲げたのは、彼の並々ならぬ自信の表れなのだろう。穏やかな性格で知られるロバーノにしては珍しいことだ。最近のロバーノの作風は耽美的な演奏が続き、筆者はやや食傷気味だったが、本作ではそうした色合いが後退し、推進力のある音楽が繰り広げられている。ギターがレイジというのがみそで、フリーゼルやジョン・スコフィールドならこうはいかなかっただろう。レイジのギターとロバーノのテナーが積極的に絡み合う。レイジの硬質なギター・サウンドが、ロバーノのともすれば耽美に傾きがちな音楽に鋭い刺激を与えている。ロバーノがメゾ・ソプラノサックスを吹く「Amsterdam」のようなナンバーは、ブルーノート時代のウェイン・ショーターを思わせるサウンドで、宇宙空間のような広がりを感じさせる点も点数が高い。バラードはヘイデンの「First Song」とショーターの「Lady Day」のみだが、過度に耽溺しないところがいい。「First Song」のイントロにおける、心を洗われるような清冽なギター・サウンドが印象的だ。ギター・ソロも音数を抑え、間を生かした表現になっている。「Lady Day」はビリー・ホリデイに捧げられた曲で、ショーターの「The Soothsayer」に収録されていた。こちらもギターのイントロから始まり、味わい深い演奏が繰り広げられる。「Fanfare for Unity」はテンポの速いラテン・フレーバーを感じさせる曲だ。テナー、ギターともに活力に満ちたプレイを聴かせる。他の曲では比較的控えめなドラムスとベースも、ここでは存在感を発揮している。「The Great Outdoors」もメゾ・ソプラノサックスによる演奏だ。この曲もショーターの影響を感じさせるフリー・フォームの楽曲である。全体に浮遊感があり、4人の絡みが楽しい。ゴスペル風で陽気な「Congregation」でアルバムは締めくくられる。レイジの優れたコンピングとファンキーなソロが楽しめ、エンディングは昔の西部劇に出てきそうな雰囲気を醸し出している。ということで、このアルバムがロバーノの言う新たな高みかどうかは分からないが、少なくともスタイルが変化したことは確かであり、レイジが新たな触媒として機能していることも間違いない。今後の展開が期待される。Joe Lovano:Paramount Quartet(ECM 7851791)24bit 88.2kHz Flac1. Charlie Haden: First Song2. Joe Lovano: Amsterdam3. Joe Lovano: The Call4. Joe Lovano: Fanfare for Unity5. Wayne Shorter: Lady Day6. Joe Lovano: The Great Outdoors7. Joe Lovano: CongregationJoe Lovan(ts,G mezzo-soprano sax,tarogato)Julian Lage(g)Asante Santi Debriano(b)Will Calhoun(ds)Recorded February 2025 at Studios La Buissonne, Pernes-les-Fontaines, France
2026年06月10日
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度々話題にしているstereo誌連載中の「超絶音源チャレンジ」に載っていた一枚。この連載は以前、「今月の変態ソフト選手権!」というタイトルだった。名称が変更された当初は連載が終了したのかと思い、落胆したものだった。この連載でたびたび取り上げられていることもあり、またワコーレコードの録音は音が良いため、このブログでも何度か紹介している。今回はジュゴンボーイズ(The Jugong Boys)による演奏だ。古楽を専門とするグループだが、一般的なクラシック演奏家のイメージとは異なる自由で親しみやすい雰囲気を持っている。このグループの正式メンバーはチェロとチェンバロのデュオで、今回はリコーダーが加わっている。編成は五弦チェロ、リコーダー、チェンバロという、トリオ・ソナタにも通じる構成だ。バロック音楽の演奏だが、力みがなく、楽しさに満ちている。聴いているうちに、かつて流行したアンサンブル音楽三昧のテイストに通じるものがあることに気がついた。良い意味で堅苦しさがなく、気軽に楽しめる音楽だ。このアンサンブルで特に興味深いのは五弦チェロの存在だ。低音域が充実しているため、音楽の土台がより明確になっている。また、聞き慣れない2段鍵盤付きチェンバロも印象的だ。二つの弦列を備え、あらかじめ設定した音色を曲に応じて使い分ける仕組みらしい。いわばオルガンのストップ機能を備えたチェンバロのようなものだ。そもそもこの曲自体が「2段鍵盤付きチェンバロのための練習曲」と明記されているらしい。リコーダーは斉藤文誉氏と平尾清治氏による6種類の楽器が使用されている。これはリコーダーだけで全音域をカバーするためであると同時に、「室内合奏として演奏したら」というアルバムのコンセプトを反映したものでもあるらしい。また、音色の変化をつける目的もあり、感覚としてはサックス奏者が複数の楽器を持ち替えるのに近いのかもしれない。AIとのやり取りを通じて、ゴルトベルク変奏曲がアリアの旋律ではなく、低音声部と和声進行を基盤とした変奏曲であることを知った。以来、低音部の動きに注目して聴いている。今回の編成では高音部が比較的軽やかで、五弦チェロの存在感が際立つ。そのため、チェンバロやピアノの独奏では捉えにくいバスラインの進行や和声の変化がよく分かる。さらに、各変奏に共通する骨格も感じ取りやすく、個人的にはこの作品を理解するうえで大変参考になった演奏だったと思う。アリアは最後が最初より11秒ほど遅く、単純なダカーポではなく、リコーダーと5弦チェロのユニゾンが目立つ。録音はノイズ感がまったくなく、各楽器の音の粒立ち、透明度とも文句なしの出来だった。また音場の静けさもめったにきくことの出来ないものだった。ということで、本盤はゴルトベルク変奏曲への理解を深めるうえで大いに役立っただけでなく、優れた編曲と堅苦しさのない伸びやかな表情によって、純粋に音楽を楽しませてくれるアルバムだった。Goldberg Variations en concert by The Jugong Boys(Waon Records WAONCD620)24bit 192kHz FlacBach: Goldberg Variations, BWV 988 (Arr. for Recorder, 5-String Cello & Harpsichord by Takuya Nemoto) 根本卓也(2段鍵盤チェンバロ、編曲)山本徹(5弦チェロ)本村睦幸(リコーダー)Recorded 11-13. Jun. 2024,Gotanda Cultural Center Hall
2026年06月08日
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スエーデンのドラマー、ピーター・ダネモ(1961-)が2015年にスエーデンのノルボッテン・ビッグバンドと共演したアルバム「Hedvigsnäs」を聴く。全曲ダネモの作曲による大変意欲的な作品だ。オーソドックスなビッグバンド編成だが、シンセなども使われ、新しい感覚の曲もある。全体的に暗い表情を持ち、ビッグバンドらしい派手なブロウはあまり聞かれないが、音楽そのものは非常に面白い。個人的にはジョージ・ラッセルをクールにしたような感じだと思う。常にすべての楽器が鳴っているわけではなく、ピアノ・トリオのコンピングを中心とした部分も多い。最初の「Antoine」はダネモの顔を思わせるような、頑固で堅牢なテーマに金管の鋭いヒットが入る、なかなかハードボイルドな作品。アルトのソロもバックに負けない激しさが感じられ、聴いていると冷や汗が出てくるような緊張感がある。暗いムードのハードブロウな演奏だ。続く「Prelude」はシンセが加わり、無機的なサウンドが流れるなか、リズム感の希薄な浮遊するような音楽が続き、テナー・ソロが入ってからはビッグバンドらしいサウンドになる。バスクラリネットのソロに変わってからは、不協和音を含むクラスター的な響きとなり、テナーもこの音楽に沿った思索的なソロを展開する。「Monolithos」もクラスター的なサウンドのイントロから始まり、トロンボーン・ソロやベースの動きが不思議な空間を感じさせる音楽だ。「5-56」という変わったタイトルの曲は、スウェーデンでよく知られている潤滑・防錆スプレーの商品名「5-56」であると同時に、小節線の間の拍数を意味するそうだ。変拍子の曲だが、それをあまり感じさせず、終始クールな肌触りを保ち、熱いアルト・ソロとのコントラストがいい。「Synthesis」は小品で、電気的に処理されたエコーを伴うサウンドが遠くから聞こえてくるなか、Peter Lindhamreのトランペット・ソロが入る不思議な音響空間だ。やがてバックのサウンドは電気的なノイズのように変容していく。小品ではあるが、アルバムの中ではかなり個性的な作品だ。後半、多重録音のトランペットが終わると、ドラムスがマーチの断片のようなリズムで入ってくる。「Woodland」も静かな曲。ベースのアルコ・ソロにバスクラリネットやフルートが重なる木管アンサンブルのようなサウンドで、ジャズからはかなり離れた音楽になっている。そこは好みの分かれるところだろう。個人的には、静かに地響きするようなバスクラリネットのサウンドがなかなかいい感じだ。「Rudhme」はダネモ自身の説明によると、古ノルド語(Old Norse)で「赤面」「頬を赤らめること(blush, blushing)」を意味する言葉で、ダネモはこの曲を「足元に確かな地面があるかどうかも分からないまま、未知の世界へ飛び込んだ経験」と呼んでいる。全体に内省的で静的な作品で、トロンボーンやフリューゲルホルンのアンサンブルに続き、フルートに支えられたベース・ソロや、その後のトランペット・ソロは、静謐ななかに静かな感動を呼び起こす。タイトル曲の「Hedvigsnäs」は、ダネモが幼少期を過ごした農場の名前だ。スウェーデンへの賛歌のような清新な気分を感じさせる曲である。イントロの金管アンサンブルから全編にわたって静かだが崇高な気分に満ちており、ピアノ・ソロも個性的で、慰めに満ちた感動的なトラックだ。最後の「Even in the Odds」は、odd(奇数・不規則)を掛けた言葉で、「奇数拍子を偶数のように聴かせ、偶数拍子を奇数のように聴かせる実験」という意味らしい。全体に静謐さを感じさせる音楽だ。前半はソプラノサックスのソロが中心で、テンポが上がっても変拍子は変わらないが、やがてトロンボーンのスインギーなソロを交えたノリのいい音楽へと変化する。最後まで淡々と進み、突然終わる。アップコンバートしての試聴だが、サウンド自体はそれほど厚くなく、すっきりとした音で古さを感じさせなかった。ノルボッテン・ビッグバンドは初めて聴いたが、ソロを含めて大変上手いバンドで、他の録音も聴いてみたい。このアルバムの未収録曲や新作を組み合わせた「Resonansium」というアルバムもあるらしいので、機会を見つけて聴いてみたい。Peter Danemo & Norrbotten Big Band:Hedvigsnäs(Prophone PCD162)16bit44.1kHz FlacPeter Danemo:1. Antoine2. Prelude3. Monolithos4. 5-565. Synthesis6. Woodland7. Rudhme8. Hedvigsnäs9. Even in the OddsPeter DanemoNorrbotten Big BandPeter Danemo(cond,electronics, electronic treatment)Adam Forkelid(p)Christian Spering(b)Konrad Agnas(ds)Norrbotten Big BandRecorded live at Kulturens hus, Luleå, Sweden in November 2015
2026年06月06日
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今話題の?ペルシャ音楽とバロック音楽の対話をコンセプトとした、中近東の民族音楽のような趣のアルバム。出会いはティネケ・ステーンブリンクが2022年にスイスのシャフハウゼンで初めてコンスタンチノープルと出会い、キヤの声の柔らかさと力強さ、そしてバロック楽器とカヌーン、セタールの融合に深い印象を受けたことに始まる。オランダの古楽アンサンブルHolland Baroqueは、双子の姉妹であるジュディスとティネケ・ステーンブリンクが率いるオランダのピリオド楽器オーケストラ。単なる「歴史的再現」にとどまらず、バロック音楽を現代的な創造の素材として扱うのが特徴で、ジャズ、ワールドミュージック、ゴスペルなどとの共演を積極的に行っているという。「楽譜は未完成の芸術作品である」という考え方のもと、編曲や即興を取り入れながら独自のサウンドを築いている。Constantinopleは、イラン出身の音楽家 キヤ・タバシアン(1976-) が2001年に創設した、カナダ・モントリオールを拠点とする音楽アンサンブル。ペルシア音楽を中心に、アラブ、オスマン・トルコ、地中海世界、さらにはヨーロッパ古楽までを結び付ける活動で知られている。古い音楽をそのまま復元するのではなく、異なる文化の出会いから新しい作品を生み出すことを理念とし、世界各地の音楽家との共同制作を続けている。Constantinopleのメンバーは5~6人程度のようだが固定ではなく、プロジェクトごとに編成が変わる。今回のアルバムでは、セタール、カーヌーン、打楽器の3名で参加している。セタールはペルシャ由来のリュート属の楽器で、ペルシア語で「三弦」を意味するが、現在は4弦で演奏されている。お馴染みのインドの民族楽器シタールとは共通のルーツを持つという。カーヌーンは箱状の胴に弦を張った撥弦楽器で、箏のようにつま弾いて演奏する。音色も箏に似ており、聴きようによっては日本的な響きにも感じられる。打楽器はペルシャ由来のトンバクという片面太鼓や、ダフと呼ばれるタンバリンの祖先ともいえる大型のフレームドラム(枠太鼓)などが使われているようだ。「17〜18世紀ヨーロッパ」と「ペルシャ世界」には共通する旋法的な感覚があり、多少のずれはあるにせよ、この組み合わせが成立するのも納得できる。アルバムタイトルからも想像できるように、本作の本質は単なるクロスオーバーではなく、バロック音楽とペルシア古典音楽が会話するような音楽を目指した点にある。ペルシャ音楽の旋法(ダストガー)の「シュール」や「ホマーユーン」系統の旋律感覚は、バロック音楽のモード(教会旋法)と意外なほど自然に結び付いている。編曲はジュディス・ステーンブリンクが担当している。ステーンブリンク姉妹によるオリジナル曲も、クラシックとペルシャのテイストが自然に交じり合っていて悪くない。全体としては西洋音楽よりもペルシャ音楽寄りの作風だが、メロディアスな曲が多く、なかなか楽しめる。ディデム・バシャールの「Echoes of the Throne Room」はヴァイオリンの高音のユニゾンがペルシャの澄み切った朝の雰囲気を連想させ、カヌーンで奏されるペルシャ風の7音音階による主題が宮廷を連想させる瞑想的な気分になる。ジュディス・ステーンブリンクの「Welcome」は、明るくリズミカルで推進力のある楽しい曲だ。途中で現れるヴォーカルも屈託のない表情を見せてくれる。サアディー(1213頃–1291年)の詩と、Francis of Assisi(1181頃–1226年)の『被造物の賛歌(太陽の賛歌)』に基づく「Walking in the Desert」は、約8分に及ぶアルバム最長の曲で聴き応えがある。イントロはカーヌーンのソロと思われ、ペルシャ音楽の雰囲気が濃厚だ。バックではハープが静かに鳴っているが、ハープがペルシャ音楽に意外なほどよく合っている。曲は雰囲気の異なる複数の部分が連結された組曲風の構成で、ペルシャ色が強い。トンバクは音量こそ大きくないものの、低音の響きによって確かな存在感を示している。キヤ・タバシアンの「Bood Amma Naboud」は、失われた女性の記憶や面影を追う歌。イントロはセタールのソロで始まり、セタールとヴォーカルが見事に調和する。そこから一気にペルシャの祈りや黙想に近い世界へと引き込まれる。キヤ・タバシアンのヴォーカルはストレートな歌唱で、抑揚はほとんどなく、音の周囲を細かく装飾するペルシャ古典声楽のスタイル。日本の演歌や民謡の節回しを連想させる部分もあり興味深い。全体としてはコンスタンチノープルの音楽が前面に出ており、オランダバロックはそれを支える役割に回っている印象だ。両文化が静かに共存する作品としては成功していると思う。個人的にはマクラフリンのシャクティのように、両者がバチバチとやり合う場面があっても良かったと思う。タバシアンによるセタールのデモ演奏バシャールとグラハムのデュオHolland Baroque、Constantinople:Dialogos(PENTATONE PTC 5187 493)24bit 96kHz Flac1. Didem Başar (arr. Judith Steenbrink) : Echoes of the Throne Room2. Tineke Steenbrink : Frate Vento3. Kiya Tabassian : Heaven Lives in the Other4. Judith Steenbrink : Welcome5. Tineke Steenbrink (arr. Judith Steenbrink) : Angelus Bells6. Ali Ufki (arr. Judith Steenbrink) : Muhayyer Semai7. Tineke Steenbrink : Walking in the Desert8. Kiya Tabassian (arr. Judith Steenbrink) : Bood Amma Naboud9. Kiya Tabassian (arr. Judith Steenbrink) : Dream of Hope10. Judith Steenbrink : Lauda11. Judith Steenbrink : Sia Laudato San FrancescoConstantinople:キヤ・タバシアン(セタール/ヴォーカル)ディデム・バシャール(カーヌーン)パトリック・グラハム(perc.)Holland Baroque:ジュディット・ステーンブリンク(vn)カタリナ・アレクシッチ(vn)アンドレイ・カポル(vn)クロエ・プレンダーガスト(vn)ジョセフ・タン(vn)ヨナス・クレブス(vn)アレクサンドル・テュルメル(vn)マルグリット・ワッセルマン(vn)マルタ・ヒメネス(vn)アドリアン・ロドリゲス・ファン・デル・スポール(vo)トマシュ・ポクシヴィンスキ(vc)ティネケ・ステーンブリンク(org.,harp)Recorded: October 2025, Pieterskerk, Utrecht, The Netherlands
2026年06月03日
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BIGYUKIのEP「John Connor」を聴く。John Connorとは皆さん多分ご存じの映画ターミネーターに登場する人類レジスタンスの指導者のこと。BIGYUKIは以前からこの人物に興味を持っており、「Greek Fire」(2016)の収録曲「John Connor」についてBIGYUKIは、「荒廃した世界に人間性を取り戻すレジスタンス的なイメージ」と説明していた。 「Greek Fire」での演奏はヴォーカルが入り、シンセの打ち込みが暴力的なヒップホップで、従来のBIGYUKIのイメージそのものだったが、今回はソロ・ピアノということもあり、削ぎ落されたピアノ・プレイが清冽な美しさを感じさせる。ところがそこに宇宙飛行士が管制と会話をしているようなノイズっぽい音が被さっていて、ジョン・コナーを意識させる宇宙を想像する音作りになっている。もう一つのバージョン「John Connor II」では、静かなピアノのモノトーンに、会話みたいに聞こえるサウンドと脈拍のようなサウンドが重なって不思議な空間を感じさせる。今回のアルバムはBIGYUKIのピアノやシンセに徳井直生のプログラミングが加わって、前作の暴力的な色合いを残しつつ、BIGYUKIの清冽なピアノソロも楽しめる。特に徳井直生のプログラミングが絶大な効果を発揮していて、広大なサウンド空間を楽しむことが出来る。このアルバムでは徳井の開発しているAI音源Neutoneを使用している。このシステムは所望の音源をAIのいろいろな音響モデルの一つに変換するということらしい。なので、音源自体はミュージシャンが作成し、それをモデルを選ぶことで、そのモデルの音になるようなイメージらしい。例を挙げると、人間が「アー」と歌う→AIモデルがそれをチェロのような音に変えるようなプロセスだ。なので、カエルの鳴き声をチェロのような音にするというようなコマンド一発で出来るまでには至っていない、発展途上の技術のようだ。また、この技術はCPU負荷が大きいのでライブでの使用には課題が多いが、これも時間の問題だろう。いまのところ実験段階で、著名なミュージシャンが使っている例は見当たらないようだが、今後のブレイクを期待したい。最後はロックバンドNirvana が1991年のアルバム Nevermind に収録された代表曲「Lithium」。原曲のような普通のロック仕立てではなく、ここでも寡黙なピアノが響く。そこにノイズとも虫の音ともつかないようなサウンドがまとわりついていて不思議な感じがする。このすばしっこく、まとわりつくサウンドは、時代は違うが冨田勲がムーグで作ったサウンド空間の感性との類似性を感じた。ということで、演奏もさることながらAI音源Neutoneの使用が大変興味深く、EPながら歴史的なアルバムとして記憶に残る存在になりそうだ。BIGYUKI:John Connor(Decca 5768036)24bit 96kHz Flac1.平野雅之 :John Connor I2.平野雅之 :Nunu3.平野雅之;Abbey Smith :In a Spiral4.平野雅之 :John Connor II5.徳井直生;平野雅之 :Dawn6.Kurt Cobain :LithiumBIGYUKI(p,Synth,drum maschine)Nao Tokui (Sound Programming, Drum Programming)Recorded 2020-2025,Studio DedeIkebukuro,Tokyo
2026年06月01日
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