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ジョアン・ファレッタ(1954-)という女性指揮者による、ストラヴィンスキーの新古典主義時代の「おとぎ話」を題材にした、幻想味豊かな作品を集めたアルバム。「夜鳴き鶯」「妖精の口づけ」組曲、「プルチネルラ」組曲などを収録しており、最近ストラヴィンスキーを聴く機会の多い筆者にとってはタイムリーな録音だ。バッファロー・フィルはあまりなじみのない団体だが、重量感がありながら機敏でバランスの取れたサウンドが曲にふさわしい。ファレッタは初めて聴くと思っていたが、Naxosの「HOLST: Cotswolds Symphony」を聴いていたことが分かった。ただ、そのときの印象は残っていなかった。ファレッタは明晰ですっきりとした音楽運びで、アゴーギクもほとんど用いない。だからといって表情が淡泊なわけではなく、ストラヴィンスキーの音楽を自然に造形している。「夜鶯の歌」は異国趣味と重量感の両方が求められる曲だが、ファレッタの音楽は過度に濃厚にならず嫌味がない。バッファロー・フィルも重量感のあるサウンドで応え、彫りの深い音楽を聴かせる。この曲で活躍する管楽器はいずれも精彩に富み、作品の魅力を存分に堪能できる。「牧神と羊飼いの娘」は3曲からなる歌曲集で、ストラヴィンスキーの《変ホ長調交響曲》に続く作品2だという。オリバー・ナッセンのストラヴィンスキー集(1997)で聴いていたはずだが、まったく記憶になかった。これはプーシキン(Alexander Pushkin)の同名の詩集からの抜粋による作品で、カナダ生まれのスーザン・プラッツ(Ms)の歌唱が実に素晴らしい。歌詞はロシア語だが、ネイティブ歌手ほど粘りつくような歌い回しではなく、個人的には心地よく聴くことができた。「妖精の口づけ」は全曲から聴きどころを抜き出した「ディヴェルティメント」と題された組曲で、昨年グスターボ・ヒメノのアルバムで聴いていた。この曲も最近耳にする機会が増えたように思う。ナッセンの全曲盤しかなかった時代を考えると、良い時代になったものだ。この演奏も鮮明なサウンドと、ヒメノ盤に比べてやや遅めのテンポによって、じっくりと描かれている。第2曲「スイス風舞曲」では、中間部で珍しくためを作っているのが印象的だ。第4曲「パ・ド・ドゥ」も耽美的ではあるがべたつかず、その色彩の美しさが際立つ。最後は「プルチネルラ」組曲。全曲盤のヒメノ盤と比較しながら聴いた際、調の異なる曲があることを初めて知った。全曲版(1920)→組曲版(1922)→改訂組曲版(1949)という変遷があり、今回の録音は改訂組曲版によるものだった。改訂組曲版は室内オーケストラ編成だが、全曲版に比べてサウンドが貧しくなったという印象は受けなかった。もっとも勢いのある終曲も、全曲版に劣らない出来栄えだ。この曲でも潤いを帯びた管楽器のサウンドが美しく、エッジの効いた新古典主義という印象はあまり受けない。録音は潤いがあり、豊かな残響を伴ったサウンドだ。アルバムの「おとぎ話」というテーマにふさわしく、聴き手を夢心地にさせてくれること請け合いだ。JoAnn Falletta Stravinsky:Fary Tales(naxos 8.574735)24bit 6kHz Flac1.Chant du Rossignol (‘Song of the Nightingale’) (1917, after the opera The Nightingale [1914]) 5.Favn i Pastushka, Op. 2 (‘The Faun and the Shepherdess’) (1906)8.Divertimento (1934, arranged from the ballet Le Baiser de la fée [1928])12.Pulcinella Suite (1922, rev. 1949) Susan Platts(ms track 5-7)Buffalo Philharmonic OrchestraJoAnn Falletta
2026年05月30日
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ラーシュ・ヤンソンの新譜はギタリストのErik Söderlindとの共演アルバム。彼らはWhat The Moment Bringsというアルバムでも共演していた。今回も同じメンバーによる演奏だが、録音日時が分からないため、同一セッションかどうかは不明だ。「What The Moment Brings」はかなり抒情的で、ピアノとギターの絡みも実に美しかった。今回はフォークやカントリー系のアメリカン・ミュージックの肌合いが強く、聴き手を突き放すような感触がある。特にエリック・ソーデリンのオリジナルはその傾向が強い。「Jazzmusikal 1B」などは、パット・メセニーを思わせるアメリカ南部の風景が浮かんでくる。敢えて前作との差別化を意識したアルバム作りなのかもしれない。ハイテンポで進行する「Donna Andrade」はキャッチーなメロディーで、聴き手の心を弾ませる。フランス語と英語を混ぜたしゃれたタイトルの「Les French Alps」は、リリカルながら推進力に富んだ魅力的な演奏。後半ではポール・スヴァンベリのドラムスが激しく躍動する。同じくソーデリン作の「The Gardener」は、イントロのギター・ソロのとろけるような音色が実に美しい。テーマも愁いを帯びたボサノヴァ風で好ましい。エンディングも美しいギター・ソロで締めくくられる。ヤンソンのオリジナルもリズミックな曲が多く、北欧的というよりアメリカ的な乾いた感触が強い。タイトル曲「Why Does Rain Fall」は軽快なテンポに乗り、アメリカ東海岸を思わせる乾いた風が感じられる爽やかな作品。ヤンソン、ソーデリンともにノリの良いソロを展開し、スヴァンベリのリズミックなシンバルワークも心地よい。ニクラス・フェーンクヴィストのメロディックなベース・ソロも魅力的だ。ロック色の強い「Grandpa Funk」では、ギターのアーシーでパワフルなソロが聴かれる。ピアノのシングルノートで始まる「One Who Knows」はアコースティック・ギターを用いた暗めの色調のリリカルな曲。哀しみを帯びたベース・ソロ、それに続くピアノ・ソロも聴き手の心に響く。アコースティック・ギター・ソロもシンプルながら余韻が深い。「I Am That」もアンプを通さないアコースティック・ギターを使用しているが、カントリー風にはならず、彼らのサウンドに溶け込んだ清々しい演奏となっている。「Ravel」はラヴェルを意識した和声の中に、なぜか「春の祭典」の断片も聞こえてくるユニークな作品。アルバム最後を飾るソーデリン作「Garden Of Unknowing」は抒情的な作品だ。テーマの感動的なメロディーが素晴らしく、派手なことはしていないのだが、メセニーを思わせるように徐々に高揚していく展開に心を揺さぶられる。録音は前に張り出すような豊かなサウンドで、ジャズ録音として申し分ない出来。ただ前作同様ギターの音量が大きめで、うるさいほどではないものの、バランスにはやや疑問が残る。ということで、前作とは異なるテイストながらヴァラエティに富み、曲ごとのばらつきも少ない。彼らの懐の深さを感じさせるアルバムだった。メセニー好きの琴線にも触れると思う。是非お聴きいただきたい。Lars Jansson-Erik Söderlind:Why Does Rain Fall(Prophone PCD400)24bit 48kHz Flac1.Erik Söderlind:Iris2.Lars Jansson:Why Does Rain Fall3.Lars Jansson:Grandpa Funk4.Erik Söderlind:Jazzmusikal 1B5.Lars Jansson:Stop Those Waterfalls6.Erik Söderlind:Donna Andrade7.Lars Jansson:One Who Knows8.Erik Söderlind:Les French Alps9.Lars Jansson:I Am That10.Erik Söderlind:The Gardener11.Lars Jansson:Grandpa Dancing On The Table12.Lars Jansson:Ravel13.Erik Söderlind:Garden Of Unknowing Lars Jansson(p)Erik Söderlind(g)Niklas Fernqvist(b)Paul Svanberg(ds)Recorded: December 2025、 RMV Studio, Stockholm, Sweden
2026年05月28日
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ファビオ・ルイージがダラス交響楽団を指揮した2024年のセミ・ステージ形式によるワーグナーの「ニーベルンクの指環」全曲を聴く。ワルキューレや神々の黄昏の名場面をちょい聴きしたところ、素晴らしく明晰な演奏で、何よりデトロイト響の馬力ある演奏が見事だった。いつもならそれで終わってしまうところだが、この全曲盤のハイレゾがpresto musicで、何と一万円ほどで入手できることを知り、思い切ってダウンロードした。ラテン系の指揮者らしく、ドイツ流の、よくいえば重厚、悪くいえば重ったるく見通しの悪い音楽ではないところが、最近の筆者の嗜好に合っていて誠に結構な演奏だった。これから順に聴いていこうと思うが、歌手陣も思いのほか素晴らしい。他の録音では楽劇ごとにキャストが変わることも多いが、この録音ではほぼ固定されており、同じ歌い手で通して聴けるのは実にありがたい。歌い手もルイージの音楽に沿った人選がなされているようだ。ブリュンヒルデのリーセ・リンドストロームだけが力演型で、他には絶叫型の歌手はいない。男声も女声も透明感とエッジの効いた声の持ち主が多く、実に気持ちがいい。ヴォータンのマーク・デラヴァンは、明晰な歌唱ながら重量感も備えた好演だった。「ワルキューレ」第3幕の「ヴォータンの告別」は、オーケストラの感動的な音楽と相まって、この楽劇のハイライトだろう。ジークムントのクリストファー・ヴェントリスは若々しさを感じさせる明晰な歌唱だが、フレージングには少し気になる部分もあった。ジークリンデ役のサラ・ヤクビアクはリリック・ソプラノだろうが、ややドラマティック寄りで、個人的にはもう少し軽い声のほうが望ましかった。「ジークフリート」のタイトル・ロールのダニエル・ヨハンソンは、若々しさに満ちた爽やかなジークフリート像を作り上げている。ミーメ役のミヒャエル・ラウレンツは邪悪さを感じさせながらも、過度に誇張した表現にはなっていない。ホルン吹きなら誰もが注目する第2場のホルン・コールは、遅めのテンポと豊かな響きによる実に余裕のある演奏。普通なら速いパッセージは勢いで駆け抜けがちだが、ここでは一音一音に余裕があり、まさに悠然とした演奏になっていた。ファーフナー登場後の圧倒的なホルン・サウンドにも圧倒される。アンドリュー・ハリスのファーフナーも、徒に凄味を強調するのではなく、理性的な大蛇?を演じていた。「神々の黄昏」でも、ジークフリートのラインへの旅と呼ばれるプロローグ第2場をはじめ、デトロイト響の圧倒的なサウンド、特に高弦の鮮烈な響きにはしびれる。ここでもホルン・ソロが実に素晴らしい。葬送行進曲の息の長いフレーズ、圧倒的な量感ともに申し分ない出来。クライマックスの「ブリュンヒルデの自己犠牲」でも、リンドストロームは多少絶叫調ながら、疲れを感じさせない立派な歌唱を聴かせる。エンディングは悲劇的でありながらカタルシスも感じさせ、感動してしまった。不満を挙げるなら、「ラインの黄金」と「神々の黄昏」で聴かれる3人のノルンの合唱が、ビブラートの統一を欠き、清純な乙女というより年増女の合唱のように聞こえ、あまり気持ちの良いものではなかったことぐらいか。ブックレットは286ページに及ぶ大部なものだが、リンクが貼られており、各楽劇の解説へ容易に飛べるのもありがたい。録音はライブとは思えないほど鮮明かつ整っており、バランスも申し分ない。セッション録音と言われても不思議ではない出来である。欲を言えば、低音の量感がもう少しほしかったところだろうか。プロデューサーは、ホーネック=ピッツバーグ響の録音で知られるディルク・ソボトカ。ブルックナーの交響曲第9番でプロデューサー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。スラトキン=デトロイト響とのチャイコフスキー交響曲全集も手掛けているようだ。幕ごとに拍手が入っているが、その熱狂ぶりは凄まじく、日頃は拍手に否定的な筆者でも今回の処理は歓迎したい。いずれにしても、1876年にバイロイトで「指環」全曲が初演されてから150年という記念すべき年に、これほど素晴らしい録音がリリースされたのは実に喜ばしい。是非多くの方にお聴きいただきたい。Fabio Luisi Wagner: Der Ring des Nibelungen(Delos DE3624)24bit 192kHz Flac1.Wagner: Das Rheingold 2.Wagner: Die Walküre 3.Wagner: Siegfried 4.Wagner: Götterdämmerung Dallas Symphony Orchestra,Fabio LuisiRecorded at Morton H. Meyerson Symphony Center, Dallas, Texas, USA, 1 & 4 May, 13 October 2024
2026年05月26日
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2週間くらい前、キッチンにいてふと横を見たら、虫が大量発生していた。窓の下にも大量に落ちている。取りあえず、箒で集めてゴミ箱へ捨てた。その後調べてみると、羽蟻のようだった。どこから出て来たのか分からないので、しばらく様子を見ることにした。数日後、前よりは少ないものの、また出て来ていた。建物が食われている可能性もあると思い、AIで探した駆除専門業者に調べてもらった。ところが点検口の場所が分からない。取りあえず、畳敷きの部屋に点検口を作ろうとしてコンパネを切ってみたが、通気口のようなものがあって侵入できなかった。どうしたものかと思案していたところ、妻が点検口の場所を思い出してくれた。入ってもらったところ、床下がだんだん狭くなっており、肝心のキッチンまで行けないという。仕方がないので、いつも利用している建築業者に、キッチンへ点検口を作ってもらうことにした。ある日ふと見ると、壁のコーキング部分に小さな穴がいくつも空いているのに気が付いた。おまけにその穴から羽蟻が這い出しているのを見てしまった。ようやく侵入口が分かったのはよかったが、まずは塞がなければならない。そこで、コーキングをして何とか応急処置をした。多少はましになったものの、柔らかいため完全には侵入を防げない。そのうち床からも這い出してくるようになったので、そこもコーキングで塞いだ。業者に話を聞くと羽蟻は5月から6月にかけて発生し、その後は出ないという。白蟻は日中に大量発生して、その後窓際・照明周辺・床に羽だけ大量に落ちるという。筆者の家の状態に酷似している。次の週に点検してもらったところ、やはり柱が食われているようだった。そのため、柱に穴を開けて薬剤を注入し、周辺一帯にも予防的な薬剤散布をすることになった。今週、ようやく処置をしていただいた。その時に業者さんが薬剤を注入している時に音を聞かせてくれて、この音は木材の振動や羽の音で仲間に危険を知らせる役目があると説明してくれた。処置が終わった後現在まで3日経過してが、薬剤の匂いがなかなか取れない。時間が経てば収まると思っていたが、少し頭がくらくらするので、人体に全く影響がないとは言い切れないようだ。肝心の費用だが、10坪で8万円とAIに教えてもらった相場より少し割高な気もするが、仕方がない。これで取りあえず大きな心配はなくなったように思う。ただ、条件次第だが効果は5年くらいしか持たないようなので、油断はできない。最近の薬剤は昔のような強烈な有機塩素系ではなく、比較的人体や環境への影響を抑えたものが多いため、「長期間ずっと残留する」というタイプではなく、定期点検前提の運用になっているとのこと。筆者の家の場合「実際に営巣していた可能性」があるので、1〜2年ごとの点検はかなり重要で、油断は出来ないようだ。ということで、悩みは尽きないが、今回利用した業者は診断は無料とのことなので、定期的に点検を依頼しやすそうなのが、せめてもの救いだ。
2026年05月23日
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テナー・サックスのマーク・ターナー(1965-)のECMからの新譜「Patternmaster」を聴く。取り上げた理由は、以前聴いた「Return from the Stars(2022)」が印象的だったため。今回のアルバムは、ターナーのテナーとジェイソン・パーマー(1979-)のトランペットによる2管編成で、ピアノレスという変則的な構成。全体にさっぱりした肌触りで、聴後感がいい。オーネット・コールマンを思わせるフリー寄りの演奏と、ショーター時代のマイルス・クインテットのサウンドが混じり合ったような音楽だ。全体にクールなサウンドだが、テナーとトランペットの音色が柔らかく、オーネットのような刺激の強さがないことが聴きやすさにつながっている。ターナーはテナーながら細身のサウンドで、パーマーも柔らかく細身の音色のため、両者の相性はかなり良い。どちらも押しの強いタイプではなく、ターナーのオリジナルと相まって、清潔感のある音楽性と、音が途切れた瞬間に現れる空間の響きが心地よい。彼らを支えるベースのジョー・マーティンとは2000年代初頭からの付き合いで、「Lathe of Heaven(2014)」から正式メンバーとして参加。ドラムスのジョナサン・ピンソンは、前述の「Return from the Stars」からの参加のようだ。ピンソンのドラムスは手数が多いが、うるささはなく、音楽にビート感と緊張感を与えている。全曲ターナーのオリジナルだが、ヴァラエティに富んでいる。過度にシリアスにならず、ときおりユーモアさえ感じさせるところは、オーネットにも通じる。全編を通して水準の高い演奏だ。ショーターの「ピノキオ」のコード進行に基づいた「Patternmaster」は、バップ風のテーマとハーモニーのミスマッチが新鮮。ベースの強靭で深みのあるサウンドが魅力的な「Trece Ocho」。「It Very Well May Be」は、テンポが頻繁に変化し、ぎくしゃくした感触のテーマながら疾走感のあるユニークなトラックだ。トランペットとテナーによる比較的長めのソロが聴きもの。彼らのソロを力強く支えるベースとドラムスのバッキングも見事だ。ベースソロから始まる「Lehman's Lair」は、サスペンス調のテーマが印象的で、テナーとトランペットの絡みがなかなかスリリング。エンディングでのホーンによる複雑な急速音型のユニゾンも、静かな興奮を呼び起こす。ミディアムテンポの「The Happiest Man On Earth」は、マイルスの「オール・ブルース」の跳ねるリズムを思わせる曲。テンポは一定だが、2ホーンによる不協和音が不思議な感覚を生む。ホーンのソロはいずれも落ち着いたものだが、トランペットが突然激しさを見せる場面がアクセントになっている。最後の「Supersister」は、彼のFlyというトリオの「Sky & Country(2009)」に収録されていた曲で、当時約10分だったものが12分に拡張されている。曲自体は、忙しなく動くドラムスに乗ってテナーがソロを展開する構成だ。「Sky & Country」でドラムを担当していたのはジェフ・バラードだった。彼はシンバルワークを控えめにし、時にマレットも用いており、個人的には今回より優れたパフォーマンスだったと思う。そのためか、今回の演奏ではシンバルによる細かなビートがやや煩わしく感じられる。今回は「Sky & Country」の演奏にトランペットが加わり、サウンド、音楽ともに豊かになった。しかし、曲そのものは暗いムードが強く、あまり面白いとは感じられなかった。アルバム全体の出来はかなり良いが、最後の「Supersister」の印象によって、やや評価を下げてしまったように思う。録音は極めて鮮明で、各楽器のサウンドがヴィヴィッドに伝わってくる。Mark Turner:Patternmaster(ECM ECM 2835)Mark Turner:1. Patternmaster2.Trece Ocho3.It Very Well May be4.Lehman's Lair5.The Happinest Man On Earth6.SupersisterMark Turner(ts)Jason Palmer(tp)Joe Martin(b)Jonathan Pinson(ds)Recorded April 20, 2024,Studios La Buissonne, Pernes-les-Fontaines, France
2026年05月21日
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政府は2026年5月、この制度を盛り込んだ著作権法改正案を閣議決定したという報道を知った。これは、CD・配信音源・ストリーミングなどを店舗や施設でBGMとして流した際、これまで十分な対価を受け取れなかった歌手・演奏家・レコード会社にも使用料を分配できるようにする新たな権利とのことだ。文化庁によると、同種制度は既に142の国・地域で導入済みで、日本だけ制度が不十分だったため、海外で日本の音楽が使用されても、日本人実演家に十分な対価が支払われない問題があったという。つまり、国際水準に合わせる動きということになる。ミュージシャンにも使用料が分配されること自体は望ましいと思うが、一方で意外な弊害もありそうだ。対象は、喫茶店、ホテル、商業施設などの「公の場」やイベント会場での音楽利用を指している。音源はフィジカル媒体だけでなく、配信音源なども含まれる。導入にあたっては、さまざまな問題が予想される。例えば、小規模店舗の負担増、飲食店のBGMコスト増、「既にJASRACへ支払っているのにさらに徴収されるのか」という二重取り感、街中でのBGM減少などが挙げられる。そのため、小規模事業者への減免や、非営利・無料利用の除外なども検討されているようだ。CDやレコード1枚ごとに逐一課金することは現実的ではないため、店舗種別、面積、客席数、利用形態、営業規模などを基準に決められるようだ。JASRACによる徴収と同様に、指定団体が一括徴収し、その後分配する形になるらしい。厄介なのは、「伝達権」という言葉が含まれている点だ。これは、単なる音源再生だけでなく、「音を公衆に聞かせる行為」全般を対象に含めたい意図があるようだ。そのため、コンサート会場での開場中のBGM、休憩時間の音楽、開演前アナウンス後のSE的音源、終演後の退場BGMなども対象になるとみられる。この場合、ホールや興行主などが徴収対象になる可能性が高い。結局、分配は統計に頼らざるを得ず、チャート上位の楽曲ばかりが恩恵を受ける偏った結果になってしまう。これは従来から問題視されているようだが、精密な調査が不可能である以上、避けられない現象なのだろう。音楽鑑賞そのものが主目的ではない一般店舗のBGMについては、とりあえずAI生成音楽で代替できる部分もありそうだ。しかし、音楽を聴かせること自体が価値となっている施設には影響が出る気がする。ジャズ喫茶は、その代表例だろう。店舗数の減少も進んでおり、最悪の場合、この業態自体が消滅する可能性も考えられる。栄枯盛衰は世の習いなので仕方のないことではある。それでも、なんとかこの日本独自の文化だけは残ってほしいと思う今日この頃だ。
2026年05月19日
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最近注目しているサントゥ=マティアス・ルーヴァリのシベリウスの新譜を聴く。今回はヴァイオリンのアヴァ・バハリを迎えてのヴァイオリン協奏曲と《四つの伝説曲》という組み合わせ。どちらも劇的で濃厚な味わいで、シベリウス特有の北欧の寒々とした景色というより、熱いシベリウスが展開される。アヴァ・バハリは1996年スウェーデン・ヨーテボリ生まれのイラン系スウェーデン人だそうだ。サウンドは透明だが線の細さは感じられず、確信に満ちた表現で、良い意味で押し出しの強さを感じる。そうでなければ雄弁なバックに埋没してしまっていたかもしれない。バハリの演奏は充実したサウンドと確信に満ちたフレージング、何よりもその熱気が実に素晴らしい。今回の組み合わせは単なる話題性ではなく、ルーヴァリのサウンドに適したヴァイオリニストとして選ばれたように感じる。結果として両者の個性が見事に融合し、非常に完成度の高い協奏曲となっていた。ルーヴァリの指揮も、意外な箇所での強調など新しい発見があり新鮮だ。参考までにジャニーヌ・ヤンセンの第3楽章の演奏を聴いたが、リズムが曖昧に感じられ、がっかりしてしまった。《四つの伝説曲》は、「トゥオネラの白鳥」以外はまともに聴いたことがなかったはず。これらも分厚いハーモニーと鮮烈なサウンドによる大変充実した演奏だった。ルーヴァリ一流の彫りの深い劇的演出も効果的で、こんなに面白い曲だったのかと目から鱗の演奏だった。特にレンミンカイネンが冥界で殺される場面を描いた「トゥオネラのレンミンカイネン」は、暗くどす黒い殺気が感じられる凄味のある演奏で、不協和音の強調とともに聴き手の心にグサッと突き刺さる。実に恐ろしい音楽だと実感する。レンミンカイネンが殺され、川に投げ込まれた後の死と冥界の静寂を描いた場面も、それまでの痛ましい場面のあとだけに一層印象深い。死から蘇ったレンミンカイネンの帰還を描く「レンミンカイネンの帰郷」も印象的だ。爆発的な演奏だが、帰還の喜びを表すというより、まだ死を引きずっているような影が感じられる。しかし曲が進むにつれて、喜びがあふれていくレンミンカイネンの心情が伝わってくるような演奏だった。やはりこの人の劇的な演出力は、他の指揮者に比べてもずぬけている。録音は圧倒的な量感がありながら透明感も十分で、シベリウスの音楽を存分に堪能できる。Sibelius:Violin Concerto - Lemminkäinen Suite(Alpha ALPHA1215)24bit 96kHz FlacSibelius: Violin Concerto in D minor, Op. 47 Sibelius: Lemminkäinen Suite, Op. 22 I. Lemminkäinen and the Maidens of the Island II. The Swan of Tuonela III. Lemminkäinen in Tuonela IV. Lemminkäinen's ReturnAva Bahari(vn track 1-3)Gothenburg Symphony OrchestraSanttu-Matias RouvaliRecorded in September 2024 (Lemminkäinen Suite) & April 2025 (Violin Concerto) at Gothenburg Concert Hall, Gothenburg (Sweden)
2026年05月17日
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ミーシャ・ツィガーノフの2024年リリース作「Painter Of Dreams」を聴く。最近特に気に入っていて、繰り返し聴いているアルバムだ。Criss Cross盤は価格が高めでなかなか手を出しにくいので本作は確かバーゲンで入手した記憶がある。ミーシャ・ツィガーノフは1969年、ロシア・サンクトペテルブルク生まれ。音楽院卒業後、1990年代にアメリカへ移住し、現在も当地を拠点に活動している。ロシア出身とは思えないほど、アメリカ西海岸のミュージシャンを思わせる明るく開放的な作風が特徴で、しかも非常にメロディック。ジャズの醍醐味をビビッドに伝えてくれる音楽だ。一方で、楽曲構造はかなり複雑で、おそらくロシアの名門サンクトペテルブルク国立音楽院仕込みの作曲技法が生かされているのだろう。緻密なスコアと名手たちによるアドリブが融合したサウンドは、個人的にはSFJAZZ Collectiveを思わせる部分が多い。実際、サックスの2人とベース奏者はSFJAZZ Collectiveのメンバーでもあり、そう感じるのも自然だと思う。プログラムは6曲のオリジナルと2曲のスタンダードで構成されている。オリジナル曲はいずれも完成度が高く、複雑な構成を持ちながらも非常にメロディックで、聴き手に自然と入り込んでくる。タイトル曲「Painter Of Dreams」は、リリカルなメロディとホーンとヴォーカルのユニゾンが実に心地よい。後半のアルトとトランペットのバトルも聴き応え十分だ。ホーン陣は突出したソリストを作るというより、3者が均衡の取れた素晴らしい演奏を繰り広げている。 Alex Sipiaginはやや細身ながら、フリューゲルホルンを思わせる柔らかな音色とメロディックなソロが印象的だ。2人のサックス奏者は言うまでもなく大御所で、安定感抜群。通常はテナーとアルトが並ぶとアルトが埋もれがちだが、本作ではそのような印象は全くない。ジョナサン・ブレイクのドラムスも貫禄十分で、「Up Journey」でのパワフルなプレイが特に耳を引く。また、「April」後半で繰り広げられる息詰まるようなサックスバトルも大きな聴きどころだ。オランダ出身の女性ヴォーカリスト、ヒスケ・オオスターワイクは、フィーチャーされるというよりホーンとのユニゾンで用いられる場面が多い。その独特のヴォイシングは、どこかダーシー・ジェームス・アーギューを思わせる。ツィガーノフ自身のプレイは全体にリリカルな方向性が強く、アコースティック・ピアノの出番はそれほど多くない。はっきり前面に出ているのは、「Up Journey」「Painter Of Dreams」「Seeley Street Song」あたりだろうか。ラテンテイストの「Chain Of Events 」もアクセントになっていて、悪くない。2曲のスタンダードも凝った編曲が施され、実に楽しい。「Long Ago And Far Away」では、トランペットとアルトが奏でるテーマがシンコペーション処理され、不思議なバウンス感を生み出している。スピード感溢れるアルト・ソロにフェンダーローズのコンピング、それをプッシュするドラムスも聴き応え十分だ。最後の「I Loves You Porgy」は遅めのテンポで進み、ホーンのハーモニーが聴き手を夢心地にさせる。この曲でもツィガーノフのフェンダーローズとミニムーグの使い方は絶妙で、特にミニムーグの饒舌なフレーズが強い印象を残す。ということで、ツィガーノフを初めて聴いたが、演奏・楽曲ともに充実しており、優れた編曲センスが光る、耳だけでなく知的好奇心も満たしてくれる満足度の高いアルバムだった。録音も刺激的な音を強調しない自然なサウンドで、楽器の分離も良好で、この充実した演奏にふさわしい仕上がりになっている。未聴の方には是非お聴きいただきたい傑作だ。yutube Misha Tsigaonv:Pinter Of Dreams(Criss Cross Jazz CRISS1421CD)24bit 96kHz Flac1. Misha Tsiganov:Elusive Dots 12. Misha Tsiganov:April 3. Misha Tsiganov:Up Journey 4. Misha Tsiganov:Painter Of Dreams 5. Jerome Kern:Long Ago And Far Away 6. Misha Tsiganov:Seeley Street Song 7. Misha Tsiganov:Chain Of Events 8. George Girshwin:I Loves You Porgy Misha Tsiganov(p)Miguel Zenon(sax)Alex Sipiagin(tp)Johnathan Blake(ds)Matt Brewer(b)Guest:Chris Potter(sax)Hiske Oosterwijk(vo track track 2, 4,6,8)Recorded January 6, 2024、at Samurai Hotel Recording Studio, Astoria, New York City
2026年05月15日
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連休前に泳ぎに行っていて、肩と手がだいぶ痛くなった。その前から、泳いでいる途中でも肩が痛くなっており、だましだまし使っていた。ところが今回は、さすがにダメかと思い、スイミングを休んで鍼灸や整骨院に行った。その間もAIに症状について相談したところ、インピンジメントだろうという結論になった。この症状は、肩の隙間が狭くなり、腕を動かす際に腱や筋肉が挟まれて痛みや違和感が出るというものだ。MLBの佐々木朗希が昨年この症状を発症し、しばらくDL入り(現在はIL:Injured List=故障者リスト)したことを思い出した。筆者の場合は突然なったわけではなく、持病のようなもので、痛みが出るたびに注射を打ってもらったり、湿布を貼ったりしていた。しかし最近は、それらがほとんど効かなくなっていた。今回は本格的に痛くなってしまったので、いつものようにAIで相談したところ、インピンジメントらしいことが分かった。それまでは、痛くなると妻に踏んでもらったり、湿布を貼ったり、寝るときに指圧器を使ったりしていた。しかし朝起きると、かえって痛くなっていることも度々あった。AIに聞いたところ、これらの処置は逆効果で、痛みが出る手前まで動かしながら回復を図るのが基本だということだった。驚いたのは、整骨院でインピンジメントを知らなかったことだ。ただ、先生を責めても仕方がない。そこで、理学療法をしているところをAIに聞いたところ、今通院している整形外科でも理学療法を行っていることが分かり、今日早速通院した。筆者はMRIを使えないので、CTで診断できないかと尋ねたが、CTでは見つからないだろうと言われた。仕方がないので、理学療法の治療を受け、そのあと肩を温めてもらった。すぐに効果が現れるわけではないので、しばらく定期的に治療してもらうことにしたい。スイミングは、痛みの出ない泳法に限って許可されたので、しばらくはそれに従ってみようと思う。残っている畑仕事や庭木の剪定もやらなければならないが、少しずつやるしかないと思う。
2026年05月13日
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小林愛実のコンサートが三井住友海上文化財団の助成で、何と1000円で聴けることを知り、足を運んだ。前回は産後で体調があまり良くなかったようで、出来も今ひとつだったことを覚えている。その点、今回はほとんどミスがなく、極めて安定した技巧を示していた。だから良かったかというと、それは別問題。今回はオール・シューベルト・プログラムで、個人的には即興曲を除くとあまりなじみのない曲が並んでいた。事前に彼女のシューベルトの音源をチェックしていたのだが、今回演奏された曲はひとつもなく、予習にはならなかった。今回の演奏は表現は抑制的で、アゴーギクもほとんどない。そのため音楽に停滞感はないのだが、出汁の効いていない味噌汁のようで、曲の良さがあまり伝わってこない。特にピアノ・ソナタ第16番は、もともとそれほどなじみのある曲ではないにせよ、まったく面白く感じられず、「こんな曲だっただろうか」と思ってしまった。これがシューベルトの最初に出版されたピアノ・ソナタとは信じがたい。あとで他のピアニストの演奏を聴くと、それなりに面白かったので、今回なぜここまで退屈に感じたのかは自分でも分からない。ダイナミックスの幅が狭く、アゴーギクもほとんど感じられない平板な演奏だったからだろうか。以前の第19番のピアノ・ソナタを含むアルバムはそれなりに楽しめただけに、一体どうしたのだろうと思ってしまう。参考までに内田光子の演奏も聴いたが、まるで別の曲のようだった。鈴木の演奏は、第1楽章はカチッとした仕上がりで、ダイナミックスの幅も狭い。第2楽章の変奏は各変奏の対比がくっきり浮かび上がり、悪くなかった。第4楽章はダイナミックスの幅が狭く、メリハリに欠ける演奏で、曲が終わった後の聴衆の反応もいまひとつだった。即興曲は、今回の演奏会ではまずまずの出来だろう。第1番は弱音を重視した表現だったが、後半に低音域の小さな爆発があり、それがなかなか面白かった。第2番は、この曲集の中では最も有名な曲だろう。テンポは速めだが、どこまでも続いていくような息の長いスラーが実に美しかった。第3番、第4番は曲自体の良さもあり、それなりに聴かせるが、驚きはなく、どちらかといえば平板な演奏だった。アレグレット ハ短調 D915 は初めて聴く曲で、二つの旋律から構成されていた。何度か不協和音が現れ、最初はミスタッチかと思ったが、繰り返し現れるので少し驚いた。不協和音といえば魔王にも頻出すると言われるが、実際に聴いてみても、特に不協和音が際立つようには感じなかった。おそらく意図的に強調していたのだと思うが、曲を知らない者からすれば、ミスタッチと思ってしまっても無理はないように思う。最初の「高雅なワルツ集 D969」 は演奏頻度の高い曲らしいが、筆者にとっては初めて聴く10分ほどの曲集で、あまり面白くなかった。似た曲想の曲が多く、対比もあまり明確ではないうえ、旋律にも強い魅力を感じにくい。そのため、初めて聴くと魅力が伝わりにくいのかもしれない。ということで、個人的には、これほど退屈な演奏会はあまり経験がない。曲ごとの出来不出来というより、曲へのアプローチそのものが、自分とは大きく異なっていたのだと思う。技術的には、前回聴いた時には一部不安定なところもあったが、今回はミスタッチもほとんどなく、極めて完成度が高かった。サウンドも柔らかく、潤いがある。それなのに、個人的にはなぜこうなったのかまったく分からず、終始退屈に感じてしまった。たぶん、他の人とはかなり違う感想なのだと思う。鈴木愛美 ピアノ・リサイタル「シューベルトは人知れずやってくる」シューベルト:高雅なワルツ集 D 969 Op.77シューベルト:即興曲集 D 899 Op.90休憩シューベルト:アレグレット ハ短調 D 915シューベルト:ピアノ・ソナタ 第 16 番 イ短調 D 845 Op.42アンコール楽興の時 第2番鈴木愛美(p)2026年5月8日 盛岡市民文化ホール 中ホール 10列8番で鑑賞
2026年05月11日
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ビル・エヴァンスのワシントン州シアトルのペントハウスでのライヴのハイレゾを聴く。高くてなかなか手が出なかったが、最近ProStudioMastersで比較的安価に入手できることを知り、DSDは高価なのでFLAC 192kHz版を入手した。このアルバムは、これまで海外ブートレグやラジオ音源の流出盤が存在していたが、2017年にResonance Recordsから正規版が発売され、今回の音源はそのハイレゾ版である。2017年版には、音源の徹底的な修復とマスタリング、未発表テイクを含む網羅的編集、豪華なブックレットなどが付属していた。ハイレゾ版なのでブックレットは付かないものと思っていたが、貴重な写真やインタビューを収めた19ページのPDFが付属しており、大変ありがたい。このアルバムは、公式録音の存在しなかったベーシスト、Eddie Gomezと、ドラマーのJoe Hunt(1938-)によるレアなトリオの1966年5月、シアトルのジャズクラブでのライヴ録音である。ラジオDJのJim WilkeがKING-FMの自身の番組用に録音したもので、オリジナル・テープからのリリース。ブックレットによれば、この録音はゴメスとBill Evansの共演を記録した現存最古の音源だそうだ。ジョー・ハントとの録音は、本作のほかには『Bill Evans - The Secret Sessions』しか残されていないようである。ゴメスのインタビューによると、1965年、彼は20歳でGary McFarlandのバンドに所属しており、Sadao Watanabeも一緒だったという。その年の後半にはGerry Mulliganのバンドで活動していた。当時、ヴァンガードに出演していたエヴァンスのトリオと共演する機会があり、それが縁でエヴァンスから声をかけられた。最初のツアーはシカゴのLondon Houseから始まり、Shelly’s Manne-Holeや、本作の舞台であるペントハウスでも演奏した。ジョー・ハントもこのツアーから参加した。顔見知りではあったが、一緒に演奏するのはこの時が初めてだったという。エヴァンスは、コードネーム付きのメロディだけを記した曲集をステージに持ち込んでおり、そこには彼のレパートリーがすべて収められていた。これは黒いルーズリーフ式の本で、エヴァンスが曲名を呼んだり演奏を始めたりすると、ゴメスは必死にページを探したそうだ。若き日のゴメスの姿が目に浮かぶようで微笑ましい。実際の演奏でもダブルストップを聴かせる場面があり、とても20歳のベーシストとは思えない。彼の早熟ぶりがよく分かる。この時期のエヴァンスは、ゴメスの自由なソロへの対応を模索していた最中だったようだ。当初はゴメスのソロ時にコンピングを行わなかったが、本作の頃には少し伴奏を付け始めていた様子が録音からうかがえる。12日と19日では19日のほうが精彩があるように思う。特に「How My Heart Sings」の溌溂とした演奏や「Autumn Leaves」でのゴメスとハントのデュオの部分など興味深い。また、ジョー・ハントのインタビューではエヴァンスの物静かで、演奏に細かな注文を付けない人物像が語られており、エヴァンスの音楽への姿勢がよく分かる。ただ、演奏が終わるとすぐに姿を消してしまったという話には思わず笑ってしまった。ということで、本作は従来の“発掘音源”とは異なり、若き日のゴメスの奮闘ぶりが聴けるという新たな視点が楽しめるアルバムだろう。なお、Bandcamp版に収録されていたイントロは2xHD版では省かれ、演奏のみ10曲が収録されている。録音はモノラルながらノイズが少なく、まとまりのある音である。欲を言えば、高域がもう少し伸びていればさらに良かった。CD版を確認していないため、今回のハイレゾ化による効果がどの程度かは分からない。Bill Evans Portraits at the Penthouse: Live in Seattle(2xHD 2XHDRE1294)24bit 192kHz Flac1.E. Zindars : How My Heart Sings2.T. Monk : Round Midnight3.J. Mercer : Come Rain or Come Shine4.Bill Evans : Nardis5.Bill Evans : Time Remembered6.A. Newley : Who Can I Turn To7.L. Carter : Detour Ahead8.J. Mercer : Autumn Leaves9.E. Zindars : How My Heart Sings10.S. Cahn : I Should CareBill Evans(p)Eddie Gomez(b)Joe Hunt(ds)Recorded on May 12(track1-4) and 19(track 5-10), 1966 at the Penthouse jazz club in Seattle, Washington
2026年05月09日
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Youtubeを見ていたら、福岡県で初の四年制の音楽大学が誕生したというニュースが出ていた。 福岡国際音楽大学というところで、所在地は大宰府。入学予定者は91名(音楽表現専攻:67名、音楽ビジネス専攻:24名)とのことだ。音楽表現専攻は楽曲制作(作曲)、声楽・ミュージカル、ピアノ、管弦打楽器に分かれ、音楽ビジネス専攻は音楽ビジネスとミュージック・テクノロジーに分かれているようだ。音楽表現専攻が、ピアノ以外は「管弦打楽器」という形でまとめられていて、従来の音大の考え方とはかなり違うように思う。現在、音大は定員削減が続き、受験者数も半減している状況だ。彼らが卒業したあと、果たして十分な就職先があるのかは、かなり厳しい感じがする。ヴァイオリニストで元東京藝大学長の長澤和樹氏や、さだまさしといった著名人が名を連ねており、新設大学としてアピールに余念がない。授業料は初年度160万〜164万5千円程度と、比較的低く抑えられているのも魅力だ。また、音楽ビジネス専攻というのは目新しく、こちらには一定の需要がありそうに思う。オーナー企業は、医療・福祉系の学校を多数運営する学校法人高木学園で、福岡国際医療福祉大学や福岡医療経営学院なども運営している。福岡国際音楽大学では、音楽と医療・福祉の融合を掲げ、音楽療法士の育成にも力を入れるとのことだ。その意味では、普通の音楽大学とは一味違う特色のある学校のようだ。ニュースではホルン専攻の女子学生のことが報じられていたが、未来がいばらの道であることは確かで、あとは個人の頑張りにかかっていると思う。ところで、AIの発達で演奏家の需要は減っていくように思っていたが、スタジオ関係は確かに減少するあろうが、ロイヤル・フィルの音楽監督であるヴァシリー・ペトレンコの「ライブ芸術はAIの影響を比較的受けにくい」という意見は説得力がある。
2026年05月07日
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ラトビア出身のアコーディオン奏者クセーニャ・シドロワ(Ksenija Sidorova)の現代曲を集めた意欲作「Prophecy」を聴く。現在は配信のみでの供給のようだ。共演はパーヴォ・ヤルヴィ指揮エストニア・フェスティバル管弦楽団。ブックレットにはヤルヴィとシドロワの初めての出会い(電話での会話)がコミカルに描かれている。『10年以上前、深夜にパーヴォ・ヤルヴィから「やあ、パーヴォだよ。」という突然の電話があり、トゥールの協奏曲の共演を持ちかけられたシドロワは驚きつつも即答で引き受け、パルヌでの再会を約束した。』という内容。実際に「やあ、パーヴォだよ。」と言ったかは分からないが、ヤルヴィの気さくな性格がよく表れた興味深いエピソードだ。このアルバムはバルト諸国(エストニア、ラトビア)の作曲家による現代作品で、シドロワとヤルヴィの共同プロジェクトとして録音された。曲は前述のトゥールのアコーディオン協奏曲「Prophecy」、トヌ・コルヴィッツの4曲からなる「Dances」、ペーテリス・ヴァスクスの「The Fruit of Silence」が収録されている。最初のエルッキ=スヴェン・トゥールの協奏曲「プロフェシー」は「予言者」の孤独を主題に、独奏と管弦楽が溶け合う流動的音響を展開する約20分の作品。幻覚的な中間部も印象的。現代音楽的なサウンドで、アコーディオンは管弦楽と自然に溶け合う。ボタン式アコーディオン(クロマチック・ボタン)のために書かれているため、鍵盤式とは配列の思想が異なる。ボタン式はボタンが密集しているため音の跳躍が容易だが、鍵盤式で同様のパッセージを弾くのは技術的に難しく、作曲者自身も今回の演奏に驚いたという。現代音楽としては比較的分かりやすく、変化に富んでいて聴き応えがある。曲はゆったりした部分とテンポの速い活発な部分などに分かれるが、詳細な構成は把握しにくい。カデンツァは明確には設けられていないが、音楽が途切れる箇所の独奏部分がそれに近い役割を果たしている。独奏部分のひんやりとした質感も印象的。伴奏は弦が主体で、特に低弦の厚いハーモニーが強い印象を残す。木管は彩りを添える役割。金管はほとんど出番がなく、主にテュッティで現れる程度。打楽器は控えめだが、前半のヴィブラフォン、終盤の木魚やシロフォンが効果的。終盤の急速なテンポアップと徐々に高まる盛り上がりは、規模は大きくないながらも興奮を誘う。エストニアの作曲家トヌ・コルヴィッツの「Dances」はシドロワの委嘱作品。トゥールとは対照的に、静謐で詩的、透明感のある響きが特徴。民謡や自然への感受性が強く、音の余白や色彩を重視する。「Dances」は抒情的で繊細だが、ところどころ南米、とりわけアルゼンチンを思わせる雰囲気が感じられる点がユニーク。1楽章「Darkness (cadenza). Under the Cajun Moon」のカデンツァでは、Air soundやBellows noiseと呼ばれる空気音、bellows shakeなどの特殊奏法が用いられている。2楽章「Passacaglia」は形式感を強調せず、ゆったりとしたテンポで抒情が流れ、清澄な弦のハーモニーが美しい。3楽章「Siciliana」は6/8のリズムを感じさせる穏やかな楽章で、弦と木管の淡い色彩の中をアコーディオンが自在に動く。続く「Sarabande」は遅いテンポでシンフォニックに進む終曲で、約3分半と短く、盛り上がりを強調せず静かに終わる。最後のエストニアの作曲家 ペーテリス・ヴァスクスの「フルーツ・オブ・サイレンス」は合唱曲の編曲。アコーディオンの持続音とヴィブラフォンの透明な響き、弦の豊かなサウンドが敬虔な雰囲気を生む。終盤、弦の持続の上にアコーディオンが重なり、静かに曲を閉じる。ということで、バルト音楽の現在を反映した優れた内容のアルバムだった。特殊な内容だが、興味のある方にはぜひ聴いていただきたい。Tüür: Prophecy liveKsenija Sidorova:Prophecy(Alpha ALPHA1198)24bit 48kHz Flac1.Erkki-Sven Tüür(1959-):Prophecy2.Tõnu Kõrvits(1969-):Dances I. Darkness (cadenza). Under the Cajun Moon II. Passacaglia III. Siciliana IV. Sarabande 6.Pēteris Vasks(1946-):The Fruit of Silence(Arranged by George Morton for accordion, vibraphone and string orchestra)Ksenija Sidorova(accordion)Estonian Festival OrchestraPaavo JärviRecorded 2024,Pärnu Concert Hall, Pärnu, Estonia
2026年05月04日
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カナダのベテラン・ピアニストのベニー・セネンスキー(1944-)が8人のホーン奏者と組んだデュオアルバム「Duos」を聴く。セネンスキーはカナダ出身のジャズピアニスト、オルガニスト、作曲家で、ピアノ・トリオを中心にモダンで質の高いジャズを長年演奏してきた実力派だ。8人のサックス奏者(テナー5、アルト3)と10曲を演奏している。 Pat LaBarbera(1944-)とKirk MacDonald(1959-)のみ2曲に参加。オリジナル7曲とスタンダード3曲という構成。多くがテンポの速い曲で、ノリの良い演奏を理屈抜きに楽しめる。オリジナルもスタンダードに劣らない出来。ホーン奏者のスタイルはストレートアヘッド〜ハードバップ系で大きな違いはないが、サウンドの差異が興味深い。カナダ勢(Perry、MacDonaldなど)にアメリカの強力ゲスト(Alexander、Herring、LaBarbera)が加わり、バランスの良い顔ぶれとなっている。中でもKirk MacDonaldのややざらついたメタリックなサウンドが異彩を放つ。演奏はいずれも水準が高く、優劣つけがたい仕上がりだ。その中では、アルトのPJ Perry(1941-)による「I Hear A Rhapsody」が、やや細身ながらノリの良い演奏。Pat LaBarberaのテキサステナーを彷彿とさせる「I Thought About You」は力強く迫る。 エリック・アレキサンダー(1968-)との「Lolito」は、速いテンポながら哀愁あるメロディが心地よい。エリックは手堅い出来だが、メロディックで流れるような急速調のアドリブが光る。Cellar Liveのオーナーであるコリー・ウィーズ(1975-)の「My One & Only Love」は唯一のスローバラード。バラードながら躍動感があり、ピアノも機敏で、凡庸に陥らない点が見事だ。Kirk MacDonaldとの2曲では、楽曲の出来が良い「One Is Enough」が印象に残る。Vincent Herringとの「Come To Me」はやや速めのリズミックな演奏。セネンスキーのブロックコードによる力強いバッキングが支えるが、アルバム中ではやや地味な位置づけだ。驚くのは80歳近い奏者も多いにもかかわらず、年齢を感じさせないエネルギッシュな演奏が続く点。聴き手が年齢に配慮する必要はなく、純粋に音楽として楽しめる。録音は低音が充実した豊かなサウンド。曲・演奏ともに充実し、ミュージシャンの個性も味わえる、コストパフォーマンスの高い一枚。新機軸こそないが、安心して薦められる好アルバムだ。Bernie Senensky:Duos(Cellar Live CELV528252)24bit 96kHz Flac1.Bernie Senesky : The Mover2.G. Fragos, J. Baker, D. Gaspare : I Hear A Rhapsody3.J. Van Heusen : I Thought About You4.Bernie Senesky : Bud Lines5.Bernie Senesky : In My Life6.Bernie Senesky : Lolito7.G. Wood : My One & Only Love8.Bernie Senesky : One Is Enough9.Bernie Senesky : Come To Me10.Bernie Senesky : Silver TraneBernie Senensky(p)Pat LaBarbera(ts track1,3)PJ Perry(as track2)Ryan Oliver(ts track4)Campbell Ryga(as track5)Eric Alexander(ts track6)Cory Weeds(ts track7)Kirk MacDonald(ts track8,10)Vincent Herring(as track9)Recorded 2022,Toronto, Canada
2026年05月02日
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